上 下
281 / 2,083
闘技祭 決戦編

水晶札の万能説

しおりを挟む
「くっ……頭が重い。魔力を消費し過ぎたか……」
「ぷるぷるっ」
「いや、スラミン殿が乗っているだけでござる」
「でもうちらは変装してますよね?逃げる必要なかったんじゃないですか?」
「あんな場所に残っていたら間違いなく事情聴取されるでしょ。そうなったらミドルにも気づかれてたよ」


空間魔法のお陰で移動する事は出来たが結局は振出しに戻ってしまい、ここからどのように逃げ出すのか考えなければならない。幸いにも兵士達はレナ達の事を捜索しているだけで一般人には姫が誘拐されたことを報告しておらず、どうにかティナを家族の元に戻せば誤魔化せる可能性もある。


「レナ殿、マリア殿の転移魔法が封じられた水晶札はないのでござるか?」
「あっ、そういえばそうだった。これを使えば安全にティナを氷雨の冒険者ギルドに移動出来るんだった」
「え?転移魔法?そんな魔法まで使えるんですか?」


もしもの時のためにマリアから渡された水晶札の事を思い出し、レナは空間魔法を発動させて水晶札を取り出す。っこれを利用すれば安全に冒険者ギルドへ移動できるが、元の場所には戻れない。


「これを使えば冒険者ギルドへは避難できるけど、ティナの家族に事情を伝えないといけないな。ハンゾウに頼める」
「問題ないでござる。拙者一人ならどうにか部屋の中に潜入できるかも知れないでござる」
「大丈夫なんすか?」
「忍者の力を信じて欲しいでござる」
「じゃあ、水晶札を使うよ……いや、待てよ?」


レナは水晶札を利用してティナだけでも安全な場所へ移動させようとした時、ある考えを思いつく。この方法ならば水晶札を利用してもこちらに戻る事が出来るかも知れず、壁に向けて掌を伸ばす。


「レナ?何してるの?」
「ちょっとね……よし、水晶札を使うよ。俺の傍に来て」
「ひしっ」
「そんなに密着しなくてもいいよ」


水晶札を掲げたレナにコトミンは真っ先に抱き着き、エリナとティナも彼の傍に近寄る。一度だけハンゾウに視線を向けて頷いた後、レナは水晶札を発動させた――



――水晶札から放たれた閃光によってレナ達の姿が消え去り、残されたハンゾウは無事に魔法が発動した事を確認する。彼女はすぐに現在の衣装から元の服に着替えるため、まずは顔に張り付いたスラミンの分身を引き剥がす。


「ふんぎぎぎっ……ふんっ!!い、意外と粘着力が強いでござる……」
「ぷるぷるっ」
「……こうしてみると愛らしいでござるな」


顔から引きはがしたスライムはハンゾウの掌の中で丸まり、通常のスラミンの5分の1程度の大きさしかない。そんな小型スラミンの愛らしさに癒されるが、慌てて本来の目的を思い出して自分の上着を脱ごうとする。


「いやいや、癒されている場合ではないでござる。すぐにここから離れなければ……ぬっ!?何奴!!」


服を着替えようとした瞬間、ハンゾウの背後から人の気配を感じ取り、彼女は咄嗟に腰に差していた短刀を引き抜いて構える。しかし、彼女の後方に存在したのは人間が通れる程の「黒渦」であり、非常に見覚えのある光景だった。


「よっと」
「ぷるるんっ」
「レナ殿!?」


黒渦から姿を現したのは右肩にスラミンを乗せたレナであり、どうして水晶札を使用して冒険者ギルドに戻ったはずのレナが現れた事にハンゾウは驚くが、すぐに空間魔法を利用して戻ってきたことを悟る。


「おおっ!!転移する前に事前に空間魔法を発動していたのでござるな!!」
「そうだよ……ちょっとややこしいから、今度からはこれの事を黒渦ゲートと呼ぶことにしたよ」


空間魔法を発動させる際に生じる「黒渦」の名前を命名し、レナはスラミンを彼女と同様にスラミンを引き剥がすと異空間に預けていた衣服を用意し、ハンゾウに渡す。


「ほら、これを渡し忘れてた。ハンゾウも俺に荷物を預けていた事を忘れてたでしょ」
「あ、拙者の黒装束!?そういえばレナ殿に預けていたままでござった……」
「さあ、早く着替えて移動しよう。ハンゾウはティナの家族に説明に向かってよ」
「それは構わないでござるが、レナ殿はどうするのでござる?」
「俺?俺はね……こいつと暴れてくるよ」
「ぷるるんっ!!」


ハンゾウの問いに対してレナは肩に乗ったスラミンを指差し、不敵な笑みを浮かべる。その表情を見てハンゾウは何故か背筋が震え、これからレナが実行する行為に不安を抱く。


「れ、レナ殿?何をする気でござるか?」
「ハンゾウが動きやすいように兵士達の注意を引くだけだよ。大丈夫、正体がばれないようにするから」
「あまり無茶は駄目でござるよ?」
「平気だって……それに色々と試したい事もあるからさ。ねえ、スラミン?」
「ぷるぷるっ」


レナの言葉にスラミンは彼に頬を摺り寄せて頷き、ハンゾウは心配した表情を浮かべるが、そんな彼女にレナは安心させるように促す。


「本当に大丈夫だって。それより、ハンゾウの方こそ気を付けてね」
「承知したでござる。あ、レナ殿……」
「ん?何?」
「その……この衣装も似合っていると言ってくれて嬉しかったでござるよ」


別れ際にハンゾウ頬を赤くして告げると、彼女は近くの選手用の控室に入り込む。その姿を見送ったレナも空間魔法を発動させてマントを取り出す。先日に王妃の配下の暗殺者が使用していた代物であり、エリナの話によれば「身隠しのマント」と呼ばれる魔道具と酷似した能力を持っていたのだが、現在は効果が切れて普通のマントに戻っている。それでも身を隠すのには十分であり、レナはマントを羽織った。
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。