上 下
259 / 2,083
闘技祭 決戦編

予選試合 〈大将軍VS剣聖〉

しおりを挟む
『では続いて他3名の選手を紹介します!!なんと3回連続で剣聖の登場!!氷雨所属のロウガ選手!!』
「やれやれ……初戦から大将軍が相手にするとはな」


ロウガが試合場に乗り込むと歓声があがり、まさか予選で大将軍と剣聖が戦う事になるなど誰もが予想外だった。更に他の2名の選手が紹介される。


『続きまして同じく氷雨所属のハンゾウ選手も出場してください!!こちらの選手はルナ選手と激闘を繰り広げた腕利きの剣士ですよ!!』
「照れるでござる」
『最後の選手は……え?あ、はい。分かりました……おっと、失礼しました!!最後の選手は棄権を申告しましたので今回の試合は3人で行われます!!』


紹介の途中で兵士が解説席に割り込み、ラビットに耳打ちを行い、慌てて彼女は言い直す。最後の選手の発表はされず、今回の試合だけ3人で行われるという事に観客は戸惑うが、それでも大将軍と剣聖の試合が見れるという事で興奮は収まらない。ハンゾウも剣聖ではないが和国の剣士という事でどのような戦い方をするのか興味を抱く者も多く、3人に視線が集中した。


「最後の棄権者はもしかしてカノン大将軍の事でござるか?」
「さあ……僕は詳しくは知らないよ」
「白々しい……」


3人が試合場の中央に一度集まると、ハンゾウはミドルにカノンについて尋ねる。彼女はレミアが連れ出したまま姿を消したはずであり、その後の事は誰も把握していない。しかし、予選試合にも関わらずに棄権を申し出る人間が居た時点で怪しく、棄権を申し出たというよりは王国側がカノンの不在を隠して試合に出場させなかったのだろう。


「剣聖のロウガさんと戦える事になるなんて光栄です。今回は色々と勉強させて貰います」
「よくそんな言葉が言えるな……胸を貸してもらうのはこちらの方ではないのか?」
「いえ、そんな事はありません。僕は剣聖の皆さんを尊敬していますよ」
「レナ殿も?」
「……そうだね、彼も尊敬に値する人物だよ」


ハンゾウの言葉にミドルは一瞬だけ表情を引きつったが、すぐに元の表情に戻る。その様子を見てロウガとハンゾウは彼とレナの間に何かがあった事を悟るが、今は試合に集中する。


「良い試合になる事を望みます」
「ふんっ……良かろう、剣聖の意地を見せてやろう」
「よろしくお願いするでござる」
『ではお三方、黒柱まで下がって下さ~い』


礼儀正しく頭を下げるミドルにロウガとハンゾウも頷き、ラビットの指示に従って東西南北に存在する黒柱に移動する。準備が整った事を確認すると、ラビットは試合開始の合図を行う。


『それでは……試合開始ぃっ!!』
「先手必勝!!」
「行くぞ!!」


試合が始まった瞬間にロウガとハンゾウが移動を開始し、六種族の中でも運動能力に優れた獣人族と和国の忍者であるハンゾウの移動速度は素早く、身体能力を強化したレナでさえも上回るだろう。


「ふうっ……」


しかし、迫りくる二人を見てもミドルは動じた様子もなく、槍を構える。その姿を見た瞬間、ロウガとハンゾウは危険を察知し、接近を中断して逆に距離を取る。


(こいつ……やはり、只者ではない!!)
(間合いが……違い過ぎるでござる!!)


ロウガとハンゾウは冷や汗が止まらず、優れた武芸者である二人はミドルの槍の間合い、つまりは「攻撃範囲」を直観で見抜く。


(駄目だ……隙が無い)
(迂闊に近づいたら不味いでござる)


ミドルが一歩も動いていないにも関わらずにロウガとハンゾウは仕掛けられず、剣を構えたまま動かない。しばらくの間は膠着状態が続き、観客すらも緊張感が伝わる。


「どうしたんだい?来ないならこっちが行くよ」
「くっ……!!」
「舐めないで欲しいでござる……」


槍を構えて動かなかったミドルが歩み出し、二人に接近する。ロウガは距離を更に取るが、ハンゾウは袖から赤色の苦無を取り出し、ミドルに向けて投擲した。


「とりゃっ!!」
「飛び道具かい?そんな物……」


ハンゾウが投擲してきた苦無に対してミドルは槍の先端で軽く弾くと、地面に苦無が突き刺さる。しかし、それを確認したハンゾウは笑みを浮かべ、即座に自分の刀に手を伸ばす。その彼女の行動にミドルは不思議に思うと、刀の表面に紋様が刻まれている事に気付く。


「それは……魔法剣かい?」
「拙者の国では妖魔刀と呼ばれているでござる!!」


紋様にハンゾウが掌を翳した瞬間、刀身が炎に包まれる。更にそれだけに留まらず、ハンゾウは刃を地面に突き刺した。


「秘技、火蛇!!」
「これは……!?」


地面に刃の炎が伝わり、まるで地面を這う蛇のように火炎がミドルの元に向かう。咄嗟にミドルは槍を振り払おうとしたが、ハンゾウの狙いは彼ではなく、先ほど弾かれて地面に突き刺さった苦無だった。


「爆散!!」
「うおっ!?」



――火属性の魔石を削り取って作り出された苦無に炎の蛇が衝突した瞬間、凄まじい爆炎が試合場に発生し、ミドルに襲い掛かる。
しおりを挟む
感想 5,089

あなたにおすすめの小説

最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された「霧崎ルノ」彼を召還したのはバルトロス帝国の33代目の皇帝だった。現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が帝国領土に出現し、数多くの人々に被害を与えていた。そのために皇帝は魔王軍に対抗するため、帝国に古から伝わる召喚魔法を利用して異世界から「勇者」の素質を持つ人間を呼び出す。しかし、どういう事なのか召喚されたルノはこの帝国では「最弱職」として扱われる職業の人間だと発覚する。 彼の「初級魔術師」の職業とは普通の魔術師が覚えられる砲撃魔法と呼ばれる魔法を覚えられない職業であり、彼の職業は帝国では「最弱職」と呼ばれている職業だった。王国の人間は自分達が召喚したにも関わらずに身勝手にも彼を城外に追い出す。 だが、追い出されたルノには「成長」と呼ばれる能力が存在し、この能力は常人の数十倍の速度でレベルが上昇するスキルであり、彼は瞬く間にレベルを上げて最弱の魔法と言われた「初級魔法」を現実世界の知恵で工夫を重ねて威力を上昇させ、他の職業の魔術師にも真似できない「形態魔法」を生み出す―― ※リメイク版です。付与魔術師や支援魔術師とは違う職業です。前半は「最強の職業は付与魔術師かもしれない」と「最弱職と追い出されたけど、スキル無双で生き残ります」に投稿していた話が多いですが、後半からは大きく変わります。 (旧題:最弱職の初級魔術師ですが、初級魔法を極めたら何時の間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。