上 下
255 / 2,083
闘技祭 決戦編

予選二試合目

しおりを挟む
――予選1試合目から観客たちの興奮が最高潮に達し、休憩を挟む暇もなく次の予選試合が開始するため、解説役のラビットが選手を紹介する。


『さあ、続けて予選第二試合の選手を紹介します!!まずはゴウライ選手と同じく氷雨に所属している剣聖のジャンヌ選手!!』
「私の番ですか……緊張しますね」
『おお~!!』


二試合続いて剣聖の称号を持つ人間が現れた事に観客から歓声があがり、しかも登場したのが見目麗しい少女ならば男性陣は尚更興奮する。


『続いて今度は冒険者ギルドの牙竜に所属するガイガン選手!!同じく牙竜所属のダン選手!!入場してください!!』
「おう!!」
「よっしゃきたっ!!」


試合場に獣人族と巨人族の男性が乗り込み、どちらも戦斧を装備していた。奇しくも3人とも斧(ジャンヌの場合は半分は剣)を装備しており、観客がざわめく。斧を用いて戦う人間は冒険者の中でも少なく、それ故に斧使い同士の戦闘は滅多に見れる物ではない。


『最後の選手は……おおっと!!遂にこの方の登場です!!超新星のように唐突に出現し、短期間で5つの試合を勝ち残り、優勝候補の一人として数えられています!!白銀の剣士、ルナ選手の入場です!!』
「相変わらず大げさだな……」


名前を呼ばれたレナ(ルナ)は試合場に現れた瞬間、観客席の一部の人間達が歓声を上げる。しかし、殆どの観客がルナの姿を見ても怪訝な表情を浮かべる。


「おい、誰だあれ?」
「あいつも剣聖なのか?」
「なんか有名らしいけど、白銀の剣士なんて聞いた事ねえな……」


あくまでも声援を送っている観客は冒険都市の住民だけであり、他の人間達は都市外部から訪れた観光客のため、ルナの名前はあまり知られていない。しかし、観客席の中にはルナが現れた瞬間に身を乗り出して応援の声を上げる人間も居た。


「頑張れよレ……ルナッ!!」
「お前の優勝に金貨を賭けたんだからな!!絶対に負けるなよ!!」
「……がんばっ」
「ウォンッ!!」
「うわ、何だ!?どうしてこんな所に狼が……!?」


観客席の中で一番席代が安い最後列に並んでいるダインとゴンゾウが両腕を振って声援を送り、その間に無理やり連れ出されたのか眠たそうな表情を浮かべながらコトミンも片腕を上げ、勝手に付いてきたウルも咆哮を上げる。その様子を遠視の技能スキルで確認したレナは苦笑いを浮かべ、皆に答えるように右腕を上げた。


『おおっと、これは珍しい!!ルナ選手まるで自分が勝つとばかりに観客席にアピールしています!!それでは選手の皆さんは四方の柱に移動してください!!』
「ちっ、剣聖と闘技場の英雄が相手かよ……運が悪いな」
「くっくっくっ……修行の成果を見せてやる」
「初戦からルナさんですが……相手にとって不足無しです」
「お手柔らかにね」


試合の中央部に集まった4人は東西南北に建てられた黒柱に移動すると、試合の開始の合図を待つ。ジャンヌは旋斧を構え、レナも退魔刀と反鏡剣を引き抜く。他の二人の選手も準備を整えると、ラビットが合図を行う。



『試合……開始ぃっ!!』
「おっしゃ、行くぜ……」
「俺の力を見せてや……」



意気盛んにガイガンとダンが開始の合図と共に試合の中央部に移動しようとした瞬間、二人は異変に気付く。それは試合場の北と南に存在したはずのルナとジャンヌの姿が見えず、背後から気配を感じ取る。


「隙ありっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「御免っ!!」
「うがぁっ!?」


唐突に東と西に存在したガイガンとダンの背中に強烈な衝撃が襲い掛かり、二人の肉体が試合場を取り囲む壁に叩きつけられ、気絶したのか地面に倒れこむ。その光景に観客は呆気にとられ、一瞬にして二人の背後に移動していたレナとジャンヌは自身の握りしめた武器に視線を向けていた。


「うん……まあ、こんな感じかな」
「ふむっ……この程度ですか」
『っ……!?』


観客達は遅れてガイガンとダンが吹き飛んだ原因がレナとジャンヌの攻撃によって二人が吹き飛ばされた事を理解し、一瞬にして距離を縮めたジャンヌとレナに動揺が走る。お互いにあまりにも常人離れした身体能力で二人の背後に移動し、攻撃を加えた事になるが、その動作を確認できた人間は一般人の中には存在しないだろう。


「さてと……そろそろ行くか」
「参ります!!」


邪魔物を排除した二人はお互いに向かい合い、両手の剣を構える。双剣同士の剣士の決闘など前代未聞であり、数多くの人間が試合に注目した。


「はあああっ!!」
「うおおっ!!」


同時に二人は試合の中央部に向けて駆け出し、まずはお互いの右腕を振り翳して刃を衝突させる。どちらも種族は人間のはずだが、強化された身体能力の腕力は並の巨人族を上回り、刃が触れた瞬間に激しい金属音が響き渡る。


「くっ……」
「うわっ……」


力は互角だったのかお互いの刃が弾かれ、瞬時に体勢を整えると同時に二人は距離を置く。どちらも技術よりも力に傾いた剣士である事は間違いない。




※剣聖の中では未熟と思われがちなジャンヌですが、剣士としての伸びしろは剣聖の中でも一番です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。