上 下
205 / 2,083
剣鬼 闘技祭準備編

足枷

しおりを挟む
「たくっ……帰りが遅いから皆心配してたんだぞ!!」
「そうだぞ。一体何処に行っていた?」
「ごめんね。ちょっとその事についても皆に話して置きたいことがあるんだけど……その前にこの人たちの治療をしないと」
「あ~……そうしてくれると助かるわ」


レナが地面に座り込んでいるシュン達に視線を向け、特に意識を失っているガロとロウガは危険な状態だった。すぐに回復魔法を施す必要があり、レナは一人一人に回復魔法を施す。


「喰らえっ!!回復超強化!!」
「あ、ありがとうございます……」
「なんでそんなに気合入れてんだよ……すまねえ」
「ううっ……」
「ぐうっ……」


全員が戦闘職であった事が幸いし、レナが回復魔法を施すと短時間で怪我が感知する。レナが扱う支援魔法の「回復超強化」は人体の自然回復能力を高める魔法のため、回復能力が高い戦闘職の人間の場合は効果が高い(これが魔術師の場合だと効果は半減してしまう)。

シュンとジャンヌは意識が残っていたので身体が回復すると起き上がり、倒れているガロとロウガを背負う。回復魔法では体力までは戻らないため、二人もかなり消耗してるのか二人を持ち上げる際に身体をよろめかせるが、どうにか踏みとどまる。


「助かったぜ。えっと……レナだったな」
「先日ぶりですね。窮地を助けて下さり、ありがとうございました」
「さっき会ったばかりなんだけどね……」
「え?」
「いや、何でもない」


現在のレナは変装を解いており、今は普通の状態に戻っている。荷物になるといけないので武器の類も収納魔法で回収しているが、王妃の刺客から回収したマントだけは羽織っており、これを利用してジンを影から補助していた王妃に仕える側近の騎士の一人に気付かれずに近づくことが出来た。


「それで、ここで何が起きたの?私達にも説明してくれるかしら?」
「そうだよ!!なんでこんな場所で戦ってたんだよあんたら!?ていうかこいつ誰だよ!?もう訳わかんないだけど!!」
「あ~……はいはい、分かったよ。んじゃ、説明頼むわジャンヌ」
「えっ!?私ですか?」
「そりゃそうだろ。俺もお前が襲われてるのを助けただけだぞ……結局、こいつ誰だよ?」


全員の視線が地面に倒れているジンに向けられ、どうにか全員が力を合わせて捕まえる事は出来たが、尋常ではない力を誇っていた。しかも巨人族でもないにも関わらずに「鬼人化」の能力も扱えたり、囚人同然の服装も着込んでいる事から只の人間ではない事は確かだった。しかし、説明を求められたジャンヌも彼女は市場に居た人間から助けを求められて駆けつけてきたため、ジンの正体を知っているわけではない。


「説明と言われましても……私も街の人に助けを求められてこの場所に訪れたのでこの男の正体を知りません。話を聞いた限りでは大量の警備兵を殺していたとか……」
「ちっ……大方、囚人が脱走して暴れてたという所か」
「違うよ」
「え?」


シュンの呟きにレナはジンの元に近づき、完全に気絶している事を確かめると、事前にアイリスから聞いていた情報を確かめるためにジンの手首に取り付けられている足首に取り付けられた壊れた足枷を指差す。


「これ、よく見てよ。力尽くで壊されているように見えるけど、鍵穴に鍵が刺さってるでしょ?」
「あ、本当だ!!え?でも何で……」
「誰かがこいつを解放しようとしたんだよ。だけど、鍵を開ける前に暴れ出して自力で抜け出したんじゃないかな」
「ちょ、ちょっと待てよ!!こいつはどう見ても囚人だろ?誰がこいつの枷を解放しようとしたんだよ!!」


枷の鍵穴には半ば折れた状態の鍵が差し込んだままであり、少なくとも誰かが枷を解放しようとしたことは間違いない。ジン本人が枷を解放したとは考えられず、わざわざ鍵を手に入れたのならば身に付けた状態で暴れる必要がない。


「こいつは誰かに解放されようとしたけど、結局自力で抜け出してここで暴れたんだよ」
「誰かって……誰だよ?」
「共犯者がいたという事?」
「多分……その子じゃないかな」
「……なるほどな」


レナは屋根の上から降ろして地面に上に横たわらせた少年を指さし、シュンが納得したように頷く。戦闘の最中、この少年がジンを援護した事は間違いなく、彼が窮地に陥る度に邪魔をしていた。現在は気絶しているが、意識を取り戻せば情報漏洩を防ぐために再び自害を試みようとするだろう。


「確かにこの子供が戦闘で邪魔をしていた事は確かですが……しかし、どうしてレナさんはその事を知っているんですか?もしかして私達の戦闘を何処かで見ていたのですか?」
「え、いや……その辺は後で説明するよ。今はこの子を連れて急いで離れないと……」
「離れる?どうしてだよ?僕達は囚人を捕まえただけだぞ。別に何も悪い事してないんだからさ」
「そうだよ。それに確か囚人さんを捕まえると兵士の人からお金が貰えるんだよね?だったら警備兵の人が来るまで待っていた方がいいんじゃないの?」
「まあ……正論ね」
「うっ……普通はそうなんだけどさ」


レナの言葉に全員が疑問を抱き、結果的に暴れていた囚人を捕まえただけなので王国兵が訪れても何も問題はないように思えるが、実際のところは囚人を解放したのは王国の人間である王妃の命令である。ここに残れば間違いなく厄介な事態に陥る事は間違いなく、折角捕まえた王妃の刺客も何かと理由を付けて奪われる可能性がある。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説や歴史の英雄話好きの高校生の洲河 慱(すが だん) いつものように幼馴染達と学校帰りに公園で雑談していると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は素晴らしいジョブとスキルを手に入れたのに僕のは何だこれ? 王宮からはハズレと言われて追い出されそうになるが、幼馴染達は庇ってくれた。 だけど、夢にみた迄の異世界… 慱は幼馴染達とは別に行動する事にした。 自分のスキルを駆使して冒険する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 現在書籍化されている… 「魔境育ちの全能冒険者は好き勝手に生きる!〜追い出した癖クセに戻って来いだと?そんなの知るか‼︎〜」 の100年前の物語です。 リュカが憧れる英雄ダン・スーガーの物語。 そして、コミカライズ内で登場する「僕スキなのか…」がこの作品です。 その作品の【改訂版】です。 全く同じな部分もあれば、新たなストーリーも追加されています。 今回のHOTランキングでは最高5位かな? 応援有り難う御座います。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。