187 / 2,083
剣鬼 闘技祭準備編
陽光教会
しおりを挟む
「……逃げられたか」
屋根の上を飛び移りながらレナは周囲の光景を確認し、消えた女騎士の姿を探す。チェーンの拘束を逃れるために手首と足首の肉を削ぎ落としたのは予想外だったが、傷を負った状態ならそれほど遠くには逃げられないはずだった。しかし、探しても女騎士の姿は見えず、仕方なくレナはアイリスと交信を行う。
『アイリス、あの女は?』
『残念ですが、他の仲間と合流して任務を失敗した事を王妃に報告に向かっています。今から追いかけても追いつけないでしょうね』
『くそっ……折角のチャンスだったのに。あのおじさんのせいだ』
『すいませんね。私がレナさんの未来を見れたらこんな事態にはならなかったのに』
『別にアイリスのせいじゃないよ』
狭間の管理者であるアイリスはこの世界の全ての出来事を把握できるが、元々は別の世界から訪れたレナに関しては未来は見えない。だからこそ彼に襲い掛かる出来事を察知する事は出来ず、ロウガの接近も気付けなかった。
『あのロウガはどうして俺を目の仇にするのかな』
『剣鬼だからですよ。剣鬼という存在は危険視されているんです』
『これ以上に不遇な渾名や職業はいらないよ』
『言われてみればレナさんの職業も能力も不遇な物ばかりですね』
雑談を行いながらもレナは時間が停止された空間の中で考え事を行い、このまま女騎士を追いかけるよりもギルドに尋ねる事が出来ないのかを考える。馬鹿正直にギルドの建物の正面玄関から訪れるよりも、屋根を移動して建物の内部に侵入する方が得策だと気付く。
『仕方ない……ギルドに戻るよ。何か情報を仕入れたら教えてよ』
『それはちょっと難しいですね。少し前までは私からも連絡できましたけど、夢の世界で会えるようになってからこちらの能力は消えちゃったんですよ』
『あ、だから最近は静かだったのか。知らなかった……』
少し前まではアイリス側からレナに連絡を行う事もあったが、現時点ではそちらの能力は扱えないらしく、レナの方から交信を行わないと連絡が取れないらしい。夢の世界で邂逅できるようになった幸いだが、今後はアイリスの助言はレナの方から交信を行わないと会話が出来ない事になる。
『じゃあ、俺はもう戻るよ。用事があったらメールしといて』
『いや、メルアド知らないんですけど』
『LINEかTwitterでもいいよ』
『もう直接電話しますよ』
交信を終えたレナは氷雨のギルドの建物に向かう途中、教会らしき建物を発見する。大勢の人間が押し寄せており、何やら扉の前で騒いでいた。
「なあっ!!ここにあのレミア将軍がいるんだろう!?一目でいいから会わせてくれよ!!」
「ですから困ります!!レミア様は今は祈祷中なのです!!邪魔をしてはいけません!!」
「でもよ、噂では絶世の美女なんだろう?頼むよ、本当に一目だけでも……」
「いい加減にしてください!!あまりにしつこいと警備兵に突き出しますよ!!」
教会の建物の屋根の上に移動したレナは扉の前で騒いでいる人々に視線を向け、話を聞く限りではこの街の住民がレミアという女性に会うために訪れてきたらしい。まるでアイドルを追いかけるファンのように大勢の人間が押し掛けており、教会の修道女が必死に彼等を宥めていた。
「あれ、レミアって……確か大将軍の一人だよな?」
そのまま立ち去ろうとしたレナはレミアという名前に聞き覚えがある事を思い出し、先ほどまで存在した宿屋でアイリスが教えてくれた王国の大将軍の一人である事に気付く。どうやら冒険都市に訪れていたらしく、教会内にて祈りを捧げているらしい。
「大将軍か……少し気になるな。もしかしたら闘技祭で戦うかも知れないし、顔だけでも確認しておくか」
王妃の口調では闘技祭に王国の大将軍も参加する事は確定事項であり、レミアが既に都市に訪れている事を考えれば彼女も闘技祭に参加する可能性はある。そう考えたレナは先ほど刺客から回収しておいたマントを身に着け、建物の二階の窓から中に入り込む。
「念のために隠密と無音歩行も発動しておくか……」
王妃の刺客が身に着けていたマントは動かない事で「擬態」の能力を発揮し、姿を隠す事が出来る。しかし、逆に言えば動いている間は効力を失うらしく、実際に戦闘の際にはレナは刺客の姿をはっきりと認識していた。姿を見られても問題ないように顔までマントで覆い隠し、極力気配を殺して建物を移動する。
(こっちに行けばいいのかな……お、正解みたいだ)
適当に通路を進んでいると階段を発見し、そのまま降ると祭壇と思われる場所に到着した。祭壇は天使のように羽根が生えた美しい女性が描かれた巨大なステンドグラスが存在し、女性の両手には太陽を想像させる紋様が収まっていた。
(これがこの世界の神様なのか……アイリスと少し似ているのは偶然かな?)
ステンドグラスの女性の姿にアイリスの面影を感じ取り、レナは不思議に思いながらも他の場所の様子を伺う。祭壇には数人の修道女の姿が存在し、そして壁際のステンドグラスの前には全身を白色のローブで包み隠した女性が立っていた。
屋根の上を飛び移りながらレナは周囲の光景を確認し、消えた女騎士の姿を探す。チェーンの拘束を逃れるために手首と足首の肉を削ぎ落としたのは予想外だったが、傷を負った状態ならそれほど遠くには逃げられないはずだった。しかし、探しても女騎士の姿は見えず、仕方なくレナはアイリスと交信を行う。
『アイリス、あの女は?』
『残念ですが、他の仲間と合流して任務を失敗した事を王妃に報告に向かっています。今から追いかけても追いつけないでしょうね』
『くそっ……折角のチャンスだったのに。あのおじさんのせいだ』
『すいませんね。私がレナさんの未来を見れたらこんな事態にはならなかったのに』
『別にアイリスのせいじゃないよ』
狭間の管理者であるアイリスはこの世界の全ての出来事を把握できるが、元々は別の世界から訪れたレナに関しては未来は見えない。だからこそ彼に襲い掛かる出来事を察知する事は出来ず、ロウガの接近も気付けなかった。
『あのロウガはどうして俺を目の仇にするのかな』
『剣鬼だからですよ。剣鬼という存在は危険視されているんです』
『これ以上に不遇な渾名や職業はいらないよ』
『言われてみればレナさんの職業も能力も不遇な物ばかりですね』
雑談を行いながらもレナは時間が停止された空間の中で考え事を行い、このまま女騎士を追いかけるよりもギルドに尋ねる事が出来ないのかを考える。馬鹿正直にギルドの建物の正面玄関から訪れるよりも、屋根を移動して建物の内部に侵入する方が得策だと気付く。
『仕方ない……ギルドに戻るよ。何か情報を仕入れたら教えてよ』
『それはちょっと難しいですね。少し前までは私からも連絡できましたけど、夢の世界で会えるようになってからこちらの能力は消えちゃったんですよ』
『あ、だから最近は静かだったのか。知らなかった……』
少し前まではアイリス側からレナに連絡を行う事もあったが、現時点ではそちらの能力は扱えないらしく、レナの方から交信を行わないと連絡が取れないらしい。夢の世界で邂逅できるようになった幸いだが、今後はアイリスの助言はレナの方から交信を行わないと会話が出来ない事になる。
『じゃあ、俺はもう戻るよ。用事があったらメールしといて』
『いや、メルアド知らないんですけど』
『LINEかTwitterでもいいよ』
『もう直接電話しますよ』
交信を終えたレナは氷雨のギルドの建物に向かう途中、教会らしき建物を発見する。大勢の人間が押し寄せており、何やら扉の前で騒いでいた。
「なあっ!!ここにあのレミア将軍がいるんだろう!?一目でいいから会わせてくれよ!!」
「ですから困ります!!レミア様は今は祈祷中なのです!!邪魔をしてはいけません!!」
「でもよ、噂では絶世の美女なんだろう?頼むよ、本当に一目だけでも……」
「いい加減にしてください!!あまりにしつこいと警備兵に突き出しますよ!!」
教会の建物の屋根の上に移動したレナは扉の前で騒いでいる人々に視線を向け、話を聞く限りではこの街の住民がレミアという女性に会うために訪れてきたらしい。まるでアイドルを追いかけるファンのように大勢の人間が押し掛けており、教会の修道女が必死に彼等を宥めていた。
「あれ、レミアって……確か大将軍の一人だよな?」
そのまま立ち去ろうとしたレナはレミアという名前に聞き覚えがある事を思い出し、先ほどまで存在した宿屋でアイリスが教えてくれた王国の大将軍の一人である事に気付く。どうやら冒険都市に訪れていたらしく、教会内にて祈りを捧げているらしい。
「大将軍か……少し気になるな。もしかしたら闘技祭で戦うかも知れないし、顔だけでも確認しておくか」
王妃の口調では闘技祭に王国の大将軍も参加する事は確定事項であり、レミアが既に都市に訪れている事を考えれば彼女も闘技祭に参加する可能性はある。そう考えたレナは先ほど刺客から回収しておいたマントを身に着け、建物の二階の窓から中に入り込む。
「念のために隠密と無音歩行も発動しておくか……」
王妃の刺客が身に着けていたマントは動かない事で「擬態」の能力を発揮し、姿を隠す事が出来る。しかし、逆に言えば動いている間は効力を失うらしく、実際に戦闘の際にはレナは刺客の姿をはっきりと認識していた。姿を見られても問題ないように顔までマントで覆い隠し、極力気配を殺して建物を移動する。
(こっちに行けばいいのかな……お、正解みたいだ)
適当に通路を進んでいると階段を発見し、そのまま降ると祭壇と思われる場所に到着した。祭壇は天使のように羽根が生えた美しい女性が描かれた巨大なステンドグラスが存在し、女性の両手には太陽を想像させる紋様が収まっていた。
(これがこの世界の神様なのか……アイリスと少し似ているのは偶然かな?)
ステンドグラスの女性の姿にアイリスの面影を感じ取り、レナは不思議に思いながらも他の場所の様子を伺う。祭壇には数人の修道女の姿が存在し、そして壁際のステンドグラスの前には全身を白色のローブで包み隠した女性が立っていた。
3
お気に入りに追加
16,534
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。