不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

カタナヅキ

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剣鬼　闘技祭準備編

魔鎧術の真の可能性

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「おお、凄かったですよ。だけど、思考加速の能力は目覚めなかったようですね」
「まあね……あ、本当にこの場所だと怪我もすぐに治るのか」
「夢の世界ですからね。ほら、貴方は用済みですから消えてください」
『く、屈辱だ……』

鼻血を垂らした状態のゲインにアイリスは声を掛けると、彼女の言葉に反応するようにゲインの肉体が霧と化し、やがて完全に消え去る。あくまでも本人ではなく、彼女が生前の彼の情報を頼りに作り出した人形であり、アイリスが命じれば消えてしまう存在らしい。

レナは落ちた退魔刀と反鏡剣を拾い上げようとしたが、想像した事が実現する世界のせいなのかレナが剣を求めようとすると自動的に二つの剣が一瞬で彼の元に戻り、鞘に収まった状態に戻る。激しく動いたはずだが、特に体力や魔力の消費も感じられず、激しい動いたにも関わらずに疲労もなかった。

「本当に不思議な世界だな。でも、結局力は引き出せなかったな」
「やっぱり、自由に引き出すのは難しそうですね。それにこの世界では命の危機に陥る事がないという事が逆に災いになったのかも知れません」
「そうだね……ん？でも、待てよ。この世界はアイリスが知っている人間なら誰でも作り出せるの？」
「出来ますよ。その気になれば死んだ人間でも……あ、すいません」
「いや……」

死んだ人間という言葉にレナは目を見開き、それを見たアイリスは申し訳なそうに視線を逸らす。だが、この世界ならばレナは「アリア」と会う事が出来る。その気になればメイドとして共に過ごしていた彼女も呼び出せるだろうが、この世界に呼び出せるのはあくまでもアリアという存在の情報から作り出された人形でしかない。

アイリスによれば限りなく本物に近い存在を作り出す事は出来るが、実際に死んだ人間を蘇らせる事は出来ない。あくまでも作り出せるのは精巧な偽物でしかなく、本物とアリアを呼び出す事は出来ないのだ。

「……アイリス、俺は強くなったのかな？」
「強くなりましたよ。少なくともこの世界に呼び出された時と比べたら立派に成長しました」
「ありがとう」

常に自分を見守ってくれていたアイリスの言葉にレナは笑みを浮かべるが、その一方で本当に認められたかった人にもう会えないという現実にレナは溜息を吐き出す。

「えっと……あ、そうだ。こうしましょう。この際にレナさん以外の剣鬼の人を呼び出すのはどうですか？その人達と戦い続ければ何か切っ掛けが掴めるかも知れませんし」
「剣鬼か……でも、基本的に剣鬼の称号に至った人は殆ど殺人狂になってるんだよね？」
「そうですね。レナさんみたいに正気を失わない人はあんまりいませんね」

歴史上で剣鬼に至った人間の殆どがゲインのように殺人に快楽を芽生え、大量の人間を殺害している。だからこそ剣鬼の存在を恐れる人間も多く、氷雨に所属しているロウガも剣鬼であるレナ(正確にはルナとしての状態の彼)がいずれ他の剣鬼のように殺人鬼に陥るのではないかと危惧している。

「他の剣鬼は自在に思考加速を扱えるの？」
「ん～……そうでもないみたいですね。剣鬼の能力を完全に扱いこなした人間は極僅かです。それに完全に操作できるように至った人間も能力を極めるのに相当な年月を費やしたようですね」
「ちなみにゲインはどれくらいかかった？」
「彼の場合は……切っ掛けを掴んだのは半年ぐらいですかね。これはかなり早い方です」
「半年……」

これまでにレナが戦ってきた剣士の中でもゲインは指折りの実力者である事は間違いなく、そんな彼でさえも半年も費やして覚えたという事実にレナは頭を抑える。だが、剣鬼として目覚める前の状態に戻ったと考え、レナは気を取り直してアイリスと向き合う。

「思考加速を覚えるのはまた今度にするよ。それより、他の方法を試したい」
「他の方法？」
「あのさ、俺の限界強化は限界まで身体能力を上昇させるんだよね？」
「そうですよ」
「それなら限界強化に付与強化を組み合わせたら……」
「いや、死にますよ？」

レナの言いたいことを察したアイリスが呆れた声を上げ、限界まで上昇させた身体能力を更に付与強化で上昇させようという安易な考え方に彼女は呆れてしまう。当のレナ本人も自分が無茶を言っている事を理解しており、既に限界まで強化させた肉体に更に負担を掛けるような真似をするなど自殺行為にしか過ぎない。

「いくら肉体を鍛えてきたといっても、レナさんは人間で魔術師なんです。巨人族の戦士じゃあるまいし、そんな方法をしたら確実に死にます。具体的には血管が浮き上がって目が充血して鼻血を噴き出しながら苦しみ悶えて死にます」
「怖いっ」
「幾ら回復魔法が扱えるからといって、身体の負担を考えないで行動するのは駄目ですよ」
「耳が痛いな……」

アイリスの言葉は最もであり、レナは別の方法で能力を強化させる方法を考えていると、そんな彼にアイリスは呆れながらも助言を告げる。

「忘れているかもしれませんけど、レナさんは魔術師なんですよ。何で普通に魔法を鍛えようとは考えないんですかっ」
「あ、そういえばそうだった……」

基本的にレナは自分が覚えている魔法を剣技の補助にしか扱っていないが、彼も普通に攻撃魔法も扱える。アイリスはここで基本に戻り、強力な攻撃魔法を覚える事を勧めた。

※リメイク作品「文字変換の勇者」も投稿しました。

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