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入学試験編

第59話 影魔術師の扱い

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「よっしゃあっ!!あたしの勝ちだ!!」
「く、くそぉっ!?」
「こいつ、強すぎるぞ!?」
「あ、ネココだ……」


生徒同士でじゃんけんを行っていたらしく、一番手はネココに決まった。彼女は石板と人形を交互に見た後、石板の方にだけ柵があることに気付いてキニクに尋ねる。


「この柵を越えたら駄目なのか?」
「うむっ!!その策を越えて石板に近付くのは駄目だ!!」
「じゃあ、こっちの人形は近づいてもいいんだな?」
「その通りだ!!」
「いちいち声デカい教師だな……」
「あんなのが担当教師になったら嫌だな」


石板は柵を乗り越えての攻撃ができない以上はネココが扱える魔法で破壊できるのは人形しかなく、彼女は杖を地面に傾けると魔法を唱えた。


「アースハンマー!!」
「おおっ!?地属性の魔法か!?」
「そういえばあの娘、ドワーフだったな」
「いったいどんな魔法なんだ!?」


地属性の魔法を見るのは初めてなのか生徒の殆どが騒ぎ出し、森の中で彼女が魔法を扱う場面を見ていたレノ達だけは騒がずに様子を伺う。ネココの魔法は土砂を練り固めて土塊を生み出し、それを杖に装着させることで「土槌」を生み出す。

元は土砂とはいえ、魔力で練り固めた土塊は岩並の強度を誇る。そんな物をネココは軽々と振り回しながら人形の元へ向かう。


「おらぁっ!!」
「「「おおっ!?」」」


ネココは気合を込めた一撃を叩き込むと、木造人形の一体が粉々に砕け散る。それを見て他の生徒は感嘆の声をあげ、土槌を振り回しながらネココはキニクに振り返った。


「どうだっ!!これがあたしの力だ!!」
「ふむ、中々の一撃だったな。だが……人形を壊せるまでには至らなかったな」
「は?何言ってんだおっさん?」


キニクの発言にネココは呆気に取られ、彼女は自分が砕いた人形に振り返ると、そこには異様な光景が広がっていた。


「うわっ!?な、なんだこりゃ!?」
「人形の破片が……集まっていくぞ!?」
「き、気持ち悪い!?」


ネココが破壊したはずの人形の破片が一か所に集まり、元の形へと修復していく。それを見たネココは唖然とするが、キニクは人形の秘密を明かす。


「その人形は実は木造製ではない。魔道具で作り出された砂人形サンドゴーレムだ」
「な、何だって!?」
「見た目は人形のようにしか見えなかっただろうが、実際は君の魔法のように土砂を練り固めて作り出されている。完全に破壊するには人形の内部に隠されている特殊加工された魔石を破壊しない限りは何度でも復活するぞ」
「こ、この野郎!!そういうことは先に言えよ!!」


てっきり自分が壊したと思った人形が元の形に復活したことにネココは驚かされ、彼女は悔しそうに木造人形改め砂人形に土槌を叩き込む。


「これならどうだ!!」
「はっはっはっ、ほどほどにしておけ。それを破壊するのは至難の業だぞ」


力任せにネココは何度も砂人形を叩き潰すが、いくら破壊しても数秒も経過すれば元の形へと戻った。どれだけ土槌を叩き込もうと破壊できず、最終的には彼女の方が体力切れを起こしてしまう。


「はあっ、はあっ……全然壊れねえっ!!」
「はっはっはっ!!力任せに叩きつけても魔石を壊すことはできんぞ!!だが、その根性は気に入った!!」
「そりゃどうも……次の奴、いいぞ」


破壊を諦めたネココは戻ると、他の生徒は顔を見合わせた。先ほどまでは我先にと魔法を試そうとしていた生徒達だったが、ネココが破壊できなかった砂人形を見て躊躇してしまう。

見た目は壊れやすそうな木造製の人形にしか見えなかったが、まさか魔道具を利用して生み出された砂人形だったことは誰も気付けなかった。ネココが土槌を何度も叩きつけても再生したことから破壊は困難だと思われた。


「お、おい……次は誰が行くんだよ?」
「お前が行けよ!!さっきまでやりたがってただろ!?」
「ええっ!?お、お前の方が先に言い出したんだろ!?」
「どうした?次の挑戦者はいないのか!?」


キニクの言葉に生徒達は黙り込み、次は誰が挑戦するのか緊張感を抱く。すると意外な人物が前に出てきた。


「次、僕が行きます」
「ダインの兄ちゃん?」
「え、ダイン君!?」
「ダイン!?」


ダインが名乗り上げるとは思わずにレノ達は声をあげるが、彼は人形の前に移動した。他の生徒達はダインが所持している杖が黒いことに気が付いて話し合う。


「お、おい……あいつの杖、黒いぞ?」
「まさか闇属性の魔法の使い手か?」
「嘘だろ?まさかやばい奴なんじゃ……」
「……?」


杖を見ただけで生徒達が騒ぎ出したことにレノは不思議に思い、一方でダインは緊張した様子で人形との距離を測り、影の位置を確認した。ダインの影魔法は杖を自分の影に刺さなければ発動しない。覚悟を決めた表情でダインは影に杖を差し込んで呪文を唱えた。


「シャドウバインド!!」
『っ!?』


呪文を唱えた瞬間にダインの影が伸びて砂人形へと向かう。細長く伸びた影は地を這う蛇の如く移動して砂人形に絡みつき、ダインが杖を引っ張ると砂人形は倒れ込む。

影に引き寄せられた砂人形は地面に倒れると、砂人形が崩れて派手に砂煙が上がった。ダインの影は元へ戻ると額の汗を拭う。


「終わりました」
「ふむ……今のは影魔法か?」
「……はい」


キニクが質問するとダインは何故か暗い表情を浮かべて頷き、彼の反応を見てレノは不思議に思う。その一方で他の生徒は拍子抜けしたような表情を浮かべる。


「何だ、あいつ影魔術師だったのか」
「驚いて損したな」
「たくっ、驚かせやがって……」


ダインが影魔法の使い手だと知ると生徒達の殆どは彼を小馬鹿にする発言を行う。そんな彼等の態度にレノは苛立ち、影魔法の使い手の何が問題あるのか問い詰めようとした。


「お前等……」
「レノ、いいんだよ。これが影魔術師の宿命なんだ」
「ダイン?」


何時の間にか戻ってきたダインは自分のために怒ろうとしてくれたレノを止めてくれ、神妙な表情を浮かべて自分が馬鹿にされる理由を話す。


「影魔法の使い手は昔から魔術師の中では価値が低いと言われてるんだ。理由は僕達の魔法には明確な弱点があるからなんだよ」
「弱点?」
「影魔法は光に弱いんだ……強い光を当てるだけで影魔法は解除されるから、一般人でも対抗策を用意すれば無効化できる。そのせいで魔術師の中では下に見られるんだ」


ダインの影魔法は文字通りに影を利用して生み出す魔法であり、影は光に照らされるだけで消えてしまう。その弱点は魔法でも克服はできず、影魔法は光を浴びせるだけで簡単に掻き消すことができる。

影魔法を発動する条件として影を利用するという性質上、影が生まれない場所では効力を発揮しない。戦う時は常に自分の影の位置を把握しなければならず、色々と不便な点が多い。しかも魔術師通しの戦いでは光を生み出す魔法の使い手は天敵だった。


「悔しいけど僕はこの中でも一番弱い魔術師なんだ」
「そんなことは……」
「慰めるのは止めてくれよ、お前みたいに強い奴から慰められるのが一番辛いんだ……知ってるか?魔法学園の歴史で影魔法の使い手が卒業したことはないらしいぞ」
「ど、どうして?」
「答えは簡単だよ。今まで影魔法の使い手の入学は認められなかったからさ。だから僕が魔法学園の歴史上で初の影魔術師の生徒なんだよ」


自分の境遇に不満を抱きながらもダインは笑い、どんな目に遭おうと彼は魔法学園を卒業する覚悟と決意を固めていた。


「僕はどんな手を使っても魔法学園を卒業してやる。そして世間で名を売れる程の立派な魔術師になってやる」
「ダイン……」
「同情なんかするなよ。当面の目標はお前を越える魔術師になることなんだからな」


ダインは友達であったとしても関係なく、彼にとっては新入生の中で一番強いと思われるレノを目標にすると決めた。そんな彼の言葉を聞いてレノはある決断をする。
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