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入学試験編

第51話 教師の救援

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「ボ、ボア!?しかもいっぱい来たぞ!?」
「ぎゃああっ!?こんな時に!?」
「は、早く逃げなきゃっ!?」
「駄目だ、逃げ場がない!!」
「ぷるんっ!?」


10匹以上のボアが森から押し寄せ、川を背にしたレノ達には逃げ場がなかった。スラミンを巨大化させて川を渡る暇もなく、ボアの群れがレノ達に迫る。

魔力暴走のせいでレノは魔法が使えず、他の三人も魔法を使えるだけの余力は残していなかった。もう駄目かと思われたがボアの群れは何故かレノ達を素通りして川を渡っていく。


「「「フゴォオオオッ!!」」」
「あ、あれ!?通り過ぎちゃった!?」
「どうなってんだ!?」
「あれ?あいつらよく見たら背中に誰か乗せてないか?」
「言われてみれば……」


ボアの背中には人らしき姿があり、ヒトノ王国の紋章が入った鎧兜を装着していた。そして群れの最後尾を走っていたボアだけが残り、その背中には見覚えのある男性が乗っていた。


「おお、君達は無事だったか!!」
「あ、あんたは……」
「筋肉教師!?」
「はっはっはっ!!ちょっと惜しいが私は筋肉ではない……キニクだ!!」
「フゴッ……」


決め顔で名乗ったのは最初にレノ達を獣魔の森に連れてきた魔法学園の教師のキニクだった。キニクは魔獣であるはずのボアを乗りこなし、それを見てハルナは気が付く。


「このボア……もしかして契約獣?」
「その通りだ!!このボアは私の契約獣だ!!」
「契約獣ってことは……えっ!?魔物使いなのかあんた!?」
「うむ!!」


キニクが魔物使いだと判明して全員が驚き、先ほど通り過ぎたボアの群れも彼が従えた魔獣だと判明した。ボアの背中に乗っていたのはただの兵士であり、キニクの命令で兵士を乗せたボアたちが森の中に取り残された子供達の救援に向かっていることが判明した。


「君達はよく頑張ったな!!途中で棄権リタイアせずによく一晩もやり過ごした!!」
「え?でも、俺達は不合格なんじゃ……」
「はっはっはっ!!悪いがあの話は嘘だ!!この森はそもそも脱出できないように仕掛けが施されている!!」
「ええっ!?」


悪びれもせずにキニクは最初に話した合格条件が嘘だと伝えた。今回の試験の真の目的は、厳しい環境下におかれた人間がどのような手段で生き残るのかを試すための試験だと語る。


「魔物が巣食う森の中で君達がどのような手段で危険を避けながら行動できるのか調べるための試験だったんだ!!そして見事に君達は夜明けまで無事に生き延びた!!」
「ちょ、ちょっと待てよ!!いや、待ってください……」


相手が教師だと思い出したダインは言葉を言い直し、今回の試験のせいで自分達がどれだけ死にかけたのか文句を告げる。


「俺達は何度も魔物に殺されそうになったんですよ!?もしも本当に殺されていたらどうするんですか!?」
「ははは、それはすまなかったな。だが、君達はこうして生きているだろう?」
「それは運が良かっただけで……」
「ダイン、多分だけど俺達の行動は把握されていたんだよ」
「え!?どういう意味?」


ダインが文句を告げようとするが、レノだけは今回の試験を受けていた時に感じていた違和感の理由を見抜く。最初に試験を受けた時からレノは森の中に潜む魔物に違和感を抱いていた。


「試験が始まった時から何度か誰かに見られているような感覚があった。あれはもしかしてだけど、先生が契約した魔物に見張られていたんじゃないのかな?」
「ほう!!君は勘が鋭いな!!なるべく目立たないように気を付けさせていたつもりだが……」
「ちょっと待てよ!!見張られてたってまさか……」
「多分だけど、ハルナ達を襲った赤毛熊の先生の契約獣だよ」
「うむ!!」
「「「ええええっ!?」」」


自分達を襲った赤毛熊の正体がキニクの契約獣だと知ってハルナ達は度肝を抜かす――





――今回の試験の内容は入学希望者が危機的状況に追い込まれてどのように行動するのかを調べるためのであり、そのために魔物使いであるキニクは複数の魔獣を事前に従えて森の中に配置させた。

レノ達が訪れたのは獣魔の森であることは間違いないが、事前に彼等が危険な場所に向かわないように森の中には魔物除けのが張られていた。この結界のお陰でキニクが従えた契約獣以外の魔物は結界内には入れないようにし、安全性を確保した上で試験が開始される。

結界に閉じ込められた子供達に配られたランタンにも細工されており、ランタンを所持していると結界に近付いただけで無意識に引き返す仕掛けが施されていた。だから最初にダイン達が森を抜けようとして元の場所に何度も戻ったのは偶然ではなく、彼等が持っていたランタンの仕掛けのせいだと判明した。


「なんだよそれ!?じゃあ、僕達が出られなかったのはこのランタンのせいだったのか!?」
「道理で何度も同じ場所に戻ると思ったらこいつのせいだったのか!!こんなもん捨ててやる!!」
「こらこら、止めんか!!怒る気持ちは分かるがそれは高価ななんだぞ!!」
「魔道具って……何?」
「魔法の力が宿った道具のことだよ~」


今まで灯りに利用していたランタンこそが自分達が道に迷った原因だと知ったネココは川に投げ捨てようとするが、キニクが慌てて彼女を抱きかかえて止める。レノは魔道具の存在をハルナに教えてもらう。


「なら僕達を襲ってきた魔物全部が契約獣だったのか!?」
「何だよ!!本気で殺されると思ったぞ!!こっちの兄ちゃんなんて怪我までしたんだぞ!?」
「うん、まあ……蹴飛ばされた時は死ぬかと思ったね」
「で、でも、良かったね。あの怖いミノタウロスも契約獣だったんだ」
「ははは、どうやら随分と無理をしたよう……ん?」


ミノタウロスの名前を聞くとキニクは不思議そうな表情を浮かべ、ここでレノが右腕をマントで固定していることに気が付く。


「ちょっと待ってくれ!!その怪我はどうしたんだ!?まさか魔獣にやられたのか?」
「え?いや、これは魔力暴走で……あ、でもその前にミノタウロスに怪我をさせられました」
「そういえばレノ君、どうやって怪我を治したの?あんなに酷い怪我だったのに……」
「ああ、それは再生術で……」
「待て!!蹴られたと言ったのか!?魔銃に怪我をさせられたのか!?」


キニクはレノが負傷したと聞いて衝撃を受けた表情を浮かべ、彼は試験を行う前に契約獣には決して子供達を傷つけないように命令を与えていた。それなのに怪我人が出たことに動揺を隠せない。


「そんな馬鹿な!?私の契約獣には脅かすだけで決して危害を加えるなと命令したはずだ!!」
「え?そうなんですか?」
「そ、そんなわけないよ!!だってあのミノタウロスは本気で私達を殺すつもりだったよ!?」
「本当だよ!!あたしだって酷い目に遭ったんだからな!?ほら、見ろよこの痣!!」
「うわっ!?こ、こんなところで脱ぐなよ!!」


ネココもミノタウロスのせいで痛い目に遭っており、彼女は服をまくり上げるとミノタウロスに吹き飛ばされた際にできた痣を見せつけた。それを見てキニクは愕然とするが、彼は先ほどから気になっていたことを質問する。


「待ってくれ!!ミノタウロスに襲われたと言ったか!?そんな馬鹿な話があるはずがない、私はそもそもミノタウロスを契約獣にしたつもりはないぞ!?」
「「「ええっ!?」」」
「じゃあ、あのミノタウロスはいったい……」


ミノタウロスはキニクの契約獣ではなかったことが判明し、試験中に契約獣ではない魔人族が結界の中に迷い込んでいたことが判明した。
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