上 下
46 / 64
入学試験編

第44話 魔人族

しおりを挟む
「ぷるぷるぷるっ」
「うわっ!?角が生えた!?」
「いや、耳じゃねえの?」
「もう、二人とも静かにしないとスラミンちゃんが落ち着いて探せないよ~」


スラミンは二つの角(耳?)をぴこぴこと動かして探索を行い、前方に顔を向けて飛び跳ねる。


「ぷるるんっ!!」
「こ、この先に何かいるのか?」
「ぷるんっ」


ダインの問いかけにスラミンは頷き、ハルナの頭の上に戻った。三人はスラミンが示した方向に視線を向け、緊張しながらも先へ進もうとした。


「よ、よし、二人ともいつでも逃げる準備はしておけよ」
「おう、分かった……って、逃げる準備かよ!?そこは戦う準備じゃないのか!?」
「馬鹿野郎!!さっきは僕達の魔法なんて全然通じなかっただろ!?」
「うっと……あ、でもハルナの姉ちゃんならあの化物を従えられるんじゃないのか!?」
「ど、どうだろう……やってみないと分からないけど」
「ぷるんっ……」


赤毛熊のことを思い出した三人は足が震えて前に進めない。しかし、ハルナは自分達を助けてくれた他の魔術師のことを思い出して勇気を振り絞る。


「い、行こう!!もしも危険な目に遭いそうだったら二人は逃げて!!私が何とかしてみせるから!!」
「姉ちゃん……へへ、意外と勇気あるじゃん」
「ううっ……僕一人にするなよ。分かったよ、こうなったら最後まで付き合うよ!!」
「ぷるんっ」


ハルナの言葉にネココは笑みを浮かべ、ダインは渋々と同行する。スラミンは主人のために身を犠牲にする覚悟はできており、川を離れて森の中に踏み込む。

森の奥に進むにつれて足場が悪くなり、足跡を追うのも苦労するがスラミンの探知能力のお陰で魔物の位置は常に特定できた。だが、森の奥に進む程にスラミンは怯える。


「ぷるるるっ……」
「だ、大丈夫?スラミンちゃんが怖いなら鞄の中に隠れてていいよ」
「ぷるんっ」


ハルナが持ち運ぶ鞄にスラミンは潜り込み、彼の反応を見て目的の相手が近いと察した三人は常に周囲を警戒する。


「なあ、本当に赤毛熊の奴は僕達を助けてくれた奴を追ってるのかな……」
「どういう意味だよ?」
「だって冷静に考えたらおかしいじゃないか?赤毛熊を追ってここまで来たけど、そもそも僕達を助けた奴を赤毛熊が今も追いかけてる保証なんてないだろ?」
「あっ!?言われてみれば確かに……」


ここまでの追跡でダインは赤毛熊が本当に自分達を救った人間を追いかけているのが疑問を抱き、実は既に逃走者は赤毛熊を振り切っているのではないかと考えた。


「ここに来るまで足跡を折ってきたけど、そもそも人間の足跡は見つかってないだろ?ならやっぱり赤毛熊は見失ったんだよ」
「じゃ、じゃあ……あたし達のしてることは無駄骨だったのか?」
「きっと僕達を助けた奴はもう逃げ出してるよ!!今なら赤毛熊に見つかる前に逃げられるから、さっさと引き返そう!!」
「う~ん……」


ダインの言葉は正論であり、今までの道中で人間の足跡は発見していない。しかし、ハルナだけは川を渡る時に岩に残された足跡を発見していた。

足跡を見たのは一瞬だけだったが、ハルナは誰かが川を渡ったと確信していた。だが、それから先は一度も足跡を発見していないことは不思議であり、本当に赤毛熊が自分達を救った相手を今も追いかけているのか分からない。


「もしもあたし達を救った奴が逃げ出したなら赤毛熊を追いかけるのはやばくないか?」
「やばいに決まってるだろ!!ハルナ、もういいだろ?きっと僕達を助けた奴は逃げ切れたって……」
「でも、私達が足跡を見つけられていないだけかもしれないよ?」
「その可能性もあるかもしれないけど、ここに来るまで足跡を一つも見つけられないなんておかしいだろ?それにこうして話している間も赤毛熊に見つかる可能性だってあるんだぞ!!」
「う~ん……あたしも兄ちゃんの言うことに賛成だな。きっと逃げ切れたんだよ」


ネココとダインはこれ以上の追跡は無意味だと判断し、元の道を引き返すように提案する。しかし、ハルナは自分達を救ってくれた人物が近くにいるような気がした。


(川を渡る時に見えた足跡は絶対に見間違え何かじゃない。でも、ここまで足跡はないのはどうしてだろう……あれ?)


ハルナは耳を澄ませるとこちらに近付いてくる足音が聞えた。そして彼女の鞄の中に隠れていたスラミンが飛び出す。


「ぷるぷる~んっ!?」
「あ、スラミンちゃん!?」
「どうしたんだよ急に!?」
「ま、まさか……赤毛熊が近付いてるのか!?」


スラミンは一目散に身体を飛び跳ねて移動を行い、それを見て危機を察した三人は後を追いかける。スラミンは飛び跳ねながら移動を行い、最初に通った道を辿って川へと戻る。


「ぷるぷるっ!!」
「スラミンちゃん、落ち着いて!?」
「や、やばい!!こっちに何か来てるぞ!?」
「は、早く川を渡らないと!?」


恐怖のあまりに暴走したスラミンをハルナは落ち着かせようとするが、ダインとネココは森の方から赤毛熊の鳴き声を耳にした。



――ガァアアアアッ!!



先ほど三人を襲ったのと同一個体の赤毛熊が迫っており、慌ててダインはスラミンを捕まえて川を渡るように指示すると、ハルナはスラミンを何とか捕まえる。


「スラミンちゃん!!お願いだから言うことを聞いて!!」
「ぷるんっ!?」
「ああ、姉ちゃんに挟まれて凄い形に変化した!?」
「ふざけてる場合か!?やばいってこれ……こっちに来るぞ!?」


茂みを掻き分けながら移動する音まで聞こえ始め、あと数秒もしないうちに赤毛熊が現れると判断したダインは影魔法の準備を行う。ネココも杖を地面に突き刺して魔法を発動させた。


「兄ちゃん、あたし達が時間を稼ぐぞ!!アースハンマー!!」
「く、くそぉっ……やるしかないのか!?」
「スラミンちゃん、早くおっきくなって!?」
「ぷるるるっ……」


ハルナは逃げるためにスラミンに川の水を吸わせて巨大化させる。スラミンが膨れ上がれば三人は川を安全に渡ることができるが、その前に森の奥から遂に赤毛熊が出現した。


「ガァアアアッ!!」
「わああっ!?もう来ちゃった!?」
「く、来るならこい!!ダインの兄ちゃんが相手だ!!」
「待て待て待て!!僕を犠牲にするつもりか!?」


土砂を練り固めて杖に土塊をくっつかせて「土槌アースハンマー」を完成させたネココだったが、ダインの後ろにちゃっかりと隠れる。だが、森から現れた赤毛熊は様子がおかしく、三人を無視して川の方へ向かう。

何があったのか赤毛熊は既に怪我を負っており、全身が鋭い刃物で切り付けられたような傷跡が残っていた。既に傷だらけの赤毛熊を見て三人は驚き、一方で赤毛熊は三人など無視して川を渡ろうとする。


「ガアアッ……!?」
「な、何だこいつ……傷だらけじゃないか?」
「まさか川を渡るつもりか?」
「む、無茶だよ!!そんな傷で川に入れば死んじゃうよ!?」


全身に傷を負いながらも川を渡ろうとする赤毛熊をハルナは引き留めようとするが、彼女が近付く前に森の方から巨大な斧が飛んできた。


「アガァッ――!?」
「きゃあっ!?」
「ひいっ!?」
「な、何だよ今度は!?」


森から飛んできた斧は赤毛熊の後頭部に的中し、頭に斧の刃がめり込んだ赤毛熊は川原に倒れ込む。三人はそれを見て愕然とするが、森の奥から木々が倒れる音が鳴り響き、巨大な牛と人間が合わさったような化物が出現した。



――ブモォオオオッ!!



獣魔の森の中でも一、二を誇る危険度のの「ミノタウロス」が三人の前に姿を現わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

異世界転生で楽できると思ったが、現実はそんなに甘くなかったです

異世界に憧れるとある青年
ファンタジー
俺の名前は上田。よく分からない理由で異世界転生した者だ。 異世界転生って言ったら、女子にイチャイチャしてハーレムをするのが定番だろ。 なのに・・・なのに・・・どうしてんなんだよ!!! 異世界×ギャグ×主人公クズをテーマに書いていく異世界転生ストーリーです。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

【完結】二年間放置された妻がうっかり強力な媚薬を飲んだ堅物な夫からえっち漬けにされてしまう話

なかむ楽
恋愛
ほぼタイトルです。 結婚後二年も放置されていた公爵夫人のフェリス(20)。夫のメルヴィル(30)は、堅物で真面目な領主で仕事熱心。ずっと憧れていたメルヴィルとの結婚生活は触れ合いゼロ。夫婦別室で家庭内別居状態に。  ある日フェリスは養老院を訪問し、お婆さんから媚薬をもらう。 「十日間は欲望がすべて放たれるまでビンビンの媚薬だよ」 その小瓶(媚薬)の中身ををミニボトルウイスキーだと思ったメルヴィルが飲んでしまった!なんといううっかりだ! それをきっかけに、堅物の夫は人が変わったように甘い言葉を囁き、フェリスと性行為を繰り返す。 「美しく成熟しようとするきみを摘み取るのを楽しみにしていた」 十日間、連続で子作り孕ませセックスで抱き潰されるフェリス。媚薬の効果が切れたら再び放置されてしまうのだろうか? ◆堅物眼鏡年上の夫が理性ぶっ壊れで→うぶで清楚系の年下妻にえっちを教えこみながら孕ませっくすするのが書きたかった作者の欲。 ◇フェリス(20):14歳になった時に婚約者になった憧れのお兄さま・メルヴィルを一途に想い続けていた。推しを一生かけて愛する系。清楚で清純。 夫のえっちな命令に従順になってしまう。 金髪青眼(隠れ爆乳) ◇メルヴィル(30):カーク領公爵。24歳の時に14歳のフェリスの婚約者になる。それから結婚までとプラス2年間は右手が夜のお友達になった真面目な眼鏡男。媚薬で理性崩壊系絶倫になってしまう。 黒髪青眼+眼鏡(細マッチョ) ※作品がよかったら、ブクマや★で応援してくださると嬉しく思います! ※誤字報告ありがとうございます。誤字などは適宜修正します。 ムーンライトノベルズからの転載になります アルファポリスで読みやすいように各話にしていますが、長かったり短かったりしていてすみません汗

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ヒーローは洗脳されました

桜羽根ねね
BL
悪の組織ブレイウォーシュと戦う、ヒーロー戦隊インクリネイト。 殺生を好まないヒーローは、これまで数々のヴィランを撃退してきた。だが、とある戦いの中でヒーロー全員が連れ去られてしまう。果たして彼等の行く末は──。 洗脳という名前を借りた、らぶざまエロコメです♡悲壮感ゼロ、モブレゼロなハッピーストーリー。 何でも美味しく食べる方向けです!

旦那様と楽しい子作り♡

山海 光
BL
人と妖が共に暮らす世界。 主人公、嫋(たお)は生贄のような形で妖と結婚することになった。 相手は妖たちを纏める立場であり、子を産むことが望まれる。 しかし嫋は男であり、子を産むことなどできない。 妖と親しくなる中でそれを明かしたところ、「一時的に女になる仙薬がある」と言われ、流れるままに彼との子供を作ってしまう。 (長編として投稿することにしました!「大鷲婚姻譚」とかそれっぽいタイトルで投稿します) ─── やおい!(やまなし、おちなし、いみなし) 注意⚠️ ♡喘ぎ、濁点喘ぎ 受け(男)がTSした体(女体)で行うセックス 孕ませ 軽度の淫語 子宮姦 塗れ場9.8割 試験的にpixiv、ムーンライトノベルズにも掲載してます。

処理中です...