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解決編

23.

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晴人とバイトが被ってからの相川の回想(解決編『2』の辺り)を経て、現在に戻ります。


●●●

(side 相川陽菜)




「それでさ、そのリリナって人、後から友達に聞いたら最近テレビにも出てるらしいんだけど」

「ねぇ、」

「知らなかったのは申し訳ないけどさ『蓮がお世話になってます』は無いと思わない?それでね、」

「ねぇってば!」

大声を出した私にキョトンとするブルーグレーの瞳。

「どしたの?」

「『どしたの?』じゃないわよ!」

何で愚痴を聞かされてんのよ私は。

「アンタと私、友達か何かだっけ?」

皮肉を込めた言葉に事もなげに「うん。」なんて返されて言葉に詰まる。

「…私が何したか覚えてんでしょ。」

そんな簡単に許していい訳?

「古い話ししてるなぁ。『昨日の敵は今日の友』って、アニポケで博士が言ってるの知らないの?」

知らんがな…。

多分オープニングの事だと思うけど、それって初代の歌でしょ、私達の世代とは違うじゃない。

そもそもあれ、博士発信じゃないから。

歌ってんの主人公の中の人だから。

…じゃなくて!!

あぁ、もう…!

前から思ってたけどコイツと話してると調子狂うのよね。

「それにこの話し愚痴じゃないから。相川さんへの報告とお礼だから。」

「はあ?」

「今話したみたいにマウント取られたんだけどさ、言い返せたんだよね。相川さんが『周りは色々言って来るだろうけど、私の攻撃に負けなかったんだからこの先も大抵の事は大丈夫よ。』って言ってくれたお陰だと思って、いつか会えたらお礼言いたいと思ってたんだ。ありがとね!」

私が高校時代に言った事、覚えてたの?

「…どーいたしまして?」

思わず応じてしまって、ハッとした。

ちょ、こっち見てニヤニヤすんじゃないわよ!



バイトのヘルプ先に、まさかの萱島晴人がいた。

『また会えたから話しかけていいんだよね?』って問いに『会話するとは言ってないけど。』って返したら、コイツはなんだか嬉しそうな顔をして。

そんな再会から暫く経った今、何故か昔からの友達みたいに接してくるんだけど…本当謎。

「あっ、そうだ。『相川さん』じゃなくて『月島さん』って呼んだ方がいい?」

「…別に何でもいーわよ。」

「じゃあ…『姫』かなぁ。」

「は?…どっから出てきたのそれ。」

「だって相川さん、お姫様じゃん。」

「あのねぇ、アンタ私の整形前の顔見たでしょ。」

あの時晒された写真の私は、どこをどう見たってそんな見た目じゃない。

今の私は偽物のーー

「何言ってんの、中身の話しだよ。」

「…え?」

「いや、確かに見た目もお姫様だけどさぁ…性格がツンデレの我儘プリンセス…わっ!暴力反対!」

エプロンを投げつけると萱島が大袈裟に声を上げて、ケラケラ笑う。

抗議してやろうと思ったのに、春の陽射しの笑顔を向けられると言葉が出てこない。

…何なのよ、もう…。

「はぁぁ、好きに呼べば?」

だから、何でそんな嬉しそうな顔すんのよアンタはーー。



私と萱島が知人だと知ると、店長は私達の休憩を被せてくるようになった。

『沢山出てもらってるから、せめて楽しく働いて欲しくて』なんて余計なお世話だけど…善意だから無碍にもしにくい。

萱島はほぼ毎日出勤してるらしく、私が行くと大体いる。

つまり、かなりの頻度で一緒に休憩を過ごしてる訳で。

『本日はこちら!期間限定ダブルショコラ味でーす!』

なんて、毎回持ってきてるらしい何かしらのお菓子を、当然みたいに私にもシェアして来て。

それを食べながら雑談するのが、恒例になってしまった。

一度『いらない』って断ったら、垂れた犬耳と尻尾の幻想が見えてこっちが悪い事してる気分に陥って。

だからいつも、それなりに相手してあげてるんだけど…最近『私って弟いたんだっけ?』って錯覚しそうでヤバイ。

懐いた相手にはこんな感じなのね…天性の人たらしだわ…。

文化祭の日、濡れた萱島の元に駆け付けた中野や黒崎や伊藤。

今ならその気持ちが分かる気がする。

明るく素直、かと思えば痛みも知っていて、人の気持ちを救い上げて。

優しく温厚なのに、蓮の為に私に直談判したりして。

無邪気さと強さを併せ持ったその性質は、人を惹きつける。

こんな相手が生まれた時から傍にいたら、そりゃあ周りなんて目に入らないわよね。

全てに恵まれすぎて、一つ間違えたら闇堕ちしてもおかしくないような誰かさんがゾッコンな理由も納得かも。


待って、そう言えば…。

「ねぇ、アンタがこんなにバイト入ってる事、蓮はOKしてるの?」

私の疑問にギクリと肩を揺らした萱島を見て、内心溜息を吐く。

やっぱね、あの激重束縛野郎が許可する筈ないわよね。

白状させた所によると、その件で揉めてからすれ違い状態が続いてたらしい。

仲直りしたのがクリスマスって…つい最近じゃない。

え、て言うかもしかして。

「私の出勤初日が12月25日だったのって…。」

「お、俺が休みたいって言ったからです…。」

私が萱島に会ったのは2回目の出勤日で、初日はクリスマスだった。

事前に店長にお願いされて、ママとのクリスマスは24日だしまぁいっかと思って出勤したんだけど…。

コイツらのイチャコラの為に駆り出された訳ね。

「何か腹立って来たわ。」

「ご、ごめんって!あ、そう言えば俺、まだ姫と一緒に働いてる事蓮に言えてないや。」

それを聞いて戦慄した。

そうだ!何で忘れてたのよ私のバカ!

「それ、絶対に蓮に言っちゃダメだからね!」

蓮がイタリアに行ってるらしいタイミングで本当によかった。

口止めが間に合わなかったら…ヤバかった。

私が萱島の近くにいるなんて知ったら、きっと…。

「私がられるか、アンタが監禁されるかどっちかよ。」

「そんな物騒な。蓮だってもう怒ってないって。」

…甘いッッッ!!!

蓮が如何に黒い部分をコイツの前で見せないようにしてるか、よく分かった。

あの執着野郎が私を許す訳がないっての!

「少なくとも、どっちかはバイト辞めさせられるわね。」

「えぇ!?それは嫌だ!」

のほほんとしてる萱島に、私の渾身の一撃は効いたみたい。

「でしょ?だから蓮には黙ってて。」

「うーん…でも…」「どうせ数ヶ月のヘルプなんだから大丈夫よ。」

渋るのを丸め込んで、約束させた。

どうやら忙しいらしい蓮が、この事に勘付きませんように!

大丈夫、たったの3ヶ月なんだからーー。














「成る程、だから晴人は相川さんと働いてる事、切藤に言ってなかったのか。」

中野が納得したように頷く横で、蓮の目が鋭くなる。

「テメェ、余計な事言いやがって…」

「口止めしたのは悪かったわよ!でも、私が辞めたら人手が足りなくて大変になるのは晴ちゃんでしょ。
逆に晴ちゃんを辞めさせたら、それはそれで喧嘩になってたと思うけど。」

私が言うと、蓮は押し黙った。

「とにかく、それで晴人と相川さんの関係は分かった。それで…行方の事だけど…,」

「待って下さい。蓮さんとハルカさんが恋人じゃなかったとしても、まだ疑問が残ります。」

そう、それは私も思ってた。

蓮とハルカが付き合ってたって言うのは、晴ちゃんの誤解だった。

キスが事故だったのも、蓮の話しぶりから信じてもいいと思う。

だけど…。

「『蓮は遥の事がずっと好きで、2人は両思いで…遥が帰って来たら一緒に暮らすんだって。』晴人君はそう言ってました。蓮さんの大学に会いに行って、追い返された日に知ったそうです。」

桃は立ち上がって涙声で続ける。

「ハルカさんとは何も無いって言うなら、どうして晴人君に冷たくしたんですか…!晴人君がどれだけ傷ついたか…!私達に話してくれた時だって、あんなに辛そうで…懸命に泣くのを我慢して…!」

その時、一瞬蓮の表情が歪んだ。

涙を拭う桃も、それを宥める中野も気付いてないけど、私は確かに見た。

その、痛みを堪えるような泣きそうな表情を。

整いすぎて怖いくらいの冷たい美貌に一瞬垣間見えたそれは、酷く人間的で。

きっとこの顔は、晴ちゃんの為だけのもの。

晴ちゃんを傷付けたのは蓮なのに、その蓮自身がこんなに苦しそうなのはどうして?

「ねぇ、蓮。」

大きく息を吸い込むと、蓮と向き合う。

「私達も全部を知ってる訳じゃないけど、聞いた事は全部話す。だから、蓮も全部話して。」

ハルカとの事だけじゃなくて、その後の事も全て。

「晴ちゃんにした事を考えると、悪いけどまだ蓮を信じられない。この状態で居場所の話しはできないわ。」

机の上の蓮の拳にグッと力が篭った。

「それに、晴ちゃんにも状況をちゃんと整理してきちんと説明しないと。」

「それは、助けた後でいい。」

「晴ちゃんは、今いる場所をくれた相手を信用してるみたいだった。」

強く握り締められた手がピクリと動く。

「もしソイツが蓮の言うように晴ちゃんをどうにかしようとしてるなら、やり方を間違えたら…。」

何も知らない晴ちゃんが抵抗したり、相手を庇ったりしたら?それを利用されたとしたら?

「心身共に傷付くのは…」

射抜くような強い視線に、その先は言えなかった。

例え可能性の話しだとしても、それを言葉にするのを許さないみたいな強さ。

やっぱり、蓮もそれは分かってるんだーー。

そうよね、私にだって予想できるんだから、蓮が思い至らない訳ない。

それでも強行しようとしてるのは、間違いなく焦ってるからだ。

あの蓮が、冷静な判断ができない程にーー。


ふいに、高校時代の事件が思い起こされる。

晴ちゃんを庇った蓮は『情報収集』の為に、態と鬼丸に捕まった。

そして『自主停学』になるべく周りを操り、事件の裏側を調べて。

私の過去を橋本先輩が『偶然』知るように情報を流して、私を糾弾するように仕向けて。

自ら誂えたその場で、証拠を基に全員を一掃した。

鬼丸も、橋本先輩も、教頭も、そして私も。

晴ちゃんに害を成したりそれを助長した全員が、間接的に蓮によって断罪された。

私はこの事件を思い出すと、背筋が寒くなる。

だって、私が先走った所為で晴ちゃんが危機一髪だったのを除けば、全てが蓮の筋書き通り。

しかも、裏での暗躍を晴ちゃんに悟らせる事なく全てをやり終えた。


一体この人には、何手先が見えてるんだろうーー。




そんな蓮が今、冷静さを欠く程焦ってる。

晴ちゃんの身が危険だって言葉を、私はまだ信じきれないけど…もしもそれが真実で、背景にいるのがそれ程までに手強い相手なんだとしたらーー。

「何を聞いても他言しないし、何かあっても自己責任だって誓うわ。」

当て嵌まるのはきっと、蓮が言ってた『やっかいな親戚』の事。

そう思うのは、私も嫌な思いをした経験があるから。

ママが離婚して『月島』に戻ってから、もう他人でしょってレベルの遠い遠い遠い『親戚』を名乗る奴等が訪ねて来た。

『月島家復興の為にも、ぜひ息子と婚姻を』なんて言われた時には、時代錯誤すぎて愕然として。

だけど、現実にそんな世界はまだ存在する事を思い知った。

だから、蓮が濁したそれが怪しいと直感したの。


皆まで言わずとも通じたのか、溜息と共に蓮が拳を開く。

血が滲むそれを見て桃が慌てて絆創膏を探してるけど、蓮はそれを制した。

「いい、時間が勿体ねぇ。」

「切藤、2人には覚悟があると思う。それに…晴人の時とは状況が違うんじゃないか。」

中野の言葉に、蓮は天を仰いだ。

「…分かった。お前ら、何があっても文句言うなよ。」

頷く私と桃を一瞥すると、蓮の視線は中野に戻る。

「そろそろか?」

「時間的には…。」

そう返した中野がスマホを起動させた。

リアルタイムのニュース番組が映されたそれに困惑する。

何?どう言う事?

「蓮…」「黙ってろ。」

伝えられてるのは、有名な政治家の汚職事件。

…これが一体何?と口を開こうとした時だった。


『逮捕です!逮捕されました!』


興奮した声がして、画面がスタジオから現地レポーターに切り替わる。


『たった今、国会議員の霊泉丈一郎氏とその息子、霊泉慎一郎氏が逮捕されました!!!』




この人…息子は知らないけど、父親の方は超有名な政治家じゃない。

派閥のリーダーで、政界の重鎮。

え、まさか…



「これが、。」



らしくない言い方に声の方を仰ぎ見て、ハッと息を呑む。



酷薄な笑みを浮かべるその瞳の奥に、見えてしまったから。




黒い炎を揺らめかせた、強い憎悪がーー。






●●●
捕まった…。
解決編『7』の最後の方で晴人がチラ見してたニュース、実はコイツらの話しです。(この時はまだ逮捕されてない。)






















ここ数日暖かくて春っぽくなってきましたね。
桜が咲く頃…は多分無理だけど、春のうちには完結したい!!頑張ります!!

































































































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