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解決編

13.

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side蓮中学編1話『始まり』~9話『入学』辺りの遥視点になります。
先に上記を読んでいただくと分かりやすいかと!
(今回は霊泉家には触れてないので6、7話は読み飛ばしても大丈夫です。)

●●●


(side遥)



私には幼馴染がいる。


「はるか!」

陽だまりみたいな笑顔の、可愛い可愛い晴。

ずっと見守ると心に決めた、大切な




「遥。」

低い声と、落ち着いた眼差し。

晴に対する想いとは全く別の、焦がれるような切なさと苦しさで私の心を掻き乱す相手。


いつから、こんな想いを抱くようになったんだろうーー。







私が産まれたのは、都心へのアクセス良好なとある住宅街にある産婦人科。

ママ曰く『完全個室だし、お食事もエステも満足だしずっと入院していたかったわ。』との事。

そんな快適な場所で出会ったのが、私と蓮と晴のママ達だった。

あっと言う間に意気投合した3人は『子供は3家族で育てよう』なんて約束したんですって。

勝手に決めちゃって、パパ達はどう思ったのかしら…。

どの家も絶対的に奥さん優先だから、文句は出なかったらしいけど。

まぁでも、結果的にそれは素晴らしい判断だったと思う。

海外出張が多い私のパパはママを1人にしなくてすむし、晴のママは復帰を熱望される職場に早めに戻れるし、超多忙な切藤夫婦は仕事に時間を裂けるし。

それは私達子供にとっても、寂しさとは無縁のいい環境だった。

生まれた順は蓮、私、晴。

私と蓮は成長が早くて、かなり幼い頃から大人同士の会話の内容すら理解できる子供だった。

対して、晴はおっとりのんびりした無邪気さで。

この頃の晴は、そりゃあもう天使の如く可愛くて。

真っ白な肌にふくふくのほっぺ、フワフワの髪にクリクリの瞳(しかも色はブルーグレー!)

小柄なのもあって、10人中10人が女の子と間違える程。

蓮はやたら整った顔面と周りより頭一つ高い身長で目を引く外見。

因みに私は『ぜひうちの事務所に!』なんて子役にスカウトされる見た目。

後で聞いた話しなんだけど、親達は常に盗撮との戦いだったみたい。

外出せず家でのイベントが多かったのはそのせいで、毎年恒例の自宅でのクリスマスパーティーも始まりはそこだったんですって。


そんな私達はいつも一緒にいたけど、性格は全然違った。

蓮はド塩、晴はあま~い蜂蜜。

ザックリすぎるけど、これで大体分かると思うの。

私の両親と切藤夫婦が晴にメロメロなのも納得ってものよね。

因みに私はとにかく誰かの面倒を見たい性格で、
ここぞとはがりに泣き虫の晴の世話を焼いてた。

その結果、何をするにも『はるかといっちょがいいの!』なんて、私の服の袖をキュッと握るような甘えた天使の出来上がり。



その一方で気に食わなかったのが蓮だ。

私なんか存在してないかのような態度、話しかけても完全に無視。

喋れないんじゃなくて、んだと知った時にはぶちのめしてやりたくなった。

尤も、蓮のそんな態度は私に限った事じゃなくて全員に対してそうだった。

ただ1人、晴を除いて。

…と言っても、何となく気にしてるかな?程度の反応ではあったけど。

それでも、蓮の目には晴だけが見えてた。

今思えばこの時点で激重執着の片鱗が見えてた訳なんだけど…流石に気付けなかったのよね。

こっちだって幼児だったし。

まぁとにかく、そんな問題ありまくりの蓮はフランスに行ってから少し変わった。

発語しない息子を心配した陽子さんが、カウンセラーである晴のお爺ちゃんを訪ねて渡仏したんだけど、晴も一緒に行ったらしい。

らしいって言うのは、私は留守番だったから。

丁度パパが長期の出張から帰って来るタイミングと被っちゃったのよね。

それで、帰国した蓮は晴を目で追うようになってた。

私が晴を撫でてたりすると、ジッと見つめてくる。

大人達は気付いてなかったけど、私には分かった。

ーーコイツ、晴の関心を引きたいんだわ。

その読みはどうやら大当たりで、喋るようになったのを皮切りに、蓮は晴にチョッカイをかけるようになった。

その度に泣かされる晴は、誰かにくっつく。

それが気に入らない蓮がまた晴を…って言う負のループ終わらせてくれたのは、翔君だった。

自分に懐く晴を可愛いがっていた翔君が機転を効かせてくれて、蓮は危機感を抱いたらしい。

ふーん、このままじゃ晴に嫌われるってやっと気付いた訳?

その無駄に優秀な頭でちょっと考えれば、分かりそうなもんなのに?

3歳頃からの記憶がハッキリある私は、蓮に対してそんな風に辛辣な感情を持ってたのを覚えてる。

その日を境に、蓮は晴に対して慎重に接するようになった。

幼稚園にまでくっついて来たのは流石に予想外だったけど。

園児には混ざらず、園長室に籠って読書って…嫌な子供だわ。

そこまでして幼稚園に来てたのは、すぐ泣く晴の元へ駆け付ける為だった。

…まぁね、改心したのは認めるけど。

でもこう言うのってほら、日々の積み重ねじゃない?

その証拠に、晴の信頼を勝ち得てるのは蓮じゃなくて私だった。

私は晴に意地悪なんてした事ないし。

お遊戯会の劇で主役をやった時は『はるか、すごい!かっこいい!』なんて抱きついて来てくれたし。

蓮が魔王みたいなオーラ出してたけど、それが何?

アンタがくだらないとか言って参加しなかったんじゃない。

超!優越感!

そうやって事あるごとに火花を散らす私と蓮に、晴だけが気付いてなかった。




小学生になってもその関係は変わらなかった。

蓮は私が私立に行くと思ってたみたいだけど、それは中学からの話し。

どっちが晴の関心を引けるかで、私達は常に争ってた。

テストの点数(どっちも満点しか取った事ないから勝敗は付かず)から、ドッヂボール(決着が付かなくて先生が強制終了)から、何もかもを競い合って。

『なるほど…同担拒否なのね…』なんて遠い目をする担任の先生には本当に申し訳なかったと思う。


そんなある日、晴が学校に行くのを嫌がるようになってしまった。

心配で萱島家に行くと、そこには既に蓮がいて。

泣き疲れて眠る晴にそっと触れるその指先は、まるで宝物に触るみたいで。

辛そうに歪む唇と、切なさを宿した瞳。

晴を見つめるその表情にドキリとして、後ろから見ていた私は何も言わずにその場を離れた。


そっか…晴に対する私と蓮の『好き』は違うんだ。


幼い頃から晴だけの関心を引こうとしていた蓮。

『弟』の1番になりたい私とは違う、その想い。

私はその意味を知ってる。

胸がきゅうっと苦しくて、泣きたくなるような優しいその感情。

蓮は、晴に恋をしてるんだ…。



その後、晴を追い詰めたのは高学年の生徒だと判明した。

報復の為に手を組んだ蓮を良く観察して分かったのは、晴に関してだけ激重男だって事。

それから…晴を恋愛的に好きだって自覚が全く無い事。

「蓮のは弟の好きと違うでしょ!…え?もしかして気付いてないの?」

主犯を叩き潰した後、会話の流れで思わず言ってしまった私に、蓮は本気で『訳分かんない』って顔をしてた。

はぁ~、ほんと男ってお子様よね。

でも、今はそれでいいのかも。

初恋すらまだの晴には、蓮の気持ちが理解できるとは思えない。

呆れるのと同時に、蓮がそれに気付いた時どう変わるのか少し怖くもあった。



恐れてたその時は、案外早くやってきた。

小3になった私達は、習い事を始める事になって。

って言っても、私は既にバレエ教室に通ってたし、ママ(元プロ)にピアノを習ったりはしてたけど。

蓮と晴は初めてで、それは各々の事情による。

蓮は何事にも興味が薄いし、ためしにやってみた事でも一発でできるようになっちゃうから、習う必要性が無い。

自宅に各方面の有識者(拓也さんの知り合い)を招いて講義を受ける事はあるみたいだけど。

いやいや、どんな子供よ。


そして晴は…上級生に絡まれた一件から、歳上に対してかなりの人見知りになってしまった。

綺麗なブルーグレーの髪を、前髪で隠すようになって。

晴の可愛い所がコンプレックスになってしまった事に、皆んなして大打撃を受けた。

1番落ち着いてたのが憲人さんだったのは、本当に良かったと思う。

晴のお爺ちゃんに連絡を取って、無理矢理克服させようとするのは逆効果ってアドバイスを貰えたから。

だから、見た目の件はひとまず置いといて、歳上の子供と自然に触れ合う機会だけを作る方針になって。

三家による会議の結果、複数人で同じ事をする習い事がいいんじゃないかって結論に至ったのよね。

1人じゃ心配すぎるって主張し続ける我が家のパパママと、切藤夫婦によって私と蓮にもその話しが回って来た。

過保護…とも言えるけど、晴は三家のプリンセスだから。

あと、既にその頃には私も蓮も、親の手を殆ど必要としなくなってたせいもある。

たった9年でほぼ終わってしまった子育てに、親達の『子供を愛でたい欲求』が晴に向いたのは仕方ないと思う。

そんな訳で、3人で習い事の体験教室に行ったんだけど…私はそこで、英会話の面白さに目覚めちゃったのよね。

これはこれとして、掛け持ちで2人と同じのも習おうと思ってたらいつの間にかサッカークラブに決まってて。

女子は別の曜日だから、入った所で一緒に通う事はできなくて諦めた。

何度か試合を見に行ったけど、晴が楽しそうにしてるのを見てホッとして。

一方で、直ぐに上級クラスになった蓮に対してはやっかみがあるみたいだった。

当の本人は微塵も気にして無かったけど、私はなんだか嫌な予感がして。

暫くするとそれは現実になって、晴が手を縫う程の怪我を負わされた。

急いで駆け付けると晴は案外ケロッとしていて、反対に蓮の方が青褪めてて。

詳しく聞いた話しでは、蓮のユニフォームに嫌がらせをしようとしたグループを晴が止めたらしい。

トラウマがある複数の上級生を相手に、相当怖かったと思う。

晴に傷を負わせてしまった蓮は激しい後悔に苛まれてるみたいだった。

だけど、晴は自分の大切な相手の為なら立ち向かえる子だし、そんな晴だから蓮は好きなんだと思う。

白い肌に残った縫い痕が塞がる頃には、蓮にも変化が見て取れた。

言葉遣いも態度も、『上に立つ者』のそれ。

元々あった資質を存分に発揮して、絶対的な存在となる事で周りから晴を護り始めた。

晴を独占するかのように牽制までしたせいで晴には親しい友達ができなくて。

晴がちょっと意識してたらしい可愛い女子は、何があったのか…翌日には蓮に夢中になってた。

このままじゃ囲い込まれて晴の人生がダメになっちゃう…!

だけど、焦る私にはまだ希望があった。

蓮が中学から私立に通い、晴は市立に通うようになる。

私も通う予定の『帝詠学院』は中高一貫校。

6年間物理的に蓮との距離ができれば、晴にも友達ができる筈!

離れるのは寂しいけど、背に腹は変えられないわよね。

そんな風に葛か思ってたのに…晴も帝詠を受験するってどう言う事?

蓮を問い詰めても、「晴が決めた」の一点張り。

一体どんな説得の仕方したのかと、思わずその背中を睨み付けてしまった。

しかも、翔君が家庭教師って言う切藤家の強力なバックアップ付き。

頼みの綱は憲人さんだったけど、元々国際交流に力を入れてる学校を検討してたって言われれば黙るしかなかった。

勿論、私だって晴と一緒の学校がいいに決まってる。

でも、それが晴にとって本当にいい事なのかは自信が無い。

だって既に、自分に親しい友達がいない事を疑問に思わなくんだもの…。





私の葛藤も虚しく12歳の春、私達は3帝詠学院中等部の1年生になった。

晴がめちゃめちゃ頑張ってたのを知ってるのに、素直に喜べなくて複雑…。

だってほら、もう蓮が周りを牽制し始めてる。

「蓮、それやめて。」

目立ちまくりのアンタがそんな事したら、誰も晴に寄って来なくなるじゃない!

苛立つ私に蓮もイライラして火花が散る。

尤も、私の不機嫌の原因は他にもあるんだけど…。


だって酷いじゃない。

ちょっとくらい私に関心持ってよ。

秘めた恋心に気付いてよ。

受験前も晴にベッタリで、今日だって制服姿の晴の写真ばっかり撮りまくって。

私にも「似合う」とは言ってくれたけど、いつだって晴に夢中なんだもの。

不機嫌にくらいなるってもんじゃない。














「…るか、遥!」


ハッとして顔を上げると、心配そうな由奈がこっちを見てる。

あぁ、そっか。

今は由奈の家で蓮からの連絡を待ってる所だったんだっけ。

いなくなってしまった晴が心配で、何か手掛かりが無いか、無意識に記憶を遡ってたみたい。

「あ、そうだ。私、遥に謝らないといけない事があって。」

こんな時にアレなんだけど、と前置きした由奈は申し訳なさそうに続ける。

「ゴールデンウィークに偶然晴ちゃんに会ったんだけど、その時に遥の初恋の相手、バレちゃったかも。」

……え?

本当にごめんと頭を下げる親友を見ながら、思いを巡らせる。










私には幼馴染がいる。

大切な『弟』の晴と、喧嘩ばかりの蓮。



それから、焦がれるような切なさと苦しさで私の心を掻き乱す



今も忘れられない、私の初恋の人。




●●●






























遥の想い人、なんと兄の方でした。笑
幼馴染の定義が「幼少期の記憶を共有できる相手」だとすると、確かに翔も幼馴染。

次回も遥視点になります。

























































































































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