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解決編
12.
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(side中野啓太)
晴人の行方を探して突撃した大谷の話しは驚きの連続だった。
大谷は作家としての観察眼には長けてるみたいだけど、実生活では不器用らしい。
晴人を勝手にモデルにした事で悩んで送ったLAINが『僕はもうダメかもしれません』だなんてな。
そりゃあ、晴人は旅行どころじゃ無くなるだろうに。
それに、高校の時からだけど妙な言い回しが多い。
恋愛的に晴人の事が好きだと聞こえるような言い方をするもんだから、俺は肝を冷やした。
よく聞けば友情で胸を撫で下ろしたが、あの瞬間隣から発せられたドス黒いオーラはトラウマになりそうだ。
とにかく、大谷は『晴人と仲良くなりたいけど不器用故にややこしい事をしてしまったBL作家』だった。
情報量多いな。
念の為調べた奥の部屋やトイレ、風呂にも晴人の痕跡は無し。
姉ちゃんの証言もあるし、これはもう潔白って事でいいんじゃないだろうか。
そんな訳で振り出しに戻りかけた捜索だったが、大谷は手がかりを持っていた。
晴人には『用事』があり、ホテルを出た後そこに向かったらしい。
戸惑う俺達に告げられたのは、とある服飾専門学校の名前。
いや、まどろっこしいな。
何で結論から言わないんだ、意味が分からない。
分からないが…ここに来る前切藤が会ったと言う、大谷の父親の話しを思い出した。
『私の気持ちは君に託そう、ランスロット。』
切藤と南野はこの台詞から、晴人が囚われてると推理したらしいが…息子に問いかけるとアッサリと覆えされた。
「あぁ、それは僕が絢美さんに囚われてるって意味だよ。それにしても息子をアーサー王伝説の王妃に例えるなんて…うちの父は変わってるよね。」
この親(会った事ないけど)にしてこの子あり。
何とも傍迷惑な親子だが、これが素なんだったら仕方ない。
辛抱強く先を待とうとしていると、ふいにガシッと肩を掴まれた。
「行くぞ、中野。」
何かを察したらしく部屋を出ようとする切藤に、慌てホテルマンの上からコートを羽織る。
「説明は後でするから急げ!」
大谷と姉ちゃんへの挨拶もそこそこに、俺は引き摺られるようにしてホテルを後にした。
切藤のバイクに付いて原付を走らせ、20分程度で目的の場所に着いた。
都会のビル郡の中でも目を引く奇抜な建物の門をくぐると、中にはチラホラと学生らしき姿が見える。
皆んな凄い髪の色だな…てか、今って春休みじゃないのか?
その時、ベンチで何やら話していたグループの男子がこっちを見て、あんぐりと口を開けた。
「いや、パリコレじゃん…。」
その声に他の5、6人が一斉に振り返り、面白いように動きを止める。
その視線の先には、我らが魔王様。
多分俺の事なんか見えていないだろう彼等は大騒ぎになった。
「脚長ッッげぇ!オーラヤッベェ!」
「立ってるだけなのにランウェイ見えんだけど!」
「ちょっと、何処の班のモデルよ!プロはNGって規定忘れてるんじゃないの⁉︎」
口々に言う声がさらに周りの関心を引き、何処にいたのやら、どんどん人が集まって来る。
「お、おい切藤…。」
焦って呼びかけるが、当の本人はどこ吹く風。
下々の喧騒になど睫毛の先すら揺らさない魔王様は、ただ泰然とそこに立っている。
これだけ注目されてるのに話しかけて来る奴がいないのは、恐らくそのオーラに気圧されているからだろう。
「な、なあ。ここに晴人がいるのか?」
耐性があるとは言え、ちょっと声を上擦らせながら聞く。
大谷の話しだと晴人は『用事』を済ませる為に出かけたらしいが、それとこの場所の関係性が謎だ。
俺の親友と服飾学校はどうにも結び付かない。
そんな俺の疑問を察したのか口を開きかけた切藤だったが、ふいにその目が鋭くなる。
何だ?と言おうとした時、背後から猛スピードで近付いて来る気配を感じた。
急いで振り返ったのと、何かが地面に叩き付けられる音は、ほぼ同時ーー。
一瞬唖然として、ハッとして足下を見るとそこには…。
マネキン?
首から下だけの、服屋によくあるようなやつ。
名前はちょっと分からないが地面に転がるそれと、
長い脚を片方だけ浮かせた切藤。
凄ぇな体幹…じゃなくて。
その体勢から、切藤がマネキンを蹴ったんだと理解する。
さっき背後から近付いて来た気配はつまり、これを使って切藤を攻撃しようとしたって事か?
「切藤、大丈夫か!…って、えぇ⁉︎」
慌てて隣を見た俺は絶句した。
肩を怒らせて魔王と対峙するのは、ミルクティー色のボブを揺らした彼女だった。
かつて晴人を苦しめて、だけど結局、和解した筈のーー。
相川陽菜。
シンと静まり返った教室に4人、向かい合って座っている。
俺の隣に切藤、机を挟んだその向かい側に相川さんと、その友達。
『と、とにかく移動しましょう!』
怒れる相川さんを必死に止める彼女の提案で、誰もいない教室に移動して来た。
依然として大騒ぎの外野の会話からなんとなくだが、近々ショー形式の発表があって、そのモデルを切藤がやるのでは?と周りが色めきたっていたらしい事を知る。
『あんなんモデルにされたら太刀打ちできない』と言うブーイングは、相川さんが否定した事で落ち着いたけど。
「えっ…と、お二人はどうしてここに?」
木村さんと言うらしい相川さんの友達が、おずおずと話し出した。
バチバチと音がしそうな程に睨み合う人間を前にして勇気を出してくれた彼女に敬意を表したい。
何とか取っ掛かりを作ってくれた事に感謝して、俺も対話を試みる。
「実は晴人…えっと、俺の友達を探してて…。」
俺の言葉に即座に反応したのは、魔王を射殺そうとしていた筈の相川さんだった。
「やっぱり!!晴ちゃん目当てで来たわけね!」
ますます吊り上がっていく眉。
「誰がアンタに教えるかっての!自業自得でしょ、このクズ!」
そうだ、可愛い顔に似合わず物凄い気が強いんだったこの人。
最後に話した高校の記憶を手繰り寄せる。
あれ、でも和解したとは言え、晴人とこんなに親しかったか?
「テメェこそ自分が何したか忘れてんじゃねぇだろうな?何が『晴ちゃん』だ、馴れ馴れしいんだよクソ女!」
俺と同じ事を(かなり過激に)感じたらしい切藤に、相川さんはフンッと鼻を鳴らした。
「古い話ししてんじゃないわよ。晴ちゃんがそう呼んでいいって言ったんだから。」
これには切藤も俺も目を見開いた。
つまりそれって、卒業してからも交流があったって事か?
「オイ、ふざけんなよ。俺は今後一切晴に近付くなって警告した筈だ。…テメェら二人ともにな?」
低い声で付け足された最後の言葉に、木村さんが青くなる。
何でこんなに当たりが強いのか分からないが、木村さんも晴人と過去に何かあったらしい。
「ご、ごめんなさい…」「いいのよ、桃。こんな野郎の言う事なんて聞く価値ないわ!」
涙目の木村さんと、何処までも強気な相川さん。
「ス、ストップ!!」
今にも彼女の胸ぐらを掴みそうな切藤を、必死で止める。
流石に女子にそれは不味いって!
「とにかく落ち着いてくれ!相川さん、別の高校に編入したんだよね?その後も晴人と連絡取ってたのか?」
俺の問いに、相川さんが少し落ち着いた様子で答える。
「…取ってないわ。バイトが一緒になるまでは。」
「パチこいてんじゃねぇよ、バイト先の人間は晴が入社する時に調査してる。」
即座に否定した切藤に「重ッ!怖ッ!」とドン引きしながらも、相川さんは「なら私は対象外でしょ」とサラリと言う。
「だって私、人手が足りないからって臨時で呼ばれた他店舗からのヘルプだし。」
そこに偶然晴人がいたって事か?
疑いが顔に出てたんだろうか。
溜息を吐いた相川さんが「今日持って来てて良かったわ」と鞄から取り出したのは、ファミレスの制服とネームプレート。
これ、確かに晴人のバイト先と同じ制服だな。
あれ、でもネームプレートが『月島』になってる…。
「親が離婚したのよ。今は月島陽菜。」
そうだったのか。
「てか、感謝してよね!クリスマスに晴ちゃんのバイト代わってあげたの私なんだけど?」
ダンッと机を叩いて切藤に挑戦的な目を向ける相川さん…じゃなくて月島さん。
「あぁ?誰のお陰で有利に離婚できたと思ってんだ?感謝すんのはテメェだろうがよ。」
せせら笑う切藤。
ギリギリと悔しそうに奥歯を噛み締める相川…じゃなくて月島…いや、もう相川さんでいいか。
切藤がどうして相川さんの親の離婚に関係してるのかは謎だけど、取り敢えずそれは置いておこう。
問題は、俺も…切藤ですらも晴人との接点を知らなかったと言う事。
「あのさ、もしかして晴人に口止めしてた?」
口を挟んだ俺に、木村さんがビクリと肩を揺らす。
「…ごめんなさい。」
「何で桃が謝ってんのよ。蓮にバレたら終わりだからって、絶対言わないように晴ちゃんに約束させたのは私。桃は色々あって巻き込まれただけ。」
謝罪する木村さんを突っぱねるように相川さんが言う。
「それより、晴ちゃんを探してる理由は?」
「テメェに教える必要はねぇ。晴の居場所に心当たりがあるかだけ答えろ。」
威圧的な切藤に頭を抱える。
まぁ、高校時代に晴人との仲が拗れた原因である彼女を許せないのは分からないでもないが。
その言い方に相川さんは怒り心頭…とは、以外にもならなかった。
何だか心配そうな顔で木村さんと目を見交わしている。
「居場所に関して、何となくは晴ちゃんから聞いてるんだけど…。」
「は?」
居場所を聞いてる?
勢い込む俺達を、相川さんが慌てて宥める。
「昨日会った時に聞いたんだけど、その後一切連絡取れなくなっちゃって。今日も約束してたのに連絡無いし…ドタキャンなんてらしくないから心配してて…。」
コクコクと頷く木村さん。
「その場所教えろ!」
「お断りよ。」
切藤に詰め寄られて、冷たい声を出す相川さん。
いや、心配してるって言ったのに手がかりを俺達に教えないなんて…おかしくないか?
「アンタ達が探してる事で、晴ちゃんが浮気野郎から逃げてる可能性が出てきたもの。」
勘ぐっていた俺は、切藤を睨め付ける相川さんの台詞にポカンとする。
浮気野郎?
そう言えば、マネキンで殴りかかった時も切藤に対してそう言ってたな。
「惚けても無駄よ!遥の初恋が蓮で、中学の頃付き合ってた事も、ずっと引き摺ってる事も知ってるんだから!」
「そうです!そんな遥さんと晴人君の間で揺れてる蓮さんは誠実じゃないです!恋人の晴人君に内緒で将来の約束までするなんて…浮気以外の何者でもないです!」
援護射撃する木村さんも気弱そうな態度は何処へやら、本気で怒っている。
「は?頭沸いてんのか?」
「へーえ?認めない訳?それならアンタと遥の事、包み隠さず話してみなさいよ!言っとくけど私達が納得しない限り、居場所なんか教えないから!」
言うが早いか、相川さんは自分と木村さんのスマホを引っ掴んで教室のドアを開ける。
廊下で聞き耳を立てていたらしい数人の野次馬の1人にそれを渡すと、彼女は言った。
「コレ持って逃げて。今すぐ!」
渡された男は一瞬呆けた後、「良く分からんけどまかせろ!」とダッシュで走り去った。
「フン、これで無理矢理LAIN見る事もできなくなったわね。晴ちゃんの居場所を知ってるのは私と桃だけ。言っとくけど、納得しない限りボコられたって吐かないわよ。」
燃えるような目で切藤を睨む相川さんと、微かに震えながらも力強く頷く木村さん。
時計の針の音が聞こえる程の重い沈黙。
それを破ったのは、大きく舌打ちした切藤だった。
「クソッ!晴の身が危険で急いでんだよこっちは!」
「それが信用できないのよ!DV夫だって、心配するフリして逃げた妻の居場所聞き出すんだからね!」
だから不用意に居場所を教えてはならない…とは確かに聞いた事あるけど。
「お前らの妄想に付き合ってる暇ねぇんだよ!」
「どこが妄想だってのよ!」
「全部だよ!」
珍しく感情を露わにした切藤はそう言うと、やがて諦めたように溜息を吐いた。
『メンドクセー奴等たらし込みやがってアイツは…』と聞こえたような気がする。
「お前ら思い込み激しすぎだろ…。で?何処から説明すれば納得すんだよ。」
「最初からよ!遥の初恋がアンタで、今も…」「虚言癖でもあんの?」「はぁぁ?」
勢い込んだ相川さんだったが、遮られて不満を露わにする。
そんな彼女に呆れたような目を向けると、切藤は言った。
「まず、そっから違ぇから。」
「え?」
「遥が俺の事好きな訳ねぇだろ。」
「「……え?」」
「遥の好きな奴は俺じゃねぇよ。昔からずっとな。」
●●●
解決編『4』で店長が言ってるヘルプが陽菜の事です。実は『5』で名前(月島)も出てたりします。
陽菜の親の離婚で蓮が手を貸したのは、弁護士の紹介(side蓮高校編33話『知らなくていい事とそれから』)です。
スマホ持って逃げてくれたのは陽菜様のファンで、パリコレ系元カレ(浮気癖有り)がカチコんで来たと聞いて駆け付けました。
猫被るのをやめてから、今までと違ったモテ方してます。笑
晴人の行方を探して突撃した大谷の話しは驚きの連続だった。
大谷は作家としての観察眼には長けてるみたいだけど、実生活では不器用らしい。
晴人を勝手にモデルにした事で悩んで送ったLAINが『僕はもうダメかもしれません』だなんてな。
そりゃあ、晴人は旅行どころじゃ無くなるだろうに。
それに、高校の時からだけど妙な言い回しが多い。
恋愛的に晴人の事が好きだと聞こえるような言い方をするもんだから、俺は肝を冷やした。
よく聞けば友情で胸を撫で下ろしたが、あの瞬間隣から発せられたドス黒いオーラはトラウマになりそうだ。
とにかく、大谷は『晴人と仲良くなりたいけど不器用故にややこしい事をしてしまったBL作家』だった。
情報量多いな。
念の為調べた奥の部屋やトイレ、風呂にも晴人の痕跡は無し。
姉ちゃんの証言もあるし、これはもう潔白って事でいいんじゃないだろうか。
そんな訳で振り出しに戻りかけた捜索だったが、大谷は手がかりを持っていた。
晴人には『用事』があり、ホテルを出た後そこに向かったらしい。
戸惑う俺達に告げられたのは、とある服飾専門学校の名前。
いや、まどろっこしいな。
何で結論から言わないんだ、意味が分からない。
分からないが…ここに来る前切藤が会ったと言う、大谷の父親の話しを思い出した。
『私の気持ちは君に託そう、ランスロット。』
切藤と南野はこの台詞から、晴人が囚われてると推理したらしいが…息子に問いかけるとアッサリと覆えされた。
「あぁ、それは僕が絢美さんに囚われてるって意味だよ。それにしても息子をアーサー王伝説の王妃に例えるなんて…うちの父は変わってるよね。」
この親(会った事ないけど)にしてこの子あり。
何とも傍迷惑な親子だが、これが素なんだったら仕方ない。
辛抱強く先を待とうとしていると、ふいにガシッと肩を掴まれた。
「行くぞ、中野。」
何かを察したらしく部屋を出ようとする切藤に、慌てホテルマンの上からコートを羽織る。
「説明は後でするから急げ!」
大谷と姉ちゃんへの挨拶もそこそこに、俺は引き摺られるようにしてホテルを後にした。
切藤のバイクに付いて原付を走らせ、20分程度で目的の場所に着いた。
都会のビル郡の中でも目を引く奇抜な建物の門をくぐると、中にはチラホラと学生らしき姿が見える。
皆んな凄い髪の色だな…てか、今って春休みじゃないのか?
その時、ベンチで何やら話していたグループの男子がこっちを見て、あんぐりと口を開けた。
「いや、パリコレじゃん…。」
その声に他の5、6人が一斉に振り返り、面白いように動きを止める。
その視線の先には、我らが魔王様。
多分俺の事なんか見えていないだろう彼等は大騒ぎになった。
「脚長ッッげぇ!オーラヤッベェ!」
「立ってるだけなのにランウェイ見えんだけど!」
「ちょっと、何処の班のモデルよ!プロはNGって規定忘れてるんじゃないの⁉︎」
口々に言う声がさらに周りの関心を引き、何処にいたのやら、どんどん人が集まって来る。
「お、おい切藤…。」
焦って呼びかけるが、当の本人はどこ吹く風。
下々の喧騒になど睫毛の先すら揺らさない魔王様は、ただ泰然とそこに立っている。
これだけ注目されてるのに話しかけて来る奴がいないのは、恐らくそのオーラに気圧されているからだろう。
「な、なあ。ここに晴人がいるのか?」
耐性があるとは言え、ちょっと声を上擦らせながら聞く。
大谷の話しだと晴人は『用事』を済ませる為に出かけたらしいが、それとこの場所の関係性が謎だ。
俺の親友と服飾学校はどうにも結び付かない。
そんな俺の疑問を察したのか口を開きかけた切藤だったが、ふいにその目が鋭くなる。
何だ?と言おうとした時、背後から猛スピードで近付いて来る気配を感じた。
急いで振り返ったのと、何かが地面に叩き付けられる音は、ほぼ同時ーー。
一瞬唖然として、ハッとして足下を見るとそこには…。
マネキン?
首から下だけの、服屋によくあるようなやつ。
名前はちょっと分からないが地面に転がるそれと、
長い脚を片方だけ浮かせた切藤。
凄ぇな体幹…じゃなくて。
その体勢から、切藤がマネキンを蹴ったんだと理解する。
さっき背後から近付いて来た気配はつまり、これを使って切藤を攻撃しようとしたって事か?
「切藤、大丈夫か!…って、えぇ⁉︎」
慌てて隣を見た俺は絶句した。
肩を怒らせて魔王と対峙するのは、ミルクティー色のボブを揺らした彼女だった。
かつて晴人を苦しめて、だけど結局、和解した筈のーー。
相川陽菜。
シンと静まり返った教室に4人、向かい合って座っている。
俺の隣に切藤、机を挟んだその向かい側に相川さんと、その友達。
『と、とにかく移動しましょう!』
怒れる相川さんを必死に止める彼女の提案で、誰もいない教室に移動して来た。
依然として大騒ぎの外野の会話からなんとなくだが、近々ショー形式の発表があって、そのモデルを切藤がやるのでは?と周りが色めきたっていたらしい事を知る。
『あんなんモデルにされたら太刀打ちできない』と言うブーイングは、相川さんが否定した事で落ち着いたけど。
「えっ…と、お二人はどうしてここに?」
木村さんと言うらしい相川さんの友達が、おずおずと話し出した。
バチバチと音がしそうな程に睨み合う人間を前にして勇気を出してくれた彼女に敬意を表したい。
何とか取っ掛かりを作ってくれた事に感謝して、俺も対話を試みる。
「実は晴人…えっと、俺の友達を探してて…。」
俺の言葉に即座に反応したのは、魔王を射殺そうとしていた筈の相川さんだった。
「やっぱり!!晴ちゃん目当てで来たわけね!」
ますます吊り上がっていく眉。
「誰がアンタに教えるかっての!自業自得でしょ、このクズ!」
そうだ、可愛い顔に似合わず物凄い気が強いんだったこの人。
最後に話した高校の記憶を手繰り寄せる。
あれ、でも和解したとは言え、晴人とこんなに親しかったか?
「テメェこそ自分が何したか忘れてんじゃねぇだろうな?何が『晴ちゃん』だ、馴れ馴れしいんだよクソ女!」
俺と同じ事を(かなり過激に)感じたらしい切藤に、相川さんはフンッと鼻を鳴らした。
「古い話ししてんじゃないわよ。晴ちゃんがそう呼んでいいって言ったんだから。」
これには切藤も俺も目を見開いた。
つまりそれって、卒業してからも交流があったって事か?
「オイ、ふざけんなよ。俺は今後一切晴に近付くなって警告した筈だ。…テメェら二人ともにな?」
低い声で付け足された最後の言葉に、木村さんが青くなる。
何でこんなに当たりが強いのか分からないが、木村さんも晴人と過去に何かあったらしい。
「ご、ごめんなさい…」「いいのよ、桃。こんな野郎の言う事なんて聞く価値ないわ!」
涙目の木村さんと、何処までも強気な相川さん。
「ス、ストップ!!」
今にも彼女の胸ぐらを掴みそうな切藤を、必死で止める。
流石に女子にそれは不味いって!
「とにかく落ち着いてくれ!相川さん、別の高校に編入したんだよね?その後も晴人と連絡取ってたのか?」
俺の問いに、相川さんが少し落ち着いた様子で答える。
「…取ってないわ。バイトが一緒になるまでは。」
「パチこいてんじゃねぇよ、バイト先の人間は晴が入社する時に調査してる。」
即座に否定した切藤に「重ッ!怖ッ!」とドン引きしながらも、相川さんは「なら私は対象外でしょ」とサラリと言う。
「だって私、人手が足りないからって臨時で呼ばれた他店舗からのヘルプだし。」
そこに偶然晴人がいたって事か?
疑いが顔に出てたんだろうか。
溜息を吐いた相川さんが「今日持って来てて良かったわ」と鞄から取り出したのは、ファミレスの制服とネームプレート。
これ、確かに晴人のバイト先と同じ制服だな。
あれ、でもネームプレートが『月島』になってる…。
「親が離婚したのよ。今は月島陽菜。」
そうだったのか。
「てか、感謝してよね!クリスマスに晴ちゃんのバイト代わってあげたの私なんだけど?」
ダンッと机を叩いて切藤に挑戦的な目を向ける相川さん…じゃなくて月島さん。
「あぁ?誰のお陰で有利に離婚できたと思ってんだ?感謝すんのはテメェだろうがよ。」
せせら笑う切藤。
ギリギリと悔しそうに奥歯を噛み締める相川…じゃなくて月島…いや、もう相川さんでいいか。
切藤がどうして相川さんの親の離婚に関係してるのかは謎だけど、取り敢えずそれは置いておこう。
問題は、俺も…切藤ですらも晴人との接点を知らなかったと言う事。
「あのさ、もしかして晴人に口止めしてた?」
口を挟んだ俺に、木村さんがビクリと肩を揺らす。
「…ごめんなさい。」
「何で桃が謝ってんのよ。蓮にバレたら終わりだからって、絶対言わないように晴ちゃんに約束させたのは私。桃は色々あって巻き込まれただけ。」
謝罪する木村さんを突っぱねるように相川さんが言う。
「それより、晴ちゃんを探してる理由は?」
「テメェに教える必要はねぇ。晴の居場所に心当たりがあるかだけ答えろ。」
威圧的な切藤に頭を抱える。
まぁ、高校時代に晴人との仲が拗れた原因である彼女を許せないのは分からないでもないが。
その言い方に相川さんは怒り心頭…とは、以外にもならなかった。
何だか心配そうな顔で木村さんと目を見交わしている。
「居場所に関して、何となくは晴ちゃんから聞いてるんだけど…。」
「は?」
居場所を聞いてる?
勢い込む俺達を、相川さんが慌てて宥める。
「昨日会った時に聞いたんだけど、その後一切連絡取れなくなっちゃって。今日も約束してたのに連絡無いし…ドタキャンなんてらしくないから心配してて…。」
コクコクと頷く木村さん。
「その場所教えろ!」
「お断りよ。」
切藤に詰め寄られて、冷たい声を出す相川さん。
いや、心配してるって言ったのに手がかりを俺達に教えないなんて…おかしくないか?
「アンタ達が探してる事で、晴ちゃんが浮気野郎から逃げてる可能性が出てきたもの。」
勘ぐっていた俺は、切藤を睨め付ける相川さんの台詞にポカンとする。
浮気野郎?
そう言えば、マネキンで殴りかかった時も切藤に対してそう言ってたな。
「惚けても無駄よ!遥の初恋が蓮で、中学の頃付き合ってた事も、ずっと引き摺ってる事も知ってるんだから!」
「そうです!そんな遥さんと晴人君の間で揺れてる蓮さんは誠実じゃないです!恋人の晴人君に内緒で将来の約束までするなんて…浮気以外の何者でもないです!」
援護射撃する木村さんも気弱そうな態度は何処へやら、本気で怒っている。
「は?頭沸いてんのか?」
「へーえ?認めない訳?それならアンタと遥の事、包み隠さず話してみなさいよ!言っとくけど私達が納得しない限り、居場所なんか教えないから!」
言うが早いか、相川さんは自分と木村さんのスマホを引っ掴んで教室のドアを開ける。
廊下で聞き耳を立てていたらしい数人の野次馬の1人にそれを渡すと、彼女は言った。
「コレ持って逃げて。今すぐ!」
渡された男は一瞬呆けた後、「良く分からんけどまかせろ!」とダッシュで走り去った。
「フン、これで無理矢理LAIN見る事もできなくなったわね。晴ちゃんの居場所を知ってるのは私と桃だけ。言っとくけど、納得しない限りボコられたって吐かないわよ。」
燃えるような目で切藤を睨む相川さんと、微かに震えながらも力強く頷く木村さん。
時計の針の音が聞こえる程の重い沈黙。
それを破ったのは、大きく舌打ちした切藤だった。
「クソッ!晴の身が危険で急いでんだよこっちは!」
「それが信用できないのよ!DV夫だって、心配するフリして逃げた妻の居場所聞き出すんだからね!」
だから不用意に居場所を教えてはならない…とは確かに聞いた事あるけど。
「お前らの妄想に付き合ってる暇ねぇんだよ!」
「どこが妄想だってのよ!」
「全部だよ!」
珍しく感情を露わにした切藤はそう言うと、やがて諦めたように溜息を吐いた。
『メンドクセー奴等たらし込みやがってアイツは…』と聞こえたような気がする。
「お前ら思い込み激しすぎだろ…。で?何処から説明すれば納得すんだよ。」
「最初からよ!遥の初恋がアンタで、今も…」「虚言癖でもあんの?」「はぁぁ?」
勢い込んだ相川さんだったが、遮られて不満を露わにする。
そんな彼女に呆れたような目を向けると、切藤は言った。
「まず、そっから違ぇから。」
「え?」
「遥が俺の事好きな訳ねぇだろ。」
「「……え?」」
「遥の好きな奴は俺じゃねぇよ。昔からずっとな。」
●●●
解決編『4』で店長が言ってるヘルプが陽菜の事です。実は『5』で名前(月島)も出てたりします。
陽菜の親の離婚で蓮が手を貸したのは、弁護士の紹介(side蓮高校編33話『知らなくていい事とそれから』)です。
スマホ持って逃げてくれたのは陽菜様のファンで、パリコレ系元カレ(浮気癖有り)がカチコんで来たと聞いて駆け付けました。
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そんな時にとんでもない事件が起こり・・。
僕の大好きな旦那様は後悔する
小町
BL
バッドエンドです!
攻めのことが大好きな受けと政略結婚だから、と割り切り受けの愛を迷惑と感じる攻めのもだもだと、最終的に受けが死ぬことによって段々と攻めが後悔してくるお話です!拙作ですがよろしくお願いします!!
暗い話にするはずが、コメディぽくなってしまいました、、、。
【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ
月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。
しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。
それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…
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