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高校生編side蓮 

52.予兆

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2人で過ごした春休みはあっと言う間に終わり、大学生活が始まった。

医学部はまあまあの忙しさで、1限からの必修も多い。

サークルや部活の勧誘は全てスルーした。

在学中に縦のつながりを作る為には部活への参加が望ましいらしいが、俺には関係ない。

切藤総合病院の息子だと知ると、向こうから寄って来るから。

『医者の子供は医者が多い』何て言うがそれは本当で、親父の関係者の子供もゴロゴロいる。

「切藤蓮君だよね。俺の兄貴、君のお兄さんの後輩なんだ。」

移動や昼食を共にするようになった数人の中には、そんな奴もいたりする。

バイトは家庭教師が人気で、ブランド力のあるこの大学は時給もいい。

が、金の工面にあくせくしてるような奴は周りには見当たらなかった。

6年間の学費が3000万円近くなるこの大学の医学部を選択できる辺り、大抵の親は裕福だ。

特に幼稚舎から通う生粋の内部生には、俺の実家と同じレベルの金持ちなんて珍しくもなかった。


で、何が言いたいかと言うと、だ。

『医学部の男狙い』の他学部の女がウザイ。

それはもう、本気で。

昨日なんかは『ミスキャンパス』やら『〇〇TVアナウンサー内定』やら『高学歴現役大学生モデル』やらがひっきりなしに現れて辟易した。

「蓮、凄いな!まぁ医学部で国宝級イケメンとか女子が放っておかないか。」

翔の後輩の弟、大介の言葉にもウンザリする。

「いらねぇんだよ…俺付き合ってる人いるし。」

「マジ!?」

色々突っ込んで聞いてきたが、それ以上は詳しく話さなかった。

晴の事を大学で話すつもりはない。

何故なら…

「蓮!」

どんな人混みでも絶対に聞き間違わない声に振り返る。

アッシュブラウンの髪をフワリと靡かせた晴が、穏やかな陽射しの中をこっちへ駆けて来た。

図書館やら学食を一般解放しているこの大学では、一部の区画なら誰でも入って来れる。

だから、晴の方が終わりが早い時はこうやって迎えに来てくれたりして。

思わず抱き締めたくなるのを堪えて、頭を撫でるだけに留めた。

俺が晴の事を恋人だと明かさないのは、こうやって来てくれる晴に嫌な思いをさせない為だ。

自意識過剰な女共が、晴に嫌がらせをしたりするのを防ぐ為。

一緒に住んでいる事もできるだけ隠すつもりだが、もしバレたら『幼馴染とルームシェアしてる』で通そうと思っている。

まぁ、反対に俺が晴の大学に行く時はめちゃめちゃ牽制してるけど。

「早く映画行こ!」

今日の迎えの目的である映画デートにはしゃぐ姿に笑みが溢れる。

本音を言えば、今すぐ連れ帰って抱きたい。

でも、昨日も一昨日も散々鳴かせたしな…。

今日は我慢しようと心に決めて、楽しそうな後ろ姿を追った。




遥から驚きの連絡が来たのは、それから数日後だった。

『アメリカで医師免許取る事にした!』

メールで表明されたその決意に、俺は黙って画面を見つめる。

俺と晴が進学先を決めた少し後、遥からアメリカの大学に行く事にした旨の報告は受けていた。

それが、医者になる為だったって事か?

翻訳家になりたいから留学していた遥が?

将来の目標が変わる事なんて良くあるし、遥には医者を目指すだけの能力もある。

問題は、その理由だ。


ーーいや、流石にないよな。


遥は色恋を理由に自分の将来を決めるような性格ではない。

それに…あの告白からもう何年も経ってる。

純粋に希望が変わっただけだろうと自分を納得させて『頑張れよ』と返信した。

晴にも伝えようかと思ったが、もう暫く日本に帰って来ない事には変わらないしいいかと思っていた。

『どうして医学部にしたのか』なんて聞かれたら、返答に困ると言う後ろめたさもあって。



その判断が、この後起きる事件の始まりになるなんて少しも気付かずにーー。







それからまた日が少し経ち、明日からGWに入ると言う日の事。

急に入った予定を終えて帰宅すると、玄関には晴の靴が並んでいた。

「あ、やっぱ晴のが早かったか。」

「うん。漫画探してて勝手に部屋入っちゃった、ごめん。」

漫画を手に俺の部屋から出てきた晴の頭を撫でる。

「実はさ、駅で偶然伊藤に会ったんだ!お土産貰ったから、蓮にも一つあげる!」

背を向けてリビングに向かう晴に覚えた一瞬の違和感。

普段の俺だったら気付いた筈のそれを見落としたのは、俺が動揺していたからだろう。

長期連休で帰省して来たらしい伊藤の話しも、あまり頭には入っていなかった。

適当に理由をつけて自分の部屋に入る。

鞄の位置が少し変わっている事に気付いたが、漫画を取る時にでも落としたんだろうか。

ハッとして鞄の内ポケット部分を探ると、それはきちんと収納されていた。

晴に見られなくて良かった。

安堵の溜息と共に取り出したのは、宝飾ブランドの小さな巾着。

独特なブルーのそれを渡された日の事を思う。

「遥ーーー。」

名前を口に出すとツキリと胸が痛んだ。

巾着ごと握りしめた拳を、仰向いた額にあてる。

自分でも予想外だった。

まさかこんなに、遥に対して心が揺れている事に。

遠くなった距離でもずっと支えてくれたその存在が、自分の中で大きくなっていた事にーー。

「どうすんだよ…。」

ポツリと溢れたのは、弱々しい呟きだった。





それでも何とか気持ちを切り替えて、極めていつも通りに過ごしていた。


『そのマンションにいたら金銭感覚おかしくなるから!バイトして労働の大変さを知っておきなさい!』と言う母親美香さんとの約束で、バイトを始めようとする晴。

居酒屋は絶対ダメだとか、22時以降は働くなとか言いまくってウザがられる俺。

みたいな構図で揉めつつも、晴は週に3回、ファミレスでバイトする事になった。

俺はと言うと、高校時代のカフェを辞めてからは株やら資産運用で利益を出していた。

家にいて儲けが出るから、課題も家事もしやすい。

ただ、次第に晴は夕食をバイト先で食べて来る事が多くなった。

人手が足りないらしく、勤務時間も延びて。

一緒にいる時間が減ったのは不満だが、バイトは同棲前に美香さんが出した条件なので仕方ない。


時折頭を過ぎる遥の事は、敢えて考えないようにしていた。

まだ時間はあると、自分に言い聞かせてーー。















それから約1年後の今。

中途半端にしていたツケが巡り巡って、最悪の形で回って来たのは自業自得だろう。

苦い思いで、朝焼けに染まる街をバイクで疾走する。

念の為、回り道や車が入れないような路地を使ったが、早朝なせいか目的地までそう時間はかからなかった。

前方の歩道に手を挙げる人影が見えてバイクを停車させる。

「おはよ。」

挨拶して来た相手の為にヘルメットを取り出して…一瞬躊躇う。

『何があろうと晴以外を乗せる事は一生ない』

初めて買ったバイクに晴を乗せた時の誓いが胸を過ぎる。

このヘルメットも、後部座席も…ただ1人の為だけにーー。

「何?」

動きを止めた俺を不思議そうに見る相手に「別に」と返した。

渡されたヘルメットを装着すると、躊躇いなく後ろに乗って俺の腰に腕を回す。

ーー体温が、違う。

咄嗟に感じた違和感に、きつく目を閉じた。


馬鹿か、俺は。


深く息を吐いて前を見据える。

「出すぞ。」

そう告げて、あの頃とは違う新しいバイクを発進させた。



が、後部座席でふわりと舞った。






●●●
side晴人112話辺りの話しです。
バイクの件はside蓮36話辺りで言ってますのでよろしければ。。




side蓮、これにて完結となります!
長くなりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!!


そして次からは解決編へ入って参ります!
大変お待たせしてすみませんm(__)m


晴はどこへ行ったのか。

蓮の気持ちの行く先は?

遥の思惑とは?

え、あの人が??


的な内容になりますのでぜひお楽しみ下さい!笑


 

お気に入り登録、感想、しおりありがとうございます。

めちゃめちゃパワーをいただいております!!


それではもう暫し、『桜の記憶』にお付き合いの程よろしくお願いいたします♡




































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