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中学生編side蓮

6.血族

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事件から数ヶ月。

本人はあまり気にしてない様子だが、俺は晴の白い肌に残る傷痕を撫でるのが癖になった。


もう二度とあんな事にならないようにーーそのためには、もっと力を持たなければ。

どうしたって目立つならば、周りが恐れるような存在になればいい。

遥と言い争う時のような口の悪さを、全面に発揮し出したのはこの頃。

人目を引く顔面と高い身長、さらに頭脳と運動神経を兼ね備えた俺は、思惑通り学校中から恐れられるようになる。

その一方で、晴には優しく接した。

普段の生活は勿論、運動会のリレーで転び、責任を感じる晴を助ける為につい本気を出したりもして。

『ありがとう、蓮。』

涙目でギュッと抱きついてくるのが可愛くて、ニヤけそうになる。

気持ちを自覚してから、晴が愛おしくて仕方なかった。





「蓮様。お迎えに参りました。」

黒塗りのベンツから降りたスーツの男が俺の前に現れたのはそんな時だった。

サッカーの帰り道、上級者チームのみの練習で晴はいない。

陽子が迎えに来ようとしていたが、大した距離じゃないし昼だからと、俺は歩いて帰る事にしていた。

そんな、数少ない一人の機会を狙ったかのように現れた男が言う。

「貴方様のお祖父様が車内でお待ちです。」

いや、怪しすぎるだろ。




『蓮のじいちゃんとグランマは何処にいるの?』

『え、知らん。』

ある日、晴に聞かれて初めて意識した祖父母の存在。

一度も会った事がないのは、既に死んでるか両親と折り合いが悪いか…まぁ興味ないけど。

そう思って答えたが、『じいちゃん大好き』な晴には衝撃だったようだ。

『じゃあ蓮も俺のじいちゃんの孫になればいいよ!』

いやそれは無理…と思ったが、ハタと気付く。

晴の祖父が俺にとっても祖父になる…それは、婚姻で親族が増える事に似ている気がした。

晴と結婚…最高じゃん。

勿論日本では同性婚はできないと知っていたが、俺は気を良くして頷いた。

それ以来、テレビ電話で晴の祖父と交流するようになった。

幼い頃に会った時は興味が無くて気付かなかったが、晴と雰囲気が良く似た彼は俺にとって居心地のいい存在で。

晴を真似て『じいちゃん』と呼ぶと嬉しそうだったし、グランマも一緒になって俺を孫のように扱ってくれた。


だから、実の祖父の存在なんかどうでも良かったんだがーーー。




「父親から何も聞かされてないんだろう。儂から話そう。」

言葉と共に後部座席から現れたのは、恰幅が良く鋭い目をした着物の老人。

てか、コイツTVで良く見る大物政治家じゃん。

「つまり、俺は為政者の孫って事か?」

「飲み込みが早い。流石は霊泉れいぜい家の血を引く者だ。」

老人ーーー霊泉丈一郎れいぜいじょういちろうがニヤリと嗤った。









「ま、待て!蓮!それで、何を言われたんだ!?」

帰宅後その話をすると、たまたま家にいた父親が目を剥いた。

普段感情を見せない父親のこの反応は珍しい。

「大した事は言われてない。お前は霊泉家に来るべきだとか、養子縁組するとかそんな事。」

一方的にベラベラ捲し立てていた老人を思い出しながら言うと、父親が凍りついた。

「な…!?それは『大した事』だ!」

「普通に断ったけど。」

「……お前が断ってくれて本当に良かった。」

俺なら面倒で『別にいいけど』とでも言いそうだと思ったんだろう。

実際、相手に『全ての権力が手に入る』なんて言われた時は心が動きかけた。


それ程の力があれば、何からでも晴を守れるから。



だけど良く考えたら本末転倒だよな。

「晴に会う時間減るし。」

そう言うと、父親は祈るように組んだ手で目元を押さえた。

「晴ちゃん…!やっぱり我が家の天使だ…!」


『氷の医師』だとか呼ばれてる父親のこの様を世間に公表してやりたい。

晴が絡むとただのデレデレおっさんだ。

「…待て、蓮。晴ちゃんの話しを霊泉の奴にしたのか?」

「する訳ねーじゃん。晴がこれ以上変態オッサンに目ぇ付けられたらどうすんだ。」

「ああ、それは正しい判断だ。『これ以上』っての言うのが気になる所だけど…。」

自覚ねぇのヤベェな。

「じゃあ、何て言って断ったんだ?」

霊泉れいぜい蓮とかダセェから無理って言った。」

そう言った時の相手の呆気にとられた表情を思い出してニヤリとする。


返答する時、俺の頭を過ったのは晴だった。

『うーん…何か、レイゼイレンって呼びにくいね?』

舌噛みそう、と眉間に皺を寄せる脳内の晴に思わず笑いそうになったのはここだけの話。



「晴ならそう言うと思って。」

「…晴ちゃんに、好きな物何でも買ってあげるって言っといて…。」

「は?俺が将来買ってやるからいいし。」

「高い物でも構わない。金ならある。」

「オイ、話し聞けよ!」


そんな不毛な言い争いを遮ったのは、第三の人物の登場だった。

「なんか楽しそうじゃん、俺も入れてよ!」

いつの間にか、制服姿の翔がそこに立っている。

「なんだ、親父に呼ばれたから深刻な話しかと思ったのに。」

言いながら、俺の横にドサリと座る。

すると、父親が居住まいを正した。

「いや、当たりだ。深刻な話になる。」

急に変わった空気に、翔が顔を顰めた。

「マジ?もしかして霊泉の事じゃないよね?」

「そのまさかだーー。」


今日の出来事を父親から事細かに聞いた翔は頭を抱えた。

「マジかぁ、接触早くない?…って言うか晴の存在がグッジョブすぎる…!もう少しでも知らないうちに弟が他人になる所だった…!」

「別に晴の事だけで断った訳じゃないけど。」

「「え?」」

俺の言葉に、ソックリな顔で固まる父と兄を見ながら言う。

「この家に不満とか無いし、陽子が泣くのも嫌だし…オイ、触んな!」

何故か翔に頭を撫でられてその手を叩いた。

「うんうん、そっか。」

何だよその顔は…父親まで同じ顔してるし。

「蓮がそう思ってくれて嬉しい。…それなら尚更、霊泉家には気を付けないといけない。
これから話す事は嘘みたいだが全て真実だ。」


そこからの話は、本当に嘘みたいな話だった。

要約すると、頭のおかしい一族の話。


そしてどうにも不愉快だが、俺はその血を引いているらしいーーー。








霊泉れいぜい家。

それはいにしえから続く一族で、家系図を遡ると平安時代の貴族にぶち当たるらしい。

現代日本で、それ程までに古くから続いた身分を証明できるのは『国の象徴』とされるある一族だけ。

霊泉家が権力争いにも屈せず生き残ったと言う事は、つまりそこと深い関係があることを意味する。


では、何故歴史の資料等に名前が残っていないのか。

それは、彼等が決して表舞台に上がる事が無かったからだ。

霊泉家の者は皆、一様に高い神力を持ち、天つ才を持って時の帝を支えてきた。

時には朝敵の暗殺や、呪詛をも行う一族。

嘘か誠か分からぬその存在を、人々はこう呼んだ。

『闇の一族』とーー。







「ストップ、これってラノベか何か?」

たまりかねて口を挟むと、翔が頷く。

「分かる。俺も初めて聞いた時はそう思った。」

しかし父親の表情から、これが真面目な話だと言うのが伝わって来る。

「まぁ、本当に呪詛やら暗殺やらしてたのかは分からない。証明のしようが無いからな。
私は、霊泉家は非常にIQ値が高い一族だったのではないかと考えている。
例えば、お前達にもあるだろう…会話から、相手の言葉を先読みできる事が。」

確かにそれは俺にも経験がある。

IQの高い人間にはそういった経験が少なからずあるそうだが、父親と兄もそうだったらしい。

「それが度重なれば『心が読める人間』の出来上がりだ。他にも、情報を夢の中で精査してある結論に辿り着き、それが当たれば『予知夢』だ。」

成る程、脳科学の無い時代にそういった能力が『神力』とされたのなら納得がいく。

「まぁ、時代と共に『神力』が衰えて…と言うか『IQが高いだけ』だと周りも分かるようになって、全盛期の力は無くしていった。
それでもまだ中枢には顔が効く。」

現に今日会った『祖父』自身が政治家だもんな。

「霊泉家の人間は、自分達が尊い一族だと思っている。何よりも大事なのは霊泉家の名を守り、この先も永遠に続けていく事。」

そして、と父親は一度言葉を切ってから続けた。

「霊泉家当主、霊泉丈一郎は生物学上の私の父親…つまり、お前達の祖父だ。
奴は霊泉家の後継者をさがしている。」

おいおい、つまりーーー


「俺達もその中に入ってるって事?」

俺の言葉に、父親が苦い顔で頷いた。


●●●
side晴人の16話で回想されている運動会の話です。
霊泉家が接触してきたのはその運動会から数ヶ月後。

(↑●●●のすぐ下の文は皆さまへのお知らせです。一言コメントは下にあります!)



































蓮にとって「晴を助けるのは当たり前」だからこその運動会での行動。
晴にとっては、その優しさを改めて意識するきっかけになった出来事でした。

蓮は過去の自分を褒めてあげたらいいよ。笑




































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