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高校生編side晴人 守る為に闘う事と事件の決着

60.告白(side相川陽菜)

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「文化祭で私がプールに後の話しだけど。」

わざと「落とされた」を強調すると、萱島の眉が申し訳なさそうに下がった。

実際落としたのは桃なのに、自分も悪いみたいな顔して。
どこまでいい子ぶる気なの。

だけどさっき、蓮の為に必死で言い募っていた姿は
いつもの姿と違った。

コイツにこんな一面があった事に驚いたし…蓮の事が本気で好きなんだなとも思った。

私は蓮が傷付くとか、蓮を守るとか考えた事もなかったから。
だってあれだけ完璧なんだから、自分一人で何とでもできるでしょ?

そうやって、私を含めて周りの多くが蓮の心を見て無かったんだと気付く。

そんな蓮にとって、萱島は多分「特別」で…。



ずっと、レベルの高い人間は、同等の人間を選ぶのが当然だと思ってた。

だけど、蓮が選ぶのは自分自身を見てくれる相手。
今私の目の前にいるその相手は、ずっと昔から当然のように蓮自身を見て来たんだろう。


そう言う所が、周りに人を集めるのかもしれない。

蓮は勿論、中野や伊藤、最近では黒崎までコイツを大事にしてる。





あの時だってそう。

ずぶ濡れになった萱島の元には彼等が駆け付けて来た。

濡れたまま、息を殺して隠れる私は酷く惨めだった。
私の周りには誰もいない。

『陽菜ちゃん、私友達ができたの』

桃の声が脳裏に甦る。

アンタは大人しく私の言う事聞いてりゃいいのよ!

そう思うのに、彼女は私に背を向けて出て行った。


学校のアイドルなんて言われてチヤホヤされても、こんな時に私を助けてくれる相手はいない。

友達の手を借りて、楽し気に笑いながらプールを出て行く萱島に憎しみが募る。

「萱島晴人…絶対に許さない!!」

そう、悔し紛れに口にした時だった。

キィ

隠れている用具入れのドアが開いた。
警戒する私の前に現れた人物が言う。

「相川ちゃん、大丈夫?」

よく見ると見覚えのある男子生徒だ。
確か、学年は一つ上だったはず。

「それ、萱島って奴にやられたの?」

「なんでここに…?」

疑問の方が勝って彼に問う。

「仕事で見回りしてたら、何か騒いでるのが見えたんだよ。俺が入って来たのにも気付かなかった?」

あんなシーンを見られた事に羞恥と怒りが湧く。

「覗いてんじゃないわよ!」

いつもの喋り方も忘れて怒りをぶち撒けると、相手は沈黙した。

「…萱島晴人がいなくなればいいの?」

「……え?」

「さっき言ってたじゃん。『許さない』って。
全部、その萱島のせいなんでしょ?」

早く終わりにしたくて、私はおざなりに頷いた。

「そうよ!全部アイツのせい!!いいからもう放っておいてよ!」

「…俺に任せてよ。」

何を?と言いかけて口を噤む。
目の前の男の瞳に仄暗いものが見えた気がした。

コイツ、なんかヤバイかも…。


「ね、ねぇ。タオルか何か持ってない?」

本能的に危険を察知したのか、私は無意識に全く別の話しを振った。

「あぁ、びしょ濡れだもんね。タオルも予備の制服もあるよ。」

ニコッと笑うその目には、もうさっきのゾワリとするような光は見受けられない。

気のせいだったのかしら?

「何で予備の制服まであるの?」

きっとそうだと無理矢理納得して、私は別の疑問を口にする。

「さっき仕事で見回ってたって言わなかったっけ?俺、生徒会だよ。何かあった時のための備品は色々あるから。」

笑顔で話す彼の手引きのお陰で、何とか見た目を取り繕った私は学校を早退した。

濡れた身体は冷え切ってたし、桃から全てを聞いたであろう蓮に捕まったら不味いと思ったから。

次の日は仮病で学校を休んだ。


だから、知らなかったの。

この日剣道部の部室が大変な事になってたなんて。




本当は暫く学校を休みたかったんだけど、父親が許してくれなかったから翌日は渋々登校した。


全校集会の中で、慌ただしく動いてるを見つける。
資料が足りないと何度も体育館から出て行くその姿に、本当に生徒会だったんだなとぼんやり思った。


それから校長の話しがあって、その時初めて小火があった事を知った。

剣道部の部室と聞いて一瞬背筋が凍ったのは、あの時の仄暗い目を思い出したから。

『萱島晴人がいなくなればいいの?』

恐る恐る生徒会の方に目をやると、その言葉を発した本人がこっちを見ていた。

そして、私と目が合った事を認識すると…

ニヤリと、笑った。



弾かれたように視線を逸らして、顔を俯ける。
掌にじっとりと嫌な汗が滲んだ。


もしかして本当にアイツがやったの?

私が、萱島がいなくなるように望んだから?


でも、部室に放火した所でどうなるんだろう。
それで萱島を「いなくなる」ようにする事なんてできないと思うけど…。

まさか、これから何か仕掛ける気なの?




このすぐ後、私の不安は的中する。

『な…なんで…?』

連れて行かれる蓮を見て、思わず声が漏れた。
これは偶々?それとも…
でも、どうして蓮が?



疑問と不安で眠れない夜を過ごした翌日。

つまり今日、私は萱島から事実を聞いた。

蓮は、萱島を庇って謹慎になったんだと。

狙われていたのはやっぱり萱島だったんだーー。



強く問われて、事情を話すか迷った。

だけど、そしたら私も罪に問われるかもしれない。

それに思い過ごしかもしれないし、言わないほうが安全なんじゃないか。

そう思って、手を振り払ったけどーー。


一人になると、萱島の声が甦る。

『蓮を守りたいんだ!』

私にも一つだけある、どうしても守りたいもの。

だから、気に入らない奴なのに、その気持ちが分かってしまう…。



気付いたら、私は走り出していた。

アイツも一限には間に合ってないはず。


少し探すと、中庭のベンチでその姿を見付ける。

そう言えば、初めて話したのもここだったっけ。

ションボリと座るその後ろ姿に、ピリッと胸に何かが走った。

ううん、まさか。
あり得ないから!

その思いを打ち消すように攻撃的に話しかけると、馬鹿みたいに素直な返事が返って来る。

…あぁもう!分かった、認めればいいんでしょ⁉︎

ちょっとは私も罪悪感が湧いてるわよ!!



私は一つ溜息を吐くと、全てを伝えるために話し始めたーー。




●●●
蓮…全然出て来ないな。
あ、この事件トリックとかは全くないので悪しからず。笑
あと数話で解決します!













































































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