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中学生編 side晴人

8.祭りと気付き

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夏休みに入ると蓮から何度かLAINが来たけど、部活だからと断って練習に明け暮れた。
三年の引退は夏の大会後なんだけど、毎日練習に参加してるのは俺と部長の中野だけ。
それまで普通に話したりはしてたけど、必然的に一緒にいる時間が増えていた。

「晴人、今日お祭りあるじゃん。今から行かねぇ?」

練習が終わって防具を片付けている時、中野…改め啓太が話しかけて来た。
つい数ヶ月前まで苗字で呼び合ってたのに、随分距離が近くなったよな。
俺は友達少ないから嬉しいぞ。

「あー、まぁ行ってもいいけど…。」

計画通り、部活だから今年は行けないと遥には伝えてある。
蓮には遥から伝わるだろと思って言ってない。
断った手前、会ったら気まずいけど…まぁ部活が早く終わったから寄ったって言えばいいか。
本当のことだしな。

俺と啓太が連れ立って会場に着くと、そこはかなりの賑わいを見せていた。
地域のお祭りと侮るなかれ。
出店が多く花火も上がるから例年大盛況なのだ。

「あ、たこ焼き食べようぜ!」

俺達がたこ焼きを食べながら歩いていると、途中で結構な数の同級生に会った。
やっぱ皆んな来てるんだな。

「俺ゴミ捨ててくるわー!」

啓太がたこ焼きのパックを捨てに行ってくれる。
いい奴だ。

「あれ?晴?」

耳に馴染んだその声にちょっとドキリとして振り向くと、やっぱり遥だった。
髪をアップにして紺地の浴衣を着た遥は、普段より一層大人っぽくて綺麗だ。
そしてその隣には、蓮。

蓮も、浴衣を着てるーーー。

今までそんなことは無かった。
これは、今日が特別だってことなんだろう。
二人は、デート、なんだもんな…。

「来るなら連絡くれればよかったのに!」

遥はそう言ってくれるけど、俺は一緒に来なくて良かったと心から思った。
黒いかすりの浴衣姿の蓮は、地域のお祭りには場違いなほどカッコイイ。
夏休みの間にまた背が伸びたみたいだ。

蓮の後ろには、キャアキャア騒ぐ女の子たちがいて、多分高校生も混ざってると思う。
でも、誰も声をかけないのは隣に遥がいるから。

美男美女の二人は、間違いなくお似合いだった。

今まで意識してなかったけど、よくもまぁ俺があの2人の間に普通に入れてたなと思う。
俺は特に取り柄もない平凡野郎で…。
明らかに、釣り合ってない。

俺、とてつもなくイタイ奴じゃん。

「どうした?」

蓮の低い声がして、俺の頭に大きな掌が乗る。
見上げた先にある目は優しい。
いつも横暴なオレ様ヤローなのに、俺の機微に一番に気がつくのはいつも蓮だ。
ただ、今日はそれが何故か辛い。

「別に、何でもない。」

なるべく平静を保って言葉を絞り出した時、啓太が戻って来た。

「晴人~お待たせ!あっちでリンゴ飴売ってたから買ってきたぜ!
お、切藤と南野じゃん。オッス!」

明るい声にホッとする。
啓太はリンゴ飴を2本持って笑顔で蓮と遥に挨拶した。

「二人共浴衣似合うな~!芸能人がいるって騒ぎになってたぜ。」

コミュ力高いよなぁ、コイツ。

「啓太、サンキュ。」

「あ、てかあっちに竹田先輩いたんだ!
挨拶しに行こ!」

「うん。…じぁね、遥。蓮も…。」

剣道部OBの竹田先輩は大学生で、良くコーチとして指導しに来てくれる人だ。
それは挨拶しないとな。
そう思って啓太の後を追おうとした時、

「晴。」

気付いた時には、蓮に腕を引き寄せられてた。
俺の手の上からリンゴ飴を掴んだ蓮は、それを自分の口元に運んでーーー

チロリと赤い舌を出してそれを舐めた。

それは妙に色っぽい光景で、周りにいた女子達が声にならない悲鳴を上げる。
その色気を直にくらってしまった俺は固まった。
蓮、お前本当に中学生かーーー?

「もうこれ、俺のな。」

微動だにしなくなった俺に、口角を上げた蓮が言う。

「いいよな、中野?」

打って変わった冷たい声で中野に話しかけてる。

「えっ、や、まぁいいけど。」

「何で許可してんだよ!俺にくれたんだろ⁉︎」

悔しくなった俺は、蓮の手ごとグイッとリンゴ飴を引っ張って、ベロンと舐めてやった。
ついでに先端をカプっと噛む。

「ふふん、俺の食い掛けにしてやったからな!
ざまぁみろ!」

珍しく唖然とする蓮に少し気を良くした俺は、悪役みたいな台詞を残してその場を去る。


「…蓮、ティッシュいる?」

背中の方で遥の声が聞こえた。
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