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中学生編 side晴人

2.変化の音

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「晴、帰るぞ。」

放課後、蓮はいつも部室まで俺を迎えに来る。
丁度、終礼が終わって喋りながら荷物を纏めている所だった。

「蓮、ちょっと待って!中野ー!これあげる!」

俺はポイッと中野にパック入りのジュースを投げた。

「え、何で?」

「ジャージのお礼!ありがとなー!」

また明日と手を振って外に出ると、めちゃめちゃ不機嫌な蓮がいた。

「え、そんな待たせた?ごめんな?」

「…中野ってジャージの奴?」

「そうそう。主将で部長のイイ奴。」

校門を出て、自販機の前を通り過ぎる時だった。

「晴、ジュース奢って。」 

「何でだよ。自分で買えー。」

笑いながら言うと、グッと手を引かれた。
物理的に蓮との距離が近くなって驚く。

「蓮?」

何だかいつもの偉そうな感じじゃなくて、ちょっと拗ねてるみたいに見える。
夕暮れの寂れた公園の脇。
通学路じゃないんだけど近道だから使ってるここは、人通りがあまりない。

「晴…。」

ふいに、蓮の目が真剣味を帯びた。

「蓮、もしかしてーーーめちゃめちゃ練習キツかったの?」

「………は?」

「蓮は疲れるとご機嫌斜めだもんね。いいよ!頑張った蓮くんに俺が奢ってやろう!」

どれにする?とお金を入れながら聞くけど反応がないので勝手に決める。
寂れた場所に相応しいローカルな自販機から苺ミルクとレモンソーダを取り出すと、レモンを蓮の手に押し付けて苺のプルトップを開ける。

うん、美味しい。
視線を感じてそっちを見ると、蓮が俺を見つめていた。

「はぁ~。」

「え、何。こっちが良かった?」

飲みかけの苺ミルクを指差しながら言う。

「でも蓮にはすげぇ甘いと思うよ?」

缶を差し出すと蓮はそれを一口飲んで…

「あっっま…!」

「だから言ったじゃん。ホラ、それ返してレモン飲めよ。」

俺が苺ミルクを回収しようとすると、蓮はレモンソーダを俺に渡して来た。

「こっちでいい。」

どう言う訳か、今日は甘いのでいいらしい。
そして俺の前を歩き出す。
普段甘い物なんて食べないのに、よっぽど疲れてるんだなぁ。

「よしよし、俺からの愛が籠った苺ミルクで存分に癒されるがいい。」

追いかけてその背中をトントン叩きながら言うと、ゴフッと音が聞こえた。
あれ、そんな強く叩いたか?
ごめんごめんと謝って蓮を見ると、顔は見えないけど機嫌は治ったみたいだ。
むしろ上機嫌?なんにしろ良かった。
疲れた時にはやっぱり甘い物だよね。




ーーーそんなのんびりした日常が変わるなんて、この時の俺…いや、俺達は想像すらしていなかった。


翌日、話しがあると学校の中庭に呼び出された俺と蓮は、遥の口から衝撃の言葉を聞くことになる。

「私、高校からカナダに行くの。」


今思えば、遥のこの言葉が俺達の運命を大きく変えることになったんだーーー。
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