上 下
47 / 65
第四章

46 〜何も聞いてないよ!!

しおりを挟む

出かける前に?

──────────────

 


 すぐに【アイの泉】へ向かおうと、ミエルが話を進めようとすると、さっきまでそっぽを向いていた愛子が声を上げた。

「愛、着替えたい!!」

 その言葉に、周りの者は皆動きが止まる。

「だって、おばさんそんな綺麗な格好してるし、青龍に呼ばれたんなら、会うかも知れないんでしょ?」

 愛子の言葉に、皆が愛子の服装を見る。
 確かにいつもの普段着で、例のごとくスカート丈をたくし上げて膝上にしている。
 多分、愛子はスカート丈がどうのと言うより、智美より劣る格好をしている事が着替えたい理由の様だが、ミエルは愛子の言葉に改めて愛子の格好は青龍様の前に出すには、はしたな過ぎると思いミシェルに声を掛けた。

『分かりました、ミシェル着替えをお願いします』
『分かりました』
「えっ!」

 愛子は苦手な侍女頭のミシェルを呼ばれて、少し嫌そうな顔をした。
 ミエルはそんな様子の愛子に白けた目を向ける。
 愛子はメリルに用意させようと思ったのだろうが、メリルでは愛子に言い負かされてしまい、着替えても、はしたない格好のまま華美にするだけだろうと思い、言い負かされないミシェルに頼んだのだ。

 ミエルは呆れ、ため息が出る。
 愛子の先程の態度も皆が揃う前に、カイが結界を張って立て篭もった件でうやむやになっていた、愛子が智美を青神泉に突き飛ばした件を叱っていたのだが、最初は反抗的でどうしようもなく、呆れる程だった。
 そこに、話を聞いたジーサが少し愛子に魔法医局長として、龍泉の危険性の小言を言ったので、すっかりヘソを曲げてしまっていたのだ。

 ミエルは愛子から抗議の言葉が出る前に、話を終わりにする。

『それでは、アイコ様の支度ができ次第、私が【アイの泉】の建物前までご案内致しますので、これにてこの場はひとまず、皆様は解散とさせていただきますが、サトミ様は如何されますが?』
「それではカイ皇子に確認したい事がありますので、ここで少し話させていただければと思うのですが」

 智美はここに来て、やっと色々考えられる余裕が出て来た。
 怒涛の如く物事が進み、自分の気持ちに整理がついていない。この状態のまま【アイの泉】に行きたくはなかった。

『分かりました。
 では私達は、ご遠慮いたしましょう。』

 ミエルはそう言うと、他のものを促して部屋から出て行った。


 二人きりになり、何故か側で立っているカイ皇子を座るように智美が促すと、智美が座る長椅子の先ほどまで愛子が座っていた位置に、智美寄り添うように座った。
 近さに智美は内心焦るが、カイの様子が前と違うので、どうして良いか途惑っている。
 確かに以前からパーソナルスペースが狭いとは思っていたが、それにまして何か甘い雰囲気が醸し出されているのだ。

「あ、あの…私がカイ皇子の泉侶っていうのは、本当なの?」
『ああ、そうだ』
「本当に、本当にそうなの?」
『間違いない、サトミは俺の泉侶だ』

 智美は言われてすぐに、何も考えられない状態にあったので、その時は素直にその言葉を受け取ったが、考えられるようになってくると、だんだん疑問が増え出し猜疑心にかかりだしていた。

 あの時カイは、智美の魔力を引き受けて過ぎて、魔力酔を起こしてしまって、何か勘違いをしてしまったのかと思いだしてしまっていた。

「じゃあ何で、教えてくれなかったの?」
『…言ってなかたか?』
「!何も聞いてないよ!!」

 カイの答えに、普段の落ち着いた様子もかなぐり捨てて、智美は叫んだ。


『そうだったか?
 だがそのピアスを贈ったのだから、わかっているものだと…』
「え、これって、貸してくれただけでしょ?」
『それなら、あの挨拶はしない』

 カイの言葉に智美は疑問符だらけの顔をした。
 そんな様子の智美に、カイはそっと智美の耳にある青魔晶のピアスに触れ、耳朶もそっと擦った。
 軽く触れられて智美はビクッとすると、カイはうっとりとしたように微笑んだ。
 智美は耳に触れられて思い出す、就寝前に部屋に戻る時にされるカイの挨拶を。

(あれって、誰にでもするもんじゃないの?)

 確かに親密な行為では有るとは思っていたが、基準がわからなかった智美は、あれは皆にするものだと思っていた。


『婚約者にしか、しない』

 カイは智美の気持ちを読んだように、言葉を繋げた。

「え、婚約者?」
『あれは離れていても、ピアスを贈った者の夢を見て欲しいという事だ、夫婦なら一緒に寝るからな』

 智美は、カイの説明に唖然とする。

(あれって初日からしてたよね、最初からって事!?)

「だって、貸し出しなんだと思ってたし…」
『そんな事、言った覚えは無いが』

 そう言われて智美は思い出す、愛子の持っている水晶が貸し出しだったから、これもそうだと思ったんだった。

「…私が、泉侶だなんて、言われなきゃわから無いよ…」

 智美は呆然と、呟くように言った。
 その言葉にカイは耳に置いていた手で、智美の頬を触る。

『分からない?』
「分からないよ!
 が、こんなデブの歳上の女なわけないじゃ無い」
『?俺は抱き心地が良いが』

 カイの言葉に、智美はキッと睨む。
 その瞳すら愛おしそうにカイは見て、言ったセリフに智美は素っ頓狂な叫び声を上げることになる。

『それに俺は48だ、サトミは年上じゃ無い』






──────────────
後書き

ただ今、伏線回収中

あ、わざと皇子を王子で表記しています。
んー【白馬に乗った王子様】というテンプレ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

子どもを授かったので、幼馴染から逃げ出すことにしました

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※ムーンライト様にて、日間総合1位、週間総合1位、月間総合2位をいただいた完結作品になります。 ※現在、ムーンライト様では後日談先行投稿、アルファポリス様では各章終了後のsideウィリアム★を先行投稿。 ※最終第37話は、ムーンライト版の最終話とウィリアムとイザベラの選んだ将来が異なります。  伯爵家の嫡男ウィリアムに拾われ、屋敷で使用人として働くイザベラ。互いに惹かれ合う二人だが、ウィリアムに侯爵令嬢アイリーンとの縁談話が上がる。  すれ違ったウィリアムとイザベラ。彼は彼女を無理に手籠めにしてしまう。たった一夜の過ちだったが、ウィリアムの子を妊娠してしまったイザベラ。ちょうどその頃、ウィリアムとアイリーン嬢の婚約が成立してしまう。  我が子を産み育てる決意を固めたイザベラは、ウィリアムには妊娠したことを告げずに伯爵家を出ることにして――。 ※R18に※

【R18】出来損ないの魔女なので殿下の溺愛はお断りしたいのですが!? 気づいたら女子力高めな俺様王子の寵姫の座に収まっていました

深石千尋
恋愛
 バーベナはエアネルス王国の三大公爵グロー家の娘にもかかわらず、生まれながらに魔女としての資質が低く、家族や使用人たちから『出来損ない』と呼ばれ虐げられる毎日を送っていた。  そんな中成人を迎えたある日、王族に匹敵するほどの魔力が覚醒してしまう。  今さらみんなから認められたいと思わないバーベナは、自由な外国暮らしを夢見て能力を隠すことを決意する。  ところが、ひょんなことから立太子を間近に控えたディアルムド王子にその力がバレて―― 「手短に言いましょう。俺の妃になってください」  なんと求婚される事態に発展!! 断っても断ってもディアルムドのアタックは止まらない。  おまけに偉そうな王子様の、なぜか女子力高めなアプローチにバーベナのドキドキも止まらない!?  やむにやまれぬ事情から条件つきで求婚を受け入れるバーベナだが、結婚は形だけにとどまらず――!?  ただの契約妃のつもりでいた、自分に自信のないチートな女の子 × ハナから別れるつもりなんてない、女子力高めな俺様王子 ──────────────────── ○Rシーンには※マークあり ○他サイトでも公開中 ────────────────────

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...