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いざ異世界へ

第11話 魔王 VS 狂戦士

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 丘の上まで土埃と黒煙が立ち込める中、

イノは目を凝らし、周囲の様子を見ている。

一体、どうなったんだ?

妖精の村から民衆の歓声が聞こえる。

ティコアが上空で、魔王を叩き落とすのまでは見えていた。

未だに滞空して、地上を睨みつけながら、微動だにしない。

ゴンタは?

土埃と煙が邪魔をして、ゴンタの位置がつかめない。

「くそっ!」

丘を下り、ゴンタの元にいくしかない。

今、俺に出来ることはそれだけしかない。

イノは最初の一歩を踏み出す。

自分の右側から、突き刺すような気配を感じる。

一筋の汗が額から流れ落ちる。

恐る恐る、気配の方向に視線を流す。

土埃と煙が入り混じる向こう側には

影がゆらりゆらりと徐々にこちらに向かってくる。

今、わかることは、羽根と尻尾を生やした怪物が、

こちらに向かってきてる事だった。

手をかざして集中する、

「イメージしろ」

目の前に見えてる影は、間違いなくドラゴンだ。

この戦場で、尻尾と羽がある生き物は

そいつしかいない。

ゴンタが、確かに殺したはずなのに…

二度と立ち上がれないように、バラバラにするイメージをする。

右手を前に突き出すと、声が流れてくる。

”母の海より来たれ、神々の息吹よ”

”抗う者に戒めを、勇気ある者に栄光を”

”盤石なる礎はただ耐えるのみ”

”目の前に立ちはだかるは……”

魔法陣が展開され、風が暴風となり、

黒煙と土埃を舞い上げる。

ブァッ、クション!

「はっ?」

影は地面に倒れこむ、風が空気を浄化する。

澄みわたる大気より姿を現したのは、

鼻水を垂らしたアホ犬だった。

クシュン!

ズズッ!

「ご主人、ただいま」

鼻水をすすりながら、何事もなかったかのように、

挨拶をするゴンタは、自分で捕えた獲物のドラゴンを

誇らしげに足で抑えていた。

「馬鹿野郎! 心配したんだぞ」

涙を流してしがみつく主人の臭いを嗅ぎ、

ドラゴンの方に視線を移すと、

早く食事を始めたいと思っている犬だった。



 二人のやり取りと裏腹に、

魔王 対 狂戦士の第二幕が切って落とされた。

ティコアにはわかっていた。

魔王はまだ死んでいない、それどころか、まだ戦える余裕がある事を。

「いつまでも寝てんじゃねぇぞ、アバズレ!」

左腕のライフルは、まるでそこに魔王がいるのを知ってるかのように

一寸の狂いも無く、炸裂弾をお見舞いした。

ドドドドドドド!

土埃の中を影が移動する。

「この婆!」

ティコア目掛けて飛んでくる物体こそ、魔王そのものであった。

「婆しか言葉知らないなんて、股しか使えない子は可哀そうでちゅね」

右腕のバルカンが火を噴く、魔王は全ての弾を避けて

ティコアと対峙する。

「一回地面に落としたくらいで、調子こいてじゃねぇぞ!」

「おぃおぃ、ビッチちゃん、息が臭すぎるぞ!

その魚の腐った息だから、虐められるんだろ?」

「うわああああああああああああ!」

大量の魔法陣が、魔王の前に展開される。

「おせええぞ! アバズレ!」

すでにティコアが懐に潜り込んでいた。

垂直に立てたライフルは、魔王の顎を捕えている。

「ひっ!!!」

間髪入れずにライフルを発射するが、魔王も身を翻し直撃を避ける。



 魔王の下顎は吹っ飛び、大量の血を流している。

久々の痛みに悶絶しながらも、体制を立て直そうとする。

振り向くと、ティコアに首を掴まれ、バルカンの掃射を食らいながら、

地面に叩きつけられた。

顔の半分は吹き飛び、口には大きな穴が開いている。

口は徐々に再生を始めるが、マウントを取られた上で

顔面をティコアに殴り続けられる。

「お――い? 反撃しねぇのか? いささか飽きてきたぞ」

魔王の腫れあがった顔から涙がこぼれ落ちる。

「あっ? 何、泣いてるんだよ」

渾身の一撃が魔王の顔を粉砕すると脳髄が飛び散った。

しかし、脳を破壊されても、なおも再生を続ける。

「あぁ、たちのわりぃビッチちゃんだな」



 ティコアが立ちあがって、しばらくすると、魔王の再生は終わっていた。

だが、その顔は完全に少女の顔に戻り、ティコアを怯えた眼差しで見ている。

「なんだ? もうやらねぇのか? ビッチちゃん!」

「はうぇ! もぅ、許してください」

魔王はティコアを恐れるあまり、立ち上がれない、

這いつくばって、

逃げようとする魔王の足に、ライフルから放たれた魔弾が右足を空中へ放り投げる。

「ぎゃあああああああああぁああああ! 痛い、痛いよぅ!」

必要な叫び声を上げるが、無言で第二射を放つ。

左脚は千切れかけ、魔王の意思で動かなくなる。

「ああぁあああぁあぁあ! もう辞めて、辞めてください!

痛い……もぅ、許して、ヒッグヒッグ」

涙を流し、鼻水を垂らしながら、口元に涎が垂れている。

悲痛な叫びを上げながらも、腕のみで戦場から逃げようとする魔王。

魔王の意識とは反対に、再生は容赦なく体を戻そうとする。

ティコアは魔王の頭を押さえつけると、魔王の耳元で囁く、

「あたしはね、別にいいんだよ」

恐る恐る、ティコアの顔を見る。

「人間を殺そうが、魔族を統制しようが、森のエルフどもを蹂躙しようが、

妖精どもを食い殺そうが、獣人どもをペットにしようが……

でもね、その先に、あたしの主人への危害が及ぶなら、

仕えてる身として、お前みたいな売女を駆逐しないといけないだろ?」

聖母のような微笑みを見せた後、魔王の腹は蹴り上げられ、

多弾頭ロケットが炸裂する。

上半身と下半身が泣き別れて、宙を舞っている魔王には

丘の上から、一頭の銀灰の獣が下ってきているのが見えた。
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