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いざ異世界へ

第10話 ティコア 戦います!

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 「イノ、しっかりしてください」

状況を飲み込めないで、漠然と立っている。

無意識に握りしめていた拳は、未だに震えを止めていない。

「イノ、早く私に戦闘許可をください!

このままだとゴンタちゃんが殺されちゃいます!」

「あっ?えっ?戦闘許可?」

ディコアの発言で現実に戻ってくる。

「私はメイドです。主人の命令無き行動は、

メイドとして、了承されません」

「わかった。どうすればいいんだ?」

「私に、『戦闘を許可する』と言ってください」

彼女の言う通り

「戦闘を許可する」

と告げると、

「あの、後こんな時に何ですが、

もし、戦うところを見ても嫌いにならないでください」

彼女が涙を浮かべて懇願する。

「ゴンタを助けてくれるのに、嫌いになるわけないだろ」

「イノ、ありがとうございます!」



 「ゴンタちゃんを助けに行きます!

元天界軍 参丸弐 高機動支援部隊 フルバトルサポートエンジェル始動」

ティコアが叫ぶと、頭の輪っかはバックパックに収納されていった。

背中から生えている翼は折りたたまれ、キラキラ光の粒に変わる。

青みがかったセミロングの髪にメイドの格好、

背中には、小柄な赤いバックパックを背負い、

お世辞にも戦闘で戦果をほこれるとは、到底思えなかった。

光の粒が消えたかと思うと、

頭に付けてるホワイトブリムから金属が伸びてくる。

彼女の上半分の顔をフェイスシールドで覆い、

頭は完全に金属に包まれた。

全身を光が包み込みこみ、肢体を確認出来る時には

部分に金属のプレートらしき物が付いていた。

脚は分厚い装甲のヒールとなり、

足首には、多弾頭ロケットらしきものが付いている。

バックパックはロケットブースターに変わり、

小さな金属の羽が出ている。

背中にはミサイルらしき物が数基乗っかており、

肩にはキャノンらしき物が、片方ずつに一基搭載されている。

左腕にはパイプみたいな物が伸びており、右腕にはバルカンがらしき物が巻き付いていた。



 「おぃ、ティコア、いくら凄い装備でも相手は魔……」

「おい、イノ、お前は自分の飼い犬を心配してな!」

「えっ?」

「後は全部、あたしの獲物だからよ――!」

そう叫び終わると、左腕のパイプをゴンタの方向に突き出す。

「開戦の花火を打ち上げてやるよ!」

パイプ、否、ロングライフルだった。

打ち出された黄色の閃光は、ゴンタを狙ってた先頭集団に当たり炸裂する。

「背中を見せてると死んじゃうぞ(ハート)、ゴミ虫ども!」

叫ぶのと同時にブースタが始動して、高速で丘を下るティコア。

イノはその後姿を見て、引きつった顔で立ち尽くしていた。



 ゴブリンは閃光の軌道を確認して、振り向くとそこには、

微笑むティコアの顔があった。

「良かったね、ゴミ虫ちゃん、死ぬ前に乙女の顔が見れて」

そう言い終わると、右腕のバルカンが火を噴く。

「アハハハハハハ!」

「オラオラ、突っ立てても助からねぇぞカス共!」

赤い閃光が瞬く間に、怪物どもをハチの巣へと変えていく。

一旦は体制を立て直した怪物たちも、再び敗走を始めた。

ゴンタを狙っていた怪物どもは、ゴンタを殺るか、逃げるか迷っている。

「戦場で迷ってんじゃねぇよ!この芋虫が!」

滞空しているティコアの背中から発射された、光の玉は空中で拡散すると

地上を一気に爆撃した。

この光景を目にした、魔王の台座持ちのオーガーたちは魔王を放り投げ、

一目散に山間部へと走り出す。

魔王以外戦う意思を持つ者たちは、すでにこの戦場にいない。

「つまんねぇ!つまんねぇ!つまんねぇ!」

「あぁ、もういいよ、一生ちびってろ豚ども」

そう言い放つと、

「戦術魔法核スタンバイ」

ぼそりと呟くティコア。

「戦術魔法核が発射可能です。衝撃に気をつけてください」

静かに応答する音声が流れた。



 肩のキャノン二基は山間部に狙いをつけ、

巨大な魔法陣を描く。

ティコアは滞空で腕と足を組み、慣れてるようにくつろいでいる。

地上からは羽を生やした魔王が、高速でティコアに近づく。

少しの距離を置いて対峙する二人。

「ちょっと待ってろよ、今、くそビッチちゃ…」

ズドーン!ズドーン!ズドーン!

三連発の戦術魔法核が発射された。

きれいな弧を描き、一発目が命中すると

一直線に残りの弾は、それぞれ着弾し、

一瞬、音が消えた。

光が辺りを照らすと、

ズドドドドドドドドドドオン!

轟音とともにキノコ雲が、三つ出来ていた。

「わりぃ、うちの子たち早漏でね、話してる途中で逝っちゃったみたい」

魔王は相変わらず妖艶な笑みを浮かべて、ティコアを見ている。

「あっ、そうか!腐れビッチちゃんは、豚どものじゃ満足できないほど、

ガバガバだから、このキャノンをぶち込んでバンバン打ち込んでほしいんでしょ?」

魔王の笑みは消え、右手の指は長い爪へと変化していく。

「さっきから、うるせんだよ!この糞婆!」

高速移動した魔王は、右手を振りかぶるが……

ティコアの左膝が脇腹へとめり込んでいる。

「グボォ……」

「接近戦だと勝てると思ってんじゃねぇぞ、ヤ〇マ〇が――!」

すぐに回転して延髄目掛けて、右踵落としが入る。

高速で落下する魔王に足首に着いた、多弾頭ロケットが魔法陣を描いて発射される。

無数に飛び出る光の弾は、魔王の落下地点を容赦なく爆撃していく。



 戦場は静まり返り、煙だけが立ち込めていた。

その様子を見ていた、妖精村の住人たちが一斉に喚起する。

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

「やったぁ! モンスターを追い払った」

「助かったのね!」

喜々として抱き合い、喜びを分かち合う人間たち。

だが、ティコアのロングライフルは魔王の落下地点を狙い続けていた。

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