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箱災の章
支度
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小森が転校してから、二週間ほど過ぎた。
三年生の十月と言えば、
神鳴高校、伝統の修学旅行である。
なぜ、三年生で、しかも修学旅行が、十月なのか、
受験戦争の真っただ中に、リュックをしょって、
観光へと行くのだ。
いったい、こんな非常時な日程を誰が決めたのか。
伝統とは小気味良く聞こえるが、
実社会にそぐわない習わしを、いまだに伝統と言って続けるのは、
本当に、子どもの未来を考えているのだろうか。
良太はそんな事を考えながら、部屋で修学旅行の準備をしていた。
「ふぅ……あらかた片付いたな」
リュックの中に必要なものを入れ終わると、
良太はベッドに寝そべり、体を伸ばした。
「明日から、修学旅行か……」
「くぅ……なれない事をしたせいで、少し疲れたな……」
そうぼやくと、静かに目を瞑り、
明日の予定を考えるはずだった。
だが、最近の睡眠不足のせいで、寝息を立てていた。
ハッと目を覚ました。
珍しく、悪夢も見ないで、久々に眠った感触を得られた。
「今、何時だ?」
電気を付けたまま、寝てしまい、部屋は明るいままだった。
「午前四時か……」
まさか、寝てしまうとは、あまり時間がないし、
さっさと、支度の続きをしないと集合に間に合わなくなる。
今日は、学校のグランドに朝六時に集合しなければいけない。
良太は、急いで支度の続きをする。
寝る前に支度をしといて正解だった。
一時間もかからずに、何とか旅行の準備はできた。
居間に降りると、母親がすでに起きていた。
「おはよう」
「あら、ちゃんと起きられたのね」
「ご飯は、どうするの?」
支度をするのに体を動かしたから、ちょうど空腹になりかけていた。
「もちろん、食べるよ」
「そぉ、じゃぁ、顔を洗ってらっしゃい」
「準備しておくから」
「うん」
良太が洗面所に向かうと、母親は、手早く慣れた手つきで
朝食の準備をしていく。
ご飯を茶碗に盛り、温めておいた、キノコのみそ汁をお椀に注ぐ。
焼きたての鮭をさらに盛り付け、昨日の残り物の肉豆腐を小鉢に添える。
良太が洗面所から戻ってくると、きれいに盛り付けられた朝食が良太を待っていた。
「食事、用意しておいたわよ」
「ありがとう…でも朝から量多くない?」
「あなた高校生で成長中なんだから、栄養はちゃんと取らないとダメよ」
「はいはい」
実際は、いつもより多く食べられた。
睡眠をしっかりと取ったおかげか、母親の作った料理がうまかったのか。
とにかく、良太は出された朝食を、残さずきれいに食べてしまった。
若干、ご飯が足りなかったが、おかわりをしている余裕もなかった。
登校するためのバスは、朝早くから出ていないため、
今日は父親が学校まで送ってくれる。
良太が朝食を食べ終わると、父親が起きてきた。
「おはよう、良太、ちゃんと起きられたのか」
「おはよう」
父親も母親と同じことを言っている。
普段、寝坊するだけあって、
両親からすると早起きをする、良太が珍しかった。
「準備したら車で待ってるけど、それで良い?」
父親に確認すると、
「あぁ、俺もすぐ行くから、車で待っててくれ」
「後、エンジンかけておいてくれよ」
「わかった」
二階からリュックを持ってくると、車のキーを取り、
「じゃぁ行ってきますね」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい」
「お土産、忘れちゃ駄目よ」
「うん、ちゃんと買ってくるよ」
母親に出かけるあいさつをすると、軽い足取りで車へと向かって行った。
「いやぁ、懐かしいなぁ」
父親が運転しながら、自分の高校時代を振り返っている。
「父さんも修学旅行の時は、ウキウキしたもんだよ」
「父さんも神鳴高校だったよね?」
「そうだぞ」
「不思議だったんだけど、修学旅行がこの時期にあるのは何でなの?」
父親は良太の高校のOBだから、ずっと不思議になっていた、
修学旅行が、三年の十月の理由を教えてくれるはずと思い
何気なく、質問してみた。
「あぁ、それはもともと、神鳴高校が神社の跡地に建てられてだな」
「建てられたのも、戦後まもなくで、当時は旅行どころじゃなかったんだよ」
「旅行が始まったのが、建てられて何年だっけかな」
「忘れてしまったけど……旅行の雰囲気じゃなかったというのと……」
「それと?」
「そもそも大学に進学するなんて、今と違って数えるぶっつだったからな」
「あぁ……そういうことか」
「なんで、そんなこと急に聞くんだ」
「いや、ずっと不思議だったからさ」
「そうか、俺は、あまり気にしてなかったけどな」
そんな、やりとりをしている間に高校が見えてきた。
学校の周りは、送り迎えの車で、路上駐車だらけになっていた。
集合場所のグランドに入ると、
一つの異変に気付いた。
旧校舎の周りに工事用の壁ができている。
「えっ……」
良太は慌てて、担任にかけより、確認してみた。
「おはようございます。先生」
「おはよう、そんなに慌ててどうした?何か忘れたか?」
「あっ、いえ……その、旧校舎の周りに壁ができているので……」
「どうしたものかと……」
「あぁ、あれか、修学旅行の間に旧校舎を取り壊すそうだ」
「えっ……」
「うん?どうかしたのか?」
「いや……何でもないです」
今日から、楽しい修学旅行のはずが、
受け入れられない事実を、朝から突き付けられた良太であった。
三年生の十月と言えば、
神鳴高校、伝統の修学旅行である。
なぜ、三年生で、しかも修学旅行が、十月なのか、
受験戦争の真っただ中に、リュックをしょって、
観光へと行くのだ。
いったい、こんな非常時な日程を誰が決めたのか。
伝統とは小気味良く聞こえるが、
実社会にそぐわない習わしを、いまだに伝統と言って続けるのは、
本当に、子どもの未来を考えているのだろうか。
良太はそんな事を考えながら、部屋で修学旅行の準備をしていた。
「ふぅ……あらかた片付いたな」
リュックの中に必要なものを入れ終わると、
良太はベッドに寝そべり、体を伸ばした。
「明日から、修学旅行か……」
「くぅ……なれない事をしたせいで、少し疲れたな……」
そうぼやくと、静かに目を瞑り、
明日の予定を考えるはずだった。
だが、最近の睡眠不足のせいで、寝息を立てていた。
ハッと目を覚ました。
珍しく、悪夢も見ないで、久々に眠った感触を得られた。
「今、何時だ?」
電気を付けたまま、寝てしまい、部屋は明るいままだった。
「午前四時か……」
まさか、寝てしまうとは、あまり時間がないし、
さっさと、支度の続きをしないと集合に間に合わなくなる。
今日は、学校のグランドに朝六時に集合しなければいけない。
良太は、急いで支度の続きをする。
寝る前に支度をしといて正解だった。
一時間もかからずに、何とか旅行の準備はできた。
居間に降りると、母親がすでに起きていた。
「おはよう」
「あら、ちゃんと起きられたのね」
「ご飯は、どうするの?」
支度をするのに体を動かしたから、ちょうど空腹になりかけていた。
「もちろん、食べるよ」
「そぉ、じゃぁ、顔を洗ってらっしゃい」
「準備しておくから」
「うん」
良太が洗面所に向かうと、母親は、手早く慣れた手つきで
朝食の準備をしていく。
ご飯を茶碗に盛り、温めておいた、キノコのみそ汁をお椀に注ぐ。
焼きたての鮭をさらに盛り付け、昨日の残り物の肉豆腐を小鉢に添える。
良太が洗面所から戻ってくると、きれいに盛り付けられた朝食が良太を待っていた。
「食事、用意しておいたわよ」
「ありがとう…でも朝から量多くない?」
「あなた高校生で成長中なんだから、栄養はちゃんと取らないとダメよ」
「はいはい」
実際は、いつもより多く食べられた。
睡眠をしっかりと取ったおかげか、母親の作った料理がうまかったのか。
とにかく、良太は出された朝食を、残さずきれいに食べてしまった。
若干、ご飯が足りなかったが、おかわりをしている余裕もなかった。
登校するためのバスは、朝早くから出ていないため、
今日は父親が学校まで送ってくれる。
良太が朝食を食べ終わると、父親が起きてきた。
「おはよう、良太、ちゃんと起きられたのか」
「おはよう」
父親も母親と同じことを言っている。
普段、寝坊するだけあって、
両親からすると早起きをする、良太が珍しかった。
「準備したら車で待ってるけど、それで良い?」
父親に確認すると、
「あぁ、俺もすぐ行くから、車で待っててくれ」
「後、エンジンかけておいてくれよ」
「わかった」
二階からリュックを持ってくると、車のキーを取り、
「じゃぁ行ってきますね」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい」
「お土産、忘れちゃ駄目よ」
「うん、ちゃんと買ってくるよ」
母親に出かけるあいさつをすると、軽い足取りで車へと向かって行った。
「いやぁ、懐かしいなぁ」
父親が運転しながら、自分の高校時代を振り返っている。
「父さんも修学旅行の時は、ウキウキしたもんだよ」
「父さんも神鳴高校だったよね?」
「そうだぞ」
「不思議だったんだけど、修学旅行がこの時期にあるのは何でなの?」
父親は良太の高校のOBだから、ずっと不思議になっていた、
修学旅行が、三年の十月の理由を教えてくれるはずと思い
何気なく、質問してみた。
「あぁ、それはもともと、神鳴高校が神社の跡地に建てられてだな」
「建てられたのも、戦後まもなくで、当時は旅行どころじゃなかったんだよ」
「旅行が始まったのが、建てられて何年だっけかな」
「忘れてしまったけど……旅行の雰囲気じゃなかったというのと……」
「それと?」
「そもそも大学に進学するなんて、今と違って数えるぶっつだったからな」
「あぁ……そういうことか」
「なんで、そんなこと急に聞くんだ」
「いや、ずっと不思議だったからさ」
「そうか、俺は、あまり気にしてなかったけどな」
そんな、やりとりをしている間に高校が見えてきた。
学校の周りは、送り迎えの車で、路上駐車だらけになっていた。
集合場所のグランドに入ると、
一つの異変に気付いた。
旧校舎の周りに工事用の壁ができている。
「えっ……」
良太は慌てて、担任にかけより、確認してみた。
「おはようございます。先生」
「おはよう、そんなに慌ててどうした?何か忘れたか?」
「あっ、いえ……その、旧校舎の周りに壁ができているので……」
「どうしたものかと……」
「あぁ、あれか、修学旅行の間に旧校舎を取り壊すそうだ」
「えっ……」
「うん?どうかしたのか?」
「いや……何でもないです」
今日から、楽しい修学旅行のはずが、
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