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第5章 払暁
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いっかな、落ち着かない――宰相は内心ぼやいた。
待望の薔薇姫が戻り、王宮内は浮かれた雰囲気に包まれていた。これで国から妖魔や魔獣の害がなくなる。
この吉報をすぐにでも内外に報せれば離れて行った巡礼者も戻ってくるし、巡礼者が増えれば金回りもよくなる。国を訪れる人が増えれば仕事も増える。食うに困って街を出て行った者、妖魔の害によって土地を捨てた者を呼び戻せるのだ。そして荒れていた土地に人々を戻し、農耕を再開させれば数年後には国も安定するだろうと、宰相は安堵していた。
しかしその日に限って、王宮の内外で変事が立て続けに起こっていた。
薔薇姫を送り出した直後、あるまじきことに教会で暴動が起こった。浮浪者や旅人をかき集めただけの軍では対応ができないと言うので、すぐさま城から正規兵を派遣し事態の収拾を図った。教会の醜聞は王家の醜聞、即座の対応が求められるのである。
やっと落ち着いたと思ったら、今度は聖都のすぐそばまでセラフィト軍が迫っているという報告があがる。どうやらピーチカの襲撃でしぶとく生き残り、諦めずにここまで進軍してきたらしい。流石は最強と名高いセラフィト軍、ちょっとのことでは引く気もないらしい。すぐさま防衛態勢を整えるよう新しく就任した将軍に命じたが、将軍となった男はまだ年若く想定外の襲撃に不慣れなうえに、軍を指揮する姿も何だか頼りない。何より、ドールは他国に侵攻されたことがこれまでなかった。いくら優秀な将軍を据えていたとしても、机上の理論でしか戦略を知り得ぬ者では事態に直面すると動転してしまうのも無理からぬことだろう。仕方がないので長年近衛として勤めてきた騎士団長を出向かせて、指揮を執るよう伝える。
そのせいで城の警備はだいぶ心許ないが、王の周辺の守りは万全なので問題ないと宰相は判断していた。
対応に追われてようやく城に戻ってみれば様子がおかしい。
部屋の間取りが変わり、階段の位置が刻一刻と変わる。勝手に窓が開き扉は閉まり、まるで意思を持って動いている、それこそ生きているようだった。更にどこからともなくレイジーンと薔薇姫のやり取りが聴こえてくる。悪逆がどちらで、義があるのはどちらか、誰が聞いても丸分かりである。もしこれが外にまで聞こえていたら――最悪の事態が想起され、宰相は最早、白目を剥いて倒れそうだった。
どうにかしてやっと自分の部屋に辿り着いたと思って扉を開けると、そこは広間だった。
「これは、何としたことか――」
魔法を失ったレイジーンと肩口に聖水を掛けて傷を癒すアリカを見比べ、彼らを取り巻く衛兵達を見やり、ここにあるはずのない姿を認めて青褪め、戦慄した。
――何故ここに、セラフィトの狼がいるのだ。
大聖堂で身柄を確保しているはずだ。暴動の件で有耶無耶になっていたその所在も、騒動を収めた後には確認できている。その時は確かに、昏睡状態にあったという報告を受けていた。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
聖王が、罪人の姿でそこにいることの重大さに比べたら。
宰相は頭を抱えて唸った後で訊ねた。
「アシュラム様はセラフィト帝国を後ろ盾に、王位に就くおつもりなのですか」
「まさか。国に留まるつもりはないわ」
宰相は困惑した。
それでは困るのだ。
ドールの要衝、ピーチカを大炎上させてまで手に入れた聖女は、どうしてもこの国に必要だった。
「では、何のために王の魔法を奪われた。セラフィトを率いてピーチカまで攻め入ってこられたのは、どういうわけなのです。我々から聖王を奪っておきながら何もせず立ち去ろうと言うのですか。あまりにも無責任ではありませんか!」
「……王を退けた責任は取りましょう。枢機卿か、ラナイ――いいえ、聖王と同じ魔法を継いだものならば誰でもいい。これからあたしが行くところに、連れてきて」
訳が分からなかったが、宰相は頷いた。すぐにテルン司教枢機卿を呼び出す為に使い魔を送る。
教会の暴動を収めたテルンがほどなくして到着すると、アリカに言われた通りに地下牢へと誘う。
そこに繋がれている男を認めた瞬間、テルンは震え出した。
男の落ち窪んだ目は虚ろにアリカを映した。長い間生き別れていた主だと分かると涙を流し、獣のように唸った。喋ることができないのだ。舌を抜かれているし、表情筋が酷く衰えている。土気色の顔はただぼうっとしていた。戒めの鎖はきつく、傷口からは腐った匂いがした。それでも生き永らえているのは、レイジーンに因る魔法のためだろう。
「……知っているかもしれないけど、言っておくわね。彼はロベリア。あたしの騎士よ。彼は呪いの苗床になったセラフィトの心臓を抱いている。あなた、それを取り出せるわね。絶対に潰したり壊したりしては駄目よ」
テルンは苦渋の表情を浮かべながらも頷いた。
「しかし、心臓を失えば彼は事切れる。それでもよろしいですか」
「……いいの。もう」
ロベリアにとって何が一番幸せなことか、アリカには分からない。
しかし、アリカが彼を騎士にしたことから全てが始まったのだとしたら、終わらせるのもまた、アリカが決めるのが筋だと思うのだ。
「もう、苦しまなくていいの」
頷くようにロベリアは目を閉じた。
テルンは両手を合わせて短く詠唱をした後、ロベリアの胸に手を置くとするりと飲み込まれるように指先から徐々に入っていく。皮膚が傷つけられることもなく、血が出ることもない。水面に触れた時のような揺らめきが起こったかと思えば、ロベリアの胸からテルンが腕を引き抜いた。
その手には、確かに拍動する心臓が乗っている。心臓には鋼色の刻印が複雑に絡み、ほの暗く光っていた。それこそが呪詛の刻印である。
心臓を引き抜かれたロベリアはそのまま静かに息絶える。
また一人、逝ってしまった。もう会えない、どこにもいない。でも、あのまま生かしておけばただ苦しいだけだと分かっている。どうか今度生まれてくるときは、ロベリアが幸せになれますように――アリカはただ祈ることしかできなかった。
テルンは気味悪いとでも言いたげに心臓をアリカに押し付けた。
「確かに、お返しいたしましたよ。王の不始末を始め、これまでの非礼の数々、ハティ殿下には心からお詫び申し上げる……大変厚かましいこととか存ずるが、どうか今後もわが国と末永いお付き合いを願いたい」
枢機卿と宰相が頭を下げると、ハティは鼻白んだ。
先代からの縁もあるドールだが、正直なところ、もう関わりたいとは思えない。
アリカは失笑した。
「随分と都合のいいことを言うのね。本当にどうしようもない人たちだわ。あたしだったら、恥ずかしくてとてもじゃないけど、そんなこと言えないわ」
「……それは、今後もお許しいただけないということでしょうか。国交断絶もあり得ると、そういうことですか?」
情けない顔でハティを伺った宰相の言葉には答えず、ハティはアリカに問う。
「その心臓を如何する」
「ドールには破魔の力がどうしても必要なんでしょう。だけど、あたしはもう、国に戻るつもりはない。だから、与えるの」
親指を噛み珠ほどの大きさに血を絞り出す。その血を呪いの苗床になった心臓の、鋼色の刻印に沿うようにして与えると、心臓に蔓延る呪印が破魔の守りに転じて真紅に輝きだした。呪いを払われた心臓は、破魔のそれに生まれ変わったのだった。
身体から引き抜かれても不思議なことに鼓動は弱まらない。むしろ呪詛を払われ生き生きと脈打つ姿は美しくすらあった。
「この心臓が破魔の血を国中に循環させてくれるでしょう――これを、ドールの民達に与えてもいい?」
伺うようにハティを見上げると、彼は憮然として頷いた。
「お前を得る為ならば手段を選ばぬような連中だ、心臓一つでアリカから手を引くと申すのであれば、それも良かろう。何よりも、ドールの民に罪はない故な」
アリカは頷き、花のような笑みを浮かべた。
テルンは恐る恐る両手を差し出して言った。
「では、我々がお預かりいたしましょう」
「それは駄目。これの安置場所は、あたしがもう考えてあるの」
「それは、一体どこに」
「教えないわよ。悪用されたら困るもの」
アリカはハティだけを供に連れ、破魔の心臓を持ってドールの中央に高々と聳える霊峰を目指した。その山麓には聖泉がある。ドール全ての聖泉と繋がるとも、ドールの水源とも言われる美しい場所だ。そこに心臓を沈めることで、破魔の血が地下から溶けていずれ国中に染み渡る。やがてはドール各地の聖泉に破魔の力が満ちるだろうが、一体何年かかることやら。
心臓は聖水で満たされた玻璃の容器の中に入れて持ち運ぶ間も、その輝きを失うことはなかった。不思議なことに、聖水に浸かっても絶えず鼓動を刻み続けている。
聖都から聖泉までは馬で三日ほどの道のりだった。
その間にハティと色んな話をする。
ハティはとにかく博識で、薬となる植物とそれが生える林の特徴、安全な場所、近づいてはならない危険な場所、賊に狙われやすい街道、もし賊と出会ってしまった時のやり過ごし方、食べられる木の実や野草、毒を持つ野草や茸の種類などを事細かに教えてくれた。
聖泉に心臓を沈めたら、これからはドールで妖魔と魔獣の害を心配する必要はなくなる。安心して作物を育てられるようになるのだから、木の実や果物は本当に金に困った時に頼る最後の手段だろう。それでも、ハティが何を思ってそれらをアリカに伝えてくれたのかは、何となく分かる気がした。ハティは、生きるために少しでも役に立つ知識を与えてくれようとしている。
この旅が終わったら――。
日が落ちる前にハティが天幕を張り、野宿の準備をする。近隣の集落に人影はなく、壊れて野ざらしになった家屋があるだけだった。かつて農繁期にはたわわに実った麦と果物が納められたであろう納屋も、朽ちて鼠の巣となっている。
石を積んで作った竈に火を入れ、食事の用意をする。黄昏が二人の間に横たわっていた。
今は荒れてしまった大地だが、以前は人々が歌を口ずさみながら、鍬を入れて耕す姿があった。逃げ出した人々が戻れば、また以前のような光景が見られるだろうか。
寄り添って座り、アリカは取り留めもないことを、ひとりごちるように呟いた。
「――もう何年も前にこの近くを通った時、夏のね、目の覚めるような青空の下で、麦の金色の穂が細波のように揺れていたの。胸が締め付けられるくらい、本当に、美しかった。傾斜地では放牧をする人達がいたわ。冬には広大な雪原が広がって、誰の足跡も残っていない真っ白でふかふかした雪が、そこら中に積もっていた。葡萄畑も有名だったのよ。ドールの葡萄酒は美味しいって、皆言っていた。それが、どこに行っても当たり前の光景だったの。……アシュラム様に美味しいパンと葡萄酒を差し上げるんだーって、領地の皆、いつも楽しそうだった。あたしも、毎年楽しみにしていたわ」
「そうか。随分慕われていたのだな」
「あら。領民に慕われない主なんているのかしら」
「さあ、世の中には腐るほどおろうが」
「それは、やるべきことをやらずに民を苦しめるからでしょう」
「そういうことに思い至らぬ馬鹿がどこの国にも、どの時代にもいるということだ」
アリカはハティの肩に寄りかかった。
「これからドールは、どうなるのかしら。おにいさまがいなくなって、玉座が空になった……」
今更ながら、取り返しのつかないことをしてしまったのだという実感がわく。
妖魔や魔獣の害はなくなるが、それでドールが必ずしも幸福になるとは限らない。
「案ずることはない。国というのは、王がいなくともどうにでもなるものだ。各々が役目を把握し、適材適所に人がいれば、何とかなろう。レイジーン以外にも王族は生存しているのだろう? やるべきことはやった。後のことはドールの民に任せればいい。国の在り方を知っているのは王ではなく、民であろう」
そういうものか、とアリカは目を閉じた。
翌朝、二人で心臓を泉に沈めた。
聖泉はどこまでも底が見えず、天を覗き込んでいるのではないかという錯覚に陥りそうになるほど深く澄んでいた。真紅の輝きは彗星のように尾を引きながら下へ下へと流れていく。揺蕩い、煌めいて、底知れぬ闇の中へ吸い込まれていく様は美しくもあり、恐ろしくもあった。
ひたすら落ちていく心臓が見えなくなるまで、アリカとハティはしばらく泉の畔に座っていた。
互いに、無言だったが考えていることは分かる。
アリカはどうしてもハティの元を去らねばならない。
破魔の聖女としての力を内外に示してしまった以上、セラフィト国内でも、ただの花売りとして押し通すのは無理だ。多くの兵がアリカの姿を見ているし、正体を知っている。これでネーヴェフィールに戻り、再度リッピ侯の保護を求めても安穏な生活は戻って来ない。それはハティの元について行ったところで同じこと。帝国に戻った後どうなるか、ハティとて想像がついているだろう。セラフィトの政権争いに巻き込まれるなど御免だった。
破魔の聖女たるアリカが一公爵のハティについたとなると、セラフィトの諸侯の均衡が崩れてしまう。勢力図が激変するのは目に見えて明らかだ。これまで派閥を作らずにバルドを支えてきたハティが、他の二公より抜きん出ること、ハティが軍事権を掌握していることを考えれば、たとえハティとバルドが望まずとも自然と皇帝派とフローズヴァン公爵派に分かれてしまうだろう。何より弟のことを一番に考えて行動してきたハティにとって、バルドと対立する図式だけは忌避したいはずである。
最初から決めていた通りに、全てが終わったら離れるのだ。
寂しくないと言ったら嘘になる。ハティと出会ってからアリカを取り巻く環境は劇的に変わった。そこはとても心地よく、ずっと留まっていたい――心からそう思えた。だから別れを切り出さねばならぬのが少し辛い。当たり前のように隣にいたハティが、いなくなると思うと胸が締め付けられた。ハティに見えないよう、スカートの裾を握りしめる。
会いたいときに会える、帰る場所がある。アリカにとってはそれだけで、これまでとは全く違う。行くあてのない旅だが、いずれ帰ってくるのだ。だから大丈夫、怖くない――言い聞かせて、波立つ心に平静を取り戻す。
アリカは立ち上がり、うんと伸びをした。それからハティを振り返って、あっけらかんとした調子で言った。
「あーあ、終わっちゃったわね。まあ、清々したわ。やっと自由の身になれる」
「……俺が容易くお前を手放すとでも思っているのか」
「あたしがその気になれば、その手から抜け出すことなんて簡単よ。分かっているでしょう?」
そうだったな、とハティは呟いた。
「セラフィトに戻らぬのなら、これからどうする」
「とりあえず、旅に出ようかなって思っているの。世界を見て回りたい」
「このまま行くのか。バルドはきっと淋しがるぞ」
「そうね。またそのうち、顔を出すわ」
「俺のところには」
「馬鹿じゃないの。訊くまでもないじゃない。……言っておくけど、あたし、別にあなたが嫌いで旅に出るわけじゃないのよ?」
「かといって好きでもない、というわけか?」
「……違う。そうじゃない。あたしは自分の為に旅立つの」
「そうか。ならば引き留めぬ」
ハティは苦笑を浮かべ、ずた袋を押し付けた。中を開けてみるよう促されて覗き込み、アリカは訳が分からずぽかんとした。
大量の金貨が入っている。この先一年、遊んで暮らせるくらいの量だ。暗に、身売りで稼ぐのは許さないと言われているようだった。
心配しなくとももう体を売るつもりはないのに、と言いかけて口を噤む。
「餞別だ、持って行け。それだけあれば道中困るまい。奪われないように、服の裏側にでも縫い付けておけ。足りなくなったら、取りに来い」
「何よそれ。前に、もう金は払わないって、あなた言ったじゃない」
「だからと言って、食うに困らせるとは言っていない。買った以上責任は取るに決まっておろうが。また売春などされてはたまらぬからな」
「はあ。別に、責任取ってほしいなんてこれっぽっちも思ってないし、気にしなくてもいいのよ。あたしはあたしで勝手にやるし、お金の稼ぎ方なんていくらでもあるもの」
「そういうわけにいかぬ」
憤然とするハティにアリカは苦笑せざるを得ない。
「頑なね」
「一生養ってやるのだから、当然のことだろう」
「はいはい、愛玩動物ですものね。精々、未来の花嫁に叱られない程度に養ってちょうだい」
ハティは呆れ果てた表情でアリカを見た。
「本気で言っているのか」
「もちろん、あたしは身の程を知っているもの。あたしのことに構っている暇があったら、いい加減、正妻を迎える準備でもしなさいよ」
「いいのか、それで」
至極真剣な顔で問うハティに、アリカは気圧されるように頷く。
公爵は国の要。然るべきものを妻に迎えねばならない。それがセラフィトの為であり、バルドの為にもなる。
ハティを愛してはいるが、かといってハティと結婚したいと思うほど、アリカは幼くなかった。苦しくないと言えば嘘になる。他の女を抱く姿を想像すると嫉妬の念に駆られるし、哀しい。
でも、会おうと思った時に会える、それだけでいい。
ハティは念を押すように続けた。
「後で発言を取り消すことはなかろうな」
「ないわ。いい加減、女心を弄ぶのは止めて身を固めるべきよ。あんたみたいなのがふらふらしていると社交界が戦場になっちゃうの、分かるでしょう? 夫人を迎えたら、あたしを愛人に昇格してくれたらいいわ」
「残念ながら、今のところ愛人枠はない。諦めることだな」
きっぱり言い切られ、アリカは胸の奥がきりきりと痛んだ。
ハティは何のつもりで、アリカをこれからも養っていくのだろうか。
困惑するアリカに、ハティは笑った。
「別れは言わぬ、どうせ近々会うのだからな。道中、精々気を付けて行け」
みっともなく縋ることはしない。潔いほどあっさりと、ハティはアリカの背中を押した。
諦め悪く引き留められたら上手く振り切れるだろうか、そんな心配をして身構えていた己が馬鹿々々しくなってくる。アリカの助言通りに妻を娶ろうとしているあたり、セラフィトの危機を救った今となっては、アリカの存在はそれほど重要ではないのかもしれない。
きっとそういうことなのだ、自分に言い聞かせて、アリカはそっとため息をついた。
そうだ、とハティは思い出したように呟く。
「俺の使い魔を供にやる。女の一人旅は何かと危険だろう」
「ありがたいわ。――ねえ、そういえば、あの子の名前は何て言うの?」
「名前などない」
「まあ、可哀そうに」
「……考える間もなかったのでな。暇なら、お前が付けてやれ。そいつは主人の俺以上にお前のことを気に入っているようだし」
「魔獣は破魔の血が嫌いなんじゃないの?」
「慣れたら、癖になったんだろう。多分な」
アリカは冗談めかして笑った。
「その辺りは、ご主人様と同じなのね」
「まあ、そういうことなのだろうな」
待望の薔薇姫が戻り、王宮内は浮かれた雰囲気に包まれていた。これで国から妖魔や魔獣の害がなくなる。
この吉報をすぐにでも内外に報せれば離れて行った巡礼者も戻ってくるし、巡礼者が増えれば金回りもよくなる。国を訪れる人が増えれば仕事も増える。食うに困って街を出て行った者、妖魔の害によって土地を捨てた者を呼び戻せるのだ。そして荒れていた土地に人々を戻し、農耕を再開させれば数年後には国も安定するだろうと、宰相は安堵していた。
しかしその日に限って、王宮の内外で変事が立て続けに起こっていた。
薔薇姫を送り出した直後、あるまじきことに教会で暴動が起こった。浮浪者や旅人をかき集めただけの軍では対応ができないと言うので、すぐさま城から正規兵を派遣し事態の収拾を図った。教会の醜聞は王家の醜聞、即座の対応が求められるのである。
やっと落ち着いたと思ったら、今度は聖都のすぐそばまでセラフィト軍が迫っているという報告があがる。どうやらピーチカの襲撃でしぶとく生き残り、諦めずにここまで進軍してきたらしい。流石は最強と名高いセラフィト軍、ちょっとのことでは引く気もないらしい。すぐさま防衛態勢を整えるよう新しく就任した将軍に命じたが、将軍となった男はまだ年若く想定外の襲撃に不慣れなうえに、軍を指揮する姿も何だか頼りない。何より、ドールは他国に侵攻されたことがこれまでなかった。いくら優秀な将軍を据えていたとしても、机上の理論でしか戦略を知り得ぬ者では事態に直面すると動転してしまうのも無理からぬことだろう。仕方がないので長年近衛として勤めてきた騎士団長を出向かせて、指揮を執るよう伝える。
そのせいで城の警備はだいぶ心許ないが、王の周辺の守りは万全なので問題ないと宰相は判断していた。
対応に追われてようやく城に戻ってみれば様子がおかしい。
部屋の間取りが変わり、階段の位置が刻一刻と変わる。勝手に窓が開き扉は閉まり、まるで意思を持って動いている、それこそ生きているようだった。更にどこからともなくレイジーンと薔薇姫のやり取りが聴こえてくる。悪逆がどちらで、義があるのはどちらか、誰が聞いても丸分かりである。もしこれが外にまで聞こえていたら――最悪の事態が想起され、宰相は最早、白目を剥いて倒れそうだった。
どうにかしてやっと自分の部屋に辿り着いたと思って扉を開けると、そこは広間だった。
「これは、何としたことか――」
魔法を失ったレイジーンと肩口に聖水を掛けて傷を癒すアリカを見比べ、彼らを取り巻く衛兵達を見やり、ここにあるはずのない姿を認めて青褪め、戦慄した。
――何故ここに、セラフィトの狼がいるのだ。
大聖堂で身柄を確保しているはずだ。暴動の件で有耶無耶になっていたその所在も、騒動を収めた後には確認できている。その時は確かに、昏睡状態にあったという報告を受けていた。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
聖王が、罪人の姿でそこにいることの重大さに比べたら。
宰相は頭を抱えて唸った後で訊ねた。
「アシュラム様はセラフィト帝国を後ろ盾に、王位に就くおつもりなのですか」
「まさか。国に留まるつもりはないわ」
宰相は困惑した。
それでは困るのだ。
ドールの要衝、ピーチカを大炎上させてまで手に入れた聖女は、どうしてもこの国に必要だった。
「では、何のために王の魔法を奪われた。セラフィトを率いてピーチカまで攻め入ってこられたのは、どういうわけなのです。我々から聖王を奪っておきながら何もせず立ち去ろうと言うのですか。あまりにも無責任ではありませんか!」
「……王を退けた責任は取りましょう。枢機卿か、ラナイ――いいえ、聖王と同じ魔法を継いだものならば誰でもいい。これからあたしが行くところに、連れてきて」
訳が分からなかったが、宰相は頷いた。すぐにテルン司教枢機卿を呼び出す為に使い魔を送る。
教会の暴動を収めたテルンがほどなくして到着すると、アリカに言われた通りに地下牢へと誘う。
そこに繋がれている男を認めた瞬間、テルンは震え出した。
男の落ち窪んだ目は虚ろにアリカを映した。長い間生き別れていた主だと分かると涙を流し、獣のように唸った。喋ることができないのだ。舌を抜かれているし、表情筋が酷く衰えている。土気色の顔はただぼうっとしていた。戒めの鎖はきつく、傷口からは腐った匂いがした。それでも生き永らえているのは、レイジーンに因る魔法のためだろう。
「……知っているかもしれないけど、言っておくわね。彼はロベリア。あたしの騎士よ。彼は呪いの苗床になったセラフィトの心臓を抱いている。あなた、それを取り出せるわね。絶対に潰したり壊したりしては駄目よ」
テルンは苦渋の表情を浮かべながらも頷いた。
「しかし、心臓を失えば彼は事切れる。それでもよろしいですか」
「……いいの。もう」
ロベリアにとって何が一番幸せなことか、アリカには分からない。
しかし、アリカが彼を騎士にしたことから全てが始まったのだとしたら、終わらせるのもまた、アリカが決めるのが筋だと思うのだ。
「もう、苦しまなくていいの」
頷くようにロベリアは目を閉じた。
テルンは両手を合わせて短く詠唱をした後、ロベリアの胸に手を置くとするりと飲み込まれるように指先から徐々に入っていく。皮膚が傷つけられることもなく、血が出ることもない。水面に触れた時のような揺らめきが起こったかと思えば、ロベリアの胸からテルンが腕を引き抜いた。
その手には、確かに拍動する心臓が乗っている。心臓には鋼色の刻印が複雑に絡み、ほの暗く光っていた。それこそが呪詛の刻印である。
心臓を引き抜かれたロベリアはそのまま静かに息絶える。
また一人、逝ってしまった。もう会えない、どこにもいない。でも、あのまま生かしておけばただ苦しいだけだと分かっている。どうか今度生まれてくるときは、ロベリアが幸せになれますように――アリカはただ祈ることしかできなかった。
テルンは気味悪いとでも言いたげに心臓をアリカに押し付けた。
「確かに、お返しいたしましたよ。王の不始末を始め、これまでの非礼の数々、ハティ殿下には心からお詫び申し上げる……大変厚かましいこととか存ずるが、どうか今後もわが国と末永いお付き合いを願いたい」
枢機卿と宰相が頭を下げると、ハティは鼻白んだ。
先代からの縁もあるドールだが、正直なところ、もう関わりたいとは思えない。
アリカは失笑した。
「随分と都合のいいことを言うのね。本当にどうしようもない人たちだわ。あたしだったら、恥ずかしくてとてもじゃないけど、そんなこと言えないわ」
「……それは、今後もお許しいただけないということでしょうか。国交断絶もあり得ると、そういうことですか?」
情けない顔でハティを伺った宰相の言葉には答えず、ハティはアリカに問う。
「その心臓を如何する」
「ドールには破魔の力がどうしても必要なんでしょう。だけど、あたしはもう、国に戻るつもりはない。だから、与えるの」
親指を噛み珠ほどの大きさに血を絞り出す。その血を呪いの苗床になった心臓の、鋼色の刻印に沿うようにして与えると、心臓に蔓延る呪印が破魔の守りに転じて真紅に輝きだした。呪いを払われた心臓は、破魔のそれに生まれ変わったのだった。
身体から引き抜かれても不思議なことに鼓動は弱まらない。むしろ呪詛を払われ生き生きと脈打つ姿は美しくすらあった。
「この心臓が破魔の血を国中に循環させてくれるでしょう――これを、ドールの民達に与えてもいい?」
伺うようにハティを見上げると、彼は憮然として頷いた。
「お前を得る為ならば手段を選ばぬような連中だ、心臓一つでアリカから手を引くと申すのであれば、それも良かろう。何よりも、ドールの民に罪はない故な」
アリカは頷き、花のような笑みを浮かべた。
テルンは恐る恐る両手を差し出して言った。
「では、我々がお預かりいたしましょう」
「それは駄目。これの安置場所は、あたしがもう考えてあるの」
「それは、一体どこに」
「教えないわよ。悪用されたら困るもの」
アリカはハティだけを供に連れ、破魔の心臓を持ってドールの中央に高々と聳える霊峰を目指した。その山麓には聖泉がある。ドール全ての聖泉と繋がるとも、ドールの水源とも言われる美しい場所だ。そこに心臓を沈めることで、破魔の血が地下から溶けていずれ国中に染み渡る。やがてはドール各地の聖泉に破魔の力が満ちるだろうが、一体何年かかることやら。
心臓は聖水で満たされた玻璃の容器の中に入れて持ち運ぶ間も、その輝きを失うことはなかった。不思議なことに、聖水に浸かっても絶えず鼓動を刻み続けている。
聖都から聖泉までは馬で三日ほどの道のりだった。
その間にハティと色んな話をする。
ハティはとにかく博識で、薬となる植物とそれが生える林の特徴、安全な場所、近づいてはならない危険な場所、賊に狙われやすい街道、もし賊と出会ってしまった時のやり過ごし方、食べられる木の実や野草、毒を持つ野草や茸の種類などを事細かに教えてくれた。
聖泉に心臓を沈めたら、これからはドールで妖魔と魔獣の害を心配する必要はなくなる。安心して作物を育てられるようになるのだから、木の実や果物は本当に金に困った時に頼る最後の手段だろう。それでも、ハティが何を思ってそれらをアリカに伝えてくれたのかは、何となく分かる気がした。ハティは、生きるために少しでも役に立つ知識を与えてくれようとしている。
この旅が終わったら――。
日が落ちる前にハティが天幕を張り、野宿の準備をする。近隣の集落に人影はなく、壊れて野ざらしになった家屋があるだけだった。かつて農繁期にはたわわに実った麦と果物が納められたであろう納屋も、朽ちて鼠の巣となっている。
石を積んで作った竈に火を入れ、食事の用意をする。黄昏が二人の間に横たわっていた。
今は荒れてしまった大地だが、以前は人々が歌を口ずさみながら、鍬を入れて耕す姿があった。逃げ出した人々が戻れば、また以前のような光景が見られるだろうか。
寄り添って座り、アリカは取り留めもないことを、ひとりごちるように呟いた。
「――もう何年も前にこの近くを通った時、夏のね、目の覚めるような青空の下で、麦の金色の穂が細波のように揺れていたの。胸が締め付けられるくらい、本当に、美しかった。傾斜地では放牧をする人達がいたわ。冬には広大な雪原が広がって、誰の足跡も残っていない真っ白でふかふかした雪が、そこら中に積もっていた。葡萄畑も有名だったのよ。ドールの葡萄酒は美味しいって、皆言っていた。それが、どこに行っても当たり前の光景だったの。……アシュラム様に美味しいパンと葡萄酒を差し上げるんだーって、領地の皆、いつも楽しそうだった。あたしも、毎年楽しみにしていたわ」
「そうか。随分慕われていたのだな」
「あら。領民に慕われない主なんているのかしら」
「さあ、世の中には腐るほどおろうが」
「それは、やるべきことをやらずに民を苦しめるからでしょう」
「そういうことに思い至らぬ馬鹿がどこの国にも、どの時代にもいるということだ」
アリカはハティの肩に寄りかかった。
「これからドールは、どうなるのかしら。おにいさまがいなくなって、玉座が空になった……」
今更ながら、取り返しのつかないことをしてしまったのだという実感がわく。
妖魔や魔獣の害はなくなるが、それでドールが必ずしも幸福になるとは限らない。
「案ずることはない。国というのは、王がいなくともどうにでもなるものだ。各々が役目を把握し、適材適所に人がいれば、何とかなろう。レイジーン以外にも王族は生存しているのだろう? やるべきことはやった。後のことはドールの民に任せればいい。国の在り方を知っているのは王ではなく、民であろう」
そういうものか、とアリカは目を閉じた。
翌朝、二人で心臓を泉に沈めた。
聖泉はどこまでも底が見えず、天を覗き込んでいるのではないかという錯覚に陥りそうになるほど深く澄んでいた。真紅の輝きは彗星のように尾を引きながら下へ下へと流れていく。揺蕩い、煌めいて、底知れぬ闇の中へ吸い込まれていく様は美しくもあり、恐ろしくもあった。
ひたすら落ちていく心臓が見えなくなるまで、アリカとハティはしばらく泉の畔に座っていた。
互いに、無言だったが考えていることは分かる。
アリカはどうしてもハティの元を去らねばならない。
破魔の聖女としての力を内外に示してしまった以上、セラフィト国内でも、ただの花売りとして押し通すのは無理だ。多くの兵がアリカの姿を見ているし、正体を知っている。これでネーヴェフィールに戻り、再度リッピ侯の保護を求めても安穏な生活は戻って来ない。それはハティの元について行ったところで同じこと。帝国に戻った後どうなるか、ハティとて想像がついているだろう。セラフィトの政権争いに巻き込まれるなど御免だった。
破魔の聖女たるアリカが一公爵のハティについたとなると、セラフィトの諸侯の均衡が崩れてしまう。勢力図が激変するのは目に見えて明らかだ。これまで派閥を作らずにバルドを支えてきたハティが、他の二公より抜きん出ること、ハティが軍事権を掌握していることを考えれば、たとえハティとバルドが望まずとも自然と皇帝派とフローズヴァン公爵派に分かれてしまうだろう。何より弟のことを一番に考えて行動してきたハティにとって、バルドと対立する図式だけは忌避したいはずである。
最初から決めていた通りに、全てが終わったら離れるのだ。
寂しくないと言ったら嘘になる。ハティと出会ってからアリカを取り巻く環境は劇的に変わった。そこはとても心地よく、ずっと留まっていたい――心からそう思えた。だから別れを切り出さねばならぬのが少し辛い。当たり前のように隣にいたハティが、いなくなると思うと胸が締め付けられた。ハティに見えないよう、スカートの裾を握りしめる。
会いたいときに会える、帰る場所がある。アリカにとってはそれだけで、これまでとは全く違う。行くあてのない旅だが、いずれ帰ってくるのだ。だから大丈夫、怖くない――言い聞かせて、波立つ心に平静を取り戻す。
アリカは立ち上がり、うんと伸びをした。それからハティを振り返って、あっけらかんとした調子で言った。
「あーあ、終わっちゃったわね。まあ、清々したわ。やっと自由の身になれる」
「……俺が容易くお前を手放すとでも思っているのか」
「あたしがその気になれば、その手から抜け出すことなんて簡単よ。分かっているでしょう?」
そうだったな、とハティは呟いた。
「セラフィトに戻らぬのなら、これからどうする」
「とりあえず、旅に出ようかなって思っているの。世界を見て回りたい」
「このまま行くのか。バルドはきっと淋しがるぞ」
「そうね。またそのうち、顔を出すわ」
「俺のところには」
「馬鹿じゃないの。訊くまでもないじゃない。……言っておくけど、あたし、別にあなたが嫌いで旅に出るわけじゃないのよ?」
「かといって好きでもない、というわけか?」
「……違う。そうじゃない。あたしは自分の為に旅立つの」
「そうか。ならば引き留めぬ」
ハティは苦笑を浮かべ、ずた袋を押し付けた。中を開けてみるよう促されて覗き込み、アリカは訳が分からずぽかんとした。
大量の金貨が入っている。この先一年、遊んで暮らせるくらいの量だ。暗に、身売りで稼ぐのは許さないと言われているようだった。
心配しなくとももう体を売るつもりはないのに、と言いかけて口を噤む。
「餞別だ、持って行け。それだけあれば道中困るまい。奪われないように、服の裏側にでも縫い付けておけ。足りなくなったら、取りに来い」
「何よそれ。前に、もう金は払わないって、あなた言ったじゃない」
「だからと言って、食うに困らせるとは言っていない。買った以上責任は取るに決まっておろうが。また売春などされてはたまらぬからな」
「はあ。別に、責任取ってほしいなんてこれっぽっちも思ってないし、気にしなくてもいいのよ。あたしはあたしで勝手にやるし、お金の稼ぎ方なんていくらでもあるもの」
「そういうわけにいかぬ」
憤然とするハティにアリカは苦笑せざるを得ない。
「頑なね」
「一生養ってやるのだから、当然のことだろう」
「はいはい、愛玩動物ですものね。精々、未来の花嫁に叱られない程度に養ってちょうだい」
ハティは呆れ果てた表情でアリカを見た。
「本気で言っているのか」
「もちろん、あたしは身の程を知っているもの。あたしのことに構っている暇があったら、いい加減、正妻を迎える準備でもしなさいよ」
「いいのか、それで」
至極真剣な顔で問うハティに、アリカは気圧されるように頷く。
公爵は国の要。然るべきものを妻に迎えねばならない。それがセラフィトの為であり、バルドの為にもなる。
ハティを愛してはいるが、かといってハティと結婚したいと思うほど、アリカは幼くなかった。苦しくないと言えば嘘になる。他の女を抱く姿を想像すると嫉妬の念に駆られるし、哀しい。
でも、会おうと思った時に会える、それだけでいい。
ハティは念を押すように続けた。
「後で発言を取り消すことはなかろうな」
「ないわ。いい加減、女心を弄ぶのは止めて身を固めるべきよ。あんたみたいなのがふらふらしていると社交界が戦場になっちゃうの、分かるでしょう? 夫人を迎えたら、あたしを愛人に昇格してくれたらいいわ」
「残念ながら、今のところ愛人枠はない。諦めることだな」
きっぱり言い切られ、アリカは胸の奥がきりきりと痛んだ。
ハティは何のつもりで、アリカをこれからも養っていくのだろうか。
困惑するアリカに、ハティは笑った。
「別れは言わぬ、どうせ近々会うのだからな。道中、精々気を付けて行け」
みっともなく縋ることはしない。潔いほどあっさりと、ハティはアリカの背中を押した。
諦め悪く引き留められたら上手く振り切れるだろうか、そんな心配をして身構えていた己が馬鹿々々しくなってくる。アリカの助言通りに妻を娶ろうとしているあたり、セラフィトの危機を救った今となっては、アリカの存在はそれほど重要ではないのかもしれない。
きっとそういうことなのだ、自分に言い聞かせて、アリカはそっとため息をついた。
そうだ、とハティは思い出したように呟く。
「俺の使い魔を供にやる。女の一人旅は何かと危険だろう」
「ありがたいわ。――ねえ、そういえば、あの子の名前は何て言うの?」
「名前などない」
「まあ、可哀そうに」
「……考える間もなかったのでな。暇なら、お前が付けてやれ。そいつは主人の俺以上にお前のことを気に入っているようだし」
「魔獣は破魔の血が嫌いなんじゃないの?」
「慣れたら、癖になったんだろう。多分な」
アリカは冗談めかして笑った。
「その辺りは、ご主人様と同じなのね」
「まあ、そういうことなのだろうな」
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