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第7夜 マギ・チェス

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 ロラン達が護衛を務める商船には、行き先を同じくする旅人や行商人が複数乗船していた。
 客船よりも安い運賃で目的地まで行けるが、扱いはおよそ良いとは言い難い。
 寝るときは大部屋で十数人、ぎちぎちに詰め込んだ状態での雑魚寝だし、食事も質素なものである。しかも、海の魔物のみならず、積荷強奪を目論む海賊にも狙われる。
 ただ、不思議なことに、海の魔物は倒すと一定期間姿を見なくなる。深海には異界に通じる裂け目があるらしいが、そこからやってくるのは一匹だけ。これまで二匹以上が同時に出現した例はない。
 恐らく、当面魔物は出てこないだろう。故に、今後は海賊の襲撃を危惧することとなる。
 ロラン達には客や乗組員とは別個で部屋が割り当てられていた。ただし男女の別はなく、六人で一部屋を使っている。
 ソファーが一つ、三段ベッドが二つずつある。大部屋よりは狭いが、六人で使うにはやや広い。
 グレイシアは茶を飲んで満足したのか甲板に上がっていった。魔物の襲来で籠りきりだったため、気鬱を晴らしにいったのだろう。
 アルは軋むベッドに寝転がってうんと伸びをした。

「あー腹減った。今日の飯何だろ。厨房覗いてきていい?」
「駄目です。この間つまみ食いして料理長に叱られたばかりでしょう。いいから少し休みなさい。食事はここに持ってきてあげますし、海賊が出たら叩き起こして差し上げますから」
「んじゃ、優しく起こしてね。マナ女史」
「はいはい」

 余程疲れていたのか、アルはそのまま泥のように眠り始めた。結構無茶苦茶な跳躍の仕方をしていたし、身体に負荷がかかったのかもしれない。ロランより頑丈ではあるものの、どちらかと言えば痩身――引き締まった体躯をしているから細く見える――で身軽だ。
 マナは愛槍を手入れするロランを振り返った。

「坊ちゃんも横になられてはいかがです?」
「僕は大丈夫。ルトの紅茶飲んで少し回復したから」
 
 空になった茶葉の缶を寂しそうに片付けるルトをちらりと見て、マナは微笑んだ。
 
「それは何より。ルトを連れてきた甲斐がありましたわね」
「うん。何かルトがいると安心するんだ。自分でも、よくわからないんだけど」
「ルトはあれでも経験豊富な戦士ですよ、坊ちゃん。背中を預けるに値する強者です。安心するのは当然のことでしょう」
「……そっか。そうだったな」

 ロランは自嘲した。
 忘れていたが、レグルスと共に戦場を駆け、何度も窮地を脱した男だ。本来ただのお茶汲みにしておくには勿体ない。――カイムと並び、れっきとしたロランの護衛である。剣を握らせれば相当腕が立つのだ。前線でもレグルスの傍仕えに恥じぬ働きをしたというが、ロランはそんな彼の一面について無知だった。
 カイムはマリアベルの護衛、ルトはレグルスの背中を守っていた。その二人がロランと行動している――その事実にようやく気付き、ロランは何とも言えない気持ちになった。
 唇を噛みしめて俯く。――無力なこどもだから、二人の側近はロランのお守をしているのだ。槍を握りしめ、夕陽に照る海原を見据えた。
 その様子を見ていたマナはそっとロランの隣に腰かけた。

「――気を張り続けると、無駄に疲れますわよ」 
「でも、駄目なんだ……。だって、僕がやらなくちゃ――」
「……強くなれない?」
「そう、もっと強くなりたいんだ。皆の手を煩わせないように」

 マナは目を眇めた。

「未だかつてないほど、お馬鹿な弟子ですこと……」
「……なっ!」
「自分さえ強くなれば全てが解決するとでも思っているかのような口ぶりですわね。思い上がりも甚だしい。はっ! 言うに事欠いて皆の手を煩わせないようにですって? あなたのような未熟者、煩わしくて当然ではありませんの」
「……そう、だよね。はは」

 乾いた笑いを漏らすロランの胸倉をマナが掴んだ。

「話は最後までお聞きなさい。馬鹿弟子。――いいですか。あたくし達はあなたを守れと主公より仰せつかっているのです。それは、この上ない誉れ。何よりの信頼の証でもある。……あなたがどんなに愚かなことをしでかしても、あたくし達はこの身にかけてあなたを守る。それがあたくし達の誇りだからです」
「……要は、命令だから従ってるだけでしょ。本当は僕じゃなくて、主の――義姉様や兄の側にいたいと思っている――違う? でも、僕がまだ弱いから皆が側にいるしかない。本当は僕が皆を守らないといけないのに……玉座に就けるのは僕だけだから……!」
「無駄に成長したのは身体だけか……本当、お子様ね」

 マナは襟元から手を離し、ロランの胸を強く突いた。

「もう少し冷静になって――」

 言いかけた時。甲板から悲鳴があがり、続いてけたたましい警鐘が打ち鳴らされた。
 直後、爆音が響く。――艦砲だ。右舷に向けて一発打ち込まれたようで、激しく水しぶきがあがった。

「海賊が出た!」
 
 マナは舌打ちし、ロランは表情を消して立ち上がった。その時、ルトとカイムは既に駆け出していた。
 ロランは海賊が嫌いだった。
 懸命に働く人を食いものにされているようで、許せないのだ。
 彼らはやっとの思いで出荷した物資や食糧を略奪していく――まさに害悪と言っていい。
 しかも卑劣だ。獲物を仕留めるためなら手段は選ばない。乗組員や乗客を人質にとられることもあるし、こども――賊の仲間だ――を海に落として救助させ、何食わぬ顔で乗り込んでくることもある。
 百害あって一利なし、本来ならその場で処してしまいたいが、ファーレンからは全て捕縛し引き渡すように命じられている。
 その国籍は様々だ。ファーレン人もいるし、セラフィト人もいる。難民となったベリアードの民が混じっているのも見たことがある。
 誰もが、生きるために仕方なくやったと口を揃えて言うので、ファーレンの王は彼らを労役させているらしい。真面目に働き生きよ、ということだろう。

 海賊船は、既に商船の右舷に横付けしていた。身動きが取れないよう船体に楔を打ち込まれ、木の板が渡される。陽が水平線上に沈みかけ、海面には揺らぐ金色の道が浮かぶ。光の加減では相手の顔が刹那に消えた。
 ――黄昏時だ。

「ひゃっはー! 久々の獲物だー!」
「積荷と食い物を奪え! いい女がいればついでに連れてこい!」
「えいさーほいさー!」

 次々と乗り込んでくる薄汚い海賊をカイムとルトが切り伏せる。しかし、敵は上からも湧いた。いつの間にかマストに飛び移り、短剣で帆を切り裂いて滑り降りてきたのだ。おかげで帆は襤褸切れ同然である。
 降ってきた敵はマナが引き受け、取りこぼしはロランが狩った。
 賊の足元を槍で掬い、倒れたそれを蹴飛ばす。そのまま後頚部を強打して昏倒させると手際よく縄をかけた。
 随分と手慣れたものである。
 対人戦では魔術を禁じると師達から言い渡されているため、ロランは律儀にそれを守っていた。制約がなければ、魔術一辺倒になると分かり切っている。
 勝つためにはどんな卑怯な手でも使う海賊は、実践には丁度良い。奴らは訓練を受けた兵ではない、ただのごろつきだ。今やロランにとって少し物足りない敵である。
 不意打ちを狙ってか背後から繰り出された刃を咄嗟に柄で受け、押し返して薙ぎ払う。よろめいた相手の脇腹へ一撃、強く叩きこむ。痛みにうずくまっている間に両手を縛り、そのまま床に転がし脚を一突きする。痛みに叫ぶ敵を置いて、ロランは流れ作業のように、次へと向かっていった。
 あらかた片付いたと思った時、また一人乗り込んでくる。どうやら海賊団の首領のようだった。
 大きく舌打ちをし、呻く配下と息一つ乱さぬカイムやルトを見比べ地団駄を踏んだ。

「畜生、最近噂の護衛付きかよ! ――おい、いつまでぼーっとしてやがる! 高い金払って雇ったんだ! いい加減てめえも戦え!」
「……うるさい。賊如きが指図するな」
 
 首領に続いて現れたのはフードを目深に被った長身の男だった。腰には古びた剣をさしている。濃紺と金色がせめぎ合う景色の中で、その容貌は伺えない。
 カイムは返り血を拭ってそれを見上げ、ルトも戦いの手を止めて目を皿のようにした。ただ佇んでいるだけだというのに、誰もその存在を無視できなかった。
 ロランは強い視線を感じてフードの男を睨み上げた。間違いなくロランに狙いを定められている。この中で一番経験が浅く、弱いと判じられたのだと思うと苛立たしく、情けない。
 黒い外套が闇に溶けるようにはためく中、彼は呟いた。

「何だ……得物は槍か」
「何ぶつぶつ言ってやが――」

 首領の顎を片手で掴み、彼は低く唸った。

「槍はあるか。この際、棍棒でもいい」
「あ、あります……」
「早く持ってこい」
「へい!」

 男から解放されると首領は一目散に駆け出し、穂先が欠けた槍を運んできた。どちらが首領か分からぬほど何度も頭を下げ、拝むように両手をすり合わせる。そこには強い願い――頼むから勝ってくれ、何でもいいから戦利品を持ち帰らせてくれ――が込められていよう。
 男は古い剣を手放し、おもむろに槍を受け取る。その刹那、一気に空気が張り詰めた。
 マナは微動だにせず、ルトは固唾を飲んでそれを見守っていた。その間、カイムが首領を捕らえて縄をかける。
 男は槍を回して石突をとんとつき、ロランの前に立った。槍を構え、身を低くするロランに薄く笑う。

「良い眼をしている」

 どこかで聞いたことのあるような声だった。
 唾を飲み、にじり、と間合いを図った。
 ――身体の芯から凍ってしまいそうだ。
 対面しただけで、相手の力量が圧倒的に上だと感じる程度には、ロランは成長していた。柄を持つ手が僅かに震えたが、気取られまいと強く握る。
 どこの誰とも分からぬ相手を前に萎縮してどうする、ルークはもっと恐ろしいはずだ――そう内心で自分を叱責した。

「だが、もう少し肩の力を抜いたほうがいい――」
「無駄な閑談に興じるつもりはない!」

 ロランはそこで一歩踏み込んだ。敵の間合いに飛び込むことになるが、もう構わなかった。
 そのままの勢いで鋭く突くと、容易く躱される。まろびそうになるのを石突で咄嗟に支え、背後から繰り出された打撃をどうにか柄で受ける。
 衝撃に手が痺れた。

(何だこの馬鹿力!)

 一撃が重い。しかも、鞭のようにしなやかで、動きにまるで無駄がない。
 再び男を見据えると、槍を肩にかけ、笑っている。

「何がおかしい!」
「いや、別に。予想とは違う反応だと思っただけだ。――しかし、良く受けたな。褒めてやる」

 意味不明なことを囁く男をロランは睨んだ。

「お前に褒められたところで」
「嬉しくないか……」

 彼は自嘲気味に呟いた。

「――まあいい。俺に力を示してみろ」

 ――それから激しい応酬が始まった。
 足払いを掛ければ跳躍して斬りかかられ、いなして下段から突けば弾かれて手元を強打された。振り上げて叩きこんでも軽く受けられ、押し返されて空いた腹に蹴りが入る。一撃を喰らうたびに身体が痺れ、激痛が走った。

(――違う、僕の返しが悪い。本当は、流麗な演舞のようになるはずなんだ)

 飛びずさって距離を取り、乱れた息を整えるロランに彼は言った。

「難しく考えるな。流れに身を任せろ」
「黙れ!」
「敵の助言は聞きたくないか?」
「うるさい!」

 闇雲に振り払えば、男は苦笑した。

「図体はでかくなったが、まるで子どもだな」
「お前に何が分かる」
「……それもそうだな。悪かった」
「無駄口を叩いて僕を惑わすつもりなら残念だったな。そういう手口には慣れている」
「ほう。身内にそういう人間でもいたか? そいつの心は、さぞや弱かったのだろうな」

 嘲るように返され、ロランは奥歯を噛みしめた。兄の影が脳裏を過ぎる。

「そうだよ。弱くて脆い、僕のことを忘れ去って嫁といちゃつきたいだけのクソ兄貴だ。――でも、お前にとやかく言われたくない!」

 勢いのまま踏み込んだロランを石突で突き返し、男は肩を竦めた。

「戦場での動揺は死に直結する。少し心を静めろ。お前の死は、ここにいる皆の死でもあろう。敵に付け入る隙を与えてはならぬ」
「……僕が弱いと、皆死ぬ。そんなこと、分かっているよ。皆の手を煩わせている……僕が一番強くないといけないのに!」
「……戦いの最中は泣くな。槍を構えろ」
 
 ロランは滲む涙を拭い、槍を構えた。
 気を抜くとすぐそこに死の影がある、槍舞が始まった。
 男の一手一手は洗練されている。槍は男の身体の一部のようだった。多彩な技を繰り出し、そのどれもがしなやかだ。ロランは戦いの最中、何度も感嘆していた。突き、払い、斬り――全ての動作が鋭く美しい。
 それを受けられる、身に余る幸せだった。
 恐らく以前のロランでは一撃受けるだけで立ち上がれなかっただろう。
 戦いというより、指導――技を伝授――されている、ロランはそう感じた。
 互いの槍が交わり、弾く音が心地よい。得物を交えるたびに次に繰り出される一撃が分かるようになり、ロランは総毛立った。
 その時、一撃を打ち込んだところで男の槍が折れた。風圧にフードが落ち、陽に透ける髪が靡いた。燃えるような榛色の双眸が黄昏に浮かび、動揺するロランを映す。

「試して悪かったな、ロラン」
「――……何でっ」
 
 今更、と歯を食いしばる。会ったら言いたいことが山ほどあった。もっとちゃんと話しがしたい――どれほど思ったか分からない。
 何年も放置された。時々手紙をよこしても、事務的なものばかりで。ふざけるなと叫びたかった。
 
「レグルス兄様……!」
「長いこと会えなくてすまなかった。……随分と思い悩んでいるようだな。それにしても……――クソ兄貴、か。傑作だな」

 レグルスはからっと笑った。
 ロランは途端に力が抜けて、その場にずり落ちるように座り込んだ。目線を合わせるようにレグルスが膝をつく。
 
「皆の手を煩わせてると言っていたが、そんなのは当然のことだ。お前はまだ未完成、でもそれでいい。そのための俺達だろう。最初から完璧な人間などおらんし、そういう者が上に立つと下の者は置き去りにされる。綺麗な上澄みだけ掬い取って、不出来な淀みは沈んでいく……そんな世で幸せになれるのはほんの一握りの者だけだ。――それとも、お前は独裁に走りたいか。他者を排斥し、一人で全てを担いたいと?」

 ロランは槍を手放し、頭を振った。
 それではルークと何も変わらない。目指しているのはそれではないのだ。
 レグルスは続けた。

「今全てを背負う必要はない、ロラン。まだ、俺達を頼っていい。そういう時期だ。――だから、焦るな。道は俺達が切り開く。……お前が背負うべきものは、ただこれだけだ」
 
 レグルスが拳で軽くロランの胸を叩くと、鼓動が跳ねた。

「分かるか」
「……何?」
「お前自身の命だ」
「僕の命……?」
「お前はセラフィトとウィストの希望の灯だろう。お前がそれを背負わずして誰が背負う」

 言葉の重みを実感すると、涙が零れた。
 マナは誇りだと言っていた。それはきっと、主命を果たせる誇りだけではなくて、未来を繋ぐ希望の灯を守れる、そういう意味もあったのだろう。
 カイムやルトを寄越したのは、ロランが頼りない、それだけではないのだ。
 背負っているものは重い。その重圧に押しつぶされてしまう。そうならないように、レグルスとマリアベル、それぞれの腹心を側につけてくれた。
 ――きっと、そういうことだ。

「しかしなあ、余裕がなさすぎやしないか。ルトなどすぐ俺に気が付いたぞ。マナ女史も気が付いていたようだし」

 対面したお前が一番に気が付くと思ったんだがな、とレグルスは苦笑した。

「……辛い思いをさせて、すまないな」
「本当に、ふざけてるよ……」
「ふざけてるついでに、これを渡しておく」

 レグルスは懐から古びた手帳と魔石を取り出すと、ロランへ渡した。
 ロランは首を傾げつつ受け取る。

「何これ」
「枢機卿の手記だ。それであの生臭司教と交渉し、帝位に就くことを認めさせろ」
「……僕がやるの?」
「他に誰がいるんだ?」

 ――道は切り開くと言ったばかりなのに。
 思ったが、口を噤んだ。
 レグルスやマリアベルが無理矢理従えたのでは、帝位に就いた時に裏切られるかもしれないし、これはきっとロランがやるべきことなのだ。
 ……実質脅しのようなものだが。
 溜息をつくロランにレグルスはくつくつ笑った。

「そういうのはお前の得意分野だろうが」
「酷い。そんな風に思ってたの?」

 膨れるロランの頭を、レグルスはくしゃっと撫でた。

「酷いのはお互いさまだろうが」
 
 ロランはそこであっと声を上げた。 
 酷いの一言で思い出したのだ。

「兄様。グレイスも一緒に乗っているんだよ。……どうする?」
「……グレイス? まさか、ブラーヴ令嬢か!?」

 何故だ、と呟いて、途端に頭を抱えるレグルスにロランは吹き出した。少し意地悪をしたくなり、続ける。

「そうだよ。ずーっと兄様に会いたいって言い続けてるんだけど、呼んできていい? きっと今頃部屋に籠ってると思うからさ」
「……いや、うん。待て待て待て。そも、何故あのご令嬢が一緒なんだ?」
「だって、ウィストに置いてくると何しでかすか分からないし。セラフィト諸侯と話し合う時に居てくれると、話がまとまりやすいと思うんだよね。皆、グレイシアがブラーヴの姫だって知ってるから」
「まあ、一理あるか」
「それに、ずっとレグルス様はーって言い続けてるし。……はっきりさせないのは可哀想だよ」

 ――このまま飼殺されてしまうのは。
 その言葉を飲み込んで、ロランは動揺するレグルスを見つめた。

「抱いてあげれば? だって、これからも利用するんでしょう? それとも今更罪悪感が込み上げているの?」
「いや、グレイシアの為を想うのならば、もう閨を共にしない方がいい……」

 レグルスは思いのほかきっぱりと言い切った。
 それから重苦しい息を吐いて続ける。

「後で会いに行く。その時は彼女と二人きりにしてくれないか」
「分かった。流されないといいね、兄様」
「嫌なことを言うな……」
 
 ロランは肩の力を抜いて笑った。

「真面目な話、これから兄様どうするの? 今後も僕たちと行動する?」
「船を降りるまではな。あと一週間ほどでルークが帰還する。それに合わせて、俺もこのままセラフィトに入る。……表向きは父上の見舞いということにしてある」
「え!?」
 
 目を丸くするロランの肩をレグルスが軽く叩いた。

「そういうわけだ、暫くルトを返してもらうぞ」
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