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第4夜 竜の教団、白の聖女

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 その時、主が不在となった部屋で、ルトは机上に散らばる書類を整理していたところであった。
 没頭すると少々周囲のことが見えなくなり、身の回りが乱雑になりがちな主である。昨日も何やら夜更けまで起きていたようだし、遅い起床になるだろうと踏んで、洗面の準備もいつもよりのんびりと行った。
 それが、ルトが訪室するより早く起き、鉄砲玉の如く飛び出して行ったから驚きだ。
 凄い勢いで飛び出して行ったのだ。きっと何かあったのだろう。――出て行く際に罵倒されたが、聞かなかったことにしよう。そもそも何のことか分からない。
 そんなことをぼんやりと考えながら、整理整頓に勤しんでいると、部屋の扉がノックもなしに開かれた。
 レグルスが帰ってきたのである。

「あ、お帰りなさいませ。殿下」

 控えめに出迎えれば、彼の人は、ルトを黙って一瞥し、腕に掛けたタオルをすっと抜き取り手を拭いた。

(機嫌悪いなあ……)

 ルトの目には、そのときレグルスの周りに吹雪の幻影が映っていた。何故そのように凍てつく雰囲気を醸し出すのかは、触れないに限る。
 朝はどこか、恋焦がれるように出て行ったのに。むっつり帰ってきた主は、実に不機嫌そうに眉間の皺を深くして、仰々しくソファーに腰掛けた。
 いつもは表面上だけでも柔らかく繕っているのだが、今の眼光の鋭さといったら。声をかけようものならば、殺されるのではないか――大いにあり得ることでルトは身震いした。
 大体、最近レグルスの機嫌を左右しているものといえば、言わずもがな新妻関連のこと。ここまで極端に機嫌の振れ幅があると、何があったのか聞くのも憚られる。

(……かける言葉が見つからない)

 とりあえず、平素を保ち、お茶の準備を始めてみるものの――。

「……気に入らぬ」

 独り言にしては大きすぎた。苛立ったように机を指で叩く音に、ルトは思わず振り返る。
 触れない方が良いと分かっているが、この刺々しい雰囲気のままでいるのも苦痛である。 

「どうかされたので? そのように苛立って……」
「苛立ってなどいない」
「そうですか……?」

 頑なに言い張るものの、相変わらず険しい表情だ。

「マリアさ――奥方様と何かあったのですか?」
「……何だと?」

 マリア様、と言いかけたところでの、レグルスの形の良い双眸がすっと細まった。唇は薄く弧を描いているものの、眼光は冷酷だ。その流麗さも相まって、恐ろしいことこの上ない。
 戦場で敵に向けるのと同じ眼差しを受けて戦慄する。
 だがこの反応。何かあったのは明白だろう。
 普段は口数も少なく、表情の変化も乏しい女神様である。
 しかし、時折発せられる一言は深く心に突き刺さって、いつまでも残響するのだ。
 レグルスも、そんな彼女に影響されやすい。言葉一つで激しく気分が浮き沈みすることは、ここ数カ月でルトも学習済みであった。
 温かさの欠片もない視線でレグルスはルトを攻め立てた。

「お前、今魔女の名を呼んだな。何故だ」
「いえ、あの……奥方様と呼ぶのはやめてほしいと懇願されまして……。愛称で呼ぶようにと」

 ルトはそのまま、床に額を擦り付け平謝りしたい気分に襲われる。主に先駆けて、愛称呼びなどやはり罪悪感が募るばかりだったのだ。
 その場で殴られることを覚悟したが、次の瞬間、レグルスは何故か肩を揺らして笑いだす。笑いがおさまったところで、主の声が一段と冷たく低く響いた。

「随分、親しいのだな」
  
 この俺を差し置いて――
 そんな幻聴が後から続く。
 親しくしているつもりはない。ただ、美味しい紅茶の淹れ方を教えてほしいとお願いされ、ここ暫くお茶の時間はつきっきりだったのだ。
 そのうち、奥方様と呼ぶのをやめるようにと言われた。
 あれこれ考えているうちに、レグルスの表情が再び険しくなっていく。

「俺は……ここでもただの駒だったようだ」

 ルトは、はっと息を止める。
 祖国においてのレグルスの働きは素晴らしかった。軍人としても、皇子として外交、内政の手腕も申し分ない。何より駆け引きを得手とし、常に国の損害と利益を考え行動する様は、ルトの憧れでもあった。
 確かに強国の基盤を築いたのは、現皇帝、ラムザハードである。しかし、今の強国を支えるのは、実情、第三皇子によるところが大きい。――レグルスはあの国に必要不可欠な人材なのだ。
 そんなルトの認識とは別に、レグルスは常に捨て駒としてしか見られていないと嘆いていた。全てはこの目――魔力の低さ、咎人の裔を思わせる赤――のおかげ、皇子でありながらその実、所詮は捨て駒だと侮られていると。
 血統や魔力など無関係に、身内の欲目を差し引いてもレグルスは大変有能だし、優秀だった。
 だがルトがそう評価したところで、その影響は微々たるものだろう。何故ならば、レグルスが最も認められたい相手は、遙か高みのあのお方――皇帝に他ならない。
 何よりもレグルス自身を見込んで近づく者は希少だ。それが残念でならない。
 ただ、この国では違うのではないか。そんな期待に胸を膨らませた。
 奥方は偏狭な見方をしない。ありのままの――それこそ悪いところも良いところも――レグルスを見てくれるのではないか。会った時からそんな予感がしていたのだ。
 見誤ったのか?
 人を見る目はあると自負していた。
 
「奥方様がそのようなことを……」

 殿下にそんなことを申し上げるとは、奥方も怖いもの知らずにも程がある。
 恐る恐るレグルスの前へ紅茶のカップを差し出せば、ぎろりと鋭く睨まれる。

「はあ……図星ですか」
「お前は遠慮という言葉を知らぬのか」

 出された紅茶を口に含み、机の上に叩きつけるように置いたレグルスは、苛立たしげに足を組み替えた。長い脚に蹴り飛ばされそうになり、ルトは反射的に飛び退く。
 これは、相当怒っている。
 いつもならば、笑って流せるくらいの度量は持っている。むしろ、他の皇族から駒だ何だと侮られたところで、後まで引きずることなどなかったのに。
 ルトは何とか主を宥めようと、言葉を選ぶ。

「殿下が皇帝陛下以外の方から、影で駒扱いされているのはよくあることではありませんか!」
「……ルト。俺の足元へ膝をつけ。今すぐにだ」

 余計に機嫌を損ねる失態を犯しながらも、ルトはなお地雷を踏みぬこうと思案する。

(ここまで不機嫌になるなんて……よっぽど癪に触るような物言いだったんだろうな)

 皇帝以外の者に蔑ろにされても多少機嫌を損ねこそすれ、常はすぐに流す。
 それがいつまでも深く根に持って、部屋に帰ってきても荒れたまま。
 一体、奥方に何を言われたのか分からない。だが、それはレグルスが普段押し殺している自尊心と感情を傷つけた。
 大切な主を傷つけられては腹立たしいと同時に、駒扱いされたことに対する悲しみが湧いた。あの方ならば、公平に物事を見てくれる気がしていただけに、非常に遺憾である。

「殿下は、奥方様に認められたかった……うーん。しっくりこないな」
「何をぶつくさ言っている。さっさとこっちに来い」 

 レグルスの苛立ちは頂点に達したらしく、ルトの胸倉を掴もうと既に腰を上げたその時である。
 そんな状況にありながら、ルトは思ったままを口走る。

「ああ。対等でありたいと願っているのですね……だから、駒のような扱いをされて、傷ついたのでしょう。で、機嫌が最悪な状態で戻ってきたというわけですか」

 満面の笑みでそう言えば、ソファーから浮きかかっていた腰を下ろし、レグルスは虚を突かれたような表情で、ルトをまじまじと眺めた。
 
「え、俺の顔に何かついてます?」
「傷ついた? 俺が?」
「はい」

 確信を持って頷けば、レグルスは怪訝そうに眉をひそめた。

「俺の心が読めるのか?」
「まさか。心など読めなくても、例え言葉がなくたって……そう。殿下のことは、何でも分かります。ずっとお傍におりますから」
「本能によるものか。さすが犬っころだな」

 レグルスの呟きに首をかしげていると、主はふと目を眇めた。

「時々、お前のその察しの良さには恐れすら覚えるよ」

 ということは、ルトの考えは正しかったのだろう。
 無為にレグルスの傍に仕えていないのだ。ルトは、誰よりも主を理解しているつもりである。
 レグルスはため息をつき、ソファーへと身体を沈ませる。

「側室のところへ、通えと促された」

(何だ、そんなことかあ。てっきり、正面きって捨て駒呼ばわりされたのかと……えっ?)
 
 正妃が側女の管理を行うのは当然のことである。政略的な意味あって、婚姻を結んだ姫であれば尚更。
 今のレグルスの環境は、作為的に築かれた。
 わざわざ一夫多妻の禁忌を犯してまで、帝国から側室を呼び寄せたのである。流石のルトも、殿下が好色だからの一言で片づけて良いものではないと悟った。
 レグルスは義務として通わなければならない。帝国でもそうであったように。側女を手元で管理できるならば、こちらとしても損はない。まあ、祖国にしてみればある意味手痛い人選ではあったが。
 それを促されただけ。
 そんなことで、苛立ち、不機嫌になったという。

(いつもなら、促される間もなく通っていたところ。殿下の意思を全く無視しての発言が、気に入らなかったとか?)

 一瞬の間をおいて、ルトは返答に窮する。

「そう言えば最近ご無沙汰でしたね。まあ、日々忙殺されていますし、執務漬けで気分が高揚するようなこともありませんからねえ」

 レグルスは素直に頷く。そのまま俯き、組んだ両手の上へ頭を乗せた。

「彼女の言いたいことは良く分かる。確かにどちらも、不利益は被らんのだろうさ。だからといって、正室たる彼女が、他の女を率先して勧めるのはおかしいのではないか。何も思わないのか? 仮にも夫だぞ。しかも生涯たった一人の伴侶だ。その男に対して、他の女へ偽りの愛を囁いてでも繋ぎとめよとか言われてみろ。それでいて俺ばかり冷淡とか一方的に言われて、意味が分からない上に、心が折れる。だが、何だろう。それなのに何故か清々しかったかな。そこまで国のことを優先して考えられるあの方は強かすぎる。だがあの方自身の気持ちではないというか……。あの涙を見た後で聞くと、貴女は本当はどう考えているのかと、問い質したくなる……むしろ、俺はそんな我が君を繋ぎとめていなくても良いのか? これ以上どう接したら我が君は俺に心を開いてくれる? 俺は彼女にとって何なのだ? ――そうさ、飾りなんだろうさ。俺が最初思っていたように、彼女も俺のことを飾りだと思ってる。飾りならまだいいか……ただの、性欲に塗れた低俗な塵だと思われているかもしれないしな。全く、気に入らない女だ。だからか……目が離せない」

 息継ぎもそこそこに、暗く、滔々とうとうと思いの丈を吐露しだす主を、ルトは口を半開きにして、暫し茫然と眺めていた。
 一人の女にここまでの感情を抱いたことが、これまであろうか?
 常は、とっかえひっかえ女を抱く主だ。寵妃はこれまでに何度変わったことか。
 女は全てレグルスを束縛するだけの存在であった。どの女性にも等しく、甘く優しく接しているが、実際彼が女性に抱いているのは、都合のよい幻想ではない。
 もっと、深くて、どろどろとしたもの。
 しかし、あの奥方ときたら。
 清廉潔白。
 そんな言葉がしっくりくるほど、私利私欲とは無縁である。レグルスの隣に立っていると、その清らかな雰囲気があまりにも眩しく、しかし意外にもお似合いだと思わずにいられない。
 レグルスの周囲には集わなかった類の女性である。だからといって、いつも冷静さを装う主がここまで揺さぶられるのも不思議ではあるが。
 それにしても、奥方が絡むと感情の起伏が激しすぎる。
 ――全てを笑って躱すレグルスは死んだのか。
 ルトは、咄嗟の言葉が出てこなかった。

「殿下……。そう気落ちなさらないでください」
「誰が落ち込んでいると言った! ただ……俺と我が君の間には、超えられない大きな壁があるというのが気に入らないだけだ!」
「壁は気のせいです。大体、そんな壁は乗り越えるなり、壊せばよいだけの話です」
「簡単に壊せるような壁だと思うのか? 聳え立つのは仮にも魔女の壁だ。乗り越えるには高くて、壊すには強固すぎる……。俺の一体何が足りない?」
「足りないことはありません。殿下はそのままで十分魅力的でいらっしゃいますよ! 男の俺でも時々見惚れてしまいますし、憧れてしまいますから」
 
 珍しく弱気な主に、戸惑いながらも励ましを送る。だが、ルトには主の足りないところが何かよく分かっていた。

(肝心なところで圧倒的に言葉が足りない上、変なところで及び腰だからなあ……。どうでもいいところでは口が回るのに。殿下自身だって、馬鹿馬鹿しいとは思っているだろうあの寒い愛の言葉は、どうにかならないものか。……で、要するに。殿下は奥方様が愛しくて仕方ないのに、つれなくされて落ち込んでいるということですか。……ああ、おいたわしや)
 
 そう思えど、口に出せばレグルスはきっと逆上するだろう。ルトは賢明にも、黙って続きを促した。

「というわけで、正直、側室のところへ通うのは気が進まぬ……今の気持ちのまま会ったとて虚無になるだけだ。正妻ひとり抱けない男が……他の女を代りに抱くなど」
「言いなりになりたくない、と?」
「まあ、有り体に言えばそんなところだな」

 ルトは、最近ようやくレグルスと奥方が未だ閨を共にしていないことを知った。
 最初はまさかと思ったのだが、本当らしい。初夜の後、しばらく機嫌が悪かったのも頷ける。質素なドレスの下に隠された柔肌の部分には、触れることすらできなかったのだ。
 どうでもよいと思う女は山ほど寄ってくるのに、肝心の奥方がつれない。
 レグルスが心身を求めるのはただ一人なのだろう。それ以外は、きっと今の主の目には入らない。 
 複雑そうな表情を浮かべて、レグルスはそのまま続ける。

「時々、分からなくなる。何故俺はここで、こんなに必死になってこの国を立て直そうとしているのか。何の見返りも望めないのに。祖国のためか、それとも、別の何かのためか……」

 ルトは、柳眉を寄せ悩むレグルスへかける言葉が見つからなかった。
 結局何だかんだといいつつも祖国のことが大切なのだろうし、妻たる大公を憎からず思っている。つまり、その両者からの称賛を少なからず期待しているのだ。
 奥方も、酷なことを殿下へと言ったものだ。
 ルトが思うに、悪気なしであったに違いない。そこがまた厄介である。
 悪意たっぷりで高飛車に、側室の元へ通えと命じられるならともかく。あの方のこと、ただ静かに殿下へ告げたに違いないのだ。レグルスの言うようにその考えは不明瞭だし、踏み込むには畏れ多い。

「殿下……」

 言いかけて、口を噤む。
 ルトが答えを与えても、きっとそれは意味のないことなのだ。他ならぬ、レグルス自身が気付いた方が良い。

「しかし、ご命令を無視するわけにもいかぬか。この国に属する者として、愛妾へ尻尾を振るなど造作もないこと。愛しい我が君のため、尽くしてやろうではないか!」

 ルトは頷いた。
 ただ、レグルスの想いがあの方に届いて欲しいと願うばかりだった。



 ◇

 離宮は大公家が娘ーー公女の為に用意したものだ。緑の溢れる景色と水面鏡に映る白亜の宮殿は、年頃の娘であれば誰もが一度は憧れる。
 現在、離宮の主はレグルスの側室達である。彼女達には、大公からそれぞれ部屋が与えられている。大公がそこまで夫の側室に心を砕く理由は未だ不明で、城で働く者達も首を傾げていた。
 側室を養うのは、大公ではなくてレグルスであるため、誰も表立って咎めないが、正直良い気分ではない。
 その離宮の一室、白百合の間に、とある報せが舞い込んだ。

「殿下が、本日お渡りになられます」
「本当なの?」
「はい」

 鏡台の前に座り、黒髪を梳かしていたオリヴィアは、声を弾ませた。
 近頃、久しく渡りの報せはなかったが、それは他の側室も同じこと。先駆けて、オリヴィアにその報せがきたことに、彼女は並ならぬ優越感と幸福感で、口角が自然と上がる。
 巷では、グレイシアこそが寵妃だと囁かれているらしいが、あの女は家が帝国軍事に精通するからこそ目をかけられているだけだ。
 彼女自身はまだ若く、世間知らずのお姫様。茶会では毎回、綺麗なドレスや装飾品、流行ものの話題しか振らない、ただの小娘である。どうせ、殿下相手にも同じ調子で話しているのだろう。若さと美貌だけが売りの年下の側室を、オリヴィアは内心見下していた。
 しかし、殿下の渡りが最も多いのは、悔しいことにグレイシアなのだ。所詮、オリヴィアは辺境伯の娘。その身分はグレイシアには遠く及ばない。
 オリヴィアは、側室の中でも古参である。
 所領は南の辺境で、帝都とはほど遠い地域の生まれである。
 故に、貴族といえど帝都へ赴いたのは数えるほどしかない。
 むしろ、ファーレンの首都の方が近く、かの国の貴族や商人との交流の方が盛んだった。
 ファーレンは、情報量が豊かな国である。
 中立国だからこそなのか、とにかく他国の情報にも精通するものが多い。殿下も他国の情報を求めることがあるため、オリヴィアも、新しい情報はないかと、常に神経を張り巡らせていた。
 殿下のお役に立てるのであれば本望だ。
 ――レグルスのことを愛している。
 逞しい腕の中に囲い、愛の言葉を囁いてくださる。
 秀麗なお顔と、男の色香を纏った身体。
 彼に抱かれ、交わる度に女としての悦びを知っていく。
 痩せ細り、肉つきの少ない胸や尻も彼に抱かれるまで劣等感に苛まれていた。胸の大きなグレイシアが側室になったので尚更だった。だが、細い身体も好きだと囁いてくれるから、今では体型を気にしなくなった。
 緑がかった黒髪も、ファーレン人との混血を示すようで好きではなかった。
 それを鴉の羽のようで美しいと褒めてくださる。
 少し低い鼻も、女にしては少々大きな身体も、殿下が全て肯定してくださるのだ。
 過ごす時間はいつも夢のようだった。
 近頃は、お顔も拝見していないが、今宵ついに会えると思うとオリヴィアは年甲斐もなくときめいた。

「何か殿下へお渡しする、良い情報はないかしら?」
「そうですね……大陸では、戦争が収束しているとか」
「そんなこと、殿下のことですもの。とっくにお耳に挟んでいらっしゃるでしょう? もっと、目新しい情報よ」

 オリヴィアは、何とかレグルスの気を引こうと新たな情報を求める。
 それに答えたのは、ひとりの侍女であった。

「ではこれはいかがでしょう?」
「何? 言ってごらんなさい」
「現大公ご一族は、もれなく第二皇子に皆殺しにされたことは、ご存じですよね」
「ええ、もちろんよ」

 それくらいの情報、知っていて当然である。舐めてもらっては困ると憤慨したオリヴィアに、彼女は続ける。

「大公陛下には、兄君がいらっしゃった。公子は、丁度第二皇子殿下が首都侵攻なさっている間、西領へ視察に赴いていたらしいのですわ」
「じゃあ、ルーク殿下はわざわざ西領まで向かったの?」
「まさか、そのような記録はございません。ですが公子の死亡は伝えられているし、死体も残っていたそうなのです。顔の確認はしなかったようですが……」
「……まさか」

 オリヴィアは、侍女が言わんとしていることの可能性に気付き、青ざめた。

「はい、そのまさかです。公子セドリックが、生きているかもしれないと。今でも、妹――大公と手紙のやり取りをしているとか、していないとか」
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