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第2夜 婚姻
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ウィスト公国の首都ブルームに最も近い港に到着したのは、帝国を発ってから丁度十二日目の夕刻のことだった。
港は珊瑚の入り江と繋がっており、その先には国の入り口となっている巨大な白い水門が構えられている。その水門だけは戦時中にあっても破壊されることなく、壮麗と聳え立っていたという。西日を浴びて茜色に染まるその門の美しさと、技術の素晴らしさにレグルスは感嘆した。
ルトを伴って甲板に上がると、太陽が西の水平線上に沈んでゆくところで、金色の道が海の向こうへ伸びている。空は橙から濃い群青へと色調が移り、黄金に染まる雲の群れが果てまで続いていた。
このような美しい場所を、攻めて、燃やして、蹂躙したのだ。そう思うと胸から苦いものがせり上がってくる。
(これは恨まれても、当然だな……)
「ここからだと、丘の上に立つジェンシアナ城が丁度正面に見えるんですね。夕焼けに染まって綺麗です」
(何を呑気な……)
歓声を上げるルトを諌めようと振り返ると、マリアベルがルトのすぐ隣に立っていた。金色に溶ける景色の中で、マリアベルの静かに佇む姿だけが浮き立つようであり、景色の美しさよりも、レグルスは珍しく哀愁を滲ませる彼女から目が離せない。
マリアベルは、死線を潜り抜けてきた一軍人のルトが気づかぬほど静かに、前方の丘陵に聳えるジェンシアナ城を眺めていた。白い城壁が金に色づき、息を呑むほどに美しいかの城を、一体どのような心境で眺めているのだろうか。
長い睫毛が揺れる。
一瞬、その潤んだ青い目から涙が零れ落ちるのではないかと期待したが、彼女が泣くことはなかった。
やはり魔女の自制心は常軌を逸している。
ルトはレグルスの視線の先にあるものに気付き、何を思ってか口元に手を添えてその場からひっそりと離れた。
彼女は独りになった。
いつも影の如く控える護衛達も、今は帰還の準備で手一杯の様子で忙しく走り回っている。
一人佇む彼女に近寄ると、レグルスはできるだけ柔らかく微笑んで声をかけた。
「長旅でお疲れでしょう。ようやく、ウィスト公国へと戻ってこられましたね」
「……そうですね。懐かしい香りがします」
ウィストの首都ブルームは、港から馬車で一日ほどの距離にある。あと一日で、マリアベルは名実ともにレグルスの妻となるのだ。そう思うと、足元が浮ついた感じになる。
そんなレグルスとは対照的に、マリアベルは実に険しい表情を浮かべている。これから戦いに赴く者のような目で港の桟橋を見据えていた。
無理もない。
ブルームとへ近づくということは、彼女が帝国の足枷を嵌められることに他ならない。念願の帰郷と言えども、手放しに喜べないのが実情であろう。
レグルスはそっと溜息をつき、困ったような笑みを浮かべた。
「あまり、嬉しそうではありませんね……。私と結婚されるのを厭われておいでですか?」
愛のない婚姻。それも、自国の存亡をかけた婚姻とはいえ相手は敵である帝国の皇子である。自嘲したいのを必死に抑え、レグルスは切なさを伴った笑みを保つ。
(厭っているのは、俺も同じだがな)
マリアベルは前方へ顔を向けたまま、静かに返す。
「答えを知りながら、敢えて問いかけてくるのですか?」
「あなたの口から、一度も帝国への呪いの言葉を聞いたことがなかったので、つい。お許しください」
「なるほど。たとえ気持ちを表す方法が言葉だけではなくとも、思いは口にせねば伝わりませんからね」
マリアベルはレグルスへと向き直った。宝珠のように輝く青がレグルスを射る。虚偽に塗れた笑みさえも、その真っ直ぐな眼差しの前では無効となりそうで、レグルスの心臓は早鐘を打つ。
レグルスが一人の女に縛りつけられる結婚を憎んでいることも、魔女を嫌っていることも既に見通されているのではと思うと、全身に緊張が走った。
「厭わしくないと言えば、嘘になります」
「それでもなお、私と結婚すると?」
レグルスは、少し傷ついた目でマリアベルを見つめた。マリアベルはその些細な変化を見抜いたのか一瞬瞠目し、しかしすぐに元の涼やかな視線で返す。
「この結婚に、個人の感情など必要ありません。あなたならばわかるでしょう。レグルス殿。国を守るのは、為政者の務め。わたくしにはその責務があります」
「……あなたは、本当にお強い方なのですね」
そこまで自分を殺して、国を思えるものなのか。
自己犠牲と言えば聞こえが良いが、それは本当に祖国を思ってのものなのか。今では氷のように心を閉ざす魔女が、それほど熱い思いを抱いていたとは到底思えない。
しかし、彼女が嘘をついているとは思えないのも事実。
「そんなあなたを妻に迎えられるとは光栄至極。愛しい我が君のために、国の復興に尽力いたしましょう」
女への甘言は慣れている。褥の中で幾多も偽りの愛を囁き、心酔させては都合よく扱ってきた。尤も、マリアベルがレグルスに溺れるとも思えないが、仮にそうなればさぞや快感だろう。
流石に今のは芝居がかった台詞であったか――レグルスは内心苦笑を禁じ得ない。失笑されるかと思いきや、顔色一つ変えずに彼女はただ淡々と返した。
「そのお心遣いに感謝します」
臭い台詞も流されれば切ないものがある。レグルスは寂しげに笑ってみせた。
「つれないお方だ。私は心から、あなたへの愛と忠誠を誓いますのに」
「レグルス殿は饒舌ですね。共にいて退屈しそうにありません。その調子で皆を楽しませていただけると幸いでございます」
言葉とは裏腹に、マリアベルの目は笑っておらず、レグルスの内心を探るような澄んだ光を湛えている。さすがの魔女も心は読めないと知ってはいても、胸が震える。手の内を知られぬように、笑みをさらに深め、甘い声で囁いた。
「いいえ、私の可愛い人。私が道化を演じるのは、ただ一人……我が君の前でのみ。あなたの愛らしい笑みを見たいがために、私はいくらでも道化になりましょう」
マリアベルを完全に手中に収めるまでは、偽の愛でも忠誠でも誓う覚悟はできている。道化だと後ろ指を指されて嘲笑されようと、最終的に己の思い通りとなれば良いのだ。
どんなに鉄壁の鎧で心を覆うとも、いずれは絆されこの手に落ちるとレグルスは踏んでいた。魔女と言えども人の子である。今まで籠絡できなかった女はいないという自負を持って、レグルスはひたすら優しく微笑んだ。
「あなたがどう思われようと、私は我が君を心より愛しておりますゆえ」
「さすがは、御兄弟ですね。第四皇子殿下からも先ほど同じような文句を捧げられました」
(またロランか。何を言ったんだ……)
レグルスは内心舌打ちをし、夕陽に映えるジェンシアナ城を眺め、ルトに用意させた白いテーブルの前に腰かけて優雅にティータイムを満喫しているロランを睨んだ。
あれほど失礼なことをするなと釘をさしたにもかかわらず、ロランは美しい義姉に相手をしてもらいたくて仕方ないらしい。素気無くあしらわれても、めげることなく話しかけ続けていたのだ。
「あれは、まだ子どもですから……無邪気で可愛いものでしょう?」
「そうですね。女性慣れしているのかと思いきや、お菓子を差し上げたら手放しで喜んでおられましたから」
(散々魔女に付き纏って得られたものがそれか。しかも、菓子を貰って喜んだとは……)
そう言えば近頃すこぶる機嫌が良かったのはそのせいかと思うと、微笑ましくなってくる。どんなに大人びた風を装っても、中身は子どもである。
時に毒気を孕むものの、その無邪気な魅力で魔女を陥落させるはずが、逆に手なずけられてしまったらしく自然と笑みが零れた。
レグルスは弟皇子のその無邪気さが可愛くて仕方ない。憎めないし、つい贔屓してしまう。もしも皇子間で皇位を争うような事態になれば、レグルスはロラン側に付くと心に固く誓っている。
「……自然と笑うこともできるのですね。わたくしは、そちらの笑顔のほうが好きです」
マリアベルが何か呟いたが、それは船の汽笛の音と風の音にかき消される。
「何か――」
聞き返そうとした時。
黄昏の中、港から中央広場まで点状に連なる白い灯りの列が、薄闇に溶ける景色の中で浮かび上がった。事前の連絡を取っていた者達が揃って出迎えたのだ。
「……参りましょう、レグルス殿」
「……ええ、我が君」
そのままマリアベルの一歩前に進み出て微笑み、レグルスは腕を差し出した。
「暗がりは危険ですので。御手を……」
「ありがとうございます」
マリアベルの白い手が控えめに添えられる。冷たいその手に触れられた部分だけが、やけに熱を帯びていき、レグルスは不思議な気分に陥った。
そう言えば、彼女から触れられたのは、初めてなのだと気づく。
(……だから、どうしたというのだ)
その顔の笑みをより一層深め、レグルスは魔女を伴って段差へと足を踏み出す。
下船し桟橋を渡ると、隊列の中央に立っていた、青い竜胆の紋章が入った銀の鎧に身を包んだ男が進み出る。彼がマリアベルの前に跪き、深く頭を垂れると後ろに控える兵がそれに追従した。
「本来でしたら、どこへなりと我々が直々にお迎えにあがるべきでございました。それさえ叶わなかったことを、お許しください」
「……いいえ。あなた方には苦労をかけました」
マリアベルは一瞬、その青い瞳を揺らして声を詰まらせた。
(謝罪の言葉は無し、か)
魔女がきっかけとなりウィストは戦禍に包まれた。
早々に名乗りをあげれば大公家や国に害が及ぶことはなかったかもしれない。しかし一度それは口にしてはならぬ。それは魔女を守るため命をかけて戦ったもの達を否定し、侮辱することになる。大公の娘として、白の魔女と呼ばれる者としてあらねばならぬ。民の望むように気高くあらねば。
縋るようにレグルスの腕をきつく掴んだマリアベルにレグルスはつい動揺した。見ればその指先は小刻みに震えている。
重い沈黙がその場を支配し始めた時。マリアベルの後から降りたマナが、含み笑いを湛えて言った。
「やっとこの陰気な船旅ともおさらばできますのね。本来であれば、これほど時間をかけずとも、魔術師団の団長があたくし達を召喚すればよい話でしたけれど……。まあ、仕方ありませんわね。レグリアス殿下もいたことですし」
「レグルスです、レグルス殿下です!」
マナは間髪いれず訂正をしたルトに、澄ました顔で言い返す。
「あら、細かいことを気にする方ですのね。犬っころの分際で。飼い主の躾がなっておりませんわね、殿下」
「……犬? それ、俺のこと……?」
「あら、他に誰かいたかしら? 犬と言えばエリカとあなたくらいしか思い当たらなくてよ。よく似ていますものね、あなた方。ともあれ、騎士団長殿、出迎え御苦労でした」
「マ、マナ女史……! な、何故姫様とご一緒に……」
彼らは一瞬だけ顔を上げてマナの姿を認識すると、目に見えて狼狽し、呻き声をあげる。堅物そうな彼らもやはりこのマナに苦手意識を持っているのかと思うと、少し安心する。
マナは額から冷や汗を滲ませて俯く彼らを見下ろして微笑んだ。
「あら。つい先ほどご連絡を差し上げたでしょう? 何を今更驚いておりますの? ……しかし、せっかく主君の御帰還だというのに、あなた方ときたら、揃いも揃ってまあ辛気臭い顔だこと。世の不幸を一身に背負ったような顔で姫様を出迎えるなんて、ウィストの民として恥ずかしくありませんの? まずは姫様の無事を喜ぶべきでしょうに。民の為に国に尽くそうとしてくださる方がいることを、幸せに思わなくてはなりません。不幸であると嘆く暇があるのなら、姫様に誠心誠意お仕えなさいな。その御覚悟がいかほどのものか、分からないとは言わせませんわよ」
「マナ、小言もほどほどに。あなたから言われると、みな恐縮してしまいますから」
マリアベルは滔々と説教をするマナを諌めると、頭を垂れたままの一団に言葉をかけた。
「さあ、顔をあげてください。前を向かねば、わたくしのことを守ることはできませんよ」
「……はっ!」
彼らは敬愛と畏怖と崇拝の入り混じった眼差しでマリアベルを見上げ、再度深く頭を垂れてから立ちあがった。その様子を見下ろすマナは、夕闇に染まる空に向かって高笑いをする。
「まあ、やはり女神のお言葉は違いますわね。さすがあたくしの姫様ですわ」
「マナ……戯れに皆を困らせないでください」
マリアベルはマナの奔放さに苦笑いを浮かべた。
◇
マナの事前の連絡調整により、騎士団、魔術師団に護衛され、安全な進路を取る手はずとなっていた。
港からブルームへは緩い勾配の坂道を通って行く。首都へ至るには最短の街道であり、人通りも多い。夜の差し迫る刻限は人影も少ないが、それでも他の道に比べると灯りも多く安全だ。治安維持のためにレグルス直属の部下に命じて警備隊を組織させてある。
他区域では、強盗や殺傷事件が続いている。本土へと帰還しそびれた帝国兵の残党が通行人を襲うのだ。よって、たとえ警備兵が睨みをきかせた街道とはいえ、治安が良いとは言い切れない。
馬車には帝国の紋章が入っている。襲うような愚者はいないだろうが、現地民となると話は別だ。報告によると、やはり恨みの感情は根強くある。いつ暴動が起きても不思議ではないと言う。
ともあれ、殺気の滲む視線に刺されながら、レグルス一行は順調に首都ブルーム入りしたのであった。
馬車から降りて、マリアベルの乗る馬車へと向かうと、中からすすり泣きが聞こえてきた。
レグルスは額を抑えた。
(今更泣くのか? 俺の前ではあれから泣きもしなかったくせに)
そう考えると何故か苛立ってきて、無意識に組んだ腕を指で規則正しく刻む。
声をかける機を図っていたところ、女のか細い声が上がり、レグルスは僅かな隙間から馬車の中を覗き込んだ。
泣いているのはどうやらマリアベルではないようだ。そのことに胸を撫で下ろし、そのまま様子を伺う。
「もうすぐですね、姫様。ジェンシアナ城に着いたら……」
ひとりの小柄な少女が、マリアベルに寄り添うように座っていた。
少女はマナとよく似た顔立ちであったが、そこに鋭利さはなく、気弱そうな印象を受けた。
さめざめと泣く少女の肩にマリアベルが触れる。
「エリカ、顔を上げなさい」
「申し訳ありません……ですが!」
「わたくしは、大丈夫ですから」
耐えきれなかったのか、侍女のエリカは躊躇いもせずマリアベルの柔らかな胸に飛び込む。マリアベルは優しく彼女を抱擁し、背中をとんとん、と叩いた。
しばらくして嗚咽が漏れだした。涙に濡れた顔を上げ、エリカはマリアベルに問う。
「姫様は、あの皇子と本当に結婚されるのですか?」
「殿下との結婚はウィストを建て直すためには不可欠なのですよ」
静かに、聞き分けのない幼子に話すように。マリアベルは優しく諭した。
「そこに、たとえ憎しみしかなくとも、ですか……?」
「ええ……」
「そんな、嫌です……! 姫様の幸せを第一に考えて参りました。いつかウィル様の隣で幸せに微笑む姫様の未来を夢見て、皆、姫様に……!」
(ウィル……誰だ?)
幸せに微笑むというからには、恐らく魔女が恋情を抱いた相手なのか。
しかし、魔女がその男と結ばれることは永遠にないのだ。そう思うと、底から優越感が這い上がってくる。魔女は永遠に、この国に囚われ自由になることはない。
レグルスは口の端を釣り上げ、酷薄な笑みを浮かべた。
(残念だったな。お前は一生、偽りの愛に囚われる運命なのだ。せいぜい今のうちに嘆いていろ)
魔女は涙をこぼす侍女の頬を優しく包み込み、濡れたその肌をそっとぬぐう。
「一族の末裔も、今ではわたくし一人となってしまいました。国を守るのが為政者の務め。分かるわね、エリカ」
「ですが……姫様自身の幸せはどうなるのですか! 一生を国に縛られて生きるおつもりなのですか!」
「一生縛られるかもしれない。でも、それでいいのですよ。それは大公家に生まれた瞬間に定められたこと。何より、この婚姻は国を強固にする。相手が誰であろうと、国の為に縁を結ぶだけです。大丈夫、わたくしは幸せですよ。大公としてのわたくしの幸せ、個人としてのわたくしの幸せ、どれも同じ、わたくし自身の幸せだからです」
思いもよらない優しい口調で語られたマリアベルの気持ちに、レグルスは不覚にも笑った。
彼女は一人の女としてレグルスに向かい合うのではない、あくまでもいち取引相手にすぎないのだ。
誰と結婚しようと、同じ言葉を恐らく繰り返す。
その覚悟も、心意気も、本物なのだ。
(面白い女だな)
結婚相手にはちょうど良い。
そんな魔女を、これからゆっくり己に溺れさせてゆくのも楽しかろう。
(互いに激しい憎しみを抱えての仮面夫婦か……)
レグルスは心の中で笑った。
「我が君、よろしいでしょうか?」
機を図り馬車の扉を開ける。
マリアベルは、元の静かな表情に戻っていた。その切り替えの速さには、舌を巻くほどだ。
「参りましょう。私たちの、愛の城へ……」
恭しく胸に手を当てて礼をし、マリアベルへと手を差し出す。これくらいの道化にならば、いくらでもなってみせる。
「ええ、レグルス殿」
マリアベルはただ静かに返した。そこはせめて笑ってほしかったとレグルスは思った。
港は珊瑚の入り江と繋がっており、その先には国の入り口となっている巨大な白い水門が構えられている。その水門だけは戦時中にあっても破壊されることなく、壮麗と聳え立っていたという。西日を浴びて茜色に染まるその門の美しさと、技術の素晴らしさにレグルスは感嘆した。
ルトを伴って甲板に上がると、太陽が西の水平線上に沈んでゆくところで、金色の道が海の向こうへ伸びている。空は橙から濃い群青へと色調が移り、黄金に染まる雲の群れが果てまで続いていた。
このような美しい場所を、攻めて、燃やして、蹂躙したのだ。そう思うと胸から苦いものがせり上がってくる。
(これは恨まれても、当然だな……)
「ここからだと、丘の上に立つジェンシアナ城が丁度正面に見えるんですね。夕焼けに染まって綺麗です」
(何を呑気な……)
歓声を上げるルトを諌めようと振り返ると、マリアベルがルトのすぐ隣に立っていた。金色に溶ける景色の中で、マリアベルの静かに佇む姿だけが浮き立つようであり、景色の美しさよりも、レグルスは珍しく哀愁を滲ませる彼女から目が離せない。
マリアベルは、死線を潜り抜けてきた一軍人のルトが気づかぬほど静かに、前方の丘陵に聳えるジェンシアナ城を眺めていた。白い城壁が金に色づき、息を呑むほどに美しいかの城を、一体どのような心境で眺めているのだろうか。
長い睫毛が揺れる。
一瞬、その潤んだ青い目から涙が零れ落ちるのではないかと期待したが、彼女が泣くことはなかった。
やはり魔女の自制心は常軌を逸している。
ルトはレグルスの視線の先にあるものに気付き、何を思ってか口元に手を添えてその場からひっそりと離れた。
彼女は独りになった。
いつも影の如く控える護衛達も、今は帰還の準備で手一杯の様子で忙しく走り回っている。
一人佇む彼女に近寄ると、レグルスはできるだけ柔らかく微笑んで声をかけた。
「長旅でお疲れでしょう。ようやく、ウィスト公国へと戻ってこられましたね」
「……そうですね。懐かしい香りがします」
ウィストの首都ブルームは、港から馬車で一日ほどの距離にある。あと一日で、マリアベルは名実ともにレグルスの妻となるのだ。そう思うと、足元が浮ついた感じになる。
そんなレグルスとは対照的に、マリアベルは実に険しい表情を浮かべている。これから戦いに赴く者のような目で港の桟橋を見据えていた。
無理もない。
ブルームとへ近づくということは、彼女が帝国の足枷を嵌められることに他ならない。念願の帰郷と言えども、手放しに喜べないのが実情であろう。
レグルスはそっと溜息をつき、困ったような笑みを浮かべた。
「あまり、嬉しそうではありませんね……。私と結婚されるのを厭われておいでですか?」
愛のない婚姻。それも、自国の存亡をかけた婚姻とはいえ相手は敵である帝国の皇子である。自嘲したいのを必死に抑え、レグルスは切なさを伴った笑みを保つ。
(厭っているのは、俺も同じだがな)
マリアベルは前方へ顔を向けたまま、静かに返す。
「答えを知りながら、敢えて問いかけてくるのですか?」
「あなたの口から、一度も帝国への呪いの言葉を聞いたことがなかったので、つい。お許しください」
「なるほど。たとえ気持ちを表す方法が言葉だけではなくとも、思いは口にせねば伝わりませんからね」
マリアベルはレグルスへと向き直った。宝珠のように輝く青がレグルスを射る。虚偽に塗れた笑みさえも、その真っ直ぐな眼差しの前では無効となりそうで、レグルスの心臓は早鐘を打つ。
レグルスが一人の女に縛りつけられる結婚を憎んでいることも、魔女を嫌っていることも既に見通されているのではと思うと、全身に緊張が走った。
「厭わしくないと言えば、嘘になります」
「それでもなお、私と結婚すると?」
レグルスは、少し傷ついた目でマリアベルを見つめた。マリアベルはその些細な変化を見抜いたのか一瞬瞠目し、しかしすぐに元の涼やかな視線で返す。
「この結婚に、個人の感情など必要ありません。あなたならばわかるでしょう。レグルス殿。国を守るのは、為政者の務め。わたくしにはその責務があります」
「……あなたは、本当にお強い方なのですね」
そこまで自分を殺して、国を思えるものなのか。
自己犠牲と言えば聞こえが良いが、それは本当に祖国を思ってのものなのか。今では氷のように心を閉ざす魔女が、それほど熱い思いを抱いていたとは到底思えない。
しかし、彼女が嘘をついているとは思えないのも事実。
「そんなあなたを妻に迎えられるとは光栄至極。愛しい我が君のために、国の復興に尽力いたしましょう」
女への甘言は慣れている。褥の中で幾多も偽りの愛を囁き、心酔させては都合よく扱ってきた。尤も、マリアベルがレグルスに溺れるとも思えないが、仮にそうなればさぞや快感だろう。
流石に今のは芝居がかった台詞であったか――レグルスは内心苦笑を禁じ得ない。失笑されるかと思いきや、顔色一つ変えずに彼女はただ淡々と返した。
「そのお心遣いに感謝します」
臭い台詞も流されれば切ないものがある。レグルスは寂しげに笑ってみせた。
「つれないお方だ。私は心から、あなたへの愛と忠誠を誓いますのに」
「レグルス殿は饒舌ですね。共にいて退屈しそうにありません。その調子で皆を楽しませていただけると幸いでございます」
言葉とは裏腹に、マリアベルの目は笑っておらず、レグルスの内心を探るような澄んだ光を湛えている。さすがの魔女も心は読めないと知ってはいても、胸が震える。手の内を知られぬように、笑みをさらに深め、甘い声で囁いた。
「いいえ、私の可愛い人。私が道化を演じるのは、ただ一人……我が君の前でのみ。あなたの愛らしい笑みを見たいがために、私はいくらでも道化になりましょう」
マリアベルを完全に手中に収めるまでは、偽の愛でも忠誠でも誓う覚悟はできている。道化だと後ろ指を指されて嘲笑されようと、最終的に己の思い通りとなれば良いのだ。
どんなに鉄壁の鎧で心を覆うとも、いずれは絆されこの手に落ちるとレグルスは踏んでいた。魔女と言えども人の子である。今まで籠絡できなかった女はいないという自負を持って、レグルスはひたすら優しく微笑んだ。
「あなたがどう思われようと、私は我が君を心より愛しておりますゆえ」
「さすがは、御兄弟ですね。第四皇子殿下からも先ほど同じような文句を捧げられました」
(またロランか。何を言ったんだ……)
レグルスは内心舌打ちをし、夕陽に映えるジェンシアナ城を眺め、ルトに用意させた白いテーブルの前に腰かけて優雅にティータイムを満喫しているロランを睨んだ。
あれほど失礼なことをするなと釘をさしたにもかかわらず、ロランは美しい義姉に相手をしてもらいたくて仕方ないらしい。素気無くあしらわれても、めげることなく話しかけ続けていたのだ。
「あれは、まだ子どもですから……無邪気で可愛いものでしょう?」
「そうですね。女性慣れしているのかと思いきや、お菓子を差し上げたら手放しで喜んでおられましたから」
(散々魔女に付き纏って得られたものがそれか。しかも、菓子を貰って喜んだとは……)
そう言えば近頃すこぶる機嫌が良かったのはそのせいかと思うと、微笑ましくなってくる。どんなに大人びた風を装っても、中身は子どもである。
時に毒気を孕むものの、その無邪気な魅力で魔女を陥落させるはずが、逆に手なずけられてしまったらしく自然と笑みが零れた。
レグルスは弟皇子のその無邪気さが可愛くて仕方ない。憎めないし、つい贔屓してしまう。もしも皇子間で皇位を争うような事態になれば、レグルスはロラン側に付くと心に固く誓っている。
「……自然と笑うこともできるのですね。わたくしは、そちらの笑顔のほうが好きです」
マリアベルが何か呟いたが、それは船の汽笛の音と風の音にかき消される。
「何か――」
聞き返そうとした時。
黄昏の中、港から中央広場まで点状に連なる白い灯りの列が、薄闇に溶ける景色の中で浮かび上がった。事前の連絡を取っていた者達が揃って出迎えたのだ。
「……参りましょう、レグルス殿」
「……ええ、我が君」
そのままマリアベルの一歩前に進み出て微笑み、レグルスは腕を差し出した。
「暗がりは危険ですので。御手を……」
「ありがとうございます」
マリアベルの白い手が控えめに添えられる。冷たいその手に触れられた部分だけが、やけに熱を帯びていき、レグルスは不思議な気分に陥った。
そう言えば、彼女から触れられたのは、初めてなのだと気づく。
(……だから、どうしたというのだ)
その顔の笑みをより一層深め、レグルスは魔女を伴って段差へと足を踏み出す。
下船し桟橋を渡ると、隊列の中央に立っていた、青い竜胆の紋章が入った銀の鎧に身を包んだ男が進み出る。彼がマリアベルの前に跪き、深く頭を垂れると後ろに控える兵がそれに追従した。
「本来でしたら、どこへなりと我々が直々にお迎えにあがるべきでございました。それさえ叶わなかったことを、お許しください」
「……いいえ。あなた方には苦労をかけました」
マリアベルは一瞬、その青い瞳を揺らして声を詰まらせた。
(謝罪の言葉は無し、か)
魔女がきっかけとなりウィストは戦禍に包まれた。
早々に名乗りをあげれば大公家や国に害が及ぶことはなかったかもしれない。しかし一度それは口にしてはならぬ。それは魔女を守るため命をかけて戦ったもの達を否定し、侮辱することになる。大公の娘として、白の魔女と呼ばれる者としてあらねばならぬ。民の望むように気高くあらねば。
縋るようにレグルスの腕をきつく掴んだマリアベルにレグルスはつい動揺した。見ればその指先は小刻みに震えている。
重い沈黙がその場を支配し始めた時。マリアベルの後から降りたマナが、含み笑いを湛えて言った。
「やっとこの陰気な船旅ともおさらばできますのね。本来であれば、これほど時間をかけずとも、魔術師団の団長があたくし達を召喚すればよい話でしたけれど……。まあ、仕方ありませんわね。レグリアス殿下もいたことですし」
「レグルスです、レグルス殿下です!」
マナは間髪いれず訂正をしたルトに、澄ました顔で言い返す。
「あら、細かいことを気にする方ですのね。犬っころの分際で。飼い主の躾がなっておりませんわね、殿下」
「……犬? それ、俺のこと……?」
「あら、他に誰かいたかしら? 犬と言えばエリカとあなたくらいしか思い当たらなくてよ。よく似ていますものね、あなた方。ともあれ、騎士団長殿、出迎え御苦労でした」
「マ、マナ女史……! な、何故姫様とご一緒に……」
彼らは一瞬だけ顔を上げてマナの姿を認識すると、目に見えて狼狽し、呻き声をあげる。堅物そうな彼らもやはりこのマナに苦手意識を持っているのかと思うと、少し安心する。
マナは額から冷や汗を滲ませて俯く彼らを見下ろして微笑んだ。
「あら。つい先ほどご連絡を差し上げたでしょう? 何を今更驚いておりますの? ……しかし、せっかく主君の御帰還だというのに、あなた方ときたら、揃いも揃ってまあ辛気臭い顔だこと。世の不幸を一身に背負ったような顔で姫様を出迎えるなんて、ウィストの民として恥ずかしくありませんの? まずは姫様の無事を喜ぶべきでしょうに。民の為に国に尽くそうとしてくださる方がいることを、幸せに思わなくてはなりません。不幸であると嘆く暇があるのなら、姫様に誠心誠意お仕えなさいな。その御覚悟がいかほどのものか、分からないとは言わせませんわよ」
「マナ、小言もほどほどに。あなたから言われると、みな恐縮してしまいますから」
マリアベルは滔々と説教をするマナを諌めると、頭を垂れたままの一団に言葉をかけた。
「さあ、顔をあげてください。前を向かねば、わたくしのことを守ることはできませんよ」
「……はっ!」
彼らは敬愛と畏怖と崇拝の入り混じった眼差しでマリアベルを見上げ、再度深く頭を垂れてから立ちあがった。その様子を見下ろすマナは、夕闇に染まる空に向かって高笑いをする。
「まあ、やはり女神のお言葉は違いますわね。さすがあたくしの姫様ですわ」
「マナ……戯れに皆を困らせないでください」
マリアベルはマナの奔放さに苦笑いを浮かべた。
◇
マナの事前の連絡調整により、騎士団、魔術師団に護衛され、安全な進路を取る手はずとなっていた。
港からブルームへは緩い勾配の坂道を通って行く。首都へ至るには最短の街道であり、人通りも多い。夜の差し迫る刻限は人影も少ないが、それでも他の道に比べると灯りも多く安全だ。治安維持のためにレグルス直属の部下に命じて警備隊を組織させてある。
他区域では、強盗や殺傷事件が続いている。本土へと帰還しそびれた帝国兵の残党が通行人を襲うのだ。よって、たとえ警備兵が睨みをきかせた街道とはいえ、治安が良いとは言い切れない。
馬車には帝国の紋章が入っている。襲うような愚者はいないだろうが、現地民となると話は別だ。報告によると、やはり恨みの感情は根強くある。いつ暴動が起きても不思議ではないと言う。
ともあれ、殺気の滲む視線に刺されながら、レグルス一行は順調に首都ブルーム入りしたのであった。
馬車から降りて、マリアベルの乗る馬車へと向かうと、中からすすり泣きが聞こえてきた。
レグルスは額を抑えた。
(今更泣くのか? 俺の前ではあれから泣きもしなかったくせに)
そう考えると何故か苛立ってきて、無意識に組んだ腕を指で規則正しく刻む。
声をかける機を図っていたところ、女のか細い声が上がり、レグルスは僅かな隙間から馬車の中を覗き込んだ。
泣いているのはどうやらマリアベルではないようだ。そのことに胸を撫で下ろし、そのまま様子を伺う。
「もうすぐですね、姫様。ジェンシアナ城に着いたら……」
ひとりの小柄な少女が、マリアベルに寄り添うように座っていた。
少女はマナとよく似た顔立ちであったが、そこに鋭利さはなく、気弱そうな印象を受けた。
さめざめと泣く少女の肩にマリアベルが触れる。
「エリカ、顔を上げなさい」
「申し訳ありません……ですが!」
「わたくしは、大丈夫ですから」
耐えきれなかったのか、侍女のエリカは躊躇いもせずマリアベルの柔らかな胸に飛び込む。マリアベルは優しく彼女を抱擁し、背中をとんとん、と叩いた。
しばらくして嗚咽が漏れだした。涙に濡れた顔を上げ、エリカはマリアベルに問う。
「姫様は、あの皇子と本当に結婚されるのですか?」
「殿下との結婚はウィストを建て直すためには不可欠なのですよ」
静かに、聞き分けのない幼子に話すように。マリアベルは優しく諭した。
「そこに、たとえ憎しみしかなくとも、ですか……?」
「ええ……」
「そんな、嫌です……! 姫様の幸せを第一に考えて参りました。いつかウィル様の隣で幸せに微笑む姫様の未来を夢見て、皆、姫様に……!」
(ウィル……誰だ?)
幸せに微笑むというからには、恐らく魔女が恋情を抱いた相手なのか。
しかし、魔女がその男と結ばれることは永遠にないのだ。そう思うと、底から優越感が這い上がってくる。魔女は永遠に、この国に囚われ自由になることはない。
レグルスは口の端を釣り上げ、酷薄な笑みを浮かべた。
(残念だったな。お前は一生、偽りの愛に囚われる運命なのだ。せいぜい今のうちに嘆いていろ)
魔女は涙をこぼす侍女の頬を優しく包み込み、濡れたその肌をそっとぬぐう。
「一族の末裔も、今ではわたくし一人となってしまいました。国を守るのが為政者の務め。分かるわね、エリカ」
「ですが……姫様自身の幸せはどうなるのですか! 一生を国に縛られて生きるおつもりなのですか!」
「一生縛られるかもしれない。でも、それでいいのですよ。それは大公家に生まれた瞬間に定められたこと。何より、この婚姻は国を強固にする。相手が誰であろうと、国の為に縁を結ぶだけです。大丈夫、わたくしは幸せですよ。大公としてのわたくしの幸せ、個人としてのわたくしの幸せ、どれも同じ、わたくし自身の幸せだからです」
思いもよらない優しい口調で語られたマリアベルの気持ちに、レグルスは不覚にも笑った。
彼女は一人の女としてレグルスに向かい合うのではない、あくまでもいち取引相手にすぎないのだ。
誰と結婚しようと、同じ言葉を恐らく繰り返す。
その覚悟も、心意気も、本物なのだ。
(面白い女だな)
結婚相手にはちょうど良い。
そんな魔女を、これからゆっくり己に溺れさせてゆくのも楽しかろう。
(互いに激しい憎しみを抱えての仮面夫婦か……)
レグルスは心の中で笑った。
「我が君、よろしいでしょうか?」
機を図り馬車の扉を開ける。
マリアベルは、元の静かな表情に戻っていた。その切り替えの速さには、舌を巻くほどだ。
「参りましょう。私たちの、愛の城へ……」
恭しく胸に手を当てて礼をし、マリアベルへと手を差し出す。これくらいの道化にならば、いくらでもなってみせる。
「ええ、レグルス殿」
マリアベルはただ静かに返した。そこはせめて笑ってほしかったとレグルスは思った。
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