63 / 83
人類最強
しおりを挟む
騎士の国フスティシア王国。
歴史あるこの国は、周辺国家最強と呼ばれる王家直属の騎士団が守護する世界屈指の強国である。
王国の歴史ある騎士団は皆誇り高く屈強で、その高潔な精神で信ずるもはや信仰とすら言えるレベルの騎士道精神は他国の追従を許さない。
そんなフスティシア王国にあるとき一人の異端児が生まれた。
王国の大貴族の一角ビルドゥ家。その跡取りとして生まれた男こそ希代の大天才アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥその人である。
陽光をキラキラと反射する柔らかな黄金のごとき金髪。
憂いを秘めたサファイアのような碧眼と、麗しき乙女に見まがう程の美貌は見る者を虜にする。歌を歌えばセイレーンが裸足で逃げ出し、学問は王国の知者達が舌を巻く。
まさに完璧。彼はおよそ人が神に望むモノ全てを持って生まれたような男だが、その本当の力は先に述べた才とは別の分野にあったのだ。
その力は彼が幼少の頃、既に才覚を現していた。
ビルドゥ家は騎士の家系である。
故にその当主は例外なく王家に仕える騎士となり、その命を祖国に捧げてきた。
跡継ぎであるアルフレートも幼き頃より練習用の木剣を手に取り、騎士となる為の剣術の稽古に励むこととなるのだが・・・幼きアルフレートは周囲の人間の度肝を抜く才能を示す事となる。
初めて木剣を手にした幼きアルフレート。
しかし彼はまるで最初からソレが何をする道具で、どうやって扱うのかを知っていたかのようにピタリと美しい構えを見せた。
剣術指南の教える技は、その方法を聞くでも無く一度技を見るだけで覚える事が出来、彼が12才の誕生日を迎える頃には模擬戦にて王国屈指の実力者である指南役の騎士を倒してしまったのだ。
跡取りの驚愕すべき才能に歓喜したビルドゥ家当主は、当時最強の騎士と呼ばれていた王国騎士団長に頼み込み、アルフレートを彼の元へ弟子入りさせる。
そして数年の月日が流れ、アルフレートの力は誰にも超えられぬ最強の武として成熟した。弟子の力が己を超えた事を悟った騎士団長は引退を決意、その座をアルフレートに譲る。
史上最年少の若さで騎士団長へと就任したアルフレート。
その後の彼の活躍は凄まじく、いつしか彼は ”史上最強の男”と呼ばれることとなった。
◇
遠く離れた地へと遠征をしていた最強の騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥが一年ぶりにフスティシア王国へと帰ってきた。
その美貌と確かな実力で民からの人気も高いアルフレート。凱旋パレードには国中の人間が参加し、史上最強の騎士の雄志を一目見ようと人が押しかけていた。
馬上から爽やかに手を振る騎士の姿に国民は歓喜する。その様子を速見はフスティシア王国から数十キロほど離れた丘から千里眼を発動して見学していた。
「おうおう、噂の騎士様ってのはすげえ人気だねえ」
そう呟く速見の居座る場所から凱旋パレードの通りは、距離が離れているだけでなく遮蔽物も多い為、どんなに高性能な望遠鏡を用いても様子を見ることを不可能である。
しかし速見の右目に移植された魔王サジタリウスの千里眼。その能力の前には距離や遮蔽物など何の問題にもならない。
この目からは地球上のどこにいようと逃れる事はできないのだ。
今回速見が請け負った仕事はクレアの計画の邪魔になり得る人物の偵察・・・即ち史上最強と称される騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥの実力を確かめに来たのだ。
(スカした面をしてやがる・・・史上最強だか知らないが、人間ってのは脆い生き物でな、どんなに強かろうが頭をぶち抜かれたら死ぬしかねえんだよ)
速見はそっと ”無銘”を構える。
目標は遠く、その間には強固な壁も存在する。
しかしそれがどうしたというのだろうか?
この武器は ”無銘”
作られて名付けられる事も無く忘れられ・・・故にその在り方を定義することなど誰にも出来ない。
この武器に限界など無い。
あるとしたらそれは出来る筈無いと考えてしまう使用者の心の在り方が無銘の性能にブレーキをかけているのだ。
魔王サジタリウスの千里眼と、無銘の射程に限界など無い。しかしそれでも照準を合わせて引き金を引くのは使用者である速見の技量だ。
深く深呼吸をする。
一つ、二つ。
酸素を肺に染みこませ、呼吸のリズムを身体に馴染ませる。
一つ、二つ。
極限まで集中する。最早周囲の雑音は消え失せた。視界もグンと狭まり、自分とターゲットの遠く離れた両者の距離が間近に感じられる。
(・・・・・・今!!)
稲妻の素早さで引き金を引き絞る。
乾いた音と供に放たれた光の弾が真っ直ぐに伸びていき、遮蔽物を貫通してなお軌道を変えずにターゲットへと迫りゆく。
光の弾がターゲットまで数メートルまで迫ったそのとき、騎士アルフレートはサッと振り返ると迫り来る弾を正面に見据え、腰に差した剣を抜刀した。
流れるような美しい動きで剣が閃き、襲い来る弾を両断する。
そして見えるはずの無い速見の視界に向かって顔を向けると、その端正な顔をニヤリと傲慢に歪めるのであった。
「・・・・・・驚いたな。こりゃあ正面からぶつかっても勝ち目は無さそうだ」
仮に今の相手が勇者ショウだった場合。数十キロ先から音も無く迫り来る弾に気づかずに頭を打ち抜かれて絶命しただろう。
速見は自分に有利な状況で全力で殺しにかかったが、相手は悠々とそれを打ち破った。
つまり単純に考えてもその実力は速見の遙か上にある。
「・・・今は引こう。この状況でアイツを倒せるビジョンが浮かばないしな」
無銘を肩に担ぎ直し、速見は立ち上がった。
最後にちらりと王国の方角を一瞥して、ポーチから出したアイテムを使用する。クレアの転移魔法が込められたクリスタルが砕け散り、魔法が発動する。そして速見はその場から姿を消したのだった。
◇
歴史あるこの国は、周辺国家最強と呼ばれる王家直属の騎士団が守護する世界屈指の強国である。
王国の歴史ある騎士団は皆誇り高く屈強で、その高潔な精神で信ずるもはや信仰とすら言えるレベルの騎士道精神は他国の追従を許さない。
そんなフスティシア王国にあるとき一人の異端児が生まれた。
王国の大貴族の一角ビルドゥ家。その跡取りとして生まれた男こそ希代の大天才アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥその人である。
陽光をキラキラと反射する柔らかな黄金のごとき金髪。
憂いを秘めたサファイアのような碧眼と、麗しき乙女に見まがう程の美貌は見る者を虜にする。歌を歌えばセイレーンが裸足で逃げ出し、学問は王国の知者達が舌を巻く。
まさに完璧。彼はおよそ人が神に望むモノ全てを持って生まれたような男だが、その本当の力は先に述べた才とは別の分野にあったのだ。
その力は彼が幼少の頃、既に才覚を現していた。
ビルドゥ家は騎士の家系である。
故にその当主は例外なく王家に仕える騎士となり、その命を祖国に捧げてきた。
跡継ぎであるアルフレートも幼き頃より練習用の木剣を手に取り、騎士となる為の剣術の稽古に励むこととなるのだが・・・幼きアルフレートは周囲の人間の度肝を抜く才能を示す事となる。
初めて木剣を手にした幼きアルフレート。
しかし彼はまるで最初からソレが何をする道具で、どうやって扱うのかを知っていたかのようにピタリと美しい構えを見せた。
剣術指南の教える技は、その方法を聞くでも無く一度技を見るだけで覚える事が出来、彼が12才の誕生日を迎える頃には模擬戦にて王国屈指の実力者である指南役の騎士を倒してしまったのだ。
跡取りの驚愕すべき才能に歓喜したビルドゥ家当主は、当時最強の騎士と呼ばれていた王国騎士団長に頼み込み、アルフレートを彼の元へ弟子入りさせる。
そして数年の月日が流れ、アルフレートの力は誰にも超えられぬ最強の武として成熟した。弟子の力が己を超えた事を悟った騎士団長は引退を決意、その座をアルフレートに譲る。
史上最年少の若さで騎士団長へと就任したアルフレート。
その後の彼の活躍は凄まじく、いつしか彼は ”史上最強の男”と呼ばれることとなった。
◇
遠く離れた地へと遠征をしていた最強の騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥが一年ぶりにフスティシア王国へと帰ってきた。
その美貌と確かな実力で民からの人気も高いアルフレート。凱旋パレードには国中の人間が参加し、史上最強の騎士の雄志を一目見ようと人が押しかけていた。
馬上から爽やかに手を振る騎士の姿に国民は歓喜する。その様子を速見はフスティシア王国から数十キロほど離れた丘から千里眼を発動して見学していた。
「おうおう、噂の騎士様ってのはすげえ人気だねえ」
そう呟く速見の居座る場所から凱旋パレードの通りは、距離が離れているだけでなく遮蔽物も多い為、どんなに高性能な望遠鏡を用いても様子を見ることを不可能である。
しかし速見の右目に移植された魔王サジタリウスの千里眼。その能力の前には距離や遮蔽物など何の問題にもならない。
この目からは地球上のどこにいようと逃れる事はできないのだ。
今回速見が請け負った仕事はクレアの計画の邪魔になり得る人物の偵察・・・即ち史上最強と称される騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥの実力を確かめに来たのだ。
(スカした面をしてやがる・・・史上最強だか知らないが、人間ってのは脆い生き物でな、どんなに強かろうが頭をぶち抜かれたら死ぬしかねえんだよ)
速見はそっと ”無銘”を構える。
目標は遠く、その間には強固な壁も存在する。
しかしそれがどうしたというのだろうか?
この武器は ”無銘”
作られて名付けられる事も無く忘れられ・・・故にその在り方を定義することなど誰にも出来ない。
この武器に限界など無い。
あるとしたらそれは出来る筈無いと考えてしまう使用者の心の在り方が無銘の性能にブレーキをかけているのだ。
魔王サジタリウスの千里眼と、無銘の射程に限界など無い。しかしそれでも照準を合わせて引き金を引くのは使用者である速見の技量だ。
深く深呼吸をする。
一つ、二つ。
酸素を肺に染みこませ、呼吸のリズムを身体に馴染ませる。
一つ、二つ。
極限まで集中する。最早周囲の雑音は消え失せた。視界もグンと狭まり、自分とターゲットの遠く離れた両者の距離が間近に感じられる。
(・・・・・・今!!)
稲妻の素早さで引き金を引き絞る。
乾いた音と供に放たれた光の弾が真っ直ぐに伸びていき、遮蔽物を貫通してなお軌道を変えずにターゲットへと迫りゆく。
光の弾がターゲットまで数メートルまで迫ったそのとき、騎士アルフレートはサッと振り返ると迫り来る弾を正面に見据え、腰に差した剣を抜刀した。
流れるような美しい動きで剣が閃き、襲い来る弾を両断する。
そして見えるはずの無い速見の視界に向かって顔を向けると、その端正な顔をニヤリと傲慢に歪めるのであった。
「・・・・・・驚いたな。こりゃあ正面からぶつかっても勝ち目は無さそうだ」
仮に今の相手が勇者ショウだった場合。数十キロ先から音も無く迫り来る弾に気づかずに頭を打ち抜かれて絶命しただろう。
速見は自分に有利な状況で全力で殺しにかかったが、相手は悠々とそれを打ち破った。
つまり単純に考えてもその実力は速見の遙か上にある。
「・・・今は引こう。この状況でアイツを倒せるビジョンが浮かばないしな」
無銘を肩に担ぎ直し、速見は立ち上がった。
最後にちらりと王国の方角を一瞥して、ポーチから出したアイテムを使用する。クレアの転移魔法が込められたクリスタルが砕け散り、魔法が発動する。そして速見はその場から姿を消したのだった。
◇
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
いつも伴奏な僕に主旋律を
ゆず太郎
青春
何気なく入った吹奏楽部に入った僕こと
葛城 真一(かつらぎしんいち)はサックスの中でも(中学校の中で)一番大きなバリトンサックスを担当することになった。最初は音を出すこともままならなかったが、楽器が好きになっていく。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
行くゼ! 音弧野高校声優部
涼紀龍太朗
ライト文芸
流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。
そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!
同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
嵐は突然やってくる
白うさぎ
ライト文芸
母子家庭で生きてきた白山 廉(しろやま れん)。旧姓:笹原 廉(ささはら)。
かわいい妹の百々(もも)と協力して母を助けながら生きてきたが、ある日突然母親に再婚を告げられる。
そこからはじまる新たな生活に、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる