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数の暴力

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「煌めけ”暁の剣”」




 聖剣の真名を解放したショウが、その深紅に輝く刀身を横薙ぎに払う。




 その一撃で数体のナーガが両断されるが、間を置かず次から次へと新たな魔物が襲い来るのだ。




 状況は驚くほど不利だ。




 一体一体の戦闘力は大したこと無いとはいえ、それでもこれだけの数がそろえば大きな脅威になる。




 ショウやタケルの体力もだんだん消耗してくるし、支援担当のカテリーナを守りながら戦わなくてはならないという事実もショウを劣勢に追い込んでいた。




 幸いカテリーナはプロテクションの奇跡が使えるので数分の間ならショウが守らなくても一人で切り抜けられるだろう。ここは一か八か単機で魔王に特攻するのも手かもしれない。 そう考えたショウは背後のカテリーナに視線を送る。




 それだけでショウが何をしようとしているのかを把握したカテリーナは力強く頷くと、自分の周囲にプロテクションの奇跡を展開した。




 ショウはそれを確認すると同時に駆け出す。




 立ちふさがる魔物を聖剣の一撃で斬り捨て、次の魔物が来るより早く前へ。




 速く

 前へ進む




 斬って斬って斬って。




 数え切れないほどの敵を斬り捨てて。そしてようやくたどり着いたの魔王ヴァルゴの座る玉座の前。




「うぉおおお!!」




 気合いと供に振り上げられた刃は、しかし横から割り込んできた乱入者の、波打つ歪んだ刃によって受け止められた。




「!? なんだこの魔物は!?」




 見たことの無い得体の知れない魔物に脅威を感じ、ショウはバックステップで距離を取る。蛇の下半身に人の上半身、腕は六本ありそれぞれに波打つ刃の奇妙な剣を持っている。




「なんだ、ナーガラージャを知らぬのか。それ勇者よ、後ろからもくるぞ?」




 魔王の言葉を聞いて背後を振り返るショウ。そこには六本の刃を振りかざしたナーガラージャの姿が二体。




 計12連撃の斬撃を捌ききる事は不可能と判断したショウはすぐさま横っ飛びに回避。体勢を立て直すも先ほどショウの斬撃を受け止めた個体も合わせて三体のナーガラージャがショウに襲いかかった。




 三体を相手に苦戦をするショウの姿をつまらなそうに眺めながら魔王ヴァルゴはぽつりと呟く。




「・・・なんだ、この程度の実力か。魔王カプリコーンを屠ったと聞いていたからどれほどの強者かと構えていたのだがな」 




 確かに人間にしては強いだろう。




 しかしナーガラージャ三体相手に苦戦しているようでは歴代の勇者と比べても並以下の実力でしか無い。




 つまり魔王ヴァルゴにとって脅威にはなり得なかった。




「・・・つまらんな。こんなつまらん仕事は手早く終わらせてしまおう」




 そしてヴァルゴはゆっくりと立ち上がる。




 宙に展開した魔方陣の中に手を突っ込むと、そこから一本の三叉槍を取り出した。




 ヴァルゴはちらりと右手の槍を一瞥するとそれから無造作に、本当に何気ない動作でそれを投擲した。




 柔らかに放たれたその槍は、しかし投げる動作とは裏腹に猛スピードで飛んでいき、戦闘中のショウの腹部を貫いた。




 信じられないといった様子で膝をつくショウ。




 その様子を魔王ヴァルゴは鼻で笑い、おもむろに指をパチリと鳴らした。




 戦闘をしていた魔物達がその動きをピタリと止めて一斉に壁際に寄ることで部屋の中央を空け、跪いて魔王に忠誠の意を示す。




 プロテクションの奇跡でひたすら身を守っていたカテリーナと剣を振るって魔物と奮戦していたタケルは、急に敵が引いた事に唖然とした。




 そしてカテリーナは見つけてしまった。




 腹部に槍が突き刺さっているショウの姿を。




「勇者様!?」




 慌てて駆け寄るカテリーナ。

 膝をつく勇者の側まで走り寄ると、治癒の奇跡を発動させようとタリスマンに手をかけ・・・。




「くだらんな勇者の仲間よ」




 いつの間にか背後に立たれていた魔王ヴァルゴにその細い身体を持ち上げられた。




「なぜ妾がいるとわかっているのに真っ先に勇者の元に駆け寄った? まさか勇者を治療するのを妾が黙って待っているとでも思ったのか?」




 そうだ。




 この魔王は前に戦った魔王カプリコーンとは違う。




 通常の戦であれば敵の治療を見逃す理由など無く、故に後衛であるカテリーナがショウの側に駆け寄るべきでは無いのだ。




「くだらん・・・まったくお遊びだな。お前らに世界など救えん・・・ここで絶望したまま死ぬがいい」




 そしてヴァルゴは魔眼を発動する。




 ソレに睨み付けられたカテリーナは足下からゆっくりと石化してゆき、やがて完全な石像へと変わってしまった。




 石化の魔眼。

 魔王ヴァルゴの持つ強力な魔眼の一つである。




「か・・・カテリーナ・・・」




 腹を貫かれたショウが石像と化したカテリーナにふらふらと手を伸ばす。




「案ずるな勇者よ。お前も仲間と同じ石像にしてやろう」




 魔眼を発動するヴァルゴ。




 ショウもカテリーナと同じく、物言わぬ石像へと変わる。




「・・・仲間は二人とも石になったが・・・お前はどうするのだ?」




 ヴァルゴは、勇者の仲間でただ一人動揺も激高もせず淡々と事の顛末を見守っていた黒髪の男に問いかける。




「いんや、本当は勇者君と一緒に魔王を倒そうと思ってたんだけどね? 相手がアンタじゃあ相性が悪すぎる。・・・だから今回は特別にオイラが本気を出す事にするよ」




 ヘラヘラと笑いながらそう言う男に、ヴァルゴは不審げに尋ねた。




「・・・お前、妾の事を知っているのか?」




 突然男が笑みを消した。




 長髪をまとめていた髪紐を解き、黒髪をばさりと風に流す。




「アンタは魔王ヴァルゴ・・・今から3千年前に極東の辺境からやってきた一人の男によって滅ぼされた魔王だ」




 ヴァルゴは剣を構えた男の姿を見て眼を見開く。




 唇をわなわなと振るわせ、その顔は驚愕に歪んでいた。




「・・・まさか・・・・・・お前は、”勇者ヤマト”か?」




 生きているはずが無い。




 その男が生きていたのは三千年も前の話だ。




 しかし目の前で闘気を滾らせるその姿が、三千年前の勇者の姿と被る。




「久しぶりだな魔王ヴァルゴ。お前はこのオイラ、勇者 ”ヤマトタケルノミコト” が再び地獄に送ってやる」











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