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石男

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「そらそら行くぜぇ!」




 そう叫びながらクラウスが一直線に突っ込んでくる。




 先ほどよりも重量の増した身体、スピードは落ちているがそれでも侮って良い相手でない事は先ほどのやりとりでわかっている。




 手元の銃を連射するが、この火力ではクラウスの鎧を貫けない事なんてルーカスにも分かっている。


 接近してきたクラウスの体当たりを横っ飛びにジャンプして回避。




 クラウスはそのままルーカスの隣を通り過ぎていくと背後の建物に突っ込んでいった。




 石の鎧と建物の壁が激突する衝撃音が響き渡る。




 モウモウと舞い上がる砂埃と、壁の砕かれる重い音。




「ハッハァ! こりゃあまた強くなっちまうぜ!」




 砕かれた壁の破片が石の鎧に吸着する。




 さらに厚みと重量を増した石鎧。もはやその強度は、ちょっとした車の衝突くらいなら問題にもならなそうなレベルにまで達していた。




(マズいな・・・この調子じゃあ時間をかけたら手が付けられなくなるぞ)




 再び周囲の状況を確認する。




 しかし、一般市民の避難が完了するにはもう少し時間がかかりそうだった。




「よそ見してんじゃねえ!」




 大きく跳躍したクラウスによる踏みつけ攻撃。とっさに転げて回避をする。




 踏みつけられた地面は、鎧の重量も相まって小さなクレーターが出来ていた。




 この相手に近距離で戦うのは愚行。そう判断したルーカスは距離を取ろうとするが、いつの間にか背後には建物が・・・。



 どうやら上手く壁際まで追い込まれていたようで、クラウスが両手を広げて逃がさないとばかりにじりじりと距離を詰めてきた。




「ほらヒーロー、ちょろちょろ逃げるのは終わりだ。喧嘩をしようぜ?」




 振るわれる巨大な石の拳。




 ルーカスはその巨腕を身体を入れ替えるようにして受け流し、壁際から脱しようと試みるが、続けざまにくるりと反転して放たれた裏拳に再び壁際に追い込まれる。




(コイツ、喧嘩慣れしてやがる)




 動きは素人だ。武術をたしなんだモノの拳では無い。




 しかし場数はかなり踏んでいるようで、動きの一つ一つが嫌らしくルーカスを追い込んでいた。




 普段ならこういった喧嘩自慢の手合いはまともに相手をせずに組み伏せて関節技でフィニッシュといくのだが、ここまで分厚い鎧に覆われていては投げ飛ばす事も組み伏せる事も出来そうに無い。




 攻撃が当たらないことに苛立ったのか、クラウスは大ぶりの一撃を繰り出した。



 真っ直ぐに突き出されたその拳は相手に回避されても勢いが止まらずにそのまま建物の壁に突きささる。



 突きささった拳を引き抜く時間はほんの一秒ほどだろう。しかしルーカスはそのわずかな時間で危険な壁際から脱する事に成功した。




「クソッ、ちょろちょろと・・・」




 忌々しげにそう呟くクラウス。




 次の瞬間、空中から落下してきたエマの蹴りが落下の勢いを乗せてその無防備な顔面を打ち付けた。




 ダメージは無いが衝撃を完全に殺せる訳でも無い。クラウスはその蹴りの衝撃で地面に転げる。




「 ”ガンマスター”! 避難完了しました!」




 エマの言葉にルーカスはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。




「よくやった嬢ちゃん!」




 反撃の時間だ。




 そしてルーカスは能力を発動した。
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