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協力関係
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真剣な表情のユリウス殿下を見ることはあまりない。さらにそれが私に向いていることは本当に珍しい。
こうして見るとユリウス殿下とカイって似ているなと思う。だけどちょっと違う。例えばユリウス殿下は皇后陛下似だし、カイは陛下似。それに同じキリッとした顔をしていてもユリウス殿下の方が冷たいような気がする。
カイは真剣な表情をしていても温かみがある。優しさが表情に出ているのだろう。
意識はしていなかったが、カイを見ていたようで、カイが私の方を不思議そうに見ていた。目が合って、自然と顔がほころんだ。ユリウス殿下へと視線を向けると、ユリウス殿下は今の私とカイのやり取りを見ていたようだった。
「……うん、羨ましいよ。君は僕にはそんな顔を見せてはくれない」
そりゃそうだ。今までの色々なことを考えると笑って話をすることはできるけど、自然に笑顔にはなれない。付き合いの長さも違うし。
「カイは僕の欲しかったものを全て持っている。友人も、父上の期待も、女の子も」
力なくそう笑うユリウス殿下。
「僕の方が力があるはずなのに」
ユリウス殿下は口にはしなかったけど、その後には「どうしてこうなったのだろう」と続くのだろう。その問いに私は答えることができる。
「だからです。力があり、その力におぼれ、調子にのったからこうなったのですわ」
「わあ、そんなはっきり……」
クリスのちょっと引いたような小さな声が耳に届いた。
きっとこういうことは思っても言わないのが正解だろう。相手が相手だし。だけど私は今ムカついているのだ。はっきりと言ってやる。全てユリウス殿下の自業自得。
ユリウス殿下が驚きを顔に浮かべる。そして笑った。「そうだね」と。
「全て僕のせいだ。僕が持っていた物は僕が自らの手でなくしてしまった」
「分かればよろしいです。今後は嫌がらせも八つ当たりも止めて、真っ当に生きてくださいませ」
私はカイのその優しさに惹かれた。犠牲の上に成り立つ幸福を否定したカイに。綺麗ごとなのは分かっている。そんな未来は実現しないということも知っている。だけどカイとリリーには変わらずにいて欲しいから。
「ユリウス殿下、協力しましょう。わたくしと一緒に生きてくださいませ」
カイに足りないところはユリウス殿下が、リリーに足りないところは私が補う。
私の言葉に皆がこちらを見た。その顔はぽかんとしている。とても見覚えのある顔。私が変なことを言った時の皆の顔。
……何がおかしかったのだろう。そんなに変なことは言っていないはずだけど。
「ユリウス殿下は公に罪に問われることはないとお聞きしましたが……?」
陛下を見ると、陛下は「う、うむ」と戸惑いながらも頷いた。
やっぱりユリウス殿下の行動を陛下は問題視していない。つまり問題は何もない。私としては罪に問いたいところだけど。まあこの国の為に生きることで十分償いにはなるだろう。もちろん、数年は牢屋にぶち込む方向でおしていくけど。
「殿下、お返事は?」
私に協力するのか、しないのか。
殿下へ視線を向けると驚きの表情が段々と笑顔へと変わる。そしてくすくすと可笑しそうに笑った。
「もちろんだよ。君に協力する。僕と一緒に生きていこう」
よし、約束した! これだけ証人がいるのだ。後でやっぱり止めたなんて言わせない。
満足げに笑う私の後ろから深いため息が聞こえた。振り向くとヘンドリックお兄様はとても呆れた表情をしていた。何か言いたそうな、だけど言っても無駄だとでも思っている顔。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
首を傾げるとお兄様は口を開き、何かを言いかけた。しかしすぐに閉じる。
「お前がそれでいいならいい」
いや、それ明らかにさっき言おうとしていたことじゃないよね。
「なんですか、気になります」
「気にするな。問題ない。そうでしょう? 陛下」
「あ、ああ……問題はない」
お兄様の問いかけに陛下がこれまた何か言いたげに答える。何それ、気になる!!
皆を見るが、とても問題ない顔には見えない。クリスへと視線を向けると、視線を逸らされた。ちっ、クリスはあっちがわか。
基本私の味方のクリスだけど、たまにヘンドリックお兄様につく傾向がある。そういう時は大体ヘンドリックお兄様が怖い時。つまり、結構大事な時。カイへと視線を向けると、何かを考えこんでいたカイが顔を上げた。
「驚いたけど悪い話ではないと思うよ」
え、何、私とユリウス殿下が協力するって話? 悪い話ではないでしょ、そりゃ。なんて思っているとカイの隣にいたレオンとマクシミリアンが頷いた。
「まあ悪い話ではないな」
「むしろそれがベストかもね」
え? だからそう言ってるじゃん。
首を傾げた時、三人が一斉に私を見た。そして眩しい笑顔を向けてくる。攻略対象達のキラキラとした笑顔に私は何も言えなかった。やっぱり三人ともかっこいい。
「話がまとまったならそれでいい。帰るぞ」
ヘンドリックお兄様がそう言ってさっさと扉へと向かう。
「今後の話はしないのですか?」
気になるのは今後のユリウス殿下の扱い。それにまだユリウス殿下からカイへの謝罪を聞いていない。今まで色々してきたんだもん。心入れ替えたから「はい、終わり」ではないでしょ。
お兄様を引き留めようと一歩踏み出すと、急に視界がゆがんだ。体から力が抜けて立っていられなくなる。
「な、何?」
訳が分からない私の元へお兄様が「そろそろだろうとは思っていたが……」と引き返してくる。
「エレナ、あなたさっきから魔力が空っぽよ」
ベアトリクスの言葉に納得した。
なるほど、そう言われてみればそれだ。確かにここに来るまでも来てからもいっぱい魔法を使っている。でもどうして今なんだろうか。今は別に魔法使ってないのに。
「お前の根性は見上げたものだな」
「どうも……?」
なんで急に根性?
不思議に思いながらもヘンドリックお兄様に抱えられると、クリスが小走りで寄って来た。
「すごいね、エレナ。魔力が切れても根性で立ってられるんだ」
そういうことか……!
褒められた気はしない。が、別に怒るほどでもない。まあいい。
「では、陛下。また後日」
「ああ、ゆっくり休め」
「はい。ユリウス殿下、殿下にきちんと謝ってくださいませね」
そう言った私の目の前で扉が閉まった。その直前に「うん」と手を振るユリウス殿下の姿が見えた。
こうして見るとユリウス殿下とカイって似ているなと思う。だけどちょっと違う。例えばユリウス殿下は皇后陛下似だし、カイは陛下似。それに同じキリッとした顔をしていてもユリウス殿下の方が冷たいような気がする。
カイは真剣な表情をしていても温かみがある。優しさが表情に出ているのだろう。
意識はしていなかったが、カイを見ていたようで、カイが私の方を不思議そうに見ていた。目が合って、自然と顔がほころんだ。ユリウス殿下へと視線を向けると、ユリウス殿下は今の私とカイのやり取りを見ていたようだった。
「……うん、羨ましいよ。君は僕にはそんな顔を見せてはくれない」
そりゃそうだ。今までの色々なことを考えると笑って話をすることはできるけど、自然に笑顔にはなれない。付き合いの長さも違うし。
「カイは僕の欲しかったものを全て持っている。友人も、父上の期待も、女の子も」
力なくそう笑うユリウス殿下。
「僕の方が力があるはずなのに」
ユリウス殿下は口にはしなかったけど、その後には「どうしてこうなったのだろう」と続くのだろう。その問いに私は答えることができる。
「だからです。力があり、その力におぼれ、調子にのったからこうなったのですわ」
「わあ、そんなはっきり……」
クリスのちょっと引いたような小さな声が耳に届いた。
きっとこういうことは思っても言わないのが正解だろう。相手が相手だし。だけど私は今ムカついているのだ。はっきりと言ってやる。全てユリウス殿下の自業自得。
ユリウス殿下が驚きを顔に浮かべる。そして笑った。「そうだね」と。
「全て僕のせいだ。僕が持っていた物は僕が自らの手でなくしてしまった」
「分かればよろしいです。今後は嫌がらせも八つ当たりも止めて、真っ当に生きてくださいませ」
私はカイのその優しさに惹かれた。犠牲の上に成り立つ幸福を否定したカイに。綺麗ごとなのは分かっている。そんな未来は実現しないということも知っている。だけどカイとリリーには変わらずにいて欲しいから。
「ユリウス殿下、協力しましょう。わたくしと一緒に生きてくださいませ」
カイに足りないところはユリウス殿下が、リリーに足りないところは私が補う。
私の言葉に皆がこちらを見た。その顔はぽかんとしている。とても見覚えのある顔。私が変なことを言った時の皆の顔。
……何がおかしかったのだろう。そんなに変なことは言っていないはずだけど。
「ユリウス殿下は公に罪に問われることはないとお聞きしましたが……?」
陛下を見ると、陛下は「う、うむ」と戸惑いながらも頷いた。
やっぱりユリウス殿下の行動を陛下は問題視していない。つまり問題は何もない。私としては罪に問いたいところだけど。まあこの国の為に生きることで十分償いにはなるだろう。もちろん、数年は牢屋にぶち込む方向でおしていくけど。
「殿下、お返事は?」
私に協力するのか、しないのか。
殿下へ視線を向けると驚きの表情が段々と笑顔へと変わる。そしてくすくすと可笑しそうに笑った。
「もちろんだよ。君に協力する。僕と一緒に生きていこう」
よし、約束した! これだけ証人がいるのだ。後でやっぱり止めたなんて言わせない。
満足げに笑う私の後ろから深いため息が聞こえた。振り向くとヘンドリックお兄様はとても呆れた表情をしていた。何か言いたそうな、だけど言っても無駄だとでも思っている顔。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
首を傾げるとお兄様は口を開き、何かを言いかけた。しかしすぐに閉じる。
「お前がそれでいいならいい」
いや、それ明らかにさっき言おうとしていたことじゃないよね。
「なんですか、気になります」
「気にするな。問題ない。そうでしょう? 陛下」
「あ、ああ……問題はない」
お兄様の問いかけに陛下がこれまた何か言いたげに答える。何それ、気になる!!
皆を見るが、とても問題ない顔には見えない。クリスへと視線を向けると、視線を逸らされた。ちっ、クリスはあっちがわか。
基本私の味方のクリスだけど、たまにヘンドリックお兄様につく傾向がある。そういう時は大体ヘンドリックお兄様が怖い時。つまり、結構大事な時。カイへと視線を向けると、何かを考えこんでいたカイが顔を上げた。
「驚いたけど悪い話ではないと思うよ」
え、何、私とユリウス殿下が協力するって話? 悪い話ではないでしょ、そりゃ。なんて思っているとカイの隣にいたレオンとマクシミリアンが頷いた。
「まあ悪い話ではないな」
「むしろそれがベストかもね」
え? だからそう言ってるじゃん。
首を傾げた時、三人が一斉に私を見た。そして眩しい笑顔を向けてくる。攻略対象達のキラキラとした笑顔に私は何も言えなかった。やっぱり三人ともかっこいい。
「話がまとまったならそれでいい。帰るぞ」
ヘンドリックお兄様がそう言ってさっさと扉へと向かう。
「今後の話はしないのですか?」
気になるのは今後のユリウス殿下の扱い。それにまだユリウス殿下からカイへの謝罪を聞いていない。今まで色々してきたんだもん。心入れ替えたから「はい、終わり」ではないでしょ。
お兄様を引き留めようと一歩踏み出すと、急に視界がゆがんだ。体から力が抜けて立っていられなくなる。
「な、何?」
訳が分からない私の元へお兄様が「そろそろだろうとは思っていたが……」と引き返してくる。
「エレナ、あなたさっきから魔力が空っぽよ」
ベアトリクスの言葉に納得した。
なるほど、そう言われてみればそれだ。確かにここに来るまでも来てからもいっぱい魔法を使っている。でもどうして今なんだろうか。今は別に魔法使ってないのに。
「お前の根性は見上げたものだな」
「どうも……?」
なんで急に根性?
不思議に思いながらもヘンドリックお兄様に抱えられると、クリスが小走りで寄って来た。
「すごいね、エレナ。魔力が切れても根性で立ってられるんだ」
そういうことか……!
褒められた気はしない。が、別に怒るほどでもない。まあいい。
「では、陛下。また後日」
「ああ、ゆっくり休め」
「はい。ユリウス殿下、殿下にきちんと謝ってくださいませね」
そう言った私の目の前で扉が閉まった。その直前に「うん」と手を振るユリウス殿下の姿が見えた。
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