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一件落着

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「ということだが、どうだ? あんたにとっても悪い話ではないだろう」


レオンとベアトリクスが向かい合って話しているのを茂みの後ろからこっそりのぞく。

盗み聞きなんて褒められたことじゃないけど、とても人に見せられる姿ではないけど、だけど気になって仕方がないのだ。


「ベアトリクス様なんて言うかな?」


クリスがこそこそと呟く。


「これが最大のチャンスだよ。できれば話に乗って欲しいけど……」


カイも小さな声で答える。その隣でリリーが祈るように両手を組んだ。

マクシミリアンは無言のまま二人の姿を眺めている。

……本当にこんなところで何をしているんだか。

この光景を客観的に見てみるととてもばかばかしい。貴族の息子、娘が、しかも皇子を含む一行が盗み聞きなんて……。

止めようと言えない私も私だけど。

じっとベアトリクスを見ていると、少し何かを考えてそして口を開いた。


「わたくしにしかいいことがないようだけれど? あなたにとって何か利益はあるの?」


レオンはニカッと笑う。


「利益があるかないかで言えば、ない。でも友達が悲しんでいる姿を見なくて済む」


友達が悲しんでいる姿? 首を傾げて周りの顔を見る。すると皆が私を見ていた。

……ああ、なるほど。私が身分を落としたら皆悲しんでくれるってことか。まあ素直に嬉しい。そういうつもりで言ったわけではないのだけど。

ベアトリクスは納得したように頷いた。そして言う。


「ありがとう。素直にお礼を言わせてもらうわ」


おお!? これはどっちだ!? オッケーか!?


「ねえ、あれいいってことだよね? 決定だよね?」


クリスが嬉しそうに弾んだ声で言う。

だよね? 私もそう思う。


「じゃあ決まりな。多少肩身の狭い思いはさせるかもしれないが、よろしく頼む」

「それはこちらのセリフよ。面倒だと思ったらいつでも捨ててもらって構わないわ」


よっしゃ! 決定!

グッとこぶしを握る。隠れているので大きく喜べないことが悔しい。と思っていると、私の隣でしゃがんでいたクリスがばっと立ち上がった。


「後からやっぱり無しだって言ったって駄目ですからね!」


ベアトリクスとレオンがクリスの姿を見て驚いた顔を浮かべる。しかしクリスは構わずに茂みから出て二人の方へ近づいて行く。

あーあ、なんのために隠れていたんだか……。

もう隠れていても仕方がない。私たちも次々に立ち上がる。


「お、お前らまで……」


言葉が出ない様子のレオンに、カイが爽やかな笑顔を浮かべる。


「お疲れ様。これから忙しくなるかもしれないけど頑張って」


公爵家同士の婚約だ。そう簡単な話ではないだろう。カイほどではないだろうけど。だけど絶賛婚約に向けて頑張っているカイとしては仲間ができて嬉しいのかもしれない。とてもいい笑顔だ。

レオンは引きつった笑みを浮かべて「ああ」と頷いた。


「盗み聞きなんて無礼でしてよ」


ベアトリクスが少し拗ねたようにそう言う。私もそう思うので素直に謝っておこう。


「はい、申し訳ありません。ですが気になって仕方がなかったのです」

「どうせこうなるんですから、最初から頷いていたらよかったんですよ」


クリスがそんなことを言う。文句を言っているようだが、顔がにやけているところを見ると喜んでいることが分かる。……なんだかんだ言ってやっぱり仲が良いよね。


「元はと言えばあなた達が一緒に来るなんて、変なことを言ったからでしょう」

「そこまで言わないとわたくしたちの気持ちを分かっていただけないかと思いまして。もちろん、わたくしは本気でしたよ」

「それはそれで困るのよ」


困る? 私たちが一緒だったら困るの? なんで?

首を傾げるとベアトリクスは呆れたように言った。


「もしあなたが家を抜けたら、あなたのシスコンのお兄様に睨まれるのはわたくしなんだから」


その言葉にクリスがぷっと吹き出した。そして「確かに」と笑いをこらえきれない様子で頷く。

シスコンのお兄様? っていうとクルトお兄様かな? 確かにクルトお兄様は悲しんでくれそうだけど、ベアトリクスに何かということはないだろう。そんなに怖がる必要はない。

ベアトリクスの言っていることがいまいちピンと来ない私に、ベアトリクスは「分からないならいいわ」と話を切り上げた。

少し気になるけどまあいっか。


「とりあえずこれでどうにかなるね!」

「ええ、よかったわ」


確かに誰かが婚約・結婚してくれたら話は早いと思っていたけど、まさかレオンが名乗りを上げてくれるとは思ってもみなかった。

レオンはベアトリクスのことを好いてはいない様子だったし。

向かい合って話をしている二人を眺める。

……悪い雰囲気ではなさそうだし、大丈夫か。ベアトリクスが変わってくれていてよかった。

そうでなかったらきっと処刑は免れず、断罪イベントが行われていただろう。

カイもリリーとの婚約の為に頑張っているわけだし、とりあえず色々と上手くいっている。後は私とラルフの婚約がどうなるかだけだ。ラルフは私のことを嫌っているようだから婚約破棄しくれそうではあるけど。

後釜に座る人がいないのは気になる。まさかカミラを差し出すわけにもいかないし。

ラルフのことを考えただけで頭が痛くなってきた。思わずため息が漏れた。
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