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ユリウスの目的

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「お兄様、こちらよかったらお昼ご飯に食べてくださいませ」


持って来たお弁当をクルトお兄様に渡すと、お兄様は「ありがとう」と微笑んだ。できれば休憩時間まで待って少し話していきたかったけど仕方がない。


「また会いに来ますね。お仕事頑張ってくださいませ」


それだけ言ってお兄様から離れ、ヴェルナー様とクリスが待っている方へ向かう。

さて、話をするとしますか……。


場所を変えてヴェルナー様と向かい合って座る。


「何かあったの?」


隣に座るクリスが不思議そうに私とヴェルナー様の顔を交互に見た。まあなんの説明もなしじゃ分からないよね。でも私だってまだよく分かっていないのだ。


「早速ですが、先ほどのあれはずるいと思いますわ」


開口一番、まず文句を言う私にヴェルナー様は「すまない」と笑った。


「だけどあんな状況でもないときっとエレナは知らないと言っていただろう? 正直な反応を見たかったのだ」

「それは確かにそうかもしれませんわ」


あの状況で取り繕う余裕はなかった。剣の訓練中にユリウス殿下の名前が出てくるなんて誰も想像しないでしょ。そりゃびっくりするわ。


「思い出されたのですか? それとも、」


忘れられているはずのユリウス殿下の存在。ヴェルナー様の口からユリウス殿下の名前が出てくるはずがない。

考えられるのは、何かのきっかけで思い出したか。しかしその可能性は低いと思う。


「会われたのですか?」


可能性として高いのはこっち。クリスやお兄様、陛下を見る限り、ユリウス殿下が異空間から出て来た後のことは記憶に影響はないんじゃないかと思う。

闇属性の効果が及んでいるのはあくまでユリウス殿下が異空間に閉じ込められていた間だけで、それ以前の記憶だけだ。つまり、あの救出より後にユリウス殿下に会った場合、記憶は消えない。

ヴェルナー様は「両方だ」と唸るように言った。


「お会いして、思い出した」


ヴェルナー様の顔がゆがむ。


「……お会いするまで思い出せなかった」


後悔と懺悔。

ユリウス殿下とヴェルナー様の以前の関係は知らない。だけどユリウス殿下がカイと同じようにヴェルナー様に剣を教わっていたと言うのなら親しくしていたのだろう。

ヴェルナー様はユリウス殿下に会うまで思い出せなかったことが苦痛なのだろう。


「まず一つ言わせていただきますが、ヴェルナー様がユリウス殿下のことを忘れられていたのは魔法の力によるものです。ヴェルナー様に悪いところなど一つもありませんわ。ご自分を責めることはお止めくださいませ」


私の言葉でクリスが閃いたようだ。状況の理解ができたのだろう。ちゃんと説明しなくても話の流れで分かるのは流石クリス。

ヴェルナー様は何を言ったらいいのかよく分からないような表情で私を見た。


「教えてくれ。ユリウス殿下に何があったのか」

「……どうしてわたくしが知っていると思われたのでしょう?」

「殿下がおっしゃったのだ。『光属性の使い手が全てを知っている』と」


何それ。全てを知っているなんてそんなわけないじゃん。なんかゲームのお告げみたいでちょっとかっこいいけど。


「エレナが何も知らないようならもう一人にあたる予定だった」


あー、なるほど。二分の一で当たりを引いたんだね。まあいいか。ユリウス殿下がそう言ったってことは話していいってことだもんね。

私はできるだけ分かりやすく闇属性の魔法のこと、ユリウス殿下が異空間に閉じ込められていたこと、そしてその闇属性の魔法によってユリウス殿下の存在が消えかかっていたことを話した。

ヴェルナー様は神妙な顔でそれを聞いていて、全て聞き終わった後も何も言わなかった。

しかし私は聞きたいことがたくさんある。


「申し訳ありませんが教えてくださいませ。ユリウス殿下に会ったのはいつですの? どういう理由で?」


あのユリウス殿下がうかうか見つかるわけがない。ヴェルナー様の元へ故意に姿を見せたとしか思えない。何のために?


「殿下はおっしゃった。カイ殿下をもっと鍛えるように、と。そしてこのまま何も変わらないようだったら自分が帝位につく」


ユリウス殿下が帝位に……。


「そして、その時は自分に協力して欲しい、と」


なるほど。


「ヴェルナー様はなんと答えられたのですか?」


私の問いにヴェルナー様は首を横に振った。


「何も答えられなかった」


なるほど。よく分からん。

これがヘンドリックお兄様だったらもうこれだけで大事な情報を掴んでいるのかもしれないけど、私にはよく分からない。ヴェルナー様が深刻そうな顔をしているということは結構重大なことなのかもしれないけど。


「あの、わたくし、よく分からないので教えて頂きたいのですが、ユリウス殿下が皇帝になるというのは可能なのでしょうか?」


今の皇位継承権一位はカイだ。いなくなった第一皇子がポッと帰って来て順位が変わることはあるのだろうか。だってそんなこと言ったら偽物とか出てきそうじゃない?

まああのユリウス殿下を知っている人は、成り代われるような人ではないことは分かっているだろうけど。


「可能か不可能かと言うと、可能だ」

「そうなのですか。てっきり存在すら忘れかけられているユリウス殿下が帝位につくことは難しいのかと思っておりましたが……」


私がそう言うと、クリスも「私もそう思います」と頷いた。

ヴェルナー様は少し考えると深いため息を吐いて言った。
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