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次の目的

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そういえばここ数年エレナとの電話をしていない気がするな、とふと思った。まだ暑いけど、もうすぐ夏の終わりだ。エレナとの電話もそろそろのはず。

去年は忙しくて家に帰る余裕なんてなかったからな。

今年はどうしようかと考える。正直エレナと話をしたいことはない。聞きたいこともこれと言って思いつかない。……まあ大体電話が終わってから「あれ聞いておけばよかった」と後悔するのだけど。

まあ別にいいか。今年は比較的暇だけどわざわざ家に帰るのも面倒だし。帰ったって別にすることないし。

寮にいた方がクリスもいて楽しいし、学校の図書室を使えるし、小言を言う人もいないし。

さて、カイとリリーの婚約の件はあとは二人に任せるとして、次に考えるのはベアトリクスの断罪イベントの回避と、自分の進路だ。ラルフとの婚約が解消されるかされないかは別として、結婚したからと言って家に入るのは嫌だ。普通に働きたい。

ヨハン曰く、休暇明けにはいろいろなところから生徒への就職の誘いが来るらしい。つまりとりあえず待っておけば向こうから声をかけてくれると言うことだ。

……私にも声をかけてくれる企業あるよね? 一応成績いいし。大丈夫だよね?

結構目立って来てしまったけど、そんなに常識はずれなことはしていないはず。ユリウス殿下と戦ったのも、誘拐されて寝込んだのも、私は悪くない!

そう自分に言い聞かせ、私は進路のことはとりあえず考えるのを止めた。最悪マルゴット様にお願いして魔法省で雇ってもらえばいい話だし。

じゃあベアトリクスのことか。

断罪イベントは卒業後だったはず。私はまだプレイしていないところなので詳しくは知らないけど。

だけどきっと普通の乙女ゲームと同じ感じだよね。とりあえずベアトリクスの罪状はヒロインへのいじめ? いや、違うな。ゲーム内ではそうだったかもだけど、今のベアトリクスは違う。

となるとクラッセン公爵の巻き添えを食うのかな。


「手が止まってるけど何か考え事?」


私の肩越しにクリスが書きかけのノートを覗き込んできた。私は持っていたペンを置いて、復習中だったノートを閉じた。振り返ってクリスを見ると、クリスは「何?」と首を傾げる。


「クラッセン公爵家の今後のことは何か知っているかしら?」


途端、クリスがとてつもなく嫌そうな顔をした。とても令嬢のする表情ではない。予想通りの反応なので特に気にしない。


「ベアトリクス様がどうなるのかが知りたいの」


付け加えてそう言うと、クリスは「また面倒事に首を突っ込むの?」と呆れたように言った。


「このまま知らないふりはできないでしょう」


せっかくベアトリクスの性格の矯正されたことだし。


「ほんと、エレナと一緒にいると退屈しないね。次から次へと問題ばかり……」

「あら、嫌味かしら?」


にっこりと笑うと、クリスは「嫌味くらい言わせてよ」とため息を吐いた。

まあ確かに毎回毎回クリスを巻き込んでいるのは申し訳ないと思っている。でも私は知っている。ベアトリクスが断罪されることを知っていて、何もしないなんて、クリスにもできないこと。なんだかんだ言って心優しい子なのだ。だから甘えてしまっているところはあるけど。

勉強机から離れ、休憩用に置かれた椅子に腰かけると、クリスも向かいに座った。お茶を入れると毎日嗅いでも飽きない香りが部屋に立ち込めた。


「私だってそんなに詳しいことは知らないよ。いつかエレナが聞いて来るかと思って情報は集めてるけど」

「あら、さすがね。わたくしのことをよく知っているわ」


まさか情報を集めてくれていたとは。少し驚いた。


「とりあえず、今分かっているのはクラッセン公爵と公爵夫人はほぼ確実に処刑されるってこと」

「処刑?」


良くて爵位はく奪。悪くて処刑。確かに陛下もそう言っていた。だけど本当に処刑になるとは。よほどのことをしたのだろうか。


「被害が結構出てるらしい。この辺りじゃ全然分からないけど、田舎の方は酷いみたいだよ」


クラッセン公爵のしたことは知らない。だけど国の中枢にいる人だ。不正と一言で言っても決して小さいものではないだろうし、それによる被害は大きいだろう。

貴族の端にいるような私達がする不正とは話が違うのだ。


「他にも男爵とか子爵とか、クラッセン公爵に加担していた人たちと、娘のベアトリクス様も含めて血の近い人たちは皆連座になるんじゃないかな。これは推測だけど」


やっぱりそうなるか。ベアトリクス様はどうにか身分落ちくらいで許してもらいたいところだけど、この先を考えると、公爵家の人を下手に残すわけにはいかないだろう。

平民になっても他の貴族と手を組む可能性も、恨みから誰かを傷付ける可能性もある。特に相手はプライドの高い公爵家だし。


「ベアトリクス様が助かるために何か抜け道があるのよ。陛下もヘンドリックお兄様もそんな顔をしていたもの」

「うん、私もそう思う」


クリスと目を合わせて頷き合う。


「教えてもらえるか分からないけど、明日聞きに行ってみましょう」
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