上 下
226 / 300

仕返し大作戦

しおりを挟む
ガタリと音を立てて立ち上がると、カミラが不思議そうな顔で私を見上げていた。

音を立てて立ち上がったのはちょっとマナー違反だった。だけど我慢ができなかった。


「クリス、ラルフ様のところに行くわよ」


本当は呼び捨てにしてやりたいところだが、様付けで呼ぶくらいの理性は残っていた。カミラが慌てて立ち上がり、「落ち着いてください」と言う。


「安心してちょうだい、カミラ。わたくしは落ち着いているわ。少しラルフ様とお話をしてくるわね」


にっこりと笑うと、カミラが引きつった顔で笑った。どうやら怒りがにじみ出ていたようだ。

だって許せない。カミラは憩いの場であるはずの家にいることもできず、恐らくできるだけ女子寮から出ずに過ごしているのだろう。そんな窮屈な生活をカミラに送らせるなんてあり得ない。


「今まで気が付かなくてごめんなさい。カミラのことはわたくしが絶対に守るから大丈夫よ」


そうカミラに言って足早に部屋を出た。もう卒業パーティーまでも待っていたくない。ここで決着をつけてやる。

ぐっと拳を握ると、後ろから呆れた声が聞こえた。


「エレナ、やる気があるのはいいことなんだけど、ラルフが寮にいるかは分からないよ」


その言葉で足が止まった。

……確かに。その可能性は考えていなかった。むしろうちにまで押しかけて来ていたくらいだし、家に帰っている可能性の方が高い。今からいきなり家に行くのは非常識だし……。


「エレナが暴走しないかと思ってついて来てみたけど、正解だったようだね」


分かっていたなら最初から教えてくれたらよかったのに。なんて心の中で文句を言うが、その可能性に気が付かなかった私が悪い。


「……とりあえず寮にいないか確認してみるわ」


勢いで文句を言ってやろうと思っていたが、その勢いもそがれてしまった。先ほどとは違い、ゆっくりと男子寮へと歩いて行くと、ちょうど見慣れた姿が目に入った。


「マクシミリアン様!」


私が名前を呼ぶと、マクシミリアンはゆっくりとこちらを見た。


「ああ、エレナ」


そして柔らかく微笑む。


「さっきカイが落ち込んでいたよ。断ったんだ?」


お、おお、その話か。すっかり頭から抜けていた。


「わたくしにはもう既に婚約者がいますもの」


作り笑いを浮かべてそう言うとマクシミリアンは「ふーん」と目を細めた。全てを見透かすようなその目に一瞬怯む。が、私は嘘は言っていない。それが全てではないだけで。


「そのラルフのことなんだけど、今寮にいるかな?」


横からクリスが入って来た。マクシミリアンはクリスへと視線を向けて、「どうだったかな」と呟いた。

私が変に言葉を重ねるよりもスムーズに話題が移行して、正直助かった。


「あ、ねえ、ラルフって今いる?」


マクシミリアンがその辺にいた男子生徒を捕まえて聞く。その顔は私も知っていた。私たちと同じ学年で、ラルフと同室の生徒だ。


「いや、一回戻って来たんだけど、一昨日くらいからまた家に帰っているよ」

「そっか、ありがとう」


マクシミリアンは男子生徒から私へと視線を向けて「らしいよ」と言った。なるほど。まあ休暇ももうそんなに残っていないし、そう遠くない内に戻って来るか。ラルフが帰って来ないならとりあえずカミラに害が及ぶことはないし。

男子生徒が私に気付き、少し表情を曇らせた。


「……最近ラルフと上手くいってる?」


何事かと思ったが、私とラルフの仲が気になったようだ。上手くいっているも何も私とラルフが元々仲良くないのはこの人も知っているだろうに。

なんと言おうかと言葉を探していると、男子生徒が先に口を開いた。


「いや、大きなお世話かもしれないけど、最近ラルフの口から出てくるのは、その……」


かと思えば言いにくそうに口をつぐんだ。あー、なるほど。現状を知っているのか。

……まあいいか。


「カミラの名前ばかり、でしょうか?」


私の言葉に頷くのを確認して、私はとりあえず笑っておいた。

カミラにつきまとっているだけでも非常識だというのに、その恥をさらに他人にさらしているのか。本当に恥ずかしい。まあ本人はそれが恥だとは思っていないんだろうけど。


「心配していただいてありがとうございます。学校に来ることができなかった間にラルフ様のお心は完全にわたくしから離れてしまったようですわ。わたくしも妹もとても困っているのですけど……」


とりあえず被害者面しておこう。

本来なら身分が上のラルフの方が圧倒的に立場が強いけど、何せ私は『光属性・全属性の使い手』だ。周りの目が私達二人をどう見ているかなんて自分でも分かっている。同情をされるのはちょっと微妙な気持ちだけど、これでラルフが少しでもカミラに近寄りづらくなればいい。

男子生徒はそんな私を心底不憫そうに見て、「ラルフには俺から言っておくから」と言ってくれた。


「そんな、お気遣いいただいてありがとうございます」


謙虚にお礼を言っておくが、心の中ではニヤニヤが止まらない。これだ。いないならいないでいい。積極的にこの話を広めてラルフが白い目で見られるようにしてやろう。

実際はどうであれ、第三者から見たら私は婚約者に裏切られた女だ。その立場を大いに利用してやろう。

婚約者に裏切られたら、誰だってそのくらいの仕返しはするよね?

ああ、それからちゃんとカミラも被害者だとアピールして、悪く言われないようにしないとね。

よしよし、これから数日忙しくなりそうだ。

そんなことを考えていると、クリスとマクシミリアンがなんとも言えない顔をして私を見ていた。

……しまった、顔に出ていたか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

私よりも姉を好きになった婚約者

神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」 「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」 「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」 「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」 このバカップルは何を言っているの?

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

処理中です...