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皆の声
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誰かが枕元で喋っているのが聞こえた。
「エレナ、まだ起きるつもりはないかい? 皆エレナが帰ってくるのを待ってるよ。レオンも、マクシミリアンも、もちろん私も。早くその笑顔が見たい。戻っておいで」
これはカイの声か。起きるとか戻るとか何? 私ここにいるじゃん。皆が待ってるって何?
カイの言っている意味がよく分からなくて、そう言うが返事はなく、カイの声は消えた。
次はカミラだった。
「お姉さま、わたくし寂しいです。お姉様にたくさんお話ししたいことがありますの。……相談したいことも。早く戻っていらして、あのお方を止めてくださいませ。わたくしにはもうあの方が何をしたいのか全く分かりませんの」
ぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえる。カミラが泣いている。私の可愛いカミラが。泣かせたのは誰? あの方って誰? 私がすぐに助けてあげるからね!
そう思うが、体に力が入らず私は動くことができなかった。
次の声はなかなかに厳しかった。
「あなたいつまでぐうたらしているつもりなの!? 早く起きなさいよ! あなたが待って欲しいと言うから待っているけど、このまま起きないならもうわたくしは好きなようにしますわよ! リリーをいじめていじめて魔法学校に居場所がなくなるくらいはするつもりよ! 手加減なんてしないんだから! ……ダメだって言うなら早く起きなさいよ、馬鹿……」
何でそんなに声に元気がないのよ、ベアトリクス。っていうかリリーをいじめるなんてダメだよ! そんなことしたらベアトリクスの断罪イベントが起こってしまう。私はこの先もベアトリクスとわちゃわちゃしたいんだから!
……私は今寝てるの? 確かにあの誘拐事件の後から全く記憶がないけど。それにしてもどのくらい経ってるんだろう。疲れたとは思っていたけどそんなに長く寝るほどではなかったんだけど。
今すぐに飛び起きてベアトリクスを止めに行きたい。だけどどんなに頑張っても指が一本動かせただけだった。
「……エレナ様」
お、次はリリーか。私を呼ぶ声に元気がないのは気のせいだろうか。少し待ってみるが言葉が続かない。
え、何? 喋るなら早く喋ってよ。気になるじゃない。
少ししてようやくリリーは話し始めた。
「先週は学校外実習がありました。そこで、魔獣に襲われたのです」
おお、魔獣! 確かにそんなイベントがあった気がする。
「殿下やクリス様達と一緒にどうにか退治することはできました」
うんうん、よかった。よく頑張ったね。
しかしリリーの声はとても暗かった。
「だけど、私は何もすることができなかったのです。戦うことはできないし、皆の怪我を治すにも数人で精一杯で……皆さま十分だとおっしゃってかださったんですが、自分が情けなくて……!」
リリーの声が震える。泣いていることがわかった。だけどリリーが戦えないなんて皆知ってるし、数人だけでも怪我が治せたなら上出来だよ。そんな泣くことないじゃない。
そう言うが私の声はリリーに届かない。
「もし、もし、あの場にエレナ様がいらっしゃったらきっと、怪我で苦しむ方もいなかったでしょうし、そもそも誰も怪我をすることがなかったのではないかと考えると……や、やっぱりエレナ様がいないといけません。早く起きてください、お願いします」
悲痛な声が耳に届く。私だって早く起きたいとは思ってる。だけどどうすれば起きれるか分からないんだもん。
……というか皆ここで泣いていくの止めてよ。私には何も出来ないんだから。
リリーの気配が消え、次に聞こえたのは穏やかな声だった。
「兄上、エレナはまだ起きませんか?」
「ああ、まだだ」
柔らかくて温かい声。そして固くて冷たい声。その両極端な二つの声に思わず笑ってしまう。兄弟だと言うのに、声も性格もどうしてこの二人はこんなにも正反対なのか。
右手に温もりがふれ、何かに包まれる。少し固い、剣を振る手。クルトお兄様だ。
「少し休んだら目を開けると約束したじゃないか。兄との約束を破るつもりかい?」
そんな! 約束を破るつもりなんてないよ! ……ちょっと忘れてたけど。
ああ、そっか、約束したんだ。あの日、クルトお兄様と。それなら早く起きないと。
「そいつは抜けているからお前との約束もすっかり忘れているんじゃないか?」
ヘンドリックお兄様の声が聞こえ、クルトお兄様の笑い声も聞こえる。
「はは、そうかもしれませんね」
失礼だな! 確かに忘れてはいたけど! ヘンドリックお兄様だけならまだしもクルトお兄様にまでそんな風に言うなんて酷い。
「……エレナ、皆がエレナのことを待ってるよ。皆に恨まれたくなかったら早く起きて」
クルトお兄様の声は今にも泣いてしまいそうだった。右手がぎゅっと握られる。
ごめんなさい。お兄様を泣かせるつもりなんてなかったの。ただ、少しだけ休みたいと思っただけ。約束は破らないから安心して。
「……! 兄上、今、エレナが私の手を握りました」
無意識だった。どうも私はお兄様の手を握り返していたようだ。
「そうか」
興味なさげな声にカチンとする。ヘンドリックお兄様だってもっと喜んでくれてもいいじゃないか!
きゅっともう一度手が握られる。
「エレナも頑張っているんだね。待ってるから早く戻っておいで」
ええ、必ず。クルトお兄様の温もりが離れ、次に私の手を握ったのは冷たい手だった。
「……早く起きろ。お前がいないと静かで敵わん」
……なんだ、ヘンドリックお兄様も待ってくれてるんじゃん。ふふ、と笑うとおでこに衝撃があり、デコピンされたことが分かった。
「エレナ、まだ起きるつもりはないかい? 皆エレナが帰ってくるのを待ってるよ。レオンも、マクシミリアンも、もちろん私も。早くその笑顔が見たい。戻っておいで」
これはカイの声か。起きるとか戻るとか何? 私ここにいるじゃん。皆が待ってるって何?
カイの言っている意味がよく分からなくて、そう言うが返事はなく、カイの声は消えた。
次はカミラだった。
「お姉さま、わたくし寂しいです。お姉様にたくさんお話ししたいことがありますの。……相談したいことも。早く戻っていらして、あのお方を止めてくださいませ。わたくしにはもうあの方が何をしたいのか全く分かりませんの」
ぐすぐすと鼻を啜る音が聞こえる。カミラが泣いている。私の可愛いカミラが。泣かせたのは誰? あの方って誰? 私がすぐに助けてあげるからね!
そう思うが、体に力が入らず私は動くことができなかった。
次の声はなかなかに厳しかった。
「あなたいつまでぐうたらしているつもりなの!? 早く起きなさいよ! あなたが待って欲しいと言うから待っているけど、このまま起きないならもうわたくしは好きなようにしますわよ! リリーをいじめていじめて魔法学校に居場所がなくなるくらいはするつもりよ! 手加減なんてしないんだから! ……ダメだって言うなら早く起きなさいよ、馬鹿……」
何でそんなに声に元気がないのよ、ベアトリクス。っていうかリリーをいじめるなんてダメだよ! そんなことしたらベアトリクスの断罪イベントが起こってしまう。私はこの先もベアトリクスとわちゃわちゃしたいんだから!
……私は今寝てるの? 確かにあの誘拐事件の後から全く記憶がないけど。それにしてもどのくらい経ってるんだろう。疲れたとは思っていたけどそんなに長く寝るほどではなかったんだけど。
今すぐに飛び起きてベアトリクスを止めに行きたい。だけどどんなに頑張っても指が一本動かせただけだった。
「……エレナ様」
お、次はリリーか。私を呼ぶ声に元気がないのは気のせいだろうか。少し待ってみるが言葉が続かない。
え、何? 喋るなら早く喋ってよ。気になるじゃない。
少ししてようやくリリーは話し始めた。
「先週は学校外実習がありました。そこで、魔獣に襲われたのです」
おお、魔獣! 確かにそんなイベントがあった気がする。
「殿下やクリス様達と一緒にどうにか退治することはできました」
うんうん、よかった。よく頑張ったね。
しかしリリーの声はとても暗かった。
「だけど、私は何もすることができなかったのです。戦うことはできないし、皆の怪我を治すにも数人で精一杯で……皆さま十分だとおっしゃってかださったんですが、自分が情けなくて……!」
リリーの声が震える。泣いていることがわかった。だけどリリーが戦えないなんて皆知ってるし、数人だけでも怪我が治せたなら上出来だよ。そんな泣くことないじゃない。
そう言うが私の声はリリーに届かない。
「もし、もし、あの場にエレナ様がいらっしゃったらきっと、怪我で苦しむ方もいなかったでしょうし、そもそも誰も怪我をすることがなかったのではないかと考えると……や、やっぱりエレナ様がいないといけません。早く起きてください、お願いします」
悲痛な声が耳に届く。私だって早く起きたいとは思ってる。だけどどうすれば起きれるか分からないんだもん。
……というか皆ここで泣いていくの止めてよ。私には何も出来ないんだから。
リリーの気配が消え、次に聞こえたのは穏やかな声だった。
「兄上、エレナはまだ起きませんか?」
「ああ、まだだ」
柔らかくて温かい声。そして固くて冷たい声。その両極端な二つの声に思わず笑ってしまう。兄弟だと言うのに、声も性格もどうしてこの二人はこんなにも正反対なのか。
右手に温もりがふれ、何かに包まれる。少し固い、剣を振る手。クルトお兄様だ。
「少し休んだら目を開けると約束したじゃないか。兄との約束を破るつもりかい?」
そんな! 約束を破るつもりなんてないよ! ……ちょっと忘れてたけど。
ああ、そっか、約束したんだ。あの日、クルトお兄様と。それなら早く起きないと。
「そいつは抜けているからお前との約束もすっかり忘れているんじゃないか?」
ヘンドリックお兄様の声が聞こえ、クルトお兄様の笑い声も聞こえる。
「はは、そうかもしれませんね」
失礼だな! 確かに忘れてはいたけど! ヘンドリックお兄様だけならまだしもクルトお兄様にまでそんな風に言うなんて酷い。
「……エレナ、皆がエレナのことを待ってるよ。皆に恨まれたくなかったら早く起きて」
クルトお兄様の声は今にも泣いてしまいそうだった。右手がぎゅっと握られる。
ごめんなさい。お兄様を泣かせるつもりなんてなかったの。ただ、少しだけ休みたいと思っただけ。約束は破らないから安心して。
「……! 兄上、今、エレナが私の手を握りました」
無意識だった。どうも私はお兄様の手を握り返していたようだ。
「そうか」
興味なさげな声にカチンとする。ヘンドリックお兄様だってもっと喜んでくれてもいいじゃないか!
きゅっともう一度手が握られる。
「エレナも頑張っているんだね。待ってるから早く戻っておいで」
ええ、必ず。クルトお兄様の温もりが離れ、次に私の手を握ったのは冷たい手だった。
「……早く起きろ。お前がいないと静かで敵わん」
……なんだ、ヘンドリックお兄様も待ってくれてるんじゃん。ふふ、と笑うとおでこに衝撃があり、デコピンされたことが分かった。
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