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気まずい兄妹
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「もう終わった?」
「ええ、帰りましょう」
クリスが私の隣に並んで歩く。
リリーはどこに行ったのだろうかときょろきょろしていると、クリスは「先に馬車に行ってるよ」と教えてくれた。
なるほど。
「気が利くわね」
どうせ陛下との話が何だったのかを聞きたいのだろう。クリスは私の言葉が皮肉だと分かったのか、ニヤッと笑って「そうでしょ」と言った。
クリスが目を輝かせて私を見るので、周りをちょっとだけ見回して、近くに人がいないことを確認する。
「殿下がわたくしを婚約者に望んでおられる、と」
簡潔にそう言うと、クリスは途端に興味を失ったように「ふーん」と言った。え、さっきまであんなに聞きたそうだったのに急にそれ!?
え!? 期待外れだった?
驚いてクリスを見ると、クリスはなんだと言いたげに私を見てきた。そしてこれまだ興味なさそうに口を開く。
「で? エレナはなんて言ったの?」
「もちろん断ったわよ」
「そうだよね」
そう言ったきり何も言わないクリス。
……え? それだけ? びっくりしないの? え!?
「どうしたの?」
じーっとクリスを見ていると、クリスが視線に気づいて私の方を見た。そして「なんて顔してるの」と可笑しそうに笑う。
え、いやびっくりするでしょ。クリスがびっくりしないことにびっくりした。
「驚かないの?」
「何に?」
「殿下がわたくしのとことを、その……」
そう言うとクリスは何か言いたそうに私を見て、そしてため息を吐いた。
「知ってたよ。なんならレオンもマクシミリアンも知ってるよ。知らないのエレナだけだから」
「……え?」
どういうこと? 私だけが知らなかった? 皆知ってた?
「カイを見てたらバレバレだよ。エレナはカイが視界に入っていないから気が付いてなかったんだろうけど」
視界に入ってないって、ちゃんと入ってるけど。そう思ったが、思い返してみると、ちょっとその通りかもしれないことに気が付いた。
……確かにあんまりカイのこと気にしてなかったかも。まあカイに限らずだけど。
やっぱり目につくのは優等生よりも問題児だよね。ちらっとクリスを見ると、クリスは不思議そうに首を傾げた。……私もクリスに同じように思われてそうだな。
いやいや、でもカイが私に興味があるとしたら、リリーとくっつけるのって難しくない? リリーの背中を押しまくったらうまくいくかな? いやでもそれでリリーがいじめられたらいけないし……まあこの件に関してはまた考えよう。
前方に馬車の明かりがが見え、その前で誰かと話をしているリリーの姿も見えた。相手は誰だろう。
……ってヘンドリックお兄様じゃん!
いつかの「お前には失望した」発言より顔をあわせないようにしてきたので、とても久しぶりに見る気がする。
顔色は良い。元気そうだ。最近は差入れもしていなかったからちょっと安心。ちゃんと食べてるんだ。
「なんか、リリーすっごい楽しそうに話してない?」
クリスが困惑したような表情で前方を指さす。私も改めてリリーへと視線を向けてみる。暗くてそこだけ明るい中でリリーは満面の笑顔を浮かべていた。
あのヘンドリックお兄様と一対一で話をしている時に浮かべる笑顔だとは信じられない程。
「……あれお兄様よね? 見間違いじゃないわよね?」
「私にもそう見えるけど……」
お兄様はいつも通りの仏頂面。しかしよく見るといつもよりも少し表情が緩んでいるようにも見える。気のせいかもしれないけど。
あまり会いたくはないが仕方がない。学校に帰るには馬車に乗るしかないし。
二人の方へ歩いて行くと、最初に気が付いたのはヘンドリックお兄様だった。何を考えているか分からない無表情でこちらを見るその顔は前と変わらない。
「お久しぶりです、お兄様。お元気そうでよかったですわ。最近は時間もなくて魔法省に顔を出すことができないのがとても残念ですの」
なんだか少しきまずくて、矢継ぎ早にそう言うと、お兄様は何か言いたそうに口を開いた。しかしそれは言葉にならずに口が閉じる。
なんとなく嘘が見抜かれたような気がした。まあそれなりに忙しいとはいっても魔法省に顔を出す時間くらいはある。お兄様はそれを分かっている気がする。
しかしそれが言葉にならなかったことにほっとして私は更に言う。
「ほら、リリー様、クリス、馬車に乗りましょう。わたくしもう疲れましたの。早く帰りたいわ」
「うん、そうだね」
私の言いたいことを察したのか、クリスが何か言いたそうに私を見て、しかし馬車に乗り込んだ。リリーも「そうですね」と頷いて乗る。
二人が乗ったのを確認して、私はお兄様へと向き直った。
「申し訳ありません、お兄様。今日はもう戻りますわ。また時間が空いたら魔法省に参りますね」
別に話をしたくないわけではない。ただちょっとどんな顔をしたらいいのか分からないだけ。別にわざわざここで話すことはない。必要な情報はヨハンを通じてもらってるし、流している。さっさと馬車に乗ろうと思ったが、視線を感じてお兄様を見た。
するとお兄様はじっと私の顔を見ていた。まるで全てを見透かしているかのような深い目。油断したら吸い込まれてしまいそうなその瞳。
「何か?」
目を逸らすのも不自然かと思ってそう言って笑ったけど、その笑顔も不自然だったかもしれない。いつも通りに笑えなかったのは自分でも分かった。お兄様は何か言いたそうな顔をしていたが、少しして私から視線をそらした。
「……何でもない。気を付けて帰れ」
そして踵を返して歩いて行ってしまった。
……なんだったんだ。いやいや、私にはもう期待しないって言ったのはお兄様じゃん。そりゃ気まずくなるでしょ。多少なりともダメージ受けたんだし。
確かに失敗したのは私だけど、私は悪くないもん。
心の中で言い訳をするようにそう思い、私はため息を吐いて馬車へと乗り込んだ。
「ええ、帰りましょう」
クリスが私の隣に並んで歩く。
リリーはどこに行ったのだろうかときょろきょろしていると、クリスは「先に馬車に行ってるよ」と教えてくれた。
なるほど。
「気が利くわね」
どうせ陛下との話が何だったのかを聞きたいのだろう。クリスは私の言葉が皮肉だと分かったのか、ニヤッと笑って「そうでしょ」と言った。
クリスが目を輝かせて私を見るので、周りをちょっとだけ見回して、近くに人がいないことを確認する。
「殿下がわたくしを婚約者に望んでおられる、と」
簡潔にそう言うと、クリスは途端に興味を失ったように「ふーん」と言った。え、さっきまであんなに聞きたそうだったのに急にそれ!?
え!? 期待外れだった?
驚いてクリスを見ると、クリスはなんだと言いたげに私を見てきた。そしてこれまだ興味なさそうに口を開く。
「で? エレナはなんて言ったの?」
「もちろん断ったわよ」
「そうだよね」
そう言ったきり何も言わないクリス。
……え? それだけ? びっくりしないの? え!?
「どうしたの?」
じーっとクリスを見ていると、クリスが視線に気づいて私の方を見た。そして「なんて顔してるの」と可笑しそうに笑う。
え、いやびっくりするでしょ。クリスがびっくりしないことにびっくりした。
「驚かないの?」
「何に?」
「殿下がわたくしのとことを、その……」
そう言うとクリスは何か言いたそうに私を見て、そしてため息を吐いた。
「知ってたよ。なんならレオンもマクシミリアンも知ってるよ。知らないのエレナだけだから」
「……え?」
どういうこと? 私だけが知らなかった? 皆知ってた?
「カイを見てたらバレバレだよ。エレナはカイが視界に入っていないから気が付いてなかったんだろうけど」
視界に入ってないって、ちゃんと入ってるけど。そう思ったが、思い返してみると、ちょっとその通りかもしれないことに気が付いた。
……確かにあんまりカイのこと気にしてなかったかも。まあカイに限らずだけど。
やっぱり目につくのは優等生よりも問題児だよね。ちらっとクリスを見ると、クリスは不思議そうに首を傾げた。……私もクリスに同じように思われてそうだな。
いやいや、でもカイが私に興味があるとしたら、リリーとくっつけるのって難しくない? リリーの背中を押しまくったらうまくいくかな? いやでもそれでリリーがいじめられたらいけないし……まあこの件に関してはまた考えよう。
前方に馬車の明かりがが見え、その前で誰かと話をしているリリーの姿も見えた。相手は誰だろう。
……ってヘンドリックお兄様じゃん!
いつかの「お前には失望した」発言より顔をあわせないようにしてきたので、とても久しぶりに見る気がする。
顔色は良い。元気そうだ。最近は差入れもしていなかったからちょっと安心。ちゃんと食べてるんだ。
「なんか、リリーすっごい楽しそうに話してない?」
クリスが困惑したような表情で前方を指さす。私も改めてリリーへと視線を向けてみる。暗くてそこだけ明るい中でリリーは満面の笑顔を浮かべていた。
あのヘンドリックお兄様と一対一で話をしている時に浮かべる笑顔だとは信じられない程。
「……あれお兄様よね? 見間違いじゃないわよね?」
「私にもそう見えるけど……」
お兄様はいつも通りの仏頂面。しかしよく見るといつもよりも少し表情が緩んでいるようにも見える。気のせいかもしれないけど。
あまり会いたくはないが仕方がない。学校に帰るには馬車に乗るしかないし。
二人の方へ歩いて行くと、最初に気が付いたのはヘンドリックお兄様だった。何を考えているか分からない無表情でこちらを見るその顔は前と変わらない。
「お久しぶりです、お兄様。お元気そうでよかったですわ。最近は時間もなくて魔法省に顔を出すことができないのがとても残念ですの」
なんだか少しきまずくて、矢継ぎ早にそう言うと、お兄様は何か言いたそうに口を開いた。しかしそれは言葉にならずに口が閉じる。
なんとなく嘘が見抜かれたような気がした。まあそれなりに忙しいとはいっても魔法省に顔を出す時間くらいはある。お兄様はそれを分かっている気がする。
しかしそれが言葉にならなかったことにほっとして私は更に言う。
「ほら、リリー様、クリス、馬車に乗りましょう。わたくしもう疲れましたの。早く帰りたいわ」
「うん、そうだね」
私の言いたいことを察したのか、クリスが何か言いたそうに私を見て、しかし馬車に乗り込んだ。リリーも「そうですね」と頷いて乗る。
二人が乗ったのを確認して、私はお兄様へと向き直った。
「申し訳ありません、お兄様。今日はもう戻りますわ。また時間が空いたら魔法省に参りますね」
別に話をしたくないわけではない。ただちょっとどんな顔をしたらいいのか分からないだけ。別にわざわざここで話すことはない。必要な情報はヨハンを通じてもらってるし、流している。さっさと馬車に乗ろうと思ったが、視線を感じてお兄様を見た。
するとお兄様はじっと私の顔を見ていた。まるで全てを見透かしているかのような深い目。油断したら吸い込まれてしまいそうなその瞳。
「何か?」
目を逸らすのも不自然かと思ってそう言って笑ったけど、その笑顔も不自然だったかもしれない。いつも通りに笑えなかったのは自分でも分かった。お兄様は何か言いたそうな顔をしていたが、少しして私から視線をそらした。
「……何でもない。気を付けて帰れ」
そして踵を返して歩いて行ってしまった。
……なんだったんだ。いやいや、私にはもう期待しないって言ったのはお兄様じゃん。そりゃ気まずくなるでしょ。多少なりともダメージ受けたんだし。
確かに失敗したのは私だけど、私は悪くないもん。
心の中で言い訳をするようにそう思い、私はため息を吐いて馬車へと乗り込んだ。
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