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私の立場
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レオナ様に勧められるまま椅子に座り、私はベアトリクスを見た。機嫌は良くないけど話はできそうだ。せっかく来たのだから言いたいことは言って帰ろう。
「ベアトリクス様、今日の放課後のあれは何なのでしょうか?」
ずばりそう聞くと、ベアトリクスは「やっぱりその話なのね」とため息を吐いた。そりゃそうだ。急にリリーやカイに喧嘩を売るなんて。
「理由をお聞かせくださいませ。どうしてあのような強い言葉をリリー様に向けたのでしょうか?」
「……わたくしは間違ったことは言っていないわ」
「違います。間違っているとか間違っていないとかそんなことを言っているのではありません」
ベアトリクスの返事に間髪入れずにそう言うと、レオナ様が息をのむ気配がした。公爵家のベアトリクスに対して伯爵家の私がこんな言い方をすることに驚いたのかもしれない。それともかつての私たちの関係を知っているからかもしれない。
こんな言い方をするのは失礼だと分かっている。それでも言わずにはいられない。
「皆の前であのようにリリー様を侮辱するような発言をされた理由をお聞きしたいのです」
ベアトリクスが言わなかったら私が言っていた。もっと違う言葉でリリーを嗜め、だけど落とさないように。それなのにベアトリクスがあんな強い言葉で言ってしまうとあそこにいた他の生徒が同じように口に出してもいいんだと思ってしまう。
身分の高いベアトリクスが言うのだから自分たちもそれを口に出してしまってもいいんだと。
ただでさえ「平民のくせに」と皆が思っているというのに。一度口に出せばもう止まらない。皆が「平民のくせに」と言う限り、リリーは『光属性の使い手』ではなく『平民』のままだ。
「理由、ね。理由ならわたくしも聞きたいわ」
ベアトリクスが真っすぐに私を見た。その瞳はとても強い意志を宿していて、何か明確なものがあるんだろ分かった。
リリーのことで思うところがあるのか。それとも私に文句を言いたいのか。何が来るかとこっそり身構える。
「あの娘とエレナが仲良くする理由は何? 殿下にまで紹介して、あなたに何の得があるの?」
リリーと仲良くする理由? 仲良くして私に何の得があるか?
それは全く予想していない質問だった。そんなこと聞かれても私は答えを持ってはいない。
「ベアトリクス様は誰かと仲良くするのに理由が必要だとおっしゃられるのでしょうか? 友達とはそんな打算的な関係だと?」
確かにこの世界にはとてもあり得ることだ。家同士の関係によって友達となるかなれないかも決まるかもしれない。それでも私はそんな考え方は好きじゃない。
「仲良くするのに理由など必要ありませんわ」
そう答えた私を、ベアトリクスは唇を噛んで悔しそうな目で見た。何かを言いたそうだけど口を開こうとはしない。
……まだ何かありそうだな。もしかしてベアトリクスは私の知らない何かを知っているのか?
「……おっしゃってくださらないと分かりませんわ」
家にあまり帰っておらず、連絡も滅多にとっていない私へと入ってくる情報は、ヨハンを通したヘンドリックお兄様からのものだけ。だからその情報が制限されたものだったとしても分からない。
だからベアトリクスの知っていることは聞いておきたいんだけど……公爵家にもなれば情報はいくらでも集まるだろうし。
「……そのご様子だとご存じないのですね」
口を開いたのはべアトリクスではなくレオナ様だった。
「エレナ様が一部の貴族の間でどのように言われているのか」
「ええ、何も存じ上げませんわ」
一部の貴族の間で。どうせよくないことなんだろうけど。教えてもらおうとレオナ様を見ると、レオナ様はとても言い辛そうに口を開いた。
「今は光属性の使い手はお二人いらっしゃるわけですよね? だから、その……」
「光属性の使い手は一人で十分だ。残すなら扱いやすい平民の方だろう。魔力の多い方に魅了なんてされたらたまらない」
レオナ様の言葉を遮ってベアトリクスが厳しい表情でそう言った。
「これが今のエレナの立場よ。こんな馬鹿げたことを言う人が増えてきているの」
いや、何それ。確かにそんな展開も想像してはいたけど、おかしいでしょ。普通に考えれば光属性は使えれば使えるだけいいものだ。こんな都合のいい力を手放すなんてもったいない。とはいえ光属性が魅了の魔法を使えるんじゃないかというの噂は、私にも本当かどうか分からないけど。
「それに対して陛下は何と?」
「もちろん、陛下はそのような言葉を強く批判していらっしゃいます。ですが日に日にそんな声が大きくなってきていて……」
レオナ様が気遣うような視線を私に向ける。別にショックは受けてないし、これで落ち込むことはない。今まで色々やらかしてきた身だ。敵は多いと自分でも思っている。そしてお父様のことを悪く思う人も多いだろう。
リリーが平民だから扱いやすい、というのはただの口実。魔法学校に編入したリリーはあと二年経てば卒業し、正式に貴族と認められる。平民なのは今だけ。
つまり、私が光属性の使い手としてちやほやされて、宰相であるお父様がこれ以上力を持つことを阻止したいのだ。子供だけではなく、大人たちも私のことが邪魔だと。我ながら疎まれているな。
そんなことを考えていると、バン! とすごい音がした。
「何よ、その顔は!」
ベアトリクスはすごく怒っていた。
「ベアトリクス様、今日の放課後のあれは何なのでしょうか?」
ずばりそう聞くと、ベアトリクスは「やっぱりその話なのね」とため息を吐いた。そりゃそうだ。急にリリーやカイに喧嘩を売るなんて。
「理由をお聞かせくださいませ。どうしてあのような強い言葉をリリー様に向けたのでしょうか?」
「……わたくしは間違ったことは言っていないわ」
「違います。間違っているとか間違っていないとかそんなことを言っているのではありません」
ベアトリクスの返事に間髪入れずにそう言うと、レオナ様が息をのむ気配がした。公爵家のベアトリクスに対して伯爵家の私がこんな言い方をすることに驚いたのかもしれない。それともかつての私たちの関係を知っているからかもしれない。
こんな言い方をするのは失礼だと分かっている。それでも言わずにはいられない。
「皆の前であのようにリリー様を侮辱するような発言をされた理由をお聞きしたいのです」
ベアトリクスが言わなかったら私が言っていた。もっと違う言葉でリリーを嗜め、だけど落とさないように。それなのにベアトリクスがあんな強い言葉で言ってしまうとあそこにいた他の生徒が同じように口に出してもいいんだと思ってしまう。
身分の高いベアトリクスが言うのだから自分たちもそれを口に出してしまってもいいんだと。
ただでさえ「平民のくせに」と皆が思っているというのに。一度口に出せばもう止まらない。皆が「平民のくせに」と言う限り、リリーは『光属性の使い手』ではなく『平民』のままだ。
「理由、ね。理由ならわたくしも聞きたいわ」
ベアトリクスが真っすぐに私を見た。その瞳はとても強い意志を宿していて、何か明確なものがあるんだろ分かった。
リリーのことで思うところがあるのか。それとも私に文句を言いたいのか。何が来るかとこっそり身構える。
「あの娘とエレナが仲良くする理由は何? 殿下にまで紹介して、あなたに何の得があるの?」
リリーと仲良くする理由? 仲良くして私に何の得があるか?
それは全く予想していない質問だった。そんなこと聞かれても私は答えを持ってはいない。
「ベアトリクス様は誰かと仲良くするのに理由が必要だとおっしゃられるのでしょうか? 友達とはそんな打算的な関係だと?」
確かにこの世界にはとてもあり得ることだ。家同士の関係によって友達となるかなれないかも決まるかもしれない。それでも私はそんな考え方は好きじゃない。
「仲良くするのに理由など必要ありませんわ」
そう答えた私を、ベアトリクスは唇を噛んで悔しそうな目で見た。何かを言いたそうだけど口を開こうとはしない。
……まだ何かありそうだな。もしかしてベアトリクスは私の知らない何かを知っているのか?
「……おっしゃってくださらないと分かりませんわ」
家にあまり帰っておらず、連絡も滅多にとっていない私へと入ってくる情報は、ヨハンを通したヘンドリックお兄様からのものだけ。だからその情報が制限されたものだったとしても分からない。
だからベアトリクスの知っていることは聞いておきたいんだけど……公爵家にもなれば情報はいくらでも集まるだろうし。
「……そのご様子だとご存じないのですね」
口を開いたのはべアトリクスではなくレオナ様だった。
「エレナ様が一部の貴族の間でどのように言われているのか」
「ええ、何も存じ上げませんわ」
一部の貴族の間で。どうせよくないことなんだろうけど。教えてもらおうとレオナ様を見ると、レオナ様はとても言い辛そうに口を開いた。
「今は光属性の使い手はお二人いらっしゃるわけですよね? だから、その……」
「光属性の使い手は一人で十分だ。残すなら扱いやすい平民の方だろう。魔力の多い方に魅了なんてされたらたまらない」
レオナ様の言葉を遮ってベアトリクスが厳しい表情でそう言った。
「これが今のエレナの立場よ。こんな馬鹿げたことを言う人が増えてきているの」
いや、何それ。確かにそんな展開も想像してはいたけど、おかしいでしょ。普通に考えれば光属性は使えれば使えるだけいいものだ。こんな都合のいい力を手放すなんてもったいない。とはいえ光属性が魅了の魔法を使えるんじゃないかというの噂は、私にも本当かどうか分からないけど。
「それに対して陛下は何と?」
「もちろん、陛下はそのような言葉を強く批判していらっしゃいます。ですが日に日にそんな声が大きくなってきていて……」
レオナ様が気遣うような視線を私に向ける。別にショックは受けてないし、これで落ち込むことはない。今まで色々やらかしてきた身だ。敵は多いと自分でも思っている。そしてお父様のことを悪く思う人も多いだろう。
リリーが平民だから扱いやすい、というのはただの口実。魔法学校に編入したリリーはあと二年経てば卒業し、正式に貴族と認められる。平民なのは今だけ。
つまり、私が光属性の使い手としてちやほやされて、宰相であるお父様がこれ以上力を持つことを阻止したいのだ。子供だけではなく、大人たちも私のことが邪魔だと。我ながら疎まれているな。
そんなことを考えていると、バン! とすごい音がした。
「何よ、その顔は!」
ベアトリクスはすごく怒っていた。
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