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絆を深めよう作戦
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誰もリリーに親しく話しかけない。だけど悪意のある言葉を吐くことはない。ラルフなど、一部の生徒はその悪意を態度に出すことはあるが。
そんな当たり障りのない日々が続いた。リリーも学校生活に慣れ、私もそこにリリーがいることに慣れた。
しかし一つ気になるのは、リリーが攻略対象の誰とも接触することがないのだ。おかしい。編入から既に一か月。もうそろそろ皆と仲良くなってもいい時期なのだけど……。
「今日のお弁当は私も一緒に作ったのですよ、クリス様」
なんて嬉しそうに言っているリリーは、別の授業を受ける時以外はずっと私にべったりだ。
「うん、美味しいよ、リリー」
クリスの言葉にふふっとリリーが笑う。
……構いすぎたのかもしれない。なんだか懐かれてしまった気がする。一人だと寂しいだろうから、と思ったのがいけなかったのかもしれない。気を付けてはいたのだけど、私が皆との絆を深める機会を潰してしまったのだろう。
だけど今更ほっぽり出すわけにもいかない。……ちょっと強引だけど私から皆を紹介するか。
私の光属性が公となってから、私たちとカイ達が仲良しなのは隠すことではなくなった。私が伯爵家の娘から光属性の使い手となったから。
今では放課後に一緒に勉強をすることもできるし、人目を気にして話をすることもない。つまり、同じ光属性の使い手であるリリーもカイ達と仲良くなっても誰も何も言わないのではないかと思う。
実際それで結婚が認められるわけだし。
よし、そうしよう。じゃあ早速……。
「殿下、今日の文官科の授業のことを聞いてもよろしいでしょうか?」
放課後、私がカイにそう声をかけると、クリスがガタガタと椅子の向きを変え始めた。皆で向かい合って勉強できるようにするためだ。
「もちろん」
カイがそう頷き、レオンやマクシミリアンも勉強道具を持って近くに座る。よしよし、いつも通り。それでここに……。
「リリー様、わたくし達は少し残って勉強しようと思いますの。よろしければリリー様もご一緒にどうですか?」
「いいのですか!?」
私の言葉に反応して、リリーは目を輝かせた。想像以上に嬉しそうだ。
今までは誘ったことがなかったけど、こんなに嬉しそうにしてくれるのならもっと早く誘えばよかったかもしれない。
キラキラと輝いている目を見ると自然と頬が緩んでしまう。
「ええ、ではもう知っているとは思いますが、改めて紹介しましょうか」
「はい、お願いします」
「ではまず、レオン様」
レオンを手で示すと、レオンがニカッと笑って手を上げてくれる。
「マクシミリアン様」
マクシミリアンも顔を上げて小さく手を振ってくれた。
「それから、第二皇子の」
「カイだよ」
私の言葉を遮ってカイがそう言いながら近づいてきた。もしかしたらカイもリリーと話をしたくて機会を探していたのかもしれない。よしよし、そう言うことなら私は黙っておこう。
「よろしく、リリー」
「は、はい、よろしくお願いします。カイ様」
途端、教室中が微妙な雰囲気に包まれた。
……しまった、油断した。
鋭い視線がチラチラとリリーに向き、リリーが戸惑っているのが分かる。
このクラスでカイのことを名前で呼ぶのはレオンとマクシミリアンとクリスだけ。ここはカイと昔から仲がいいことを皆が知っているのでもう誰も何も言わない。今更だし。
だけどリリーは違う。皆の中ではリリーはまだ光属性の使い手というよりも平民と認識されている。そうでなくても許しを得てもいないのに皇子を名前で呼ぶなど許されることではないのだ。
助けを求めてクリスを見るが、クリスも固まっている。カイは全然気にしていないよう。気にしていないからこそ教室中の微妙の雰囲気にも気が付いていないような気がする。
「あ、あの、リリー様……」
とりあえずリリーに教えて謝罪をさせないと……。そう思ってリリーに声をかけると、別の声が私の言葉を遮って響いた。
「光属性の使い手だと言っても平民は平民ね。礼儀も知らないのに殿下に近付くなんて何を考えているのかしら」
……出た。もう何も考えずにこの場から逃げ出してしまいたい。
ベアトリクスだ。しかも悪役令嬢版の。
最近はリリーと一緒にいることが多かったからあまり話もできていないけど、ベアトリクスがリリーのことをあまりよく思っていないことは知っている。何でなのかは知らないけど。やっぱりヒロインと悪役令嬢の関係はどうあっても変わらないのだろうか。
それにしても今日は一段と機嫌が悪そうだ。取り巻き達がベアトリクスの後ろでニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。
「殿下を名前で呼ぶなんて何様のおつもり?」
お前が言うか!!
心の底からの言葉が口をついて出そうになるのをこらえる。しかし顔には出ているかもしれない。ベアトリクスの方を見ると、目が合ったが、すぐにそらされた。
「光属性の使い手として魔法学校に入ったけれど、平民はあくまで平民。身の程を弁えなさい。お友達に迷惑をかけたくなければね」
一瞬だけ私に視線が向き、すぐにベアトリクスは踵を返した。言いたいことは色々ある。まず、どの口が言うのか、と。ベアトリクスにはぜひとも数年前の自分を思い返してみて欲しい。
それから何を考えているのか。どうも今の感じだとリリーをいじめたいわけではなさそうだ。自ら進んで悪役を買って出たということだろうか。
「待ってください、ベアトリクス」
ベアトリクスを引き留めたのは意外にもカイだった。何を言い出すのかをぎょっとしてカイを見ると、カイは鋭い視線をベアトリクスへと向けていた。ベアトリクスも負けじとカイを見る。
「リリーには既に名前を呼ぶ許可を出しています。それに関しては問題ありません。それから、今の言い方は不必要に厳しかったのでないでしょうか。彼女に謝罪を」
名前を呼ぶ許可は嘘。リリーとカイのちゃんと接触はこれが初めてのはずだ。というかリリーのあの態度からそんなことはすぐに分かる。ベアトリクスだってそれを分かっているから言ったんだろうし。
だけど問題はカイがそう言えばそれが本当になってしまうということだ。余計なことをしてくれた。恨みを込めてベアトリクスと、ベアトリクスを引き留めたカイを見る。が、二人とも私の方は全く見ていなかった。
これで悪役令嬢ベアトリクス派vsヒロイン一派という図になってしまった。
私が苦労してベアトリクスの性格改善をしてきたのに。
……もうやだ。
そんな当たり障りのない日々が続いた。リリーも学校生活に慣れ、私もそこにリリーがいることに慣れた。
しかし一つ気になるのは、リリーが攻略対象の誰とも接触することがないのだ。おかしい。編入から既に一か月。もうそろそろ皆と仲良くなってもいい時期なのだけど……。
「今日のお弁当は私も一緒に作ったのですよ、クリス様」
なんて嬉しそうに言っているリリーは、別の授業を受ける時以外はずっと私にべったりだ。
「うん、美味しいよ、リリー」
クリスの言葉にふふっとリリーが笑う。
……構いすぎたのかもしれない。なんだか懐かれてしまった気がする。一人だと寂しいだろうから、と思ったのがいけなかったのかもしれない。気を付けてはいたのだけど、私が皆との絆を深める機会を潰してしまったのだろう。
だけど今更ほっぽり出すわけにもいかない。……ちょっと強引だけど私から皆を紹介するか。
私の光属性が公となってから、私たちとカイ達が仲良しなのは隠すことではなくなった。私が伯爵家の娘から光属性の使い手となったから。
今では放課後に一緒に勉強をすることもできるし、人目を気にして話をすることもない。つまり、同じ光属性の使い手であるリリーもカイ達と仲良くなっても誰も何も言わないのではないかと思う。
実際それで結婚が認められるわけだし。
よし、そうしよう。じゃあ早速……。
「殿下、今日の文官科の授業のことを聞いてもよろしいでしょうか?」
放課後、私がカイにそう声をかけると、クリスがガタガタと椅子の向きを変え始めた。皆で向かい合って勉強できるようにするためだ。
「もちろん」
カイがそう頷き、レオンやマクシミリアンも勉強道具を持って近くに座る。よしよし、いつも通り。それでここに……。
「リリー様、わたくし達は少し残って勉強しようと思いますの。よろしければリリー様もご一緒にどうですか?」
「いいのですか!?」
私の言葉に反応して、リリーは目を輝かせた。想像以上に嬉しそうだ。
今までは誘ったことがなかったけど、こんなに嬉しそうにしてくれるのならもっと早く誘えばよかったかもしれない。
キラキラと輝いている目を見ると自然と頬が緩んでしまう。
「ええ、ではもう知っているとは思いますが、改めて紹介しましょうか」
「はい、お願いします」
「ではまず、レオン様」
レオンを手で示すと、レオンがニカッと笑って手を上げてくれる。
「マクシミリアン様」
マクシミリアンも顔を上げて小さく手を振ってくれた。
「それから、第二皇子の」
「カイだよ」
私の言葉を遮ってカイがそう言いながら近づいてきた。もしかしたらカイもリリーと話をしたくて機会を探していたのかもしれない。よしよし、そう言うことなら私は黙っておこう。
「よろしく、リリー」
「は、はい、よろしくお願いします。カイ様」
途端、教室中が微妙な雰囲気に包まれた。
……しまった、油断した。
鋭い視線がチラチラとリリーに向き、リリーが戸惑っているのが分かる。
このクラスでカイのことを名前で呼ぶのはレオンとマクシミリアンとクリスだけ。ここはカイと昔から仲がいいことを皆が知っているのでもう誰も何も言わない。今更だし。
だけどリリーは違う。皆の中ではリリーはまだ光属性の使い手というよりも平民と認識されている。そうでなくても許しを得てもいないのに皇子を名前で呼ぶなど許されることではないのだ。
助けを求めてクリスを見るが、クリスも固まっている。カイは全然気にしていないよう。気にしていないからこそ教室中の微妙の雰囲気にも気が付いていないような気がする。
「あ、あの、リリー様……」
とりあえずリリーに教えて謝罪をさせないと……。そう思ってリリーに声をかけると、別の声が私の言葉を遮って響いた。
「光属性の使い手だと言っても平民は平民ね。礼儀も知らないのに殿下に近付くなんて何を考えているのかしら」
……出た。もう何も考えずにこの場から逃げ出してしまいたい。
ベアトリクスだ。しかも悪役令嬢版の。
最近はリリーと一緒にいることが多かったからあまり話もできていないけど、ベアトリクスがリリーのことをあまりよく思っていないことは知っている。何でなのかは知らないけど。やっぱりヒロインと悪役令嬢の関係はどうあっても変わらないのだろうか。
それにしても今日は一段と機嫌が悪そうだ。取り巻き達がベアトリクスの後ろでニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。
「殿下を名前で呼ぶなんて何様のおつもり?」
お前が言うか!!
心の底からの言葉が口をついて出そうになるのをこらえる。しかし顔には出ているかもしれない。ベアトリクスの方を見ると、目が合ったが、すぐにそらされた。
「光属性の使い手として魔法学校に入ったけれど、平民はあくまで平民。身の程を弁えなさい。お友達に迷惑をかけたくなければね」
一瞬だけ私に視線が向き、すぐにベアトリクスは踵を返した。言いたいことは色々ある。まず、どの口が言うのか、と。ベアトリクスにはぜひとも数年前の自分を思い返してみて欲しい。
それから何を考えているのか。どうも今の感じだとリリーをいじめたいわけではなさそうだ。自ら進んで悪役を買って出たということだろうか。
「待ってください、ベアトリクス」
ベアトリクスを引き留めたのは意外にもカイだった。何を言い出すのかをぎょっとしてカイを見ると、カイは鋭い視線をベアトリクスへと向けていた。ベアトリクスも負けじとカイを見る。
「リリーには既に名前を呼ぶ許可を出しています。それに関しては問題ありません。それから、今の言い方は不必要に厳しかったのでないでしょうか。彼女に謝罪を」
名前を呼ぶ許可は嘘。リリーとカイのちゃんと接触はこれが初めてのはずだ。というかリリーのあの態度からそんなことはすぐに分かる。ベアトリクスだってそれを分かっているから言ったんだろうし。
だけど問題はカイがそう言えばそれが本当になってしまうということだ。余計なことをしてくれた。恨みを込めてベアトリクスと、ベアトリクスを引き留めたカイを見る。が、二人とも私の方は全く見ていなかった。
これで悪役令嬢ベアトリクス派vsヒロイン一派という図になってしまった。
私が苦労してベアトリクスの性格改善をしてきたのに。
……もうやだ。
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