上 下
194 / 300

練習

しおりを挟む
とは思っていたが、いくら暇そうでもこいつだけは嫌だ。学園について最初に見る顔がよりにもよってラルフだとは今日はツイてない。


「ごきげんよう」


にっこりと微笑んでそう言い、その場を立ち去る。もちろんラルフから挨拶などないし、求めてもない。


「カミラといったか」


思わず足を止めて振り返った。どうしてラルフの口からカミラの名前が出るのだろう。こいつはカミラと会ったと言うのか。

私が反応したのが面白かったのか、満足そうに笑うラルフ。顔を見るだけでムカつく。


「お前と違って可愛げがあるな。女はああでなければ」


その言い方で私だけでなくカミラまでもを下に見ていることが分かる。

あの子は、カミラはラルフと違って綺麗なんだ。その視界に映ることすら許しがたい。怒りがこみ上げ、気が付くと私はラルフを睨んでいた。


「その汚い手でカミラに触れることは許しません」


ラルフが引きつった顔で後ずさりする。自分の体から魔力が漏れ出ているのがなんとなく分かった。だけどダメだ。ラルフがカミラに近寄ることは許せない。何に変えても阻止しなければならない。例え私とラルフの婚約が破棄されなくても。

ラルフの表情が段々と怯えに変わっていく。そして、全力で走って逃げて行った。ふっと心が軽くなる。もしかしたら私は今魔力で脅してしまったのかもしれない。だけどどうでもいい。後で面倒になるとか、嫌な目に遭うとか、そんなことは全部どうでもいい。

カミラは綺麗なままでいないといけない。不幸になることはあってはならない。幸せにならないといけない。あんなにも可愛いのだから。姉馬鹿かもしれないけど。

ふう、と息をつくと、後ろでじゃりっと足音がした。今の見られたかな、とちょっと不安になりながら振り返って、安心した。そこに立っていたのはレオンだった。


「今の超かっこよかったぜ」


なんて言ってニカッと笑われた。ボッと顔が熱くなる。

全然安心できないよ! 知らない人の方が良かった! いやいやいや、どっちにしても恥ずかしすぎるし!!


できるだけ平静を装ってレオンと二人で並んで歩く。


「今日は殿下はご一緒では?」

「ああ、カイは城に帰ってる。暇だから一人で散歩していたところだ」


お、暇人見つけた! けどレオンって魔法得意だっけ? 苦手なのに無理をさせるわけにはいかないし……やっぱりクリスに頼めばよかったかな。


「どうしたんだ?」

「あ、いえ、ちょっとお願いが……」


かくかくしかじかと説明をする。といっても大した説明もないけど。


「その、レオン様がお嫌でなければで大丈夫なのですが……」

「魔法への割り込み、か……初めて聞くがそんなこと本当にできるのか?」


本当にできるはず。だけどはっきりと頷くことはできない。誰が言ったんだと言われても困るから。


「はい、その、いつだったか忘れたのですが、本でそのようなことが書いてあることを思い出しまして……」


ちょっと視線をそらしてそう言うと、レオンは「ふーん」と何度か頷いて、そして笑った。


「いいぜ、どうせ暇だしな!」



早速場所を移動して、ベンチへと腰かける。ちらほらと人の姿が見える場所。人通りが多いと困るけど、少なすぎても困るのだ。人気のないところで二人でいることがばれたらあらぬ誤解を生んでしまうから。

その辺りも考えるとクリスにお願いするべきだった。明日には帰ってきてもらおう。


「じゃあ俺はどんな魔法を使えばいいんだ?」

「そうですね……」


早速始めようとやる気満々でレオンが言う。どんな魔法か。やっぱり分かりやすいのがいいよね。割り込んで魔法を変えるのだから、変わったことがすぐに分かる魔法。


「目に見えるものがいいですね。火で何かを作るとか?」

「おう!」


思えばレオンの魔法は初めて見るかもしれない。レオンが宙を見る。その視線の先に小さな火の玉が。それがだんだんと大きくなって、そして火の鳥になった。さすが攻略対象。なんでも卒なくこなせるんだ。

うん、かっこいい。

っと、そんなこと思っている場合じゃなかった。魔法を変えないと。

魔力に割り込む……割り込む……。じっと火の鳥を見て試してみるが、一向に何も変わらない。

魔力が少ないのかな。そう思って少し多めに魔力を使ってみる。すると火の鳥は燃えて消えてしまった。


「あ……」


そこに残ったのは私の作った火の玉のみ。どうもレオンの魔力量を超えてしまったようだ。

……え!? 無理じゃない!?


「申し訳ありません」

「いい、気にするな。もう一回か?」

「はい、お願いします!」


その後も何度も試してみるが、結果は変わらない。二時間ほど経つと、さすがにレオンの顔に疲れが見え始めて来た。今日はこのくらいか。


「失敗ばかりして申し訳ありません。もう少し考えてみますわ。ご協力ありがとうございました」


せっかく手伝ってくれたのに魔力も時間も無駄にさせてしまった。どうすればできるのか全く何も掴めていない。この体を使ってエレナはできたというのに私はできない。才能がないのかもしれない。


「エレナ、気にするな。まだ始めたばかりだろ。俺で良かったら明日も明後日も、できるまで付き合うから。元気出せ、な?」


傍から見て分かるほど落ち込んでいたのか、レオンが慌ててそう言ってくれる。年下に慰められてしまったことにさらにがっくりする。

あー、ほんとに何から何まで申し訳ない。レオンを見るととても眩しい笑顔を向けてくれた。

……明日も頑張ろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

転生したらついてましたァァァァァ!!!

夢追子
ファンタジー
「女子力なんてくそ喰らえ・・・・・。」 あざと女に恋人を奪われた沢崎直は、交通事故に遭い異世界へと転生を果たす。 だけど、ちょっと待って⁉何か、変なんですけど・・・・・。何かついてるんですけど⁉ 消息不明となっていた辺境伯の三男坊として転生した会社員(♀)二十五歳。モブ女。 イケメンになって人生イージーモードかと思いきや苦難の連続にあっぷあっぷの日々。 そんな中、訪れる運命の出会い。 あれ?女性に食指が動かないって、これって最終的にBL!? 予測不能な異世界転生逆転ファンタジーラブコメディ。 「とりあえずがんばってはみます」

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢は婚約破棄されて覚醒する

ブラックベリィ
恋愛
書いてみたいと思っていた悪役令嬢ですが、一風変わったように書けたらと思いながら書いております。 ちなみに、プロットなしで思いつきで書いているので、たまに修正するハメになります(涙) 流石に、多くの方にお気に入りを入れてもらったので、イメージ部分に何も無いのが寂しいと思い、過去に飼っていた愛犬の写真を入れました(笑) ちなみに犬種は、ボルゾイです。 ロシアの超大型犬で、最多の時は室内で9頭飼っておりました。 まぁ過去の話しですけどね。 とりあえず、頑張って書きますので応援よろしくお願いします。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します

天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。 結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。 中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。 そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。 これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。 私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。 ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。 ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。 幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。

処理中です...