152 / 300
おばあ様とのお茶会
しおりを挟む
「ところでおばあ様、小さい頃のお父様はどのような方でしたの?」
ある程度王都での話を終え、私はそう切り出した。別にお父様にそこまでの興味はないけど、ヘンドリックお兄様とクルトお兄様のあの性格の違いが気になる。それぞれ両親に似ているのかもしれないけど、そうなるとどっちがどっちなのか。
「ヘルムートは屋敷の中で大人しくしているタイプではなかったわね。気が付いたら一人で外に出ていたり、町まで行っていたり。ヘルムート付きの執事がよく探し回っていたもの」
へえ、なんか意外。あんな厳格そうなお父様なのに小さい頃は全然タイプが違うじゃん。でもいいことを聞いた。もし私が何か言われた時は「お父様もそうだったのでしょう」って言えるもん。
「勉強よりも剣が好きで、お茶をするよりも遠乗りに出かける方が好きな子だったわ」
遠乗りって言ったら……馬?
「だから意外なのよ。お城に勤めるなんて思っていなかったし、ましてやあの子が宰相にまでなるなんて」
ふふっと笑ったおばあ様。昔を思い出しているのだろう。目を細めて遠くを見ている。そこには私の知らないお父様がいた。
「エレナ、あなたは昔のヘルムートにとてもよく似ているわ。自然を愛し、人を愛し、自由を愛する。いつも笑顔で楽しそうな子。王都よりもこの場所で生きる方が似合う子」
おばあ様の目に私がそう見えるのならそうなのかもしれない。もともと愛玲奈の時も田舎に住んでいた私だ。都会よりも田舎の方が好きなのも本当だし。だけど、
「それならばお父様は随分変わられたのですね」
お父様の口からここへ帰ろうなんて一度も聞いたことがない。この場所の良さも語ってくれていない。いつも仕事ばかりで笑った顔すらあまり見ることがない。
おばあ様の語るお父様と、私の知っているお父様は別人じゃないかと思うくらいだ。カミラも隣で頷く。それを見ておばあ様は寂しそうに微笑んだ。
「そうね。あの子も大人になって……良くも悪くも、変わってしまったの」
何か事情がありそうだ。と思った時、おばあ様はぱっと明るい表情になって言った。
「ごめんなさいね、少し暗くなってしまったわ。他のお話をしましょう。あ、そうそうクルトも元気かしら?」
私はお父様の話を頭の片隅へと追いやって、クルトお兄様の顔を思い浮かべた。
毎日楽しそうに剣を振っていた。今は長期休暇に入ったことを喜んで家でバルトルト相手におけいこしているだろう。ヘンドリックお兄様は……いつも通り魔法省にこもっているんだろうな。
まあ元気といえば元気か。
「ええ、クルトお兄様もヘンドリックお兄様もお元気そうでしたわ」
聞かれたのはクルトお兄様のことだけだけど、ヘンドリックお兄様のことも答える。おばあ様にとっては二人とも孫だもんね。可愛い可愛くないはともかく。
「クルトお兄様は毎日わたくしに剣を教えてくださいますの。とってもお強くて、かっこいいのです」
ヘンドリックお兄様と違ってクルトお兄様はそれほど身長が高くない。だから普段は可愛らしく見えるが、剣を持つと本当にかっこいいのだ。
「ヘンドリックお兄様は魔法省へ就職されましたの。副長官のマルゴット様と一緒に新しい魔法陣を色々と考えていらっしゃるようですわ」
ヘンドリックお兄様が何をしているのかなんて詳しいことは全く分からない。ただいつも色々な魔法陣を書いているみたい。私の光魔法を魔法陣で再現しようと頑張っているようだ。私が魔法を魔法陣に帰る道具で、作ることができたらいいんだけど、光魔法はまだ成功していないから。
気が付くとおばあ様は驚いた表情で私を見ていた。
うん? どうしたんだろう。
「エレナ、あなた、ヘンドリックと上手くやっているの……?」
意味がよく理解できなくて首を傾げると、おばあ様はもう一度口を開いた。
「前に来た時、ヘンドリックはあなたに対してあまりいい態度ではなかったようだから」
「ああ……以前の関係はあまりよくありませんでしたが、今は頼れるお兄様ですの」
滅多に会わないおばあ様までもが私とヘンドリックお兄様の関係がおかしいことを知っていた。それならどうしてお父様はエレナの為にどうにかしなかったのだろう。そう考えて、どうにもできなかったのかもしれないと、そう思った。
お兄様もあ母様から結構酷い目に遭ってたみたいだしね。原因は分からないけど。おそらくお父様も無関係ではないのかもしれない。まあ私は別にいいけど。今結構仲いいし。結果オーライだ。
私の言葉におばあ様は「そう」と微笑んだ。だがその表情はまだ先ほどまでの晴れ晴れしさはない。
「聞いてくださいませ、おばあ様。ヘンドリックお兄様ったら……」
私はお兄様とのことを話した。お兄様の卒業パーティーに連れていかれて婚約者のふりをされられたことや、私が三科を選択することになった経緯。お兄様と私の関係が良好であると示すために。
カミラやクリスも加わって、色々な話をしている内に、おばあ様も朗らかに笑うようになった。この優しい人に余計は心配はかけたくない。私は心の中でほっと息をついた。
ある程度王都での話を終え、私はそう切り出した。別にお父様にそこまでの興味はないけど、ヘンドリックお兄様とクルトお兄様のあの性格の違いが気になる。それぞれ両親に似ているのかもしれないけど、そうなるとどっちがどっちなのか。
「ヘルムートは屋敷の中で大人しくしているタイプではなかったわね。気が付いたら一人で外に出ていたり、町まで行っていたり。ヘルムート付きの執事がよく探し回っていたもの」
へえ、なんか意外。あんな厳格そうなお父様なのに小さい頃は全然タイプが違うじゃん。でもいいことを聞いた。もし私が何か言われた時は「お父様もそうだったのでしょう」って言えるもん。
「勉強よりも剣が好きで、お茶をするよりも遠乗りに出かける方が好きな子だったわ」
遠乗りって言ったら……馬?
「だから意外なのよ。お城に勤めるなんて思っていなかったし、ましてやあの子が宰相にまでなるなんて」
ふふっと笑ったおばあ様。昔を思い出しているのだろう。目を細めて遠くを見ている。そこには私の知らないお父様がいた。
「エレナ、あなたは昔のヘルムートにとてもよく似ているわ。自然を愛し、人を愛し、自由を愛する。いつも笑顔で楽しそうな子。王都よりもこの場所で生きる方が似合う子」
おばあ様の目に私がそう見えるのならそうなのかもしれない。もともと愛玲奈の時も田舎に住んでいた私だ。都会よりも田舎の方が好きなのも本当だし。だけど、
「それならばお父様は随分変わられたのですね」
お父様の口からここへ帰ろうなんて一度も聞いたことがない。この場所の良さも語ってくれていない。いつも仕事ばかりで笑った顔すらあまり見ることがない。
おばあ様の語るお父様と、私の知っているお父様は別人じゃないかと思うくらいだ。カミラも隣で頷く。それを見ておばあ様は寂しそうに微笑んだ。
「そうね。あの子も大人になって……良くも悪くも、変わってしまったの」
何か事情がありそうだ。と思った時、おばあ様はぱっと明るい表情になって言った。
「ごめんなさいね、少し暗くなってしまったわ。他のお話をしましょう。あ、そうそうクルトも元気かしら?」
私はお父様の話を頭の片隅へと追いやって、クルトお兄様の顔を思い浮かべた。
毎日楽しそうに剣を振っていた。今は長期休暇に入ったことを喜んで家でバルトルト相手におけいこしているだろう。ヘンドリックお兄様は……いつも通り魔法省にこもっているんだろうな。
まあ元気といえば元気か。
「ええ、クルトお兄様もヘンドリックお兄様もお元気そうでしたわ」
聞かれたのはクルトお兄様のことだけだけど、ヘンドリックお兄様のことも答える。おばあ様にとっては二人とも孫だもんね。可愛い可愛くないはともかく。
「クルトお兄様は毎日わたくしに剣を教えてくださいますの。とってもお強くて、かっこいいのです」
ヘンドリックお兄様と違ってクルトお兄様はそれほど身長が高くない。だから普段は可愛らしく見えるが、剣を持つと本当にかっこいいのだ。
「ヘンドリックお兄様は魔法省へ就職されましたの。副長官のマルゴット様と一緒に新しい魔法陣を色々と考えていらっしゃるようですわ」
ヘンドリックお兄様が何をしているのかなんて詳しいことは全く分からない。ただいつも色々な魔法陣を書いているみたい。私の光魔法を魔法陣で再現しようと頑張っているようだ。私が魔法を魔法陣に帰る道具で、作ることができたらいいんだけど、光魔法はまだ成功していないから。
気が付くとおばあ様は驚いた表情で私を見ていた。
うん? どうしたんだろう。
「エレナ、あなた、ヘンドリックと上手くやっているの……?」
意味がよく理解できなくて首を傾げると、おばあ様はもう一度口を開いた。
「前に来た時、ヘンドリックはあなたに対してあまりいい態度ではなかったようだから」
「ああ……以前の関係はあまりよくありませんでしたが、今は頼れるお兄様ですの」
滅多に会わないおばあ様までもが私とヘンドリックお兄様の関係がおかしいことを知っていた。それならどうしてお父様はエレナの為にどうにかしなかったのだろう。そう考えて、どうにもできなかったのかもしれないと、そう思った。
お兄様もあ母様から結構酷い目に遭ってたみたいだしね。原因は分からないけど。おそらくお父様も無関係ではないのかもしれない。まあ私は別にいいけど。今結構仲いいし。結果オーライだ。
私の言葉におばあ様は「そう」と微笑んだ。だがその表情はまだ先ほどまでの晴れ晴れしさはない。
「聞いてくださいませ、おばあ様。ヘンドリックお兄様ったら……」
私はお兄様とのことを話した。お兄様の卒業パーティーに連れていかれて婚約者のふりをされられたことや、私が三科を選択することになった経緯。お兄様と私の関係が良好であると示すために。
カミラやクリスも加わって、色々な話をしている内に、おばあ様も朗らかに笑うようになった。この優しい人に余計は心配はかけたくない。私は心の中でほっと息をついた。
14
お気に入りに追加
349
あなたにおすすめの小説
アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?
奏音 美都
恋愛
絵本を開くたびに始まる、女の子が憧れるシンデレラの物語。
ある日、アナスタシアお姉様がおっしゃいました。
「私だって一度はシンデレラになって、王子様と結婚してみたーい!!」
「あら、それでしたらお譲りいたしますわ。どうぞ、王子様とご結婚なさって幸せになられてください、お姉様。
わたくし、いちど『悪役令嬢』というものに、なってみたかったんですの」
取引が成立し、お姉様はシンデレラに。わたくしは、憧れだった悪役令嬢である意地悪なお姉様になったんですけれど……
なぜか、うまくいきませんわ。どうしてですの?
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「話が違う!!」
思わず叫んだオレはがくりと膝をついた。頭を抱えて呻く姿に、周囲はドン引きだ。
「確かに! 確かに『魔法』は使える。でもオレが望んだのと全っ然! 違うじゃないか!!」
全力で世界を否定する異世界人に、誰も口を挟めなかった。
異世界転移―――魔法が使え、皇帝や貴族、魔物、獣人もいる中世ヨーロッパ風の世界。簡易説明とカミサマ曰くのチート能力『魔法』『転生先基準の美形』を授かったオレの新たな人生が始まる!
と思ったが、違う! 説明と違う!!! オレが知ってるファンタジーな世界じゃない!?
放り込まれた戦場を絶叫しながら駆け抜けること数十回。
あれ? この話は詐欺じゃないのか? 絶対にオレ、騙されたよな?
これは、間違った意味で想像を超える『ファンタジーな魔法世界』を生き抜く青年の成長物語―――ではなく、苦労しながら足掻く青年の哀れな戦場記録である。
【注意事項】BLっぽい表現が一部ありますが、BLではありません
(ネタバレになるので詳細は伏せます)
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2019年7月 ※エブリスタ「特集 最強無敵の主人公~どんな逆境もイージーモード!~」掲載
2020年6月 ※ノベルアップ+ 第2回小説大賞「異世界ファンタジー」二次選考通過作品(24作品)
2021年5月 ※ノベルバ 第1回ノベルバノベル登竜門コンテスト、最終選考掲載作品
2021年9月 9/26完結、エブリスタ、ファンタジー4位
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
かわいがっているネズミが王子様だと知ったとたんに可愛くなくなりました
ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のアネモネは金色のネズミを見つけ、飼う事にした。
しかし、金色のネズミは第三王子のロイアン殿下だった。
「頼む! 俺にキスをしてくれ」
「えっ、無理です」
真実の愛のキスで人間に戻れるらしい……
そんなおとぎ話みたいな事ある訳ないわよね……?
作者おばかの為、設定ゆるめです。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる