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将来の選択肢

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ノックをしてドアを開けると、いつもの皆の姿があった。それにちょっとだけほっとして表情が緩む。


「エレナちゃん、待ってたよ」


私の姿を見て立ち上がったのはフロレンツだった。一人だけ年下のフロレンツ。入学してからまだ一週間ほどだけど、きっと寂しい思いをしていただろう。ずっと一緒にいた皆がいないのだから。


「フロレンツ、いい子にしていたかしら?」

「エレナちゃん、子ども扱いしないでよ。僕だって頑張っているんだよ」

「あら、ごめんなさいね。プライドを傷付けちゃったかしら?」


思わず子ども扱いをしてしまったが、フロレンツももすぐ九歳。初めて会ったころの六歳ではないのだ。そう思うと、この二年で皆成長したような気がする。カイも、レオンも、マクシミリアンも、クリスも、多分私も。

椅子に座っている皆を見ると、不思議な気分になる。もう高校生で身長も止まっていた私がこうしてまた成長しているのだから。


「エレナ、とりあえず座りなよ。座って話そう」

「ええ、そうですわね」


クリスの言葉で私はカイとクリスの間の椅子に腰かけた。ぼふっと体が沈む。このまま背もたれに持たれて目を閉じてしまいたい衝動に抗い、私は背筋を伸ばした。すぐに目の前にお茶が置かれる。この香りを嗅ぐとお城に来たという感じがする。

お茶を一口飲んで改めて皆の顔を見てみる。マクシミリアンはいつも通り。フロレンツはとても嬉しそう。カイとレオンは疲れが見て取れる。

……うん、まずはベアトリクス対策かな。


「殿下、新しいお友達はできましたか?」

「新しい友達?」

「ええ、見たところ、いつもレオン様やマクシミリアン様とご一緒されておられるようですが」


私の言葉に隣でクリスもうんうん、と頷く。まあ私達もいつも二人で他の友達なんていないんだけどね。それはそれだ。


「新しい友達、というのはいない。皆どこか距離があるような気がして話しかけにくくてね」


うん、まあそうだろうね。だって相手はこの国の次期王。こっちから話しかけるにはあまりに恐れ多い。……最近ちょっとマヒしているけど。


「じゃあぜひお友達を作ることをおすすめしますわ。もちろん、相手は十分に選らばないといけないとは思いますが」


誰でもウエルカムだときっとカイに群がって美味しい蜜を啜ろうとする人も出てくるだろう。それには気を付けないといけない。


「殿方同士で固まっていると女の子は結構入りづらいものですのよ」


誰とは言わないけど。だけど私の言葉で察したカイは困ったような笑顔を浮かべて、だけど「そうしてみるよ」と頷いた。レオンは友達作りに燃えている。何が何でもベアトリクスから逃げたいのだろう。

それにしてもここまで嫌がられているというのに、ベアトリクスがそれに気が付いていないのはとても不思議だ。何事も本人は気が付かないものなのかもしれない。


「ところで、エレナ達は来年進む科は決まっているのかい?」

「私は文官科かな。魔法科も楽しそうだけど、でも将来のことを考えたら文官科が一番だよね」


おお、クリスはもう決まっているんだ。私まだ何も決まってないんだけど。でも将来のことを考えたら文官科? 就職に有利とか?

私がそれを口に出すとクリスは「それもあるね」と笑った。


「やっぱり文官科が幅広く何でも教えてくれるんだよ。だから仕事も選べるんだ。ほら、魔法科だったらどうしても魔法関連の就職先だし、騎士科だったら騎士団だとか誰かの護衛だとか、そんな感じになるんだよね」


ああ、なるほど。魔法か騎士か、それ以外って感じなのかもしれない。どの科に進んでも勉強することが少し違うだけでそこまで仕事に関連するとは思っていなかった。


「あとは、兄弟で別れることもあるね。いずれは家から出るかもしれないけど、でも家の中でいろんな知識があった方がいいじゃん? まあ女の子にそこまでは求められないけどね。どうせ嫁に出るし」


ピシャーンと雷が落ちたような気がした。嫁に出る。それが当たり前だと言うのなら、卒業パーティーで婚約破棄される予定の私はどうなるのだろうか。最初から婚約者がいないのなら探せばいい。だけど婚約破棄された令嬢なんてきっと見向きもされない。つまり、私は一人で生きていくしかないのだ。


そういえばヘンドリックお兄様に最初に会った時に私は文官科に行くようにお父様に決められているって言っていた。

まあ魔法科とか騎士科とかに憧れがないわけではないけど。でも剣は結構使えるようになったし、魔法も使えるし、別に科に進まなくても剣と魔法のファンタジーはできそうだし。そうなると後は現実を見るだけだ。五年後の就職。少しでもいい職に就けるように私は文官科に行く。よし、決定!


「わたくしも文官科に致しますわ! 将来は幅広く選択肢がほしいですもの!」


高々とそう宣言した私を見る皆の目はとても何か言いたそうだった。


「あ、あれ……?」
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