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女の勘
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「闇属性、だったか」
ポツリと呟いたお兄様に、私は「ええ」と頷いて、ヨハンにしたものと同じ説明をもう一度する。お兄様は聞いているのか聞いていないのか、真剣な表情で考え込んでいた。
「どう思われますか? 実際にあると思います?」
「……お前達はどう思う」
「あると思います!」
お兄様の質問にクリスが元気よく手を上げて言った。私も頷く。
「ええ、本当だと思います」
「なぜだ……ああ、女の勘とやらだったな」
ふっとお兄様は私を馬鹿にするような笑みを浮かべた。……ムカつく! でも本当だと思うんだもん。根拠がないなら他に言いようもないじゃん。女の勘だよ!
声には出さずにじとっとお兄様を見ると、お兄様は深いため息をついた。
「おそらく本当のことだろう。だがこれが存在し、実際に持つ者がいるとなると脅威でしかない。使い方によっては一人で国を傾けるのも容易いだろう」
「わたくし、あの本を書いた人が闇属性を使えるんじゃないかと思っているのですがそれについてはどう思われますか?」
「ああ、そうだろうな。闇属性だけじゃない、他の四属性も使えると思っておくべきだろう」
そう言ってお兄様は、すごく面倒臭そうな表情で私を見た。え、何、私まだ面倒ごと起こしてないよ。先に相談してるじゃん。そう思っていると、お兄様はため息をついて小さな声で「こいつみたいなのがもう一人、か」と呟いた。うん? わたしのこと? だよね。
「身分が高くて魔法の才に優れている者、だったな」
「ええ、心当たりはございますか?」
「ない」
まあ期待はしていなかった。あの本がいつ書かれたかも分からないのに見つかるなんて思っていない。正直、私は見つからなかったら見つからないでいいとも思っている。だけど全く無視するにはちょっと心が痛む。だから見つかればその目的を探ろうと思っているだけだ。
「でもさ、ベルメール先生が『あの方』って言うのってすごいヒントのような気がするんだけどな」
「なんだ、お前も女の勘とやらか?」
クリスの言葉にお兄様が茶化すような口調で言った。
「ええ、そうですが何か?」
張り付けたような笑顔で頷いたクリスを見て、お兄様は心底可笑しそうに笑った。……仲が良いな、この二人。やっぱりこの二人が婚約したらいいのに。というかクリス以外にヘンドリックお兄様のお嫁さんになれるような人がいるとは思えない。
そんなことを考えながらクリスへと視線を向けると、クリスはじとっとした目で私を見ていた。どうも私の考えが見透かされている気がする。えへ、と笑ってみると、「まあ別にいいけどね」と呆れられたようにため息をつかれた。
お兄様からも冷たい視線を向けられているのには気が付いている。私は話題を元に戻そうと、できるだけ真剣な表情を作った。
「わたくし、あの本を書いたのは卒業生かと思ってましたの。だけど、ベルメール先生が『あの方』と呼ぶということは違うのでしょうか? だっていくら身分が高くても生徒をそう言う風には呼びませんよね? どうも違和感が拭えないのですが……」
お兄様の表情もすっと真剣な表情になる。少しの間、考えるような素振りを見せ、そして「もしかして……」と小さく呟いた。私の言葉で何かに気が付いたのだろうか。
「この件はこちらで預かる。思っていたよりも重要な案件かもしれない。お前たちが首を突っ込むには危険だ」
「え、そんな、酷い……!」
クリスが思わずといった風に声を上げた。……うん、クリス楽しそうだったもんね。
「このことに関してはもう何も調べるな。本にも近付くな。もちろん、人に話すのも駄目だ。分かったな」
お兄様の目はクリスではなく私を見ている。私だったら納得すると思っているのだろうか。ふっふっふ、人生そう甘くないんだよ、お兄様。
「分かりませんわ」
きっぱりとそう言うと、お兄様はじろりと私を睨んだ。ちょっと怖い顔をしたらどうにかなると思っているのだろうか。正直、常に怖い顔をしているので、もうそこまで効果はない。もちろん、ちょっと怖いけど。
「本を読めたのはわたくし、協力をお願いしているのもわたくし。なのにどうしてわたくしがこの件から手を引かないといけませんの? わたくしがここで頷けばきっとお兄様は何も教えてくれないのでしょう?」
このままお預けなんて嫌だ。気になって仕方がないじゃないか。
「お兄様が何も教えてくれないのなら、わたくし達で勝手に調べますわ。ね、クリス」
「うん、もちろん」
クリスの同意を得て、お兄様へ視線を向けると、何を考えているのかよく分からない表情をしていた。少なくとも怒ってはいなさそうだ。
「わたくし達、そんなにいい子じゃありませんの」
「……知っている」
んなっ! 失礼な! まあ思い返してみても問題ばかり起こしている私だ。そしてお兄様には特に迷惑をかけているような気がする。……うん、まあ、そんなこともあるよね。
ちょっと申し訳ない気持ちになりながらも、何も言わないでいると、お兄様は深いため息を吐いた。
「……分かった。何か分かったら教える。だから勝手には動くな。絶対だ。危険なのはお前達だからな」
「はい、その約束をしていただけるのでしたら勝手には動きません。心配してくださってありがとうございます」
隣に座っているクリスはまだ少し不満そうだ。おそらく遊び感覚で作者を突き止めようと思っていたのかもしれない。でも私が巻き込んだクリスを危ない目に遭わせるわけにはいかない。危ないのは本当みたいだし。
「ところで、本の読み方だが……」
ああ、そっか、まだ言ってなかったね。おそらくお兄様はずっと気になっていたの違いない。自分に読めなくて私に読めた方法が。
「簡単なことですわ。全属性を持っていて、魔力強化ができること。それだけです」
「……そうか」
お兄様はそう頷くと、立ち上がってそれぞれ置いてあった魔法陣を回収すると部屋から出て行った。
「じゃあ私たちはカイ達の所に行こうか。皆待ってるよ」
「ええ、そうね。行きましょう」
あの平和な空間に。ほのぼのとした空間に。
ポツリと呟いたお兄様に、私は「ええ」と頷いて、ヨハンにしたものと同じ説明をもう一度する。お兄様は聞いているのか聞いていないのか、真剣な表情で考え込んでいた。
「どう思われますか? 実際にあると思います?」
「……お前達はどう思う」
「あると思います!」
お兄様の質問にクリスが元気よく手を上げて言った。私も頷く。
「ええ、本当だと思います」
「なぜだ……ああ、女の勘とやらだったな」
ふっとお兄様は私を馬鹿にするような笑みを浮かべた。……ムカつく! でも本当だと思うんだもん。根拠がないなら他に言いようもないじゃん。女の勘だよ!
声には出さずにじとっとお兄様を見ると、お兄様は深いため息をついた。
「おそらく本当のことだろう。だがこれが存在し、実際に持つ者がいるとなると脅威でしかない。使い方によっては一人で国を傾けるのも容易いだろう」
「わたくし、あの本を書いた人が闇属性を使えるんじゃないかと思っているのですがそれについてはどう思われますか?」
「ああ、そうだろうな。闇属性だけじゃない、他の四属性も使えると思っておくべきだろう」
そう言ってお兄様は、すごく面倒臭そうな表情で私を見た。え、何、私まだ面倒ごと起こしてないよ。先に相談してるじゃん。そう思っていると、お兄様はため息をついて小さな声で「こいつみたいなのがもう一人、か」と呟いた。うん? わたしのこと? だよね。
「身分が高くて魔法の才に優れている者、だったな」
「ええ、心当たりはございますか?」
「ない」
まあ期待はしていなかった。あの本がいつ書かれたかも分からないのに見つかるなんて思っていない。正直、私は見つからなかったら見つからないでいいとも思っている。だけど全く無視するにはちょっと心が痛む。だから見つかればその目的を探ろうと思っているだけだ。
「でもさ、ベルメール先生が『あの方』って言うのってすごいヒントのような気がするんだけどな」
「なんだ、お前も女の勘とやらか?」
クリスの言葉にお兄様が茶化すような口調で言った。
「ええ、そうですが何か?」
張り付けたような笑顔で頷いたクリスを見て、お兄様は心底可笑しそうに笑った。……仲が良いな、この二人。やっぱりこの二人が婚約したらいいのに。というかクリス以外にヘンドリックお兄様のお嫁さんになれるような人がいるとは思えない。
そんなことを考えながらクリスへと視線を向けると、クリスはじとっとした目で私を見ていた。どうも私の考えが見透かされている気がする。えへ、と笑ってみると、「まあ別にいいけどね」と呆れられたようにため息をつかれた。
お兄様からも冷たい視線を向けられているのには気が付いている。私は話題を元に戻そうと、できるだけ真剣な表情を作った。
「わたくし、あの本を書いたのは卒業生かと思ってましたの。だけど、ベルメール先生が『あの方』と呼ぶということは違うのでしょうか? だっていくら身分が高くても生徒をそう言う風には呼びませんよね? どうも違和感が拭えないのですが……」
お兄様の表情もすっと真剣な表情になる。少しの間、考えるような素振りを見せ、そして「もしかして……」と小さく呟いた。私の言葉で何かに気が付いたのだろうか。
「この件はこちらで預かる。思っていたよりも重要な案件かもしれない。お前たちが首を突っ込むには危険だ」
「え、そんな、酷い……!」
クリスが思わずといった風に声を上げた。……うん、クリス楽しそうだったもんね。
「このことに関してはもう何も調べるな。本にも近付くな。もちろん、人に話すのも駄目だ。分かったな」
お兄様の目はクリスではなく私を見ている。私だったら納得すると思っているのだろうか。ふっふっふ、人生そう甘くないんだよ、お兄様。
「分かりませんわ」
きっぱりとそう言うと、お兄様はじろりと私を睨んだ。ちょっと怖い顔をしたらどうにかなると思っているのだろうか。正直、常に怖い顔をしているので、もうそこまで効果はない。もちろん、ちょっと怖いけど。
「本を読めたのはわたくし、協力をお願いしているのもわたくし。なのにどうしてわたくしがこの件から手を引かないといけませんの? わたくしがここで頷けばきっとお兄様は何も教えてくれないのでしょう?」
このままお預けなんて嫌だ。気になって仕方がないじゃないか。
「お兄様が何も教えてくれないのなら、わたくし達で勝手に調べますわ。ね、クリス」
「うん、もちろん」
クリスの同意を得て、お兄様へ視線を向けると、何を考えているのかよく分からない表情をしていた。少なくとも怒ってはいなさそうだ。
「わたくし達、そんなにいい子じゃありませんの」
「……知っている」
んなっ! 失礼な! まあ思い返してみても問題ばかり起こしている私だ。そしてお兄様には特に迷惑をかけているような気がする。……うん、まあ、そんなこともあるよね。
ちょっと申し訳ない気持ちになりながらも、何も言わないでいると、お兄様は深いため息を吐いた。
「……分かった。何か分かったら教える。だから勝手には動くな。絶対だ。危険なのはお前達だからな」
「はい、その約束をしていただけるのでしたら勝手には動きません。心配してくださってありがとうございます」
隣に座っているクリスはまだ少し不満そうだ。おそらく遊び感覚で作者を突き止めようと思っていたのかもしれない。でも私が巻き込んだクリスを危ない目に遭わせるわけにはいかない。危ないのは本当みたいだし。
「ところで、本の読み方だが……」
ああ、そっか、まだ言ってなかったね。おそらくお兄様はずっと気になっていたの違いない。自分に読めなくて私に読めた方法が。
「簡単なことですわ。全属性を持っていて、魔力強化ができること。それだけです」
「……そうか」
お兄様はそう頷くと、立ち上がってそれぞれ置いてあった魔法陣を回収すると部屋から出て行った。
「じゃあ私たちはカイ達の所に行こうか。皆待ってるよ」
「ええ、そうね。行きましょう」
あの平和な空間に。ほのぼのとした空間に。
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