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初めての学校
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「エレナ、頑張ってくるのですよ」
「頑張ってください、お姉さま」
「はい、全力を尽くして参りますわ」
お義母様とカミラに見送られて、私は馬車へと乗り込んだ。今日はとうとう入学試験。初めて行く学校は、ゲームでよく知っているはずなのに、すごく楽しみだった。
アリアが私の正面に座り、ドアが閉まると、馬車は動き出した。
いつも行くお城とは違う道。初めて通る道。わくわくして、思わず窓に張り付いてしまった。
「エレナ様、外から見えてしまいます。お止めください」
……ちょっとくらいいいじゃん。アリアのケチ。
心の中で文句を言って、座り直す。分かっているよ、令嬢らしく、でしょ。だけどもう今更遅いんじゃないかと思わなくもない。お城で、この国で一番身分の高い子供の前で、私は令嬢らしくないふるまいを何度も見せているのだから。だってクリスがあんな感じだし……。
ああ、そうだ、今日はクリスも来るんだよね。
この世界もあっちの世界と同じで、学年は春から冬生まれの子供が同じだ。つまり、四月から三月生まれ。まあ元々あっちの世界の人が作った世界だもんね。その辺は同じでも全く気にはならない。
「ねえ、アリア、私不思議なんだけど」
「何がでしょうか?」
魔法が使えるのは十歳の誕生日から。つまり、魔力量が入学受験の規定に達しているかが分かるのも十歳の誕生日。だとすると……
「今は冬の初めじゃない? まだ誕生日が来ていない九歳の子たちは受験できないの?」
向こうでは受験資格なんてなかったから、誕生日も関係なかった。だけどこの世界では受験資格があるのだ。
「いえ、誕生日が来ていない方も一緒に受験します。今日の試験に合格し、かつ誕生日を迎えて魔力量が十分だと判断された場合に、入学が決定するのです」
ああ、なるほど。後で試験を受けるとか、魔法薬を早めるとかじゃないんだ。
「魔力量が規定に達しなかったり、試験に合格しなかった場合はどうなるのかしら? 学校に入学しないと貴族として認められないと聞いたのだけれど」
「はい、貴族として認められません。ですが、学校も一つではありません。これから試験を受けるのは国立魔法学校ですが、他にも学校はあります。魔法学校に入れなかった場合はそちらを受験するのです。その点ではまだ誕生日を迎えていない方は大変ですね」
試験は頑張れば合格するけど、魔力量に関しては誕生日を迎えてみないと分からないもんね。なるほどね。それにしても他の学校のことなんて誰も教えてくれなかったんだけど。選べるなら選びたいんだけど。もっと早く教えてよ。
「もうすぐ到着しますよ。学校に入れるのはエレナ様のみです。終わったらまたお迎えに参りますので、決して一人で帰ろうとはしないでくださいませ」
「ええ、分かっていますわ。令嬢らしく、でしょう?」
初めて会うよその家の子たち。お城に通うようになってからはお義母様にお茶会に誘われることも減って、結局友達は増えないままなのだ。第一印象は大事。伯爵家と言えども宰相の娘なのだから、それなりの立ち振る舞いが求められるだろう。
馬車が静かに止まった。窓の外には他にもたくさんの馬車が並んでいるのが分かる。
うわぁ、大渋滞じゃん。皆門の前で降りるので順番待ちがすごい。これ絶対歩いたほうが早いでしょ。馬車の外から、娘を応援する親の声が聞こえてくる。
……長い! 別に今生の別れじゃないんだからさっさと馬車下りて場所空けてよ!!
少しの間は大人しく座っていたが、もう我慢ができなくなった。にっこりと笑ってアリアを見ると、アリアは察してくれた。
「そうですね。門はもうすぐそこですし、お迎えにいらしたようですし」
うん? お迎え?
首を傾げている私をよそに、アリアは馬車の扉を開けて、降りた。そして私に手を貸してくれる。降りようとして、気が付いた。
クリスだ! クリスがこっちに向かって歩いてきている。どうやらクリスもこの渋滞が我慢できなかったようだ。下を見ないように、と馬車を降りるのと、クリスが立ち止まるのはほぼ同時だった。
「ごきげんよう、クリスティーナ様」
「ごきげんよう、エレナ様。初めての場所ですもの。ここで会うことができてとても心強いですわ」
絶対に嘘だ。言葉は丁寧なのに、表情はいつものクリスだ。初めての場所に不安なんてないことが分かる。
「さあ早く行きましょう。侯爵家の方々が来られてしまいますわ」
「あら、そうですの?」
「ええ、爵位順に集合時間がずらしてありますの」
へえ、それは知らなかった。と思うと同時に、あちこちの馬車の扉が開いた。皆慌てた様子で出てくる。
……なるほど、皆知らなかったんだ。
「じゃあアリア、行って参りますわ」
「はい、お帰りをお待ちしております」
皆が馬車を降りて人が多くなる前に学校に入りたい。私はさっさとアリアに別れを告げて歩き出した。とは言っても校門まで五十メートルもなかったのですぐについたが。
門に一歩入り、立ち止まる。知っている景色だ。ゲームで見たそのまんま。オープニング映像はここから始まる。ここへ来てようやくゲームと同じ世界だということを嫌というほど実感した。とはいっても、ヒロインが出てくるまでまだ三年もあるけど。
だけどここから始まるんだ。
「頑張ってください、お姉さま」
「はい、全力を尽くして参りますわ」
お義母様とカミラに見送られて、私は馬車へと乗り込んだ。今日はとうとう入学試験。初めて行く学校は、ゲームでよく知っているはずなのに、すごく楽しみだった。
アリアが私の正面に座り、ドアが閉まると、馬車は動き出した。
いつも行くお城とは違う道。初めて通る道。わくわくして、思わず窓に張り付いてしまった。
「エレナ様、外から見えてしまいます。お止めください」
……ちょっとくらいいいじゃん。アリアのケチ。
心の中で文句を言って、座り直す。分かっているよ、令嬢らしく、でしょ。だけどもう今更遅いんじゃないかと思わなくもない。お城で、この国で一番身分の高い子供の前で、私は令嬢らしくないふるまいを何度も見せているのだから。だってクリスがあんな感じだし……。
ああ、そうだ、今日はクリスも来るんだよね。
この世界もあっちの世界と同じで、学年は春から冬生まれの子供が同じだ。つまり、四月から三月生まれ。まあ元々あっちの世界の人が作った世界だもんね。その辺は同じでも全く気にはならない。
「ねえ、アリア、私不思議なんだけど」
「何がでしょうか?」
魔法が使えるのは十歳の誕生日から。つまり、魔力量が入学受験の規定に達しているかが分かるのも十歳の誕生日。だとすると……
「今は冬の初めじゃない? まだ誕生日が来ていない九歳の子たちは受験できないの?」
向こうでは受験資格なんてなかったから、誕生日も関係なかった。だけどこの世界では受験資格があるのだ。
「いえ、誕生日が来ていない方も一緒に受験します。今日の試験に合格し、かつ誕生日を迎えて魔力量が十分だと判断された場合に、入学が決定するのです」
ああ、なるほど。後で試験を受けるとか、魔法薬を早めるとかじゃないんだ。
「魔力量が規定に達しなかったり、試験に合格しなかった場合はどうなるのかしら? 学校に入学しないと貴族として認められないと聞いたのだけれど」
「はい、貴族として認められません。ですが、学校も一つではありません。これから試験を受けるのは国立魔法学校ですが、他にも学校はあります。魔法学校に入れなかった場合はそちらを受験するのです。その点ではまだ誕生日を迎えていない方は大変ですね」
試験は頑張れば合格するけど、魔力量に関しては誕生日を迎えてみないと分からないもんね。なるほどね。それにしても他の学校のことなんて誰も教えてくれなかったんだけど。選べるなら選びたいんだけど。もっと早く教えてよ。
「もうすぐ到着しますよ。学校に入れるのはエレナ様のみです。終わったらまたお迎えに参りますので、決して一人で帰ろうとはしないでくださいませ」
「ええ、分かっていますわ。令嬢らしく、でしょう?」
初めて会うよその家の子たち。お城に通うようになってからはお義母様にお茶会に誘われることも減って、結局友達は増えないままなのだ。第一印象は大事。伯爵家と言えども宰相の娘なのだから、それなりの立ち振る舞いが求められるだろう。
馬車が静かに止まった。窓の外には他にもたくさんの馬車が並んでいるのが分かる。
うわぁ、大渋滞じゃん。皆門の前で降りるので順番待ちがすごい。これ絶対歩いたほうが早いでしょ。馬車の外から、娘を応援する親の声が聞こえてくる。
……長い! 別に今生の別れじゃないんだからさっさと馬車下りて場所空けてよ!!
少しの間は大人しく座っていたが、もう我慢ができなくなった。にっこりと笑ってアリアを見ると、アリアは察してくれた。
「そうですね。門はもうすぐそこですし、お迎えにいらしたようですし」
うん? お迎え?
首を傾げている私をよそに、アリアは馬車の扉を開けて、降りた。そして私に手を貸してくれる。降りようとして、気が付いた。
クリスだ! クリスがこっちに向かって歩いてきている。どうやらクリスもこの渋滞が我慢できなかったようだ。下を見ないように、と馬車を降りるのと、クリスが立ち止まるのはほぼ同時だった。
「ごきげんよう、クリスティーナ様」
「ごきげんよう、エレナ様。初めての場所ですもの。ここで会うことができてとても心強いですわ」
絶対に嘘だ。言葉は丁寧なのに、表情はいつものクリスだ。初めての場所に不安なんてないことが分かる。
「さあ早く行きましょう。侯爵家の方々が来られてしまいますわ」
「あら、そうですの?」
「ええ、爵位順に集合時間がずらしてありますの」
へえ、それは知らなかった。と思うと同時に、あちこちの馬車の扉が開いた。皆慌てた様子で出てくる。
……なるほど、皆知らなかったんだ。
「じゃあアリア、行って参りますわ」
「はい、お帰りをお待ちしております」
皆が馬車を降りて人が多くなる前に学校に入りたい。私はさっさとアリアに別れを告げて歩き出した。とは言っても校門まで五十メートルもなかったのですぐについたが。
門に一歩入り、立ち止まる。知っている景色だ。ゲームで見たそのまんま。オープニング映像はここから始まる。ここへ来てようやくゲームと同じ世界だということを嫌というほど実感した。とはいっても、ヒロインが出てくるまでまだ三年もあるけど。
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