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教育失敗
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お城へと到着し、いつもの部屋へと向かう。クリスとラルフと一緒に。ラルフは馬車を降りてから興味深そうにきょろきょろしていて、本当にやめて欲しい。一緒に歩いているこっちが恥ずかしい。
クリスはしずしずと歩いていて静かだ。……これからラルフも一緒に来ることになったらクリスがずっとお嬢様モードなのか。それは嫌だ。
というか魔法省にも行けないし。……ラルフの目を盗んでいくしかないか。
いつもの部屋へと入ると、もう既に皆いた。ヨハンだけは学校があるのでいないが。
「おはようございます、皆さま。紹介させてくださいませ。こちら、ラルフ・ローマン様。わたくしの婚約者ですの」
「うちは侯爵家だ。無礼は許さない」
私が紹介すると、ラルフはそう言った。もし手元に何か持っていたら、思わず頭を叩いていたかもしれない。
無礼はお前だ! ここがどこか知らないのだろうか。
私はため息を飲み込んでにっこりと笑った。
「ラルフ様、紹介いたしますわね。まず、こちら、カイ・アルベルト殿下」
カイは何も言わずに小さく頷いた。ラルフは呆気にとられている。聞いているか聞いていないか分からないけど、レオンやマクシミリアン、フロレンツも紹介しておく。
殿下に会ったら挨拶でしょう。今までどんな教育を受けて来たのか、とても気になる。
カイはラルフの言動に怒るわけでもなく、空いている席を勧めた。私とクリスもいつもの場所へ座る。
「エレナ、彼が君と一緒に教育を受けるのかい?」
「ええ、ご許可をいただけますなら」
「ああ、いいよ」
「ありがとう存じます!」
よっし、許可が下りた! よかったね、ラルフ。これで国一番の教育が受けられるよ。馬鹿じゃなくなるよ。
ラルフを見るが、俯いて何も言わない。さっきまでの大きい態度はどこへいったのやら。……自分よりも身分が上の人とは話したことがないのか?
なんにせよ、このままここに置いておくのはカイ達に迷惑だろうから、私はすぐに立ち上がった。
「では早速行って参りますわ。ね、ラルフ様」
ラルフは私の言葉にパッと顔を上げて立ち上がった。よっぽどこの部屋にいたくないのだろう。
「今日はわたくしも行きますわ。殿下、よろしいでしょうか?」
「ああ、頼んだ」
クリスも立ち上がり、私の隣に並んで歩き出した。クリスが一緒に勉強するのは珍しい。自慢じゃないが、私の勉強は進んでいるらしく、一緒に受けられるレベルの人がいないのだ。カイですらも。
……ラルフの見張り、かな。
「おい、いつもあんな男ばかりの部屋にいるのか。婚約者の俺がいながら」
……正式に婚約したのは昨日でしょうが。男の子ばかりでも恋だの愛だの全く関係のない人たちばかりだ。
「ですので、ラルフ様にも一緒にいらしていただきましたでしょう? 何か怪しいことがございましたか?」
「ふん、このあばずれが」
どこがやねん!!
答えにならない答えが返ってきて、私はもう何も言葉が出てこなかった。もういい、好きにしてくれ。でもこれと結婚するのだけは嫌だ。やっぱりカミラにとられた方が良かったかもしれない。……待て待て待て、そうなるとカミラがこれと結婚しないといけないじゃん! それはあまりにひどすぎる。
私はそれ以上何も言わずにごちゃごちゃと何かを言ってくるラルフにひたすら相槌を打ち続けた。いつもは騒がしいクリスも令嬢モードだからか、とても静かだ。
……いや、面倒くさいだけだ。いつもは生き生きしている目が、今はどこを見ているのか分からない。
ごめん、クリス。本当は来たくなかったんだね。ありがとう。
「つまらん」
三人で並んで先生の話を聞いている時だった。ラルフが唐突にそう言い、ペンを投げ捨てた。そして、がたっと立ち上がる。
……まじか。座って話を聞いているだけなのにそれすらもできないの? クリスだって全然理解できてないけどそれでも聞いているふりくらいはしてるよ。
「ラルフ様、どこへ行かれますの?」
そのまま部屋を出て行こうとするラルフへ声をかけると、ラルフは強い口調で言ってそのまま出て行ってしまった。
「俺に指図するな」
……いや、指図していませんけど。クリスが隣で笑う。そして先ほどのラルフの真似をした。
「俺に指図するな。キリッ。だって! あっははははは!」
「ローレンツ先生、追いかけた方がよろしいかしら?」
「いいや、入っちゃいけないところには入れないし、何か悪いことをしようとするとすぐに捕まるよ。せいぜい迷子になるくらいかな」
「じゃあ大丈夫ですわね。続けてくださいませ」
一人で楽しそうに笑っているクリスも無視して私はペンを握った。クリスは普段なら人を馬鹿にするような発言はしないけど……よっぽどラルフが嫌いなんだろうな。
授業が終わり、私はクリスと一緒に魔法省へ寄って、いつもの部屋へと戻った。部屋の中には誰もいない。
椅子に座り、ため息が出た。
「ラルフ様嫌いなの?」
「嫌いだよ。あいつエレナを馬鹿にするから」
クリスが背もたれにもたれかかって、そう言った。それは初めて聞く声の響きだった。私はいつも楽しそうなクリスしか知らない。こんな風に怒っているクリスは初めてだ。
「ありがとう」
私は良い友達を持っている。婚約者には恵まれなかったけど。とはいえ、おバカ脱却作戦は失敗。子供のうちなら、と思ったがこれはもうどうあっても教育は不可能だ。となると、いかに関わらずに過ごせるか、だな。とりあえず学校の卒業パーティーまで頑張れば婚約は解消されると信じている。
……あっちが私を避けてくれたら早いんだけど。というか結局今日は何をしにうちに来たのだろうか。
その後もいつも通りダンスレッスンをしたり、剣のお稽古を終わらせた。
勉強とお稽古ばかりで、毎日なかなかにハードな一日ではあるが、今日は帰り際に迷子になっていたラルフを探し出すのが一番大変だった。
クリスはしずしずと歩いていて静かだ。……これからラルフも一緒に来ることになったらクリスがずっとお嬢様モードなのか。それは嫌だ。
というか魔法省にも行けないし。……ラルフの目を盗んでいくしかないか。
いつもの部屋へと入ると、もう既に皆いた。ヨハンだけは学校があるのでいないが。
「おはようございます、皆さま。紹介させてくださいませ。こちら、ラルフ・ローマン様。わたくしの婚約者ですの」
「うちは侯爵家だ。無礼は許さない」
私が紹介すると、ラルフはそう言った。もし手元に何か持っていたら、思わず頭を叩いていたかもしれない。
無礼はお前だ! ここがどこか知らないのだろうか。
私はため息を飲み込んでにっこりと笑った。
「ラルフ様、紹介いたしますわね。まず、こちら、カイ・アルベルト殿下」
カイは何も言わずに小さく頷いた。ラルフは呆気にとられている。聞いているか聞いていないか分からないけど、レオンやマクシミリアン、フロレンツも紹介しておく。
殿下に会ったら挨拶でしょう。今までどんな教育を受けて来たのか、とても気になる。
カイはラルフの言動に怒るわけでもなく、空いている席を勧めた。私とクリスもいつもの場所へ座る。
「エレナ、彼が君と一緒に教育を受けるのかい?」
「ええ、ご許可をいただけますなら」
「ああ、いいよ」
「ありがとう存じます!」
よっし、許可が下りた! よかったね、ラルフ。これで国一番の教育が受けられるよ。馬鹿じゃなくなるよ。
ラルフを見るが、俯いて何も言わない。さっきまでの大きい態度はどこへいったのやら。……自分よりも身分が上の人とは話したことがないのか?
なんにせよ、このままここに置いておくのはカイ達に迷惑だろうから、私はすぐに立ち上がった。
「では早速行って参りますわ。ね、ラルフ様」
ラルフは私の言葉にパッと顔を上げて立ち上がった。よっぽどこの部屋にいたくないのだろう。
「今日はわたくしも行きますわ。殿下、よろしいでしょうか?」
「ああ、頼んだ」
クリスも立ち上がり、私の隣に並んで歩き出した。クリスが一緒に勉強するのは珍しい。自慢じゃないが、私の勉強は進んでいるらしく、一緒に受けられるレベルの人がいないのだ。カイですらも。
……ラルフの見張り、かな。
「おい、いつもあんな男ばかりの部屋にいるのか。婚約者の俺がいながら」
……正式に婚約したのは昨日でしょうが。男の子ばかりでも恋だの愛だの全く関係のない人たちばかりだ。
「ですので、ラルフ様にも一緒にいらしていただきましたでしょう? 何か怪しいことがございましたか?」
「ふん、このあばずれが」
どこがやねん!!
答えにならない答えが返ってきて、私はもう何も言葉が出てこなかった。もういい、好きにしてくれ。でもこれと結婚するのだけは嫌だ。やっぱりカミラにとられた方が良かったかもしれない。……待て待て待て、そうなるとカミラがこれと結婚しないといけないじゃん! それはあまりにひどすぎる。
私はそれ以上何も言わずにごちゃごちゃと何かを言ってくるラルフにひたすら相槌を打ち続けた。いつもは騒がしいクリスも令嬢モードだからか、とても静かだ。
……いや、面倒くさいだけだ。いつもは生き生きしている目が、今はどこを見ているのか分からない。
ごめん、クリス。本当は来たくなかったんだね。ありがとう。
「つまらん」
三人で並んで先生の話を聞いている時だった。ラルフが唐突にそう言い、ペンを投げ捨てた。そして、がたっと立ち上がる。
……まじか。座って話を聞いているだけなのにそれすらもできないの? クリスだって全然理解できてないけどそれでも聞いているふりくらいはしてるよ。
「ラルフ様、どこへ行かれますの?」
そのまま部屋を出て行こうとするラルフへ声をかけると、ラルフは強い口調で言ってそのまま出て行ってしまった。
「俺に指図するな」
……いや、指図していませんけど。クリスが隣で笑う。そして先ほどのラルフの真似をした。
「俺に指図するな。キリッ。だって! あっははははは!」
「ローレンツ先生、追いかけた方がよろしいかしら?」
「いいや、入っちゃいけないところには入れないし、何か悪いことをしようとするとすぐに捕まるよ。せいぜい迷子になるくらいかな」
「じゃあ大丈夫ですわね。続けてくださいませ」
一人で楽しそうに笑っているクリスも無視して私はペンを握った。クリスは普段なら人を馬鹿にするような発言はしないけど……よっぽどラルフが嫌いなんだろうな。
授業が終わり、私はクリスと一緒に魔法省へ寄って、いつもの部屋へと戻った。部屋の中には誰もいない。
椅子に座り、ため息が出た。
「ラルフ様嫌いなの?」
「嫌いだよ。あいつエレナを馬鹿にするから」
クリスが背もたれにもたれかかって、そう言った。それは初めて聞く声の響きだった。私はいつも楽しそうなクリスしか知らない。こんな風に怒っているクリスは初めてだ。
「ありがとう」
私は良い友達を持っている。婚約者には恵まれなかったけど。とはいえ、おバカ脱却作戦は失敗。子供のうちなら、と思ったがこれはもうどうあっても教育は不可能だ。となると、いかに関わらずに過ごせるか、だな。とりあえず学校の卒業パーティーまで頑張れば婚約は解消されると信じている。
……あっちが私を避けてくれたら早いんだけど。というか結局今日は何をしにうちに来たのだろうか。
その後もいつも通りダンスレッスンをしたり、剣のお稽古を終わらせた。
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