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雪遊び

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翌日はすごくすっきりと目が覚めた。

だけどまだ布団から出たくなくてごろごろする。だってすっごくふかふかなんだもん! うちの布団が超高級布団なら、これは超超超高級布団だよ! ……ってあれ? 私昨日布団に入った覚えがない。

ご飯を食べて、皆と話をして……それからどうしたんだっけ?

とりあえずベルを鳴らす。アリアに聞いたら分かるだろう。


「おはようございます、エレナ様」

「おはよう、アリア。わたくし昨日皆でお話してるところから記憶がないのだけど、どうしたのかしら?」


ベッドから下りながらそう言うと、アリアは少し笑みを浮かべた。


「エレナ様は途中で寝てしまわれましたから」


途中で寝た? つまり寝落ちだよね。皆の前で? まじか……そんな子供みたいなことするなんて中身大人として恥ずかしい。

あれ、ということは。


「じゃあアリアが運んでくれたのね。ありがとう」

「いえ、違います」


うん? 何が? 運んでくれてないの? じゃあ何、私が自分で移動したって言うの? 寝ながら?

流石にそれはないでしょ、と思ったが一応確認してみると、アリアは首を横に振った。

うん、だよね。じゃあどうやって?

首を傾げる私を見て、アリアは困った表情で言った。


「ヨハン様が運んでくださいました」

「……はい?」


聞き返したが、アリアはもう一度言ってくれない。

ヨハンが運んでくれた? 寝ている私を? ベッドまで?

……さすがにそれは令嬢としてアウトなのではないだろうか。


「私が運ぼうとすると、ヨハン様が自分がやるとおっしゃいまして。お断りしても、大丈夫だよ、の一点張りで」

「……とりあえずお礼を言っておきますわ」


全然大丈夫じゃないよ! なんで大丈夫なの!? 違うでしょ、私一応令嬢なんだよ!

ぷんすかしても、まさかヨハンに直接そう言うことはできない。なんとか遠回しに言っておかなければ……。

とりあえず支度を整えて部屋の外に出た。すると、ちょうどばったりと会った。クリスとヨハンに。


「あ、おはよう、エレナ」

「おはようエレナちゃん」


朝から爽やかな笑顔ですね、ヨハン様。

私もにっこりと笑う。


「おはようございます、クリス。ヨハン様、昨夜はわたくしをベッドまで運んでいただいたようで、ありがとう存じます。おかげでいい夢が見れましたわ。現実はそう優しくはないようですが……」


ほっぺに手を当てて悩ましげな表情を浮かべて見せる。そして、心の中で直球に文句を言う。

運んでもらったのはありがたいけど、私の評判に傷が付いてお嫁に行けなくなったらどうしてくれるのよ! そんなことになったらお父様が可哀そうでしょ!

遠回しの言葉が伝わったのか、ヨハンは一瞬ぽかんとして、そして笑った。


「大丈夫だよ」


だから、な・に・が! 全然大丈夫じゃないよ!!

ダメだ、この兄妹たまに話が通じない……。私は文句を言うのを諦めて二人と一緒に食堂へと向かった。



朝食後は早速雪遊びだ。いつもの動きやすいお稽古服に着替えてお城の裏へと向かう。

行く途中に窓から見えたが、雪はもうほとんどとけていた。


「おお、誰かとかしてくれたんだな」

「そうだね」


レオンとカイの会話を聞きながら、私はお城の裏の雪が心配になってきた。

ちゃんと残るようにしたと思うけど、全部とけてたらどうしよう……。そんなことになったら横を歩く楽しそうなクリスに申し訳なさすぎる。

だけどその心配は杞憂だった。お城の裏に出ると、そこだけ雪景色。よっし! うまくいってる!


「エレナ! 早く!」


クリスに手を引っ張られ、雪へとダイブする。

冷たっ! もうちょっと心の準備をさせてよ。

楽しそうに遊んでいるクリスを軽く睨むが雪に夢中で全然気付かない。私は雪を軽くにぎってクリスの方へと投げた。もちろん、痛くないように軽く、だ。


「うわっ! ちょっと、エレナ!!」


それはちょうどクリスの首筋に当たった。クリスが私を見て怒る。だけど表情は笑顔だ。

やだ、めっちゃ楽しい。こんな普通の遊び、エレナになってから初めてだ。周りでは男の子たちも遊んでいる。が、やはりお金持ちのお坊ちゃんたちはこんな遊びはしたことはないようで、戸惑っているのが分かる。


「クリス、クリス」


小さな声でクリスを呼ぶと、クリスは不思議そうに首を傾げて私の方へと近寄って来た。

私はその耳に口を寄せてそっと囁く。その言葉にクリスは、にやっと楽しそうに笑い、早速雪を拾う。


「兄様!」


それをヨハンへと投げつける。私はカイへと投げつけた。皇子へ何かを投げつけるなんて普段では考えられない。だけど、この時の私はテンションが高く、そんなこと気にならなかった。

レオンやフロレンツ、マクシミリアンにも私達の投げた雪が次々と当たる。五人はポカンとして、防戦一方だ。


「やられっぱなしはかっこ悪いですわよ!」


私の言葉に、はっとした男の子たちは、笑顔になったかと思うと、雪玉を投げ返してくる。次々と飛んでくる雪玉をよけるのは不可能だ。だけど気を遣ってくれているのか、顔には当たらない。


「……ぶっ!」


……クリスの方は顔に当たっているけど。

気を遣ってくれているのは私だけか。カイが私に投げるのとレオンに投げるのとでは全然スピードも雪玉の大きさも違う。やっぱり男の子同士だと皆本気で投げているのが分かる。

しばらく雪を投げ合って遊んでいたが、気が付くと、フロレンツが雪に埋もれそうになっていた。


「フロレンツ! 大丈夫?」

「た、助けて……」


体の上に積もった雪を掘ってあげると、フロレンツはようやく立ち上がれるようになった。「ありがとう」と私に一言言うと、悔しそうにレオンの方へ行って雪を投げつけた。

……レオンにやられたのか。

レオンは笑いながらもう一度フロレンツを埋めようとする。そこにクリスが参戦。カイとヨハン、普段は大人しいマクシミリアンも楽しそうに加わる。


「皆様楽しそうですね」


少し離れたところから眺めていると、いつの間にかアリアが隣に立っていた。


「ええ、そうね。こうして楽しそうな皆を見ていると、雪を降らせてよかったと思うわ」


もちろん、もうしないけど。楽しいのは多分子供だけだろうから。メリットよりもデメリットの方が大きいのは分かっている。

だけど……


「見ているだけでも楽しいわね、アリア」

「はい」


ゲームで知っている攻略対象達。今の私にとって彼らは『攻略対象』ではなく『友達』になっていた。


一日中雪で遊んだ私たちは、夕方にはくたくたになってそれぞれ家へと帰った。もちろん、雪はとかした。正確には、今晩中にはとけるようにしてある。

私は家に着くと、すぐにご飯を食べて、そして泥のように眠った。
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