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事情聴取

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「最近はこうして子供たちを呼んでゆっくりお茶を飲む時間もなかった。やはりいいものだな」

「そうですね」


陛下の言葉にカイが平然と頷いた。

つまり昔は子供たちを呼んでお茶会をしていたってこと? だからクリスもここはじめてじゃないの? 皇帝陛下って子供好き? 優しい人?


「……あの、わたくしが言うのもおかしいかと思うのですが、今はゆっくりお茶を飲む時間がございますか?」


たまらず口を開いてしまった。だって、今非常事態だよね。少なくともお茶を飲む時間はないと思うんだけど。

陛下は私を見て、笑った。


「それもそうだな。話を始めよう。まず、そなたはなぜ魔法を使えるのか」

「家の書庫に魔法の本がございました。その表紙についていた石を触りました」


カイにも聞かれた質問に、同じように返す。私は事実を話すまでだ。


「魔法石に触れると、魔法が使えるようになるわけではない」

「……おっしゃる意味が分かりませんわ」


だって私は使えるようになったよ。まだ私の知らないことがあるんだろうか。……でもアリアも何も言わなかったよね。


「魔法を使うためにはまず、魔力を生成する薬を飲む。そして、魔法石に触れ、属性を確定する。この二つが絶対に必要なのだ。これは十歳の誕生日に行う。そなたは来年の誕生日に飲む予定だった」

「魔法石は属性を判別するためのものではないのでしょうか? 本にはそう書いてあったのですが」

「魔法石は魔力を安定させ、属性魔法へと変換するためのきっかけだ。属性は生まれつきのものだから、判別と言っても間違いではない」


……なるほど、分からん。でも間違いではないのか。

でもなんで皆が魔法は十歳からって言うのかは分かった。とはいえ、私は薬を飲んだ覚えはない。


「エレナは薬を飲んだの?」

「いいえ、少なくともわたくしは知りませんわ」

「薬は皇帝である私しか作れん。そして、保管は魔法で行っている。誰であれ不正に持ち出すことは不可能だ。私にすら、な」


ほうほう、てっきり私がエレナになる前に飲んだのかと思ったけどそれもないのか。じゃあ、私は飲まないと魔法を使えない薬を飲むことなく、魔法石に触れるだけで魔法を使えるようになった、と。

……エレナってモブだよね? 何、なんか裏設定があるの? 絶対あるよね。属性も一つじゃないし。


「つまり、体質ということでしょうか?」


一言でまとめてみると、陛下とカイが目を丸くして私を見た。クリスは静かにお茶を飲んでいるが、その目が楽しそうに輝いている。

陛下は手を顎に当てて少し黙り込んだ。何かを考えているようだ。

静かに待っていようと思ったら、横から肩を叩かれた。


「これすごいおいしいよ。エレナも食べてみて」


一人楽しそうなクリスである。この状況でよくお菓子を楽しめるな、と思いながらも私はお菓子に視線を移す。ミニシュークリームが三つ。

お、美味しそう……。シュークリームなんてこの世界に来て初めて見たよ。ちゃんと一口サイズで食べやすそう。私は少し考えてフォークを持った。

陛下何か考えてるもんね。出された物食べないのも失礼だもんね。

心の中で言い訳して私はシュークリームを食べた。

うま……っ! 何これ、サクサクでクリームいっぱい! ミニシュークリームってクリーム少ないイメージだったけど、すごいぎっしり詰まっている。

もう一つ食べる。幸せだぁ……。


「美味しいでしょ!」

「ええ、わたくし、今すごく幸せですわ」

「うちの料理人もすごいんだけど、やっぱりお城は違うよね」

「これが家でも食べられたら幸せでしょうね」


あまりの美味しさに、今の状況も忘れてお菓子トークが盛り上がる。きゃいきゃいと女子らしくはしゃいでいると、コホンと咳払いが聞こえた。

はっとしてそちらを見ると、陛下が顔を上げ、部屋の隅に立っている人に目配せをした。その人はすぐに部屋を出て行く。

……咳払いはお父様か。

ほとんど家にいなく、たまに会っても挨拶をするくらいで、ほとんど話をしたことはない。だけど今怒っているのはすごく分かる。

まあとりあえずここにいる間は大丈夫。家に帰ってもお父様は私を説教する時間なんてないだろう。問題はお義母様だ。絶対怒られるだろう。


「エレナ、先に聞かせて欲しい」

「はい、なんでございますか?」

「今回の大雪はどのような目的があったのだ?」


たいした目的なんてない。正直、雪が積もったらいいな、と軽く思っただけで本当に積もらせようと思ってもないし、魔法を使った自覚すらなかったくらいだ。

皇帝陛下の満足する答えなんて持っていない。


「目的なんて大層なものは持っておりません。わたくしはただ雪が積もって、クリスと一緒に遊びたいと思っただけですわ。だからといって本当に大雪を降らせるつもりはございませんでした」

「クリスと一緒に遊ぶ? そんなことのためだけにあの莫大な量の魔力を使ったのか?」


目を丸くする皇帝陛下に、私は頷くことしかできない。

だからわざとじゃないんだって。勝手に魔法になっちゃったんだから仕方ないじゃん。


「わたくしは魔法のことを何も存じ上げません。ですので、いっぱい降って欲しいという想いが魔法になるとも思わなかったのです」


大体この世界の「具体的に想像したら使うことができる」っていう設定がおかしいんだよ。だってそんなの簡単すぎて、考えたこと全部魔法になるかもじゃん。

実は今回のようなことは初めてじゃない。部屋の中で、動かずに本を取りたいなって思ったら勝手に本が飛んできたり、お茶が冷めたなと思ったら勝手に熱くなったり、そんな小さなことはたくさんあった。だから気を付けていたつもりだったのだが。


「……本来なら、魔法というものはそう簡単に使えるものじゃない。ヘルムート、そなたは確か水の魔力だったな。ここに水を出せ」

「……はっ!」


陛下はそう言うと空になったカップをお父様に差し出した。
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