46 / 300
事情聴取
しおりを挟む
「最近はこうして子供たちを呼んでゆっくりお茶を飲む時間もなかった。やはりいいものだな」
「そうですね」
陛下の言葉にカイが平然と頷いた。
つまり昔は子供たちを呼んでお茶会をしていたってこと? だからクリスもここはじめてじゃないの? 皇帝陛下って子供好き? 優しい人?
「……あの、わたくしが言うのもおかしいかと思うのですが、今はゆっくりお茶を飲む時間がございますか?」
たまらず口を開いてしまった。だって、今非常事態だよね。少なくともお茶を飲む時間はないと思うんだけど。
陛下は私を見て、笑った。
「それもそうだな。話を始めよう。まず、そなたはなぜ魔法を使えるのか」
「家の書庫に魔法の本がございました。その表紙についていた石を触りました」
カイにも聞かれた質問に、同じように返す。私は事実を話すまでだ。
「魔法石に触れると、魔法が使えるようになるわけではない」
「……おっしゃる意味が分かりませんわ」
だって私は使えるようになったよ。まだ私の知らないことがあるんだろうか。……でもアリアも何も言わなかったよね。
「魔法を使うためにはまず、魔力を生成する薬を飲む。そして、魔法石に触れ、属性を確定する。この二つが絶対に必要なのだ。これは十歳の誕生日に行う。そなたは来年の誕生日に飲む予定だった」
「魔法石は属性を判別するためのものではないのでしょうか? 本にはそう書いてあったのですが」
「魔法石は魔力を安定させ、属性魔法へと変換するためのきっかけだ。属性は生まれつきのものだから、判別と言っても間違いではない」
……なるほど、分からん。でも間違いではないのか。
でもなんで皆が魔法は十歳からって言うのかは分かった。とはいえ、私は薬を飲んだ覚えはない。
「エレナは薬を飲んだの?」
「いいえ、少なくともわたくしは知りませんわ」
「薬は皇帝である私しか作れん。そして、保管は魔法で行っている。誰であれ不正に持ち出すことは不可能だ。私にすら、な」
ほうほう、てっきり私がエレナになる前に飲んだのかと思ったけどそれもないのか。じゃあ、私は飲まないと魔法を使えない薬を飲むことなく、魔法石に触れるだけで魔法を使えるようになった、と。
……エレナってモブだよね? 何、なんか裏設定があるの? 絶対あるよね。属性も一つじゃないし。
「つまり、体質ということでしょうか?」
一言でまとめてみると、陛下とカイが目を丸くして私を見た。クリスは静かにお茶を飲んでいるが、その目が楽しそうに輝いている。
陛下は手を顎に当てて少し黙り込んだ。何かを考えているようだ。
静かに待っていようと思ったら、横から肩を叩かれた。
「これすごいおいしいよ。エレナも食べてみて」
一人楽しそうなクリスである。この状況でよくお菓子を楽しめるな、と思いながらも私はお菓子に視線を移す。ミニシュークリームが三つ。
お、美味しそう……。シュークリームなんてこの世界に来て初めて見たよ。ちゃんと一口サイズで食べやすそう。私は少し考えてフォークを持った。
陛下何か考えてるもんね。出された物食べないのも失礼だもんね。
心の中で言い訳して私はシュークリームを食べた。
うま……っ! 何これ、サクサクでクリームいっぱい! ミニシュークリームってクリーム少ないイメージだったけど、すごいぎっしり詰まっている。
もう一つ食べる。幸せだぁ……。
「美味しいでしょ!」
「ええ、わたくし、今すごく幸せですわ」
「うちの料理人もすごいんだけど、やっぱりお城は違うよね」
「これが家でも食べられたら幸せでしょうね」
あまりの美味しさに、今の状況も忘れてお菓子トークが盛り上がる。きゃいきゃいと女子らしくはしゃいでいると、コホンと咳払いが聞こえた。
はっとしてそちらを見ると、陛下が顔を上げ、部屋の隅に立っている人に目配せをした。その人はすぐに部屋を出て行く。
……咳払いはお父様か。
ほとんど家にいなく、たまに会っても挨拶をするくらいで、ほとんど話をしたことはない。だけど今怒っているのはすごく分かる。
まあとりあえずここにいる間は大丈夫。家に帰ってもお父様は私を説教する時間なんてないだろう。問題はお義母様だ。絶対怒られるだろう。
「エレナ、先に聞かせて欲しい」
「はい、なんでございますか?」
「今回の大雪はどのような目的があったのだ?」
たいした目的なんてない。正直、雪が積もったらいいな、と軽く思っただけで本当に積もらせようと思ってもないし、魔法を使った自覚すらなかったくらいだ。
皇帝陛下の満足する答えなんて持っていない。
「目的なんて大層なものは持っておりません。わたくしはただ雪が積もって、クリスと一緒に遊びたいと思っただけですわ。だからといって本当に大雪を降らせるつもりはございませんでした」
「クリスと一緒に遊ぶ? そんなことのためだけにあの莫大な量の魔力を使ったのか?」
目を丸くする皇帝陛下に、私は頷くことしかできない。
だからわざとじゃないんだって。勝手に魔法になっちゃったんだから仕方ないじゃん。
「わたくしは魔法のことを何も存じ上げません。ですので、いっぱい降って欲しいという想いが魔法になるとも思わなかったのです」
大体この世界の「具体的に想像したら使うことができる」っていう設定がおかしいんだよ。だってそんなの簡単すぎて、考えたこと全部魔法になるかもじゃん。
実は今回のようなことは初めてじゃない。部屋の中で、動かずに本を取りたいなって思ったら勝手に本が飛んできたり、お茶が冷めたなと思ったら勝手に熱くなったり、そんな小さなことはたくさんあった。だから気を付けていたつもりだったのだが。
「……本来なら、魔法というものはそう簡単に使えるものじゃない。ヘルムート、そなたは確か水の魔力だったな。ここに水を出せ」
「……はっ!」
陛下はそう言うと空になったカップをお父様に差し出した。
「そうですね」
陛下の言葉にカイが平然と頷いた。
つまり昔は子供たちを呼んでお茶会をしていたってこと? だからクリスもここはじめてじゃないの? 皇帝陛下って子供好き? 優しい人?
「……あの、わたくしが言うのもおかしいかと思うのですが、今はゆっくりお茶を飲む時間がございますか?」
たまらず口を開いてしまった。だって、今非常事態だよね。少なくともお茶を飲む時間はないと思うんだけど。
陛下は私を見て、笑った。
「それもそうだな。話を始めよう。まず、そなたはなぜ魔法を使えるのか」
「家の書庫に魔法の本がございました。その表紙についていた石を触りました」
カイにも聞かれた質問に、同じように返す。私は事実を話すまでだ。
「魔法石に触れると、魔法が使えるようになるわけではない」
「……おっしゃる意味が分かりませんわ」
だって私は使えるようになったよ。まだ私の知らないことがあるんだろうか。……でもアリアも何も言わなかったよね。
「魔法を使うためにはまず、魔力を生成する薬を飲む。そして、魔法石に触れ、属性を確定する。この二つが絶対に必要なのだ。これは十歳の誕生日に行う。そなたは来年の誕生日に飲む予定だった」
「魔法石は属性を判別するためのものではないのでしょうか? 本にはそう書いてあったのですが」
「魔法石は魔力を安定させ、属性魔法へと変換するためのきっかけだ。属性は生まれつきのものだから、判別と言っても間違いではない」
……なるほど、分からん。でも間違いではないのか。
でもなんで皆が魔法は十歳からって言うのかは分かった。とはいえ、私は薬を飲んだ覚えはない。
「エレナは薬を飲んだの?」
「いいえ、少なくともわたくしは知りませんわ」
「薬は皇帝である私しか作れん。そして、保管は魔法で行っている。誰であれ不正に持ち出すことは不可能だ。私にすら、な」
ほうほう、てっきり私がエレナになる前に飲んだのかと思ったけどそれもないのか。じゃあ、私は飲まないと魔法を使えない薬を飲むことなく、魔法石に触れるだけで魔法を使えるようになった、と。
……エレナってモブだよね? 何、なんか裏設定があるの? 絶対あるよね。属性も一つじゃないし。
「つまり、体質ということでしょうか?」
一言でまとめてみると、陛下とカイが目を丸くして私を見た。クリスは静かにお茶を飲んでいるが、その目が楽しそうに輝いている。
陛下は手を顎に当てて少し黙り込んだ。何かを考えているようだ。
静かに待っていようと思ったら、横から肩を叩かれた。
「これすごいおいしいよ。エレナも食べてみて」
一人楽しそうなクリスである。この状況でよくお菓子を楽しめるな、と思いながらも私はお菓子に視線を移す。ミニシュークリームが三つ。
お、美味しそう……。シュークリームなんてこの世界に来て初めて見たよ。ちゃんと一口サイズで食べやすそう。私は少し考えてフォークを持った。
陛下何か考えてるもんね。出された物食べないのも失礼だもんね。
心の中で言い訳して私はシュークリームを食べた。
うま……っ! 何これ、サクサクでクリームいっぱい! ミニシュークリームってクリーム少ないイメージだったけど、すごいぎっしり詰まっている。
もう一つ食べる。幸せだぁ……。
「美味しいでしょ!」
「ええ、わたくし、今すごく幸せですわ」
「うちの料理人もすごいんだけど、やっぱりお城は違うよね」
「これが家でも食べられたら幸せでしょうね」
あまりの美味しさに、今の状況も忘れてお菓子トークが盛り上がる。きゃいきゃいと女子らしくはしゃいでいると、コホンと咳払いが聞こえた。
はっとしてそちらを見ると、陛下が顔を上げ、部屋の隅に立っている人に目配せをした。その人はすぐに部屋を出て行く。
……咳払いはお父様か。
ほとんど家にいなく、たまに会っても挨拶をするくらいで、ほとんど話をしたことはない。だけど今怒っているのはすごく分かる。
まあとりあえずここにいる間は大丈夫。家に帰ってもお父様は私を説教する時間なんてないだろう。問題はお義母様だ。絶対怒られるだろう。
「エレナ、先に聞かせて欲しい」
「はい、なんでございますか?」
「今回の大雪はどのような目的があったのだ?」
たいした目的なんてない。正直、雪が積もったらいいな、と軽く思っただけで本当に積もらせようと思ってもないし、魔法を使った自覚すらなかったくらいだ。
皇帝陛下の満足する答えなんて持っていない。
「目的なんて大層なものは持っておりません。わたくしはただ雪が積もって、クリスと一緒に遊びたいと思っただけですわ。だからといって本当に大雪を降らせるつもりはございませんでした」
「クリスと一緒に遊ぶ? そんなことのためだけにあの莫大な量の魔力を使ったのか?」
目を丸くする皇帝陛下に、私は頷くことしかできない。
だからわざとじゃないんだって。勝手に魔法になっちゃったんだから仕方ないじゃん。
「わたくしは魔法のことを何も存じ上げません。ですので、いっぱい降って欲しいという想いが魔法になるとも思わなかったのです」
大体この世界の「具体的に想像したら使うことができる」っていう設定がおかしいんだよ。だってそんなの簡単すぎて、考えたこと全部魔法になるかもじゃん。
実は今回のようなことは初めてじゃない。部屋の中で、動かずに本を取りたいなって思ったら勝手に本が飛んできたり、お茶が冷めたなと思ったら勝手に熱くなったり、そんな小さなことはたくさんあった。だから気を付けていたつもりだったのだが。
「……本来なら、魔法というものはそう簡単に使えるものじゃない。ヘルムート、そなたは確か水の魔力だったな。ここに水を出せ」
「……はっ!」
陛下はそう言うと空になったカップをお父様に差し出した。
21
お気に入りに追加
337
あなたにおすすめの小説
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん
古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。
落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。
辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。
ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。
カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。
転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい
高木コン
ファンタジー
第一巻が発売されました!
レンタル実装されました。
初めて読もうとしてくれている方、読み返そうとしてくれている方、大変お待たせ致しました。
書籍化にあたり、内容に一部齟齬が生じておりますことをご了承ください。
改題で〝で〟が取れたとお知らせしましたが、さらに改題となりました。
〝で〟は抜かれたまま、〝お詫びチートで〟と〝転生幼女は〟が入れ替わっております。
初期:【お詫びチートで転生幼女は異世界でごーいんぐまいうぇい】
↓
旧:【お詫びチートで転生幼女は異世界ごーいんぐまいうぇい】
↓
最新:【転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい】
読者の皆様、混乱させてしまい大変申し訳ありません。
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
――神様達の見栄の張り合いに巻き込まれて異世界へ
どっちが仕事出来るとかどうでもいい!
お詫びにいっぱいチートを貰ってオタクの夢溢れる異世界で楽しむことに。
グータラ三十路干物女から幼女へ転生。
だが目覚めた時状況がおかしい!。
神に会ったなんて記憶はないし、場所は……「森!?」
記憶を取り戻しチート使いつつ権力は拒否!(希望)
過保護な周りに見守られ、お世話されたりしてあげたり……
自ら面倒事に突っ込んでいったり、巻き込まれたり、流されたりといろいろやらかしつつも我が道をひた走る!
異世界で好きに生きていいと神様達から言質ももらい、冒険者を楽しみながらごーいんぐまいうぇい!
____________________
1/6 hotに取り上げて頂きました!
ありがとうございます!
*お知らせは近況ボードにて。
*第一部完結済み。
異世界あるあるのよく有るチート物です。
携帯で書いていて、作者も携帯でヨコ読みで見ているため、改行など読みやすくするために頻繁に使っています。
逆に読みにくかったらごめんなさい。
ストーリーはゆっくりめです。
温かい目で見守っていただけると嬉しいです。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
【完結】私を嫌う浮気者の婚約者が恋に落ちたのは仮面を付けた私でした。
ユユ
恋愛
仮面舞踏会でダンスを申し込まれた。
その後はお喋りをして立ち去った。
あの馬鹿は私だと気付いていない。
“好きな女ができたから婚約解消したい”
そう言って慰謝料をふんだんに持ってきた。
綺麗に終わらせることで、愛する人との
障害を無くしたいんだって。
でも。多分ソレは私なんだけど。
“ありがとう”と受け取った。
ニヤリ。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる