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友情と信頼

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アリアの開けたドアから入って来たのは、クリスだった。

……一番最初に来るのはクリスだと思っていたよ。だって、あの場にいたし。

あれ、でも様子はいつもと変わらない。気付いてない?

小さくほっと息をつく。もしこれで今まで通りの関係が壊れたら嫌だもん。クリスに異端扱いされたら泣きそう。


「エレナ、大丈夫?」

「ええ、ごめんなさい、クリス。驚いたでしょう?」

「魔力切れ?」


ずばっとさりげなく出た言葉に、私は言葉を失った。すっかり油断していたし、そんなに直球でくるとは思っていなかった。

クリスの向こうでアリアも驚いているのが分かる。

クリスはやっぱり分からない。でもそんなところが好きだ。思わず笑いが漏れた。


「……ええ、クリスと雪遊びをしたいなと思ったら思わず」


今度はクリスが笑った。可笑しそうに、楽しそうに。


「そんなことで魔法使うのは魔力がもったいないよ」


クリスとは、たまたまお茶会でお邪魔した家でたまたま会って友達になっただけ。友達になるきっかけなんてなかったし、友情が深まる出来事なんてなかった。だけど、クリスは信頼できる。

私がアリア以外に頼るとするなら迷わずクリスだ。


「クリス、今の状況を教えてくださいませ」

「うん」


私の真剣な表情を見て、クリスも真剣な顔になる。私たちは立ったまま話をする。クリスは私が思っている以上に色々なことを知っていた。

この突然の大雪と冷え込みは、既に魔法によるものだとばれていること。だけど誰がしたかはまだ分かっていない。

国の上層部の人間は、テロの可能性があるとみて、総出で魔力の多いものを片っ端から当たっているらしい。

動機によっては国による反逆とみなし、犯罪者として処するが、この大魔法を使える人物を魔法省で抱え込もうとしている動きもあるので、場合によってはそう悪くない待遇になるかもしれないということ。


「でも、誰もこれをしたのが十歳にもならない子供だってことは分かっていないみたい。そりゃそうだよね」


そりゃそうだ。はは、と乾いた笑いが漏れる。

……そっか、私まだ十歳にもなってないんだよね。中身は十七歳だからね。それにしても私の周り、子供ばっかりなのに皆大人びてるよね……。やっぱり小さい内から教育されているから? この世界の子供ってすごい。


「これは誰か止めることができるのかしら?」

「出来ないと思うよ。魔法は基本的にかけた人にしか解けないから。エレナにはできるの?」

「さっきからやってみているの。でも何も変わらないわ。早く止めないといけないのに……」


もう一度雪が止むイメージをしてみる。だけどやっぱり窓の外の白い雪は決して止まない。

このままじゃ本当に北海道になってしまう!

どうしよう……雪が止まないなら、気温を上げる? でもそれじゃただ雨になるだけだよね。大雨も困る。雪や雨が止む理論なんて知らない。……雲を散らす? ということは、風? 


「エレナ、魔力が足りないんじゃない? 少ししか寝てないんだからまだちょっとしか回復してないんだよ」


クリスの言葉に私は首を振る。足りなくはない。体は万全だ。さっき倒れた時の貧血のような、血が足りないような感じはもう全くない。よく分からないけど、確信がある。魔力は全回復している。

多分、私の想像力が足りないんだと思う。沖縄を想像してみることはできる。だけどそんなことをしたら季節がめちゃくちゃになる。

風で雲を散らす。物理的に。それならできそうな気がする。ただ、問題がある。


「クリス、ちょっと聞くけれど、雪を降らす魔法の属性は何かしら?」

「水、かな」

「そうよね」


私が水も風も使えるということがばれる。十歳前に魔法を使えるばかりか、複数の属性を使えるとなれば……やだよ、私そんなに目立ちたくない!!

なんとかならないものか……アリアに視線を向けてみるが、何も思い浮かばないのか、小さく頭を振った。


「もしわたくしがこの雪を止めることができたら、名乗り出なくてもいいと思う?」


なんて、そんなこと聞かなくても分かっている。もう大事になっている。このまま何事もなかったかのように今まで通りでいるのは罪悪感に苛まれるだろう。それに、いつかばれた時にいいことにはならないと思う。

だから、ちょっと聞いていただけだ。

クリスとアリアは顔を見合わせて口を開いた。私はその前に言う。


「冗談よ。わたくしのしたことですもの。責任はしっかりとりますわよ」


だけどその前にこの雪をなんとかしないといけない。窓の外を見てみると、さっきとあまり変わっていないように見えるが、それでも雪が増えていることが分かった。

どこか外に出ないと。


「クリス、外に行きたいのだけど、人があまりいない場所を知らない?」

「知ってるよ」


クリスは私が何をしたいのか察したようで、すっとドアの方へと歩いた。

アリアの開けてくれたドアから外に出ると、すたすたと迷わず歩く。私はアリアと一緒にその後ろをついて歩いた。
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