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カミラの成長

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「バルトルト、わたくし、結構体力も筋力もついたと思いませんこと?」


お茶会の翌日、私はいつものように走りながら、バルトルトに言った。

お稽古を始めた十日前は数分で値を上げていた私だが、今では三十分くらいは走れるようになっているし、筋トレも回数をこなせるようになってきた。

自分でもすごい成長スピードだと思うが、これが成長期の子供の体なのだろう。それと意地と根性。


「エレナ様は本当に頑張っておられます。恥ずかしながら、最初の頃はすぐに諦められると思っておりました」

「ええ、知っていますわ。だから意地でも頑張ろうと思いましたの。元より、途中で諦める気なんてありませんでしたけど」


だって剣と魔法のファンタジー世界を堪能するためだし。

剣はこの調子でいつか持てるようになるだろうし、そろそろ魔法の勉強もしたいなー。

まだ行ったことはないけど、お屋敷の図書室に言ったら魔法の本あるかな。

時間が空いた時に行ってみよう。

楽しみだなぁ。魔法が使えたらあんなことやそんなことを……。

妄想が膨らみ、走りながら鼻歌を歌うと、バルトルトがおかしなものを見る目で私を見た。

ドン引かれているのが分かる。だけどそんなことより自分が魔法を使うことを考える方が優先だ。


「ふんふーんふふーん」

「ご機嫌ですね」


隣を走っているバルトルトが私を見下ろす。

そりゃあもちろん! とは言えないけど。だって令嬢だから。


「ええ、とても楽しみなことがありますの」

「楽しみなこと、ですか」


何か、とは聞かれないけど、その声色でバルトルトが気になっていることが分かった。


「内緒ですわ」


別に隠すつもりはないけど、誰も魔法のことを口にしないのであまり言わない方がいいことなのかもしれない。

大した問題ではないのかもしれないけど、とりあえずアリアに聞いてからにしたい。

と、思ったその時だった。


「お姉さま!」


頑張って叫んだであろう、だけど小さな声が私の耳に届いた。

反射的に足が止まった。

剣のお稽古をしていたクルトお兄様が私を通り越して誰かを見ている。


「嘘でしょ……」


だって、私を「お姉さま」と呼ぶのは一人しかいない。

私はゆっくりと振り向いた。


「お姉さま! わたくしを見捨てないでください!」


それと同時に小さな何かが私に体当たりしてきた。

状況が飲み込めなくて、ゆっくりと下を向くと、胸のあたりに小さな頭がある。


「カミラ……?」


私に抱き着いたままカミラは鼻をすすっている。

カミラが私に抱き着いてる……? 私嫌われたんじゃないの?

だってあの日泣かせちゃったし。


「お姉さま、わたくし、外に出られました。だから、わたくしのこと見捨てないでください」

「ま、待ってちょうだい、わたくし、カミラのこと見捨てることはありませんわよ」


私は慌ててカミラの腕をほどき、顔を覗き込んだ。

真っ赤になった白い顔が涙でぐしゃぐしゃだ。


「わたくしこそ、カミラに嫌われたんじゃありませんの?」

「き、きらいじゃ……!」

「とりあえず、中に入りましょうか。ね?」


私の言葉にカミラは涙を拭いながら頷いた。

私は隣に来ていたアリアにカミラを私の部屋へ先に連れて行くように頼む。


「クルトお兄様、バルトルト、すみませんが、今日はもう終わります。また明日よろしくお願いしますね」

「あ、ああ……」


クルトお兄様が呆然としたまま頷いた。

そりゃそうだ。私がカミラと交流があることを、お兄様は知らなかったのだから。

わざわざ言うことじゃないかと思っていたけど、こんなことなら言っておいたらよかったかな。


「詳しいことはまた説明しますわね」


私はそう言い残して足早にお屋敷に入った。

まさかこんな風にカミラが外に出るのは予想外だった。

本当はもっと平和に、無理なくでてもらおうと思っていたのに、感情に任せて無理やり出てくるなんて……。

一人で部屋へと歩きながらため息が出た。

……まあ外に出ることはできたんだから結果オーライよね。次があるのかどうかは分からないけど。

とりあえずカミラと話をして、お義母様に報告だね。

私は部屋のドアに手をかけて、思った。

そういえばこうやって一人で歩くのも、ドアを自分で開けるのも、エレナになってからは初めてね。このままじゃアリアがいないと何もできなくなってしまいそうだ。


「このままじゃ駄目ね」


誰にともなく呟いて、ドアを開けると、驚いた顔のアリアがいた。

そしてその顔はすぐに呆れた表情になる。

おっと、何か失敗してしまったかな……。

だけど今はカミラがいるのでお小言は後にしてくれそうだ。

私はさっさと椅子に座って、カミラと向き合った。


「カミラ、落ち着いたわね。どうしてわたくしに見捨てられると思ったのか、理由を聞かせてちょうだい」

「はい……」


もう涙が止まっているカミラは小さな声で話してくれた。

曰く、無理に外に出なくていいと言った私の言葉が嬉しくて泣いてしまったことで、私に嫌われたと思った。そして、昨日私が初めて公の場に出たことで、もう自分のところには来てくれないのだと思ったそうだ。


「お姉さまにお友達ができれば、わたくしはもういらないでしょう……?」


あー……なるほど。あの日泣いたのは、嬉しかったのか。私はてっきり嫌われたとばかり思っていた。だからあの日以来カミラの所にも行かなかったんだけど……お互い誤解していたのね。

私はできるだけ優しい声を出せるように頑張って言った。


「カミラ、わたくしにお友達ができても、カミラは大事な妹よ。いらないわけないでしょう? わたくしはカミラのことがとても可愛いし、大好きよ。何人お友達ができてもそれは絶対に変わらないわ」

「わたくしのこと、嫌いになったのではないのですか……?」

「もちろんよ。誤解させてしまってごめんなさいね」


わーお、また泣いちゃったよ……。

立ち上がりカミラの方へ行き、頭を撫でてあげると、カミラはもっと泣いてしまった。
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