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再びの猛勉強
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「あ、あの、先ほどのお義母様の身のこなしがお綺麗で、私もそうなりたいと思ったのですが……」
段々と小さくなっていく私の声。視界の端でアリアがため息をつきたそうな顔をしている。
お義母様は私を見たまま、視線をそらさない。そしてその表情からは何を考えているのかも分からない。
やっぱりこれ失敗なのかな。アリアもダメって言わなかったし、お願いしてみるくらいは良いんじゃないかと思ったんだけど……。
「申し訳ありません、お義母様はお忙しいですよね。お邪魔してすみませんでした」
慌てているせいか、言葉遣いが少し乱れてしまった。
だけどとりあえず退出しようとした時、お義母様が言った。
「よろしくてよ」
「……へっ?」
間抜けな声が出た。きっと顔も間抜けだろう。
だけど、それくらい驚いた。だって絶対だめだと思ったし。
「エレナに教えてあげましょう。だけど、わたくしは厳しいですわよ」
にっこりと優しい微笑みを浮かべているはずのお義母様が、なんだかすごく怖い。
あ、あれ……やっぱりこれ失敗だったかも。
だけど今更、やっぱりいいですなんて言えない。
「は、はい。ありがとうございます。ぜひよろしくお願い致します」
嬉しい返事がもらえたはずなのに、全然嬉しくはなかった。
お義母様の部屋を出る前に早速、色々とダメ出しをされ、次の日から本格的な勉強が始まった。
午前中は今まで通り、部屋でアリアと勉強。今は字を綺麗に書けるように練習をしている。
そして午後になるとお義母様の部屋へ行って、二時間ほどみっちりしごいてもらう。
そして空いた時間にカミラに会いに行く。
そんな日がふた月ほど経った頃だった。
「エレナ、もっと優雅になさい」
「はい」
「そこは先ほど教えたでしょう?」
「はいっ」
このふた月、お義母様に教えてもらって気が付いたこと。
お義母様はとても厳しい。いつも笑顔で優しそうなのに、容赦がない。
そして、どうも私は嫌われているわけではないようだ。
これに関しては、私にはよく分からない。私はいまだに嫌われているんじゃないかと思うことがあるけど、傍から見ているアリアには分かるらしい。
「もうエレナに教えることはありません」
突然お義母様がそう言った。
だけどまだまだ私はお義母様にいっぱいダメ出しされるし、合格とはほど遠い。
自分でもお義母様の足元にも及んでいないことが分かる。
まさか、覚えが悪すぎてとうとう見捨てれらた!?
「お、お義母様、どうか見捨てないでくださいませ。わたくし、精いっぱい頑張りますので!」
慌ててそう言うと、お義母様は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、可笑しそうにくすくすと笑った。
その仕草までもがとても綺麗だ。
わ、笑われた……。その時、お父様が帰って来たあの日もお義母様に笑われたことを思い出した。
まさか、私あの時から全然成長していないんじゃ……!
「わたくし、お義母様のようになりたいのです! ですから、どうか、どうか……!」
お義母様の前に膝をついてそう言うと、お義母様も同じように膝をついて私の顔を覗き込んだ。
部屋の中にいた、お義母様のメイドさんやアリアが驚いたようにお義母様を見る。
「お義母様、何をなさるのですか!」
エレナになったばかりの私にはそれがどういうことなのかよく分からなかっただろう。
だけどアリアとお義母様に鍛えられた今の私には、事の大変さが分かる。
この家の中で、奥方であるお義母様が膝をつくなど、あってはならないことだ。
思わず立ち上がると、お義母様も立ち上がって言った。
「エレナ、わたくしは見捨てたわけではありません。むしろその逆です」
え? 逆?
ぽかんとした私を、お義母様は優しく注意して、「お茶にしましょう」と言った。
促されるままお義母様と向かい合って座る。
ん? これどういう状況?
このふた月、毎日お義母様に会ってはいたが、一緒にお茶をすることはおろか、プライベートな話さえしていないのだ。
お茶をするって何話したらいいの?
アリアもこの状況は想定外だったようで、心配そうに私を見ているのが分かる。
入れてもらったお茶を一口飲むと、お義母様は再び口を開いた。
「もう十分なのです」
「何がでしょうか……?」
訳が分からずに首を傾げる。愛玲奈の時はこんな仕草絶対にしなかったけど、今では自然としてしまう。
これもお義母様の特訓のおかげだ。
「エレナ、あなたはまだ八歳なのです」
「はい、存じております」
お義母様の言葉に頷くと、呆れたような顔をされた。
え、何? 今の言葉で何か察しろって言うの? 無理だよ!
私は文句を言いたいのをぐっとこらえて、お義母様の言葉の続きを待った。
「……あなたは既に学校へ通う年齢のレベルすらも超えています」
学校へ通う年齢? っていったら、十歳から十五歳だったっけ?
……ん?
「あの、お義母様、申し訳ありませんがもう一度おっしゃっていただいてもよろしいでしょうか?」
「あなたは既に学校へ通う年齢のレベルすらも超えています」
お義母様は全く同じ言葉を繰り返してくれた。聞き間違いじゃなかったのか。
ていうか、まじか。エレナになってまだ三ヶ月。そんなに進歩しているとは思わなかった。
この身体のおかげ? 若いから覚えが早いのかな?
「とりあえず、今までに教えたことを忘れず、体に定着させなさい。あなたがもう少し大きくなったらまた教えて差し上げるわ。エレナ、あなたはきっとわたくしよりもずっと綺麗になれるでしょう」
「自分ではよくわかりませんが、そのようなお言葉をいただきまして、嬉しく思います。全てはお義母様のおかげです」
いや、本当に嬉しい。厳しく注意されるのは毎日のことだったけど、褒められたのは初めてだ。それに次の約束も取り付けれた。万々歳だ。
浮かれてしまいそうになり、はっと気がつく。まだお義母様の前だ。気を付けないと。
私が改めて姿勢を正すと、お義母様が言った。
「ところで、わたくし、エレナにお願いがあるのですけれど」
ん? お義母様が私にお願いですと? お世話になった以上断れない。
まあ元々断るつもりなんてないけど。
「わたくしに出来ることでしたら、できる限りお力になりたいと思っております。」
私の言葉にお義母様は少しほっとしたように息をついて、口を開いた。
段々と小さくなっていく私の声。視界の端でアリアがため息をつきたそうな顔をしている。
お義母様は私を見たまま、視線をそらさない。そしてその表情からは何を考えているのかも分からない。
やっぱりこれ失敗なのかな。アリアもダメって言わなかったし、お願いしてみるくらいは良いんじゃないかと思ったんだけど……。
「申し訳ありません、お義母様はお忙しいですよね。お邪魔してすみませんでした」
慌てているせいか、言葉遣いが少し乱れてしまった。
だけどとりあえず退出しようとした時、お義母様が言った。
「よろしくてよ」
「……へっ?」
間抜けな声が出た。きっと顔も間抜けだろう。
だけど、それくらい驚いた。だって絶対だめだと思ったし。
「エレナに教えてあげましょう。だけど、わたくしは厳しいですわよ」
にっこりと優しい微笑みを浮かべているはずのお義母様が、なんだかすごく怖い。
あ、あれ……やっぱりこれ失敗だったかも。
だけど今更、やっぱりいいですなんて言えない。
「は、はい。ありがとうございます。ぜひよろしくお願い致します」
嬉しい返事がもらえたはずなのに、全然嬉しくはなかった。
お義母様の部屋を出る前に早速、色々とダメ出しをされ、次の日から本格的な勉強が始まった。
午前中は今まで通り、部屋でアリアと勉強。今は字を綺麗に書けるように練習をしている。
そして午後になるとお義母様の部屋へ行って、二時間ほどみっちりしごいてもらう。
そして空いた時間にカミラに会いに行く。
そんな日がふた月ほど経った頃だった。
「エレナ、もっと優雅になさい」
「はい」
「そこは先ほど教えたでしょう?」
「はいっ」
このふた月、お義母様に教えてもらって気が付いたこと。
お義母様はとても厳しい。いつも笑顔で優しそうなのに、容赦がない。
そして、どうも私は嫌われているわけではないようだ。
これに関しては、私にはよく分からない。私はいまだに嫌われているんじゃないかと思うことがあるけど、傍から見ているアリアには分かるらしい。
「もうエレナに教えることはありません」
突然お義母様がそう言った。
だけどまだまだ私はお義母様にいっぱいダメ出しされるし、合格とはほど遠い。
自分でもお義母様の足元にも及んでいないことが分かる。
まさか、覚えが悪すぎてとうとう見捨てれらた!?
「お、お義母様、どうか見捨てないでくださいませ。わたくし、精いっぱい頑張りますので!」
慌ててそう言うと、お義母様は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、可笑しそうにくすくすと笑った。
その仕草までもがとても綺麗だ。
わ、笑われた……。その時、お父様が帰って来たあの日もお義母様に笑われたことを思い出した。
まさか、私あの時から全然成長していないんじゃ……!
「わたくし、お義母様のようになりたいのです! ですから、どうか、どうか……!」
お義母様の前に膝をついてそう言うと、お義母様も同じように膝をついて私の顔を覗き込んだ。
部屋の中にいた、お義母様のメイドさんやアリアが驚いたようにお義母様を見る。
「お義母様、何をなさるのですか!」
エレナになったばかりの私にはそれがどういうことなのかよく分からなかっただろう。
だけどアリアとお義母様に鍛えられた今の私には、事の大変さが分かる。
この家の中で、奥方であるお義母様が膝をつくなど、あってはならないことだ。
思わず立ち上がると、お義母様も立ち上がって言った。
「エレナ、わたくしは見捨てたわけではありません。むしろその逆です」
え? 逆?
ぽかんとした私を、お義母様は優しく注意して、「お茶にしましょう」と言った。
促されるままお義母様と向かい合って座る。
ん? これどういう状況?
このふた月、毎日お義母様に会ってはいたが、一緒にお茶をすることはおろか、プライベートな話さえしていないのだ。
お茶をするって何話したらいいの?
アリアもこの状況は想定外だったようで、心配そうに私を見ているのが分かる。
入れてもらったお茶を一口飲むと、お義母様は再び口を開いた。
「もう十分なのです」
「何がでしょうか……?」
訳が分からずに首を傾げる。愛玲奈の時はこんな仕草絶対にしなかったけど、今では自然としてしまう。
これもお義母様の特訓のおかげだ。
「エレナ、あなたはまだ八歳なのです」
「はい、存じております」
お義母様の言葉に頷くと、呆れたような顔をされた。
え、何? 今の言葉で何か察しろって言うの? 無理だよ!
私は文句を言いたいのをぐっとこらえて、お義母様の言葉の続きを待った。
「……あなたは既に学校へ通う年齢のレベルすらも超えています」
学校へ通う年齢? っていったら、十歳から十五歳だったっけ?
……ん?
「あの、お義母様、申し訳ありませんがもう一度おっしゃっていただいてもよろしいでしょうか?」
「あなたは既に学校へ通う年齢のレベルすらも超えています」
お義母様は全く同じ言葉を繰り返してくれた。聞き間違いじゃなかったのか。
ていうか、まじか。エレナになってまだ三ヶ月。そんなに進歩しているとは思わなかった。
この身体のおかげ? 若いから覚えが早いのかな?
「とりあえず、今までに教えたことを忘れず、体に定着させなさい。あなたがもう少し大きくなったらまた教えて差し上げるわ。エレナ、あなたはきっとわたくしよりもずっと綺麗になれるでしょう」
「自分ではよくわかりませんが、そのようなお言葉をいただきまして、嬉しく思います。全てはお義母様のおかげです」
いや、本当に嬉しい。厳しく注意されるのは毎日のことだったけど、褒められたのは初めてだ。それに次の約束も取り付けれた。万々歳だ。
浮かれてしまいそうになり、はっと気がつく。まだお義母様の前だ。気を付けないと。
私が改めて姿勢を正すと、お義母様が言った。
「ところで、わたくし、エレナにお願いがあるのですけれど」
ん? お義母様が私にお願いですと? お世話になった以上断れない。
まあ元々断るつもりなんてないけど。
「わたくしに出来ることでしたら、できる限りお力になりたいと思っております。」
私の言葉にお義母様は少しほっとしたように息をついて、口を開いた。
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