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六年後の皆

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アリアに教えてもらったリリーの部屋をノックすると、「どうぞ」とすぐに返ってきた。

できるだけ静かに扉を開ける。赤ちゃんが一緒にいたら、起こしてしまうかもしれないから。


「失礼致します」


リリーは椅子に座って本を読んでいた。私な顔を見るとパッと表情が明るくなる。


「エレナ様……!」

「リリー様、帰るのが遅くなってしまいました。申し訳ありません。本当は一番大変な時にそばにいたかったのですが……」


私がそう言うと、リリーは「いいえ」と首を振った。


「ずっと心配してくださっていたと聞きました。ありがとうございます。だけど、エレナ様はお勤めを果たされたのでしょう?私は、そんなエレナ様をずっと尊敬しているんです」

「……ありがとうございます」


リリーのあたたかな微笑みを見ると、強張っていた心がほどけていく気がする。リリーは六年経っても、子供を産んでもリリーのままだ。この世界のヒロインだ。


「改めて、ご出産おめでとうございます」

「ありがとうございます。女の子なんです」


リリーの視線が一点を見る。バスケットの中に赤ちゃんが寝ていた。目閉じているし、生まれたてなので、まだどちらに似ているかは分からない。

……可愛すぎる。まじ天使。

思えばカイとリリーの子供なんて可愛くないわけがないのだ。美男美女夫婦から、美男や美女が生まれて来るのは当たり前。


「レイラと名付けました」


レイラ。とても綺麗な響きだ。


「レイラ様」


口に出して呟いてみる。それだけでとてつもない幸福感だ。


「エレナ様の姪になるんですよ」


……ああ、そうか。

言われるまで全く気が付かなかった。義弟のカイと、義妹のリリー。この子は姪になるんだ。

心がじんわりとあたたかくなる。


「後日、お時間のある時に抱いてあげてください」

「ええ、ぜひ」


リリーは言う。


「何か心配事がありますよね?私で力になれることがありましたら、させてください」


びっくりした。まさか見抜かれるとは思わなかった。リリーはふふっと笑う。


「この六年間、カイ様と共にたくさんの人に出会いました。私も色々な人を見て、人を見る目とやらが養われたようです。六年前には全く分からなかったエレナ様のことが少し、分かるようになった気がします」

「……上手く隠せていると思ったんですけどね」


苦笑いを浮かべるしかなかった。私が旅先で色々学び、成長したように、リリーもここで頑張っていたんだ。


「ありがとうございます。ですが、産後のリリー様に無理をさせるわけには参りませんもの。まずはお身体をしっかり休めてくださいませ」

「……はい」


いや、かっこつけてしまったけど、私の魔法が復活しないと、光属性を使えるのはリリーだけだ。


「……もしもの時は少しだけ頼るかもしれませんが、無理のない程度で大丈夫ですからね」


本当にリリーに無理をさせたくはないなで、最終手段だけど……。付け加えた私の言葉にリリーはすごく嬉しそうに笑った。


「はい!ぜひ頼ってください!」


そして私はリリーの部屋を後にした。が、すぐ隣の部屋の前で足を止めることになる。リリーに、カイにも会っていくように言われたからだ。

本当は明日にしようと思っていたけど、ここまで来たついでだし、ユリウス殿下がどこにいるかを聞きたいので、会って行こうと決めたのだ。

コンコンコン、と叩くと同時に扉が開いた。びっくりして後ずさる。


「帰ってきたな!」


そこにいたのはレオンだった。にかっと笑顔を浮かべている。


「レオン様……!マクシミリアン様に、フロレンツも!」


攻略対象勢揃いだった。そして皆顔が良すぎる……!もともと美形だったところに大人の魅力が合わさって、もう本当にすごい。

……やばい、鼻血でそう。


「殿下、ただいま戻りました」

「おかえり、エレナ」


微笑んだカイを見て、驚きに目を見張った。一瞬硬直してしまったと思う。


「あ、はい」


慌てて返事をするととても変な感じになってしまった。

……ユリウス殿下かと思った。似すぎでしょ。

初めて会った時、ユリウス殿下は22歳だったはず。今のカイと同じ年齢。顔の作りが同じすぎて、知らない人が見たら同一人物だと思ってしまいそうだ。


「……申し訳ございません、驚きました」


正直にそう言うと、皆は笑った。


「分かるよ、私自身驚いたから。久しぶりにお会いしたけど、こんなに似てるとは思わなかったね」


カイに続いてフロレンツも言う。


「僕も!2度見しちゃったよ」

「俺なんか、今朝カイだと思って話しかけたら違ったんだぜ!まじ殺されるかと思ったわ……!」

「えー、僕まだ会ってないんだよね。六年前なんてもう忘れたし」


……レオンどんまい。

かつて殺されかけた身としては本当に生きた心地がしなかっただろう。


「だけど、まさか兄上とエレナが別々で帰って来るとは思わなかったな」


カイがズバッと本題に切り込んできた。あまり皆に言いふらしたいことではないんだけど……。私だってよく分かってないし。


「機嫌があまりよくなかったみたいだったけど、怒らせるようなことしたの?」

「いえ、少し言いつけを守らなかったのですが……それは今更ですし、そんなに怒るほどのことだったのかは……」


そう言ってハッと口を押さえた。ちょっと愚痴っぽくなってしまった。


「エレナは相変わらずだね」


マクシミリアンが笑う。恥ずかしさで顔が熱くなった。これ以上ここにいたらさらなる墓穴を掘ってしまいそうだ。


「とりあえずユリウス殿下とお話がしたいのですが、どちらへ行かれたかご存知でしょうか?」

「僕はお昼頃に見かけたのが最後かな?騎士団の女の人と話してたよ」


フロレンツの言葉にぴくりと反応してしまった。騎士団の、女の人……?


「あ、俺も見た、その二人。夕方くらいに二人で城から出て行ってたぜ」


ぴくりとまた体が揺れる。そんな私を見て、カイが笑った。


「兄上は夕方に魔獣の討伐へ向かわれたそうだよ。お戻りは何時になるか分からないけど、明日にしたほうがいいかもしれないね」

「そうですか」


イライラした。もやもやした。胸が気持ち悪かった。この気持ちの正体は分からない。

いつもなんでも教えてくれるユリウス殿下は、これも聞いたら教えてくれるのだろうか。


「ありがとうございます。もう夜ですし、今日は部屋へ戻ります。当分はこちらへとどまる予定ですので、またゆっくりお話ししましょう」


頭を下げ、返事を待たずに部屋を出た。自分の部屋に戻ると、既にご飯の用意がされていた。

いつも賑やかに食べていた食事をたった一人で食べる。美味しいと思っていたお城のご飯は、味がよく分からなかった。
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