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再会

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ベアトリクスに案内されて部屋へ辿り着くと、部屋の中は六年も空けていたとは思えないほど綺麗だった。


「アリアが毎日掃除をしていたのよ。1日も欠かすことなく」

「アリアが……そうですか」


とりあえずアリアを呼ぼうと思い、テーブルの上のベルに手を伸ばす。しかしその前にベアトリクスが言った。


「エレナ、あなたどうしたの?」


何が?そう思ったが、すぐに思い当たった。


「そういえば、ベアトリクス様は見えるんでしたね」


ベアトリクスもこの世界で唯一だ。唯一、魔力を目で見ることができる。だから分かったのだろう。私の変化が。

椅子に座ると、ベアトリクスも正面に座った。


「ベアトリクス様の目にはどう見えていますか?」


ベアトリクスは私の少し上へと視線を向ける。そこに見えるのだろう。


「魔力が揺らいでいるわ。全く落ち着かないようね。それに金色だったのが、色々な色が混ざり合っているわ。これでは魔法は使えないんじゃなくて?」

「ええ、その通りです。今朝から急に……。だからわたくし、クリスを置いて逃げて来ることになったんですの」

「置いて?」


私は今日あったことを全てベアトリクスに話した。


「そう、エレナが一人なんて珍しいと思ったのだけど、結構深刻な事態なのね」

「はい」

「エレナの魔法が使えず、殿下もおられず、そんな時に襲われるなんて、最悪としか言えないわ。でも、エレナが悪いわけじゃないわ。気にしてはダメよ」

「……はい」


六年経ってベアトリクスから刺々しさが消えていた。あの頃では考えられないほど穏やかだ。

ふと、ベアトリクスが何かを考え込むように下を向いた。私は次の言葉を待つ。


「魔法が使えなくなった原因を見つけましょう。何か心当たりは?」

「これと言ってありません」


心当たりがあればすぐに解決している。


「いつもと違うことはなかったの?」


いつもと違うこと。それなら一つある。関係あるとは思えないけど。


「ユリウス殿下と少し……」


そこまで言って次の言葉が見つからなかった。喧嘩、ではない。


「気まずいことくらい」


ユリウス殿下は私に起こっているかもしれない。だけど私も少し、怒っている……?よく分からない感情だ。

俯く私に、ベアトリクスははっきりと言った。


「それね」


それ?って、ユリウス殿下とのことが原因ってこと?


「一時的な感情の昂りで魔力が揺れて、魔法が発動しないところはよく見るわ。あなたの場合は怒りや悲しみは魔法の発動の手助けになっているようだけど。今回はそういう感情ではないのではなくて?」

「……そう言われればそうかもしれません」

「案外すぐに分かったわね。あなたはとりあえず殿下と話をすること。それからこのことは誰にも言ってはダメよ」


誰にも?どうしてだろう。これを隠すのは少し大変な気がするけど。


「あなたのその魔法の力で守られている命がいくつもあるの。あなたも含め。エレナが魔法が使えないと分かったらすぐにたくさんの命が狙われるわ。だから、言ってはダメ。絶対に。アリアにも、よ」


意味もなく手で口をおさえて、コクコク頷く。まさか私の魔法一つでそんな大事になるなんて。それは絶対に誰にも言えない。

ベアトリクスが立ち上がってベルを鳴らす。


「つい昔のように話をしてしまったけれど、今はもうエレナの方が身分が上よ。ベアトリクスと呼んでくださいませ、エレナ様」

「そういえばそうでしたね。話を聞いてくれてありがとう、ベアトリクス」


ベアトリクスは微笑んで部屋を出て行った。閉まった扉を眺めていると、すぐにノックが響いた。


「どうぞ」

「失礼いたします」


入ってきたのはもちろんアリアだった。落ち着いてはいるように見えるが、喜んでいるのは顔を見ただけで分かった。


「おかえりなさいませ、エレナ様」

「ええ、ただいま。すっかり待たせてしまったわね」


私がエレナになった時から側にいて、この世界の基本を教えてくれたアリア。私が本物ではないことを知っている二人のうちの一人。最高の使用人であり、教師であり、姉のような、友達のような存在。

怒られないよう、私も嬉しさを隠す。しかし、それも長くは持たなかった。アリアに会えた嬉しさでテンション爆あげだ。


「アリア!」


立ち上がって、抱きつくと、アリアは「わ」と驚いたような声を出し、しかし抱きしめてくれた。てっきり怒られるかと思っていたが、アリアもかなり喜んでくれているようだ。嬉しい。

離れると、アリアはキョロキョロと周りを見た。何を、誰を探しているかはすぐに分かった。


「……クリスは後で帰って来るの。色々あって……今お兄様達とヨハン様がお迎えに向かわれたわ」


何があったかはアリアは聞かない。だけとその色々が大変な事態だってことは気が付いているだろう。


「そうでしたか。殿下やリリー様へは会いに行かれますか?」


そう、そうだ。本来、カイやリリーに会うために帰って来たのだ。クリスや魔法のことばかりが気になって頭から抜けていた。

どうせ今リリーに会ったって私には何もできない。そう思ったが、無事な姿を見れたら安心できそうだ。何より、今ここにいたって心配で胸が張り裂けそう。


「……そうね。とりあえずリリー様に会って来るわ」


少しでも気をそらしたくて、私は部屋を出た。
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